【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~   作:朱音ゆうひ

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225、僕だよ僕。や、ま、ち。

 中学校では修学旅行に向けた説明会やグループワークの時間がある。

 

 2泊3日で奈良と京都に行くんだ。

 楽しみだね。

 

「それではグループごとに1日目、2日目の集団行動を終えた後の3日目、自由行動の一日の過ごし方を決めてください。ただ行き先を決めるだけではなく、出発時間からそこに行くまでのバスや電車の時間把握、駅に向かうまでの時間計算、料金の計算をした上でホテルに戻る時間を考えてくださいね」

 

 田中先生の指示に従い、生徒たちはグループに分かれて相談を始める。

 この時間が結構楽しい。

 

「アリサ、王司。放課後時間ある? 3人で配信しない?」

「ごめんカナミちゃん。今日は放課後、八町(やまち)先生と遊ぶんだ」

「王司ちゃん、遊ぶんじゃなくて即興劇(エチュード)するんだよね」

「うん、うん。真面目にお芝居をするんだよ」

 

 八町は新作映画のイメージを実際にメインキャラ3人が動いているのを見ながら詰めていく気だ。

 

 出番が増えたり減ったり、ファーストシーンやラストシーンが変わる可能性がある。

 

 八町に「江良君が主役で間違いない!」と思わせるよう演じないとな。

 

 主役オーラ出して行こう。

 八町~、主役は私だよ~、八町~。

 

 私とアリサちゃんは同じグループで、グループワークのときは教室を移動している。

 修学旅行のグループは学校側が決めてくれたため、グループ分けで気まずい思いをする子が出ないのが平和だ。

 しかしこのグループ、クラスが別のカナミちゃんと二俣(にまた)円城寺(えんじょうじ)が一緒なんだ。

 

「よし、二俣班の話し合いを始めるぞ」

「はーい」

 

 仲良しのアリサちゃん、カナミちゃんと一緒なのは嬉しいけど、メンバーがメンバーだけに「どこかでなにかしらの権力が動いたんだろうな」と邪推してしまう。

 ちなみにリーダーは二俣だ。

 グループができた時点でリーダーが決まっていた。

 うーん、権力の匂いがプンプンする……。

 

「葉室。なにか思うことがあるのか」

「ええ、二俣さん。現代社会の権力構造に思いを馳せていました」

「葉室。よくわからないが、それ、今考えるべきことか?」

「身近な問題だったので……」

 

 二俣をあしらっていると、円城寺が机の上に京都の観光地ガイドと時刻表を広げて仕切り出す。

 

「3日目の自由行動は午後1時から5時まで。京都駅を起点に、どこに行くか決めなきゃ。アイディアある人、手を上げて!」

 

 アリサちゃんとカナミちゃんが「はーい」と声を上げた。

 

「私は祇園! 花見小路歩いて、和菓子屋さん巡りたい!」

「いいね! でも、祇園って観光客多いよね? 時間内に回れるかな?」

 

 二人とも権力なんて気にしてない様子だ。

 そうだよな、修学旅行のグループくらい。私も気にするのやめよう。

 過ぎたことを気にするより、今を楽しむんだ。

 

「伏見稲荷大社はどうだ? あの千本鳥居、インスタ映えするぞ。全員で写真撮ろう」

 

 二俣がうきうきしている。好きそうだもんな。

 でも、ちょっと遠くないかな?

 

「伏見稲荷ってバスでどれくらいかかりますかね……」

 

 控えめに疑問を呈してみると、二俣は「ふむ」とスマホを取り出した。

 グーグルマップ。ナビタイム。AIに聞くの?

 

「ふむ……」

 

 私たちはネットの力を借りて検討したのち、3日目のスケジュールを決めた。

 

 まず京都駅からバスで四条河原町へ行く(15分、230円)。

 四条河原町でショッピング、錦市場で食べ歩き。

 バスで京都駅へ戻る(15分、230円)。

 ホテル到着予定。

 

 ざっくりした予定だけど、ぎちぎちに決めても窮屈だし、これくらいでいいよね。

 

「学校だけじゃなくて放課後も集まって予行練習するか」

 

 二俣は恐ろしいことを言い出したが、私たちは予定があったので遠慮した。

 というか、修学旅行の予行練習ってなんだよ。ちょっと意味わかんないね。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 

 放課後は、ひだまり荘に帰って主演三人でお試し即興劇(エチュード)の時間だ。

 帰り支度をしていると、窓の外が騒がしい。また何か事件でも起きたのか。

 

「あ、王司ちゃん。見て」

 

 アリサちゃんが窓際を見るよう手招きしてる。

 なにかな?

 そーっと覗きに行くと、外に目立つ黒光りする車が見えた。

 

 後部座席の窓から顔を見せているのは、どう見ても我が親友。

 八町(やまち)大気(たいき)だ。

 

「わあ、アリサちゃん。八町先生だね」

「ね。学校で八町先生を見るって変な感じー」

  

 ダークグレーのスリーピーススーツに身を包み、知的で落ち着いた微笑みを浮かべた八町が軽く手を振ると、集まったファンから歓声が上がる。

 

「キャーッ!」

  

 ドアが開いて運転手が降りてくると、歓声がさらに大きくなった。

 

 外側から恭しく後部座席のドアを開ける運転手は、黒いサングラスに黒いシャツとテーラードジャケット姿。

 端正な顔立ちでさらさらの金髪をしていて、どう見ても我が兄。

 火臣(ひおみ)恭彦(きょうひこ)だ。

 

「王司ちゃん。恭彦さんがいるよー。びっくり」

「うんうん、アリサちゃん。私もびっくりしてるよ」

 

 恭彦は片手でサングラスをずらし、ファンにウィンクのファンサをしてキャアキャア言われている。

 まるで女慣れしたプレイボーイだ。

 また変な役に入り込んでいるのか?

 

「王司ちゃん。私のスマホに恭彦さんからメッセージ来てるよ。お迎えに来てくれたんだって」

「えっ。そうなんだ?」

 

 兄は妹にメッセージを送らず、妹の友人にメッセージを送るのか。

 まあ……うん、知ってた。そういう兄だよ。

 

 アリサちゃんと一緒に車に近付くと、人垣が割れて道ができていく。

 

「じーっ」

「なんですか葉室さん。お腹が空いていらっしゃるんですか? 飴しかありませんが」

 

 いや、飴が欲しかったわけじゃないんだよ。もらっちゃったけど。

 

「わさび飴……」

「俺はわさびが好きなんです」

 

 兄のお気に入りらしき「わさび飴」は、ピリッとしていて個性的な味だ。美味しいけど珍しい感じ。独特だな。

 

「やあ、二人とも。学校お疲れ様。今日は太陽が赤かったから、保護者気分を満喫したくなって迎えにきてしまったんだ」

 

 八町はニコニコしていた。

 

「お迎えありがとうございます八町先生。あと、他の人にはメッセージを送るのに私にはメッセージをくれない恭彦お兄さん」

「アリサさんの方が送りやすくて」

「恭彦お兄さん? 今なんて?」

「あっ、いえ……」

   

 このお兄さん、今割とはっきりと「お前にメッセージ送りにくい」って言わなかった?

 なんてことだ。ちょっと傷ついた気がする。助手席は私が座ろう。

 

「なんでメッセージ送りにくいんでしょう。妹なのに。そんな怖いことありませんよ。気楽にメッセージしていい相手ですよ妹は」

「あっ、はい。そうですね……はい」

 

「王司ちゃん怒ってる」

 アリサちゃんが後ろでくすくす笑ってる。

 いやいや、怒ってないよ。「怖くないよ」って言ってるだけだよ。

 

「恭彦君は妹との適切な距離感を測ってるんだ。僕はとてもいいと思うよ。二度とメッセージを送らなくてよろしい」

「八町先生?」

  

 それは言い過ぎだよ八町。

 

 運転手のお兄さんはサングラスで表情を隠しているけど、私の目にはちょっと困り眉なのが見えている。

 ウインクなんてしてたからどうしたのかと思ったけど、いつも通りの草食系の恭彦だな、よし。

 

 ひだまり荘に戻ると、八町は私たちをレッスンルームに誘った。

 

 レッスンルームは、ひだまり荘の1階にある。

 

 そこには、なぜか銅親(どうおや)水貴(みずき)がいた。

 彼、GASの選出メンバーじゃなくてシェアハウスで生活してないのに。

 

「僕がご招待したんだ。お父さんの影響で目も肥えてるだろうし、君たち3人の即興劇(エチュード)を観て感想もらおうかなって思って」

 

 そうじゃないかと思ったけど、犯人は八町だった。

 八町は水貴を自分の隣に座らせ、私たち3人をその前に立たせた。

 2人で3人を鑑賞する姿勢だね。

 

「水貴君にとってもいい勉強になるよね。ウィンウィンだ。できればお父さんも釣りたいんだけど、彼、僕のこと嫌ってるからな。将を射るにはまず馬からって言うよね。恭彦君たちのお部屋に空きベッドがあるらしいから、そこを使うといいね。そういえば親御さんにも連絡入れておかないとな」

 

 八町は無害そうな顔で微笑み、スマホで親に電話をかけた。

 

「もしもし銅親(どうおや)絵紀(えのり)君? 僕だよ僕。や、ま、ち。ふう」

 

 八町は最近「ふう」と吐息を入れることにハマっているらしい。

 それで八町ファンは喜ぶのだろうか。謎である。

 

「突然ごめんね。君の息子……そうそう、水貴君。僕が預かるね。今夜は帰さないよ。ふう……じゃあね」

 

 八町は相手の反応を待たずにプチッと電話を切って「じゃ、即興劇を始めようか」と爽やかに言い放った。

 大丈夫なんだろうか。誘拐犯だと誤解されても仕方ないセリフに思えたが。

 

 一抹の不安を抱えつつ、私たちは即興劇(エチュード)を始めることにした。

 

 





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