【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~ 作:朱音ゆうひ
仲間とお菓子を食べながらお互いの芝居を観る時間は最高だ。
しかも、次はアリサちゃんの動画だよ。
「アリサちゃん、やっぱ、たけのこの里だよね」
「王司ちゃん……」
ん?
あっ。
アリサちゃんの手にキノコの山がある……だと……。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――『ステイ・イン・ラブ配信「サチとグレイのペアショードドラマ講評会」』
「次は
撮影場所は
カーテンを引き、暗くした室内にカチッという起動音が響き、カラフルな星空の映像が壁や天井に映し出される。
家庭用のプラネタリウムだ。幻想的!
:二人してゆらゆらしてるね
:何やっとん?
:真っ暗
:プラネタリウムきれい
:Amazonで買えるやつだ
「アリサ。あなたも月に来たのね。やったじゃない! 2人揃って宇宙飛行士になる夢、叶えたわね!」
腰ぐらいまでの長さの茶色い髪をまとめ髪スタイルにした
シチュエーションが理解されないよりは、説明した方がいい――そんな堅実な判断だろう。
アリサちゃんは、膝を使って浮遊感たっぷりに全身を弾ませ、セリフを返した。
「いずみお姉様のおかげです……今なら言える。ずっと、好きだったんです」
ヒロイン感のある演技だ。演劇祭のときも思ったけど、アリサちゃんは演技力が高いな。
「アリサ……私もよ」
「お姉様。キスしてください!」
:キマシ
:これは百合ですね
:告白キターー両思いキターー
:テンポがいいw
:オチが読めた
そうか。これ、女同士だと百合ドラマになるんだ。
片方を男役にする手もあったけど、2人は百合ドラマを選んだんだな。
2人は見つめ合い、それぞれ自分の両手を頭のあたりに当てた。そこには、宇宙服のヘルムがあるはず。
2人は宇宙服を着ていないが、視聴者は「そこにそういえばヘルムがあるよな」と理解した。
伝わる芝居ができていて、素晴らしい。
:外すと死ぬぞ
:あ、
:これお笑い芸人のコントで見た
:あっ――
あっ。死んだ。
キスをするためにヘルムを取った2人は、白目を剥いて全身を脱力させ、ふわーっと宇宙空間を流れていった。
暗転――動画、終了。
……バッドエンドじゃん!
テロップが出て、元ネタの出典を示す。なるほど、コメントで指摘されていた通り、お笑い芸人のコントであったネタのパロディなんだ? ちゃんと出典書いてて偉い。
グレイ・ジャーマン監督がウケている。SACHI先生は、冷静だ。
「HAHAHA! ボク、スキダヨ!」
「どっちがファンなのか知らんけど、話題作りの戦略を感じるねコレ。演技もちゃんとしてて抜け目ない。私は好みじゃないけど、頭使って数字取ろうとしてる姿勢自体は悪くない」
「アリサちゃん、面白かったよ」
「ありがと、王司ちゃん。バッドエンドじゃんってびっくりしたでしょ?」
アリサちゃんは私の心の中の感想がお見通しなのか。すごいな……。
講評の後は、次の組に進む。サクサク進行だ。
「次!
:ホリキネのイケメンペアだ
:女に人気出るやつ
:タイトルの厨二感は嫌いじゃない
:キスすんの?
:事務所NGだろ
:床に銃があるぞ
:
:すごく……水鉄砲です
:
藤白レンと同じホーリーキネマズの2人だ。ここは男子ペアなんだな。
アリサちゃんが「BLかな?」と耳打ちしてくる。
ホーリーキネマズは所属タレントのビジネスBL売りをしない事務所だ。
勝手にBLしたら怒られるんじゃないかな?
先にセリフを言ったのは、刈り上げヘアの
スポーツ系爽やか好青年な自分を演じてるけど、実は内向的な若手俳優だ。
「
まるで命が危険に晒されているような、鬼気迫る声だ。
:部屋、薄暗いね
:暗い舞台、もしかして人気?
:修羅場設定?
:痴話喧嘩ですわー!
:痴話喧嘩ではないだろ
黒い前髪を左側だけ長く垂らし、片目を隠した
まるで武器のよう……設定的にはナイフなのかもしれない。
:飯食ってて痴話始まった?
:はると「箸洗うの忘れてごめん割り箸で食って」拓真「許さん」はると「飯当番は俺、洗い物は拓真って約束じゃん」これだな
:違うと思う
:芝居を見ろお前ら
「はると。愚かな君のおかげだよ。
声は低く、薄い唇の端をクッと持ち上げ、嘲笑を浮かべている。
悪い奴っぽい。
「……
きっと、「言いなりになったら助けてあげる」みたいに言われていたのだろう。
約束を反故にされた
銃口が向けられる前に
しかし水鉄砲を持った手に
:水鉄砲が拳銃で割り箸がナイフ?
:たぶんそう
:アクションいいな
:水鉄砲と割り箸で格好良くできるのスゲー
:二人とも10代のころにアクションスタント俳優だったんや
熱演のおかげで、コメント欄から「痴話喧嘩」の4文字が消えたぞ。これには事務所もにっこりだな。
攻防の果てに、
目を見開き、苦悶の表情で膝を突いて倒れ込む演技が素晴らしい。
「はると。これは、いずみの写真だな。ずっと好きだったのか? 俺もだよ」
ここは説明口調。仕方ない。カメラマンがいないんだもの。
説明しないと何の写真かわからない、となって苦肉の策でセリフで説明したのだろう。
:三角関係か
:セリフ足しすぎじゃない?
:ドラマチックでいい
:BLがよかった
:ラストのセリフどうするの?
「さあ、キスをして」
その口に水鉄砲を押し込む。そして、画面は真っ暗になった。
「ばきゅーん」
:効果音自分で言うの
:草
:
:本人は真剣だから!
:しょうがないだろ、こういう課題なんだよ
コメントが流れる中、ふと画面が揺れる。そして、黒い前髪を左側だけ長く垂らし、片目を隠した
:お?
:ん?
:??
髪に隠されていたのは――底冷えのする冷たい目。その目がカッと赤く光り、
:ぎゃあああああ
:光ったああああ
:エフェクト編集してきたな
:ごめん笑った
:嫌いじゃない
コメントが湧く中、グレイ・ジャーマン監督はケタケタと笑っていた。
「イイネ! タノシイ!」
この人、何やっても「いいね」って言うんじゃないか?
SACHI先生は「BLがよかった」とぼやいている。
先生もBL、好きなんだな。
「ラストの光る目が右だったらよかったよね。魔眼は右だろ。『右目が疼く!』ってやらなきゃ」
……謎の拘りもあるらしい。どっちでもよくない?
私が首をかしげていると、アリサちゃんはコソコソと耳打ちしてきた。
「王司ちゃん、どっちがどっちだと思うー?」
これはあれだね、カップリング談義だね?
「アリサちゃん
おっと、本人たちがこっちを見た。
知らんぷりしとこう。
「次はうちの子ね」
「ウチノコダネ」
配信では、再生リストをチェックした先生たちが我が子の学芸会を見守る親の目になっている。
そうか、次は火臣恭彦とジョディ・ジャーマンペアか。贔屓とかするなよ。
タイトルは……『タイトルは最後に出します』?
撮影場所は、トレーニングルームのようだった。
段ボール箱が一個置かれている。
ジョディが口で「ざざーん、ざざーん」という効果音を演出しながら、段ボール箱の影に身を隠す。
彼女の視線の先には恭彦がいて、恭彦は……倒れていた。ずっと倒れている。リアクション待ち?
最初のセリフは「やったじゃない!」だけど、ジョディは言う気配がないな。
ずっと見てるだけだ。
10秒経過……、
……20秒経過……?
:起きない
:長い沈黙だな
:本当に寝てない?
:放送事故じゃん
:ジョディ可愛い
:あ、起きた
おお、起きた。
恭彦が目を開けて、すぐそばに誰かがいるかのように身を起こした。
口をパクパクさせて、会話している様子だ。そして、よろよろと立ち上がる。たぶん、弱っているのだろう。
思い通りにならない自分の体に四苦八苦しながら、立とうとしている。
:立ちたいんやなって
:いまいちわからないが立ちたいのはわかった
:なんか頑張ってる
:まだ最初のセリフすら言ってないけど頑張れ
恭彦は、まるでコメントが見えているかのように小さく頷いた。
そして、今、ようやく――立った!
:立った!
:立ったーー
:おかしいな、アルプスが見える
:感動のシーンか
:クララが立った!?
:おめでとう
:おめでとう
:なんだこの空気
:コメントの様子がおかしい
コメントが謎の感動に包まれる中、恭彦はよろよろと歩き、画面の外へと退場していった。おやー?
「I did it! I saved him!」
(テロップ:やったじゃない! 彼を助けることができたわ!)
あっ、最初のセリフだ。
:ジョディがしゃべった
:しゃべったーーー
:日本語の字幕つけてくれてる
映像がプツッと切れて、恭彦がアップで映る。
編集してるんだな。
恭彦は上半身全裸でベッドに座り、画面外にいるであろう誰かに甘ったるく囁いた。
「君のおかげだよ」
助けてもらって惚れた。そんな雰囲気だ。
:なんだ??
:サービスシーン
:お前誰と寝てんだよ
:露出キターーー
:パパに怒られるぞ
:顔がいい
コメントが肌色に湧く中、画面は再びジョディに変わる。ジョディは段ボール箱の影から、恭彦が消えて行った方向をじっと見ている。
独り言を言う顔は、切ない。
「I’ve always… loved him…」
(ずっと……彼が好きだった……)
:またジョディちゃんが映った
:交互に映すスタイル?
:ジョディが切ない
:あ、またシーン変わった
「俺もだよ」
再び映像が恭彦の部屋になる。
誰かがベッドにいるんだろうなーって雰囲気の一人芝居だ。
そして、彼が誰かを愛している背中を映しながらジョディの声が流れる演出。
「It’s fine… Kiss her… and be happy, my prince」
(テロップ:それでいい……彼女とキスをして……幸せになって。王子様)
切ない声だ。
彼を助けたのはジョディなのに、わかってもらえていない。
このタイミングで、ネタバラシのようにテロップがタイトルを出す。
――『人魚姫』。あ~、人魚姫だったか~!
:人魚姫か
:あー!
:人魚姫だったかー
:編集頑張ってたね
講師の先生を見ると、グレイ・ジャーマン監督が渋い顔をしていた。
「ストーリー、ヨクナイ。ジョディがアンハッピー。0点」
「は? 人魚姫は名作だが? 親の私情は仕舞ってもらっていい? こっちだって息子が肌晒してエロ演技してるのを芝居だからって大目に見てるんだからさ」
「ハッピーエンドがイイ」
「ジャーマン監督の最新作は地球が滅んで誰も救われなかっただろうが」
「ネタバレ、ノー。ダメダメヨ」
ああ、険悪な雰囲気になってるよ。
配信終わってくださーい。この先生たち、休憩が必要みたいでーす。
……あ、そうだ。円城寺誉のLINEアカウント、フレンド登録してみるか。
「王司ちゃん。あーん」
「うん? あーん」
ぱくっ。
この食感……キノコの山……!
「おいしいですか王司ちゃん」
「おいしいです……」
キノコの山も悪くない。みんな違ってみんないい。
そうか、これが多様性ってやつなんだ。
「どっちが好きですか、王司ちゃん」
「…………たけのこの里……」
その日、私はキノコ派の圧力に屈することなく、自分を貫いた。
アリサちゃんは「そっかー」で済ませていたけど、翌日からおやつシェアのときに毎回キノコの山を持ってきて、「今日のキノコだよ」と勧めてくる。
負けじとたけのこの里を持ってくると、「王司ちゃんが持ってるおやつは、見えません」というではないか。
これは戦争だ。
私たちは今、戦争をしている――。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ちなみに、休憩後に鑑賞された私と藤白レンの演技はとても好評だった。
SACHI先生は肉食系マネージャーが気に入ると思ったよ。
『よしっ。葉室と藤白を主役にして全員でショートドラマ撮るぞ!』
SACHI先生はスピード重視だ。
生配信で即興の当て書き台本を作ってくれた。
タイトルは『TSしてバスケ部にいられなくなった俺、親友のマネージャーになって押し倒す』
「押し倒すのが気に入ったんだな、押し倒すところが見たいんだな」っていう先生の好みがわかりやすいタイトルだ。
ショートドラマはリテイクなしの一発撮りでサクッと撮られ、後日、『ステイ・イン・ラブ』の公式動画チャンネルとショートドラマ配信アプリに追加された。やりたいことができたので、満足だ。