【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~   作:朱音ゆうひ

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215、「人狼、見つけた」

 ライブ会場で海賊旗を振る海賊部男子たちに知らせが入ったのは、彼らの推しアイドルが2曲目を歌っている際中のことだった。

 

相山(あいやま)、お前狙われてるぞ」

 

:こちら現地組、NTR勢に告ぐ。ターゲット相山(あいやま)確認 #会いに行けるライバル

:相山襲撃のチャンスだ #会いに行けるライバル

:こよみ(きよみ)NTRクラスタはマップの位置に集合せよ #会いに行けるライバル

 

 SNSの話題をキャッチした海賊部がザワッとする。

 これは、相山の彼女であるこよみ聖担当ファンたち――彼氏持ち女子にガチ恋し、寝取りを夢見るNTR勢だ。

 

「NTRだ……」

「NTRが来るぞ……!」

 

 ターゲットにされた相山が青ざめ、相山を守るように海賊部が陣形を取る。

 しかし、マップの位置にNTR勢が集まる気配はなかった。

 

:席を離れられません #会いに行けるライバル

:ライバルより推しに時間を使いたい #会いに行けるライバル

:ネタで襲撃って言うだけならいいけどリアルにやったら逮捕されて人生が詰む #会いに行けるライバル

:それはそう #会いに行けるライバル

 

 ライバルより目の前の推し。

 当然である――全員が納得して、深く頷いた。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 

 ――【葉室王司視点】

 

『最初で最後』のライブバージョンは、あざとい振り付けだ。

 水族館風のプロジェクションマッピングの中、デートをしているシチュエーション。

 まずコレがあざとい。

 

 そしてメンバーが順番にソロパートをリレー。ハーレムか?

 しかも、交代のときに次のメンバーが前のメンバーのほっぺにチューで「あたしの番♡」とセリフを言う。佐久間監督の趣味だな。

 

 ステージ左右に設置された巨大モニターにアップの表情が映る――「恥ずかしがっていてはできない、それがアイドルだぞ」とわからせてくる企画である。

 でもこれ可愛いんだ。

 うちのグループは、そもそもみんな可愛いからな。可愛い子たちが集まってあざといことして可愛くないはずがないんだよな。

 

「♪最初で最後!」

「ウソ!」

「ホント!」

 

 全員でポーズを決めて会場内を見渡すと、海賊部が謎の陣形を取っている。

 珍しいな、二俣(にまた)円城寺(えんじょうじ)じゃなくて相山先輩を中心にした陣形なんだ?

 下剋上でもあったのだろうか。彼らもついに先輩を敬うようになったとか?

 もうすぐ卒業だしな、相山先輩。

 しかも全員、スマホ見てるぞ。おーい。こっち見ろ。

 

「次は、私の大好きなノコさんの歌です」

「王司の趣味!」

「王司ちゃん好きだもんね」

 

 注意を引くように声を発すると、カナミちゃんとアリサちゃんが相槌を打ってくれる。

 海賊部の男子たちが顔をあげた。

 

 3曲目は、伊香瀬(いかせ)ノコの『Path of Light 』――人形反復横跳び勢が疲れてきてるみたいだけど平気かな? 

 

「あの……疲れたら休んでねー!」

 

 思わず声をかけた直後にライトが一度落とされる。

 真っ暗な中で、観客の振るサイリウムの光が動きを緩慢にしていく。七色の光がきれいだなー。

 

 暗闇のステージに佇むメンバーの周囲を、ゆらゆらとした光が通り過ぎていく。

 そんな光の流れの中で、カナミちゃんが歌い出す。

 

「♪細長背高の箱が高さを競い 冷たい光を燈してる……」

 

 いい声だ。

 「最初のフレーズはカナミちゃんにお願いしたい」っておねだりしてよかった。

 ライトアップされた金髪が、光を溶かして流したみたいにキラキラしている。天使かな?

 

「♪あれは四角い部屋の灯りだから どれかにあなたがいるのかな」

 

 しんみりと切ない声で歌いあげて、カナミちゃんが振り返る。

 真っ白な手袋をはめたその手と自分の手を繋いで、交代だ。

 グループっていいよな。ソロだと寂しさが濃いのに曲のイメージが変わってくるよ。

 

「♪おとぎ話は幸せになって終わるけど 幸せになった後も人生は続くね」

 

 私が歌う隣でアリサちゃんが赤いスカートの裾をつまんで可愛らしくクルリとターンしていて、とても可愛い。

 次はアリサちゃんだね。

 

「♪今あたしはあなたを想ってる!」

  

 アリサちゃんはオリジナルの歌よりも明るく元気に歌声を響かせた。

 それに合わせて、会場内にプロジェクションマッピングの花が咲く。

 演出も明るくて、同じ曲なのにアレンジ次第で印象がガラリと変わるんだな。

 

 オリジナル曲は夜の都会で孤独に一方通行の想いを呟くんだけど、このライブではガチ恋口上が返ってきちゃう。

 

「♪あなたはどう?」

『ダイスキダイスキあ、い、し、て、る!』

 

 あ……爛漫(らんまん)な演出の中、明るく照らされた観客の中に、娘の遺影を抱くお母さんがいる。

 慎ましやかな着物にグラサン姿でハイテンションにサイリウムを振る潤羽(うるは)ママのママ友グループのメンバーだ。

 

 距離があるのに印象的で、ちょっと泣きそうになってしまった。

 でも、海賊部がサンダースネイクしていて涙が引っ込んだ。

 そんな激しいサビじゃないだろ。

 ……盛り上げてくれてありがとう。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

  

 ライブが進む。

 現在の曲目は、『人狼ゲームxサイコパス』のドラマ主題歌『先行き不透明な僕ら』だ。

 

 ステージ上に設置された巨大モニターには、これまでの『LOVEジュエル7』の日々が流されている。

 オーディションの映像や合格したとき、グループ結成後のレッスンの日々……なんか卒業ムードみたいにも思えるなあ。この流れで卒業って言われたら泣いちゃうなあ。

 

 ただ、ステージ演出が本番まで内緒って怪しいと思ってただけに、思ってたより普通でよかった。

 佐久間監督のことだから過激なドッキリでも仕込んでいるのかと思ったよ。

 

「♪迷いながら 踊るように 嘘も真実も抱きしめて」

「♪最後に笑うのは 誰だろう?」

 

 ん? 通路側に潤羽ママがいる。トイレかな? しかも黒スーツ姿だよ。着替えたのかな?

 

 ……と気を取られていると、芽衣ちゃんがぎゅむっと抱き着いて来る。

 ハグする振り付けなんだ。いけないいけない、一拍遅れちゃった。

  

 メンバー全員で順番にハグしあっていると、パッと映像が消えてノイズ画面の演出になった。

 次はなにを映すのかな?

 

「♪目を逸らさないで」

 

 ポーズを決めた瞬間、パッと巨大モニターの映像が変わる。

 おや? 観客席だ。

 お客さんを映す演出なんだね。

 みんなのおかげで成り立っているステージだもんね。(いき)な演出だねえ。

 

「♪最後に笑うのは きっと……」

「♪まだ決まらない!」

 

 おっ、麗華お姉さんがズームで映ったぞ。

 隣にいるのは仲良しの放送作家モモさんだな。

 びっくりした顔してる。

 だよね~、ステージの巨大モニターに自分が映ったらビビるよね。

 麗華お姉さんは「チャンス!」って顔でポーズ決めてるけど。

 したたかだな~。さすがだな~。そういうとこ、好きだよ。

 

 微笑ましく見ていると、佐久間監督が乱入してきた。

 いつもの怪しい司令だかプロデューサーだかのコスチュームで、マイクを持っている。

 

「人狼、見つけた」

 

 間奏にねじ込むようにしてセリフを言うサプライズ演出に会場が喜んでいる。

 モニターに映し出された麗華お姉さんは悪役顔で高笑いするポーズをしていて楽しそうだ。

 

「♪このゲームを楽しもうよ」

 

 最後は私以外の全員が膝をついて、悪役の私が村人を滅ぼしちゃったよって勝利のポーズをして終わる。バッドエンドじゃん。もう全部、なにからなにまで監督の趣味だよこのステージは。

 

 ポーズを決めて、歓声に包まれながらポーズを直すと、佐久間監督がずんずんと前に出てきた。

 戦隊モノにでも出てきそうなマントとスーツとゴーグル装備で、髪はオールバックに決めている。

 楽しそうだなあ。

 

 佐久間監督は左手を腰に当て、右手を観客席に向けて、堂々と声を響かせた。

 

「皆さんの熱い応援は、悪名高き我々テレビマンの心を穿ちました。効いたぜ! よって、ジュエルの続投を決定しました! これからも7人の成長を見守り、一緒に応援していきましょう、よろしく!」

 

 わああああっ。

 

 会場が割れんばかりの歓声と拍手に包まれて、メンバーみんなが飛び跳ねて抱き着いてくる。

 

「やった! 王司! やったよ! グループ続けられるよー!」

「うんうん、カナミちゃん」

「楽しい思い出がもっと増やせるね」

「うんうん、アリサちゃん」

「王司、うんうんばっかり……」

 

 うんうん。

 ヒカリ先輩は泣いてるね。

 私も実は今ちょっと涙腺がやばいよ。演技じゃなくて本当に。

 これはアレだな。みんなに釣られたんだな。芽衣ちゃんも目が赤いよ。

 

「あは、みんな泣いてる」

 

 さあや先輩が笑い、聖先輩は海賊旗に向かって「相山くーん」と手を振っている。この二人はいつもマイペースなんだ。

 

 あ、芽衣ちゃんのママとうちのママが客席で抱き合っている……。

 

「もうひとつサプライズ。ジュエルちゃんたちの続投を祝って、振り付けの先生でもあるSACHIが祝いの歌を歌ってくれます」

 

 おお?

 聞き覚えのあるイントロが流れて、サアッと会場中が青い光で演出される。

 登場したSACHI先生は、Vtuberの海晴(みはる)スピラっぽさのあるマーメイドドレス姿で、ショートの金髪を眩くライトに照らされながらエネルギッシュに声を響かせた。

 

「♪孤独だけ抱きしめて 誰も信じられなくて 空を見上げることさえ 怖がっていたあの日」

 

 声量がすごい。

 圧倒される――というか、これ、『太陽と鳥』の主題歌だ。懐かしいな。

 

「♪夢の欠片 指の隙間こぼれ落ちた 高く舞い上がる鳥を ただ見送るだけだった」

 

 観客席で火臣(ひおみ)打犬(だけん)が飛び跳ねてサイリウムを振ってる。目立つなー、あれ。

 元気だなー。離婚してもファンなのか。複雑な関係だな。

 隣にいる恭彦(きょうひこ)は嫌そうな顔してるけど。

 

「♪でも今 風はまた吹く この手に炎を宿して 昨日の影を超えていく 光を追いかけて」

 

 うん?

 巨大モニターに変なのが映ってる。文字だ。

 

 『祝・太陽と鳥コンペ 加地監督、一次通過! 続いての一般投票が本日からスタートしています。佐久間監督が協力した企画です』

 

 うん、うん? 

 加地監督?

 おめでとう? なんで今?

 

「♪何度でも 翔べるさ 太陽が焼き尽くしても 傷ついた羽を広げ 空を掴むんだ!」

 

 パワフルに熱唱する歌は極上なんだけど。文字が。

 

 『獲るぜコンペ! ぜひ応援投票をお願いします!』

 

 ……組織票のおねだりかよ!

 

「♪何度でも 翔べるさ! 太陽が焼き尽くしても! この命燃やしながら 空を掴むんだ!」

 

 あ~~、熱いな~~!

 最後のシャウトが最高だな!

 ここ、演出もっと頑張るべきだろ。でも文字が。

 

『皆さんの清き一票でコンペを勝たせてください!』

  

 ……映像で台無しなんだ~~。

 怒っていいよSACHI先生。

 

「獲るぜコンペ! 加地監督を応援しよう!」

 

 佐久間監督が吠えると、会場内にブーイングが起きた。

 みんな同じ気持ちなんだな。

 ブーイングに全く悪びれず、佐久間監督は言葉を続けた。メンタルが強い。

 

「あと、グッドなお知らせです。悪意的な購入者は身元を突き留めました。法的措置を取らせていただきますんで、ニュースをお楽しみに。はい、ではジュエルの諸君。バキューンでバイバイッ」

 

 合図で全員がバキューンポーズをして、いつも番組でしているように挨拶をする。

 締め方ちょっと雑じゃない? 監督?

 

「ばいばーい」

「ばいばーい、ばいばーい」

 

 これで終わるのは後味悪くない? 

 と思っていると、観客はアンコールをしてくれた。

 

『アンコール! アンコール! アンコール……』 

 

 佐久間監督はニヤリと笑み、「お約束だよなあ!」と吠えた。

 

「監督、なんかちょっとイラッとする」

「こら、芽衣」

 

 芽衣ちゃんがヒカリ先輩に小突かれている。うんうん、わかるよ。

 

  

 ともあれ、私たちはアンコールにこたえてもう一度『最初で最後!』を歌わせてもらえた。

 

「♪好き好き大好き! いちばん好きなの、だ・あ・れ? わたしー?」

 

 光と熱でいっぱいの会場で仲間と一緒に笑ってステップを踏む。

 

「♪教えてあげる、最初で最後ー! 『君の一番になりたいの!』」

 

 練習した振り付けは体に染みついていて、音楽に合わせてみんなでピタリと揃うのが気持ちいい。

 アイドルって楽しいな。

 たぶん、仲良しグループだからこんなに楽しいんだ。仲間って大事だよ。

 

「今日は、来てくれてありがとう!」

「いつも応援してくれてありがとー!」

 

 みんなでお礼を言って、煌めく視界がじいんと滲む。

 涙が出そうになるくらい、胸が熱い。

 

 

 ――歓声で耳がおかしくなりそうだ。

 

 

 ワアアアアアアアッ!

 

 

 ——この景色と歓声と熱を、私は絶対に忘れない!

 

 

「――本日ご来場の皆さまへご案内です。佐久間監督特製のライブ記念・未公開映像収録特別DVDを、お帰りの際に出口にてお一人様一点ずつお渡ししております。ぜひお受け取りください……」

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