【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~   作:朱音ゆうひ

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191、手紙と手紙

 ショッキングなニュースが世間を騒がせた年末。

 葉室家では大掃除が行われた。和風メイドのミヨさんと執事のセバスチャンがメインとなりつつ、ママや私も雑巾やごみ袋を手にしている。

 

「王司。ママはね、年末はみんなでお家の掃除をしたりこたつでぬくぬくしながら過ごすのが好きなの。テレビドラマや漫画みたいな生活よ」

「テレビを見たり年越しそばを食べたりだね、ママ?」

「そうね、初詣をして、スキーにも行くわよ」

「それは年が明けてからだね」

 

 広い廊下を雑巾で磨き、窓ガラスを丁寧に拭き上げると、部屋の明るさが増した気がした。

 

「私、自分の部屋もお掃除してくるよー」

「自主的に動いて偉いわね、王司。ママもお掃除してくるわ」

 

 友達やファンからの贈り物。自分で選んで買った物。

 そんな私物であふれる部屋は、最初は『他人の部屋』だったのに、今は『自分の部屋』だと思えている。

 

 小物を整理して、ごみはごみ箱へ。

 そういえば、机の引き出しも整理しよう。あんまり使っていない下の引き出しとか、埃とか消しゴムのカスや、古いメモ紙の切れ端が隅にたまっていたりするんだ。

 引き出しの底にたまった埃を雑巾で拭き取るため、中身を一度全部取り出す。

 引き出しを覗き込むと、違和感に気がついた。

 

 一番下の引き出し、二重底の仕掛けがあるっぽい。

 見てもいい? なんか隠されてたりする? デスノート?

 

 板を持ち上げると、一通の手紙が収められていた。

 『遺書』と書いてあって、ドキッとする。しかも、手紙の宛名に江良の名前が書かれていた。

 

 ――『遺書 江良(えら)九足(くそく)様へ』

 

 そういえば、田中君のブログに書いてあったっけ。

 『遺書まで書いちゃって』――遺書、書いてたんだよな。これか。

 ……遺書の宛名が江良?

 

 心臓が高鳴るのを感じながら、ゆっくりと封を開ける。

 

 ――『私だけではなく、たくさんのファンが願いました。生きて』

 

 遺書には、その一文だけが綴られていた。

 え、これだけ?

 もっとさ、なんかさ、あるだろ。

 例えば、例えばさ……親へのメッセージとか……ないんだ?

 

 コンコン、と部屋のドアがノックされて、びくりとする。

 

「王司?」

 

 ママだ。

 心臓がどきどきする。

 

 慌てて遺書を隠して引き出しを戻し、ドアを開けると、ママは手紙を持っていた。

 また手紙か。

 

「フレイミール・ケストナーさんからのお手紙なの。王司。これって有名な海外映画監督の名前よね。本物かしら? ……GASの関係者でもあるし、本物よね?」

 

 手紙を受け取ると、確かに差出人はフレイミール・ケストナーだった。

 本物っぽい。

 個人的に手紙が来るような関係性ではないのだが?

 

「ありがと、ママ。海外の人って社交的だよね~……みんなに送ってるのかも」

「GASの関係者全員に送っているのなら、すごいわね」

 

 ママが手紙を渡してドアを閉めたので、ベッドに座って手紙を読もう。

 

 手紙は英語で書いてあるのが1枚。

 それを日本語に翻訳したと思われるのが1枚。合計2枚となっていた。

 

 えーと、なになに。

 ミス・オジ。ハムロオジさんへ……オジさんって呼ぶな。

 オーを伸ばせ。そこ大事だよ。

 

 日付。宛名。挨拶。名乗り……私は映画監督のフレイミール・ケストナーです。私は八町大気よりずっとすごい。八町大気はウンタラカンタラウンタラカンタラ(ディス長文)。

 

「写真撮って八町に送るか」

 

 ぱしゃっ。

 

 なんで私に八町の悪口を送ってくるんだよ。本人に送れ、本人に。

 2枚目を見ると、「さて本題ですが」と別の話が切り出されていた。

 

 1枚目、必要あった?

 本題だけでよくない?

 

=======

 

 ――『ケストナーの手紙、2枚目』

 

 ハムロオジさん。

 以前、あなたが私の知人である「マーカス・ヴァレンタイン」に関わる問題で尽力してくださった件について、感謝の気持ちを伝えたい。ありがとうオジさん。

 

 マーカス・ヴァレンタインは、以前、私が演技指導をした役者です。

 本国では、彼は悪事に手を染めたと思われていて、私は胸を痛めていましたし、責任を感じていました。

 しかし、あなたのおかげで、彼の汚名は晴れたのです。我々は誤解していて、国際指名手配犯のクラッカーは別人だった。その真実がわかったのは、喜ばしい。オジさんに深く感謝しています。

 

 さて、ここで本題に入らせていただきます。オジさんの執事として働いている「セバスチャン」という名の人物――彼こそが、かつてのマーカス・ヴァレンタイン本人です。

 

 私は先日、日本で彼と再会しました。

 

 彼は「仲間がいるのも、いいと思えるようになった」「レベルが上がって強くなったなと実感すると楽しい」「生活の一部として楽しむことで人生が豊かになる」「ロールプレイングが好きだ」と言いました。

 その言葉に、私は驚きました。

 以前の彼は優秀でしたが、仲間を作りませんでした。

 女性や子供を嫌っていて、孤独主義でした。

 その彼が、「10代のオジさんの成長を見るが楽しい」「人生が豊かになる」「執事役を演じるのが好きだ」と言うのです。

 

 彼は、変わった。

 良い変化だと思いました。

 

 マーカスは、これからも日本でオジさんの執事として働き続けたいと強く願っています。

 私は彼の意志を尊重し、無理に祖国へ連れ戻すことをやめる決断をいたしました。彼には家族もいませんし、日本で心安らぐ居場所を見つけて、そこに留まりたいと本人が願っているなら、本人の幸せを優先させたいと思ったのです。

 

 彼を受け入れ、雇用し続けてくださっているオジさんご家族には、感謝の念に堪えません。

 彼がこれからも穏やかで幸せな日々を送ることを、心より願っております。

 

 オジさん。どうかこれからも、彼を温かく見守ってください。

 彼が歩む新しい人生の一部となり、支えていただけるなら、私にとってこれほど喜ばしいことはありません。

 

 葉室家の皆様の幸せを心からお祈りしております。

 

 ――追伸

 オジさんのアイドル動画のせいで息子エーリッヒが日本オタクになり、ピンクのメイド服やネコミミカチューシャにはまっています。

 その点は、責任を取っていただきたい。

 

敬具

フレイミール・ケストナー

 

 

=======

 

「責任取れって言われても困る……」

 

 とりあえず、セバスチャンは今の生活を続けるらしい。そっか、そっか。

 ロールプレイングゲームにはまってくれてなによりだ。

 お返事のお手紙には、まず「オジさんって呼ばないでください」って書こう。

 そこ大事だよ。絶対に許さないよ。訴えるよ。

 

 手紙を読み返していると、コンコン、とノックが鳴った。

 

「王司。ごみ箱のごみ、ママが持っていくわよ」

「あっ、うん」

 

 ママはごみ袋を回収して、新しいごみ袋をくれた。

 

「ママ。ケストナー監督がね、セバスチャンの昔の知り合いなんだって」

「あら。そうなの?」

 

 ママは知らなかった様子で目を丸くしている。

 

「セバスチャンが執事のお仕事気に入ってるから、今後もよろしくねって書いてたよ」

「そういうお手紙だったのね」

 

 ママが「気になっていたことがわかってスッキリしたわ」と呟く声が嬉しそうで、胸の中でチリチリとなにかが刺激された。「誠実」とか「騙している」とかいう言葉が思い浮かんで、じっとしていられない気になった。

 

「ママ、あのね」

「なあに、王司」

「私の記憶障害のことなんだけど」

 

 なにを言うのかしら、と固唾を呑む気配に、こっちも緊張してしまいそうだ。

 

「私、夏までの自分は死んだと思ってて……」

 

 死んじゃったんだよなあ、本物の王司ちゃん。

 でも、その真実をそのまま伝える選択はなしだ。

 

「……新しく生まれ直したって思ってるんだ。新しい自分でママの娘になったつもりでいる。こんな娘でも、いいかな……?」

 

 こんな風に言ったら、ママは「いいわよ」って言うに決まってる。我ながらちょっとずるい。

 ほら――

 

「もちろん。いいに決まってるじゃない!」

「ありがとう、ママ」

 

 飼い猫のミーコが「みゃあ」と甘えてくる。

 

 ミーコ、私は王司ちゃんの秘密を墓まで持っていくつもりだよ。

 いや――私が王司だ。

 この心臓が止まるまで、私は王司として生きるんだ。

 

 窓の外では風が少しずつ止み、雲の間から青空がのぞいていた。

 

 おや、八町からメッセージが……。

 

八町大気:江良君

八町大気:ケストナー監督はどうして僕の悪口を君に送るの?

 

 うん、謎だよね。

 

葉室王司:わかんない 

八町大気:わかんないなら仕方ないね

 

 私たちは早々にケストナー監督を理解する努力を放棄したのだった。

 




年末年始は以下の更新スケジュールを予定しています。

12/30 12時 年末エピソード
12/31 19時 大晦日エピソード
1/1 12時 あけおめエピソード

読んでくださる方に活力をいただいて、楽しく更新を続けて年末を迎えることができました。
本当にありがとうございます。

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