【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~   作:朱音ゆうひ

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230、修学旅行に行った話

 

 修学旅行の日がやってきた。

 行き先は奈良と京都だ。

 

 初日は新幹線とバスで移動して、奈良公園で昼食を取った。今日の髪型は、アリサちゃんとカナミちゃんとお揃いのくるみちゃんヘアだ。ハーフアップなんだけど、片側だけお団子。可愛い。

 

「そういえば、王司ちゃん。私、修学旅行行くって話したら匿名のプレゼントをもらったよ。『王司ちゃんと仲良くしてね』ってメッセージカード付きの鹿せんべいと赤いクマのチャームだったよ」

「あたしもあたしも。あたし黄色のクマだったけど」

 

 カナミちゃんは「ここだけの話」と声をひそめる。

 

「SACHI先生にカード見せたら、『これ作曲家Qの字だよ』って笑ってた……」

 

 カナミちゃんはSACHI先生と仲がいいよね。

 というか、鹿せんべいとクマのチャームって私ももらったことあるよ。

 

「新米アイドルだから謙虚に頭を下げろって意味だったりして」

「やだー、ちょっと怖い。あ、ねえねえ、Vlog撮らない?」

 

 カナミちゃんはスマホカメラを向けてきた。

 Vlogは、ブログの動画版。

 旅行記録的な動画を撮るんだね。

 

「いぇーい鹿公園でーす」

「カナミちゃん鹿公園じゃないよ奈良公園だよ」

「アリサ、クソどうでもいい正論禁止」

「どうでもよくないよー、名前間違えたら怒る人出てくるよ。炎上するよ」

「そう言われるとそうかも」

 

 動画を撮りながら歩いていると、二俣(にまた)夜輝(よるてみ)円城寺(えんじょうじ)(ほまれ)が仲睦まじく鹿に囲まれている。

 

「誉、鹿がお辞儀してるんだぞ。お前もお辞儀を返せ」

「よっくん。お辞儀を返すより鹿せんべいをあげた方が鹿は嬉しいんだよ」

 

 楽しそうだなー。

 カナミちゃんは鹿の群れを見て対抗意識を燃やした。

 

「対抗するか。こっちも鹿釣るよ!」

「カナミちゃん、なんか炎上しそうで怖い」

「どこが⁉︎」

 

 鹿は鹿せんべいに寄ってくる。可愛いけど、あんまりグイグイ来られるとちょっと怖い。

 でも鹿も必死なんだよね。

 遠慮してたらご飯にありつけないもん。ご飯は大事だよ。

 

 鹿の気持ちを想像していると、男子は対抗し始めた。

 

「おい、鹿ども。こっちに来い。こっちだって今動画撮ってるぞ。なんで鹿は誉にばかり寄って行くんだ?」

「それはね、よっくんが鹿せんべい持ってないからだよ」

 

 二俣って結構、ぽんこつだよな。

 見てると和むや。

 

「王司、3人で鹿に囲まれて動画撮ろうよ」

「王司ちゃん、動画の一番いい瞬間をスクショしてSNSにアップするのもいいと思う」

「周りにおせんべい置いたらいいんじゃないかなー?」

 

 おお、鹿が殺到してる。

 動画を再生するとちょっとシュールだ。

 なにせ、3人でポーズ取って笑顔を貼り付かせてる周りで鹿がわらわら蠢いて鹿せんべいを取り合ってるんだもん。

 

「ここ。この一瞬で止めよう王司」

「あっ、目閉じてるから1秒進めよう、王司ちゃん」

「どうして交代で瞬きしてるの」

 

 だいぶ苦労したけど、私たちは動画の中の一番いい瞬間を探してスクリーンショットをゲットした。

 ――これなら普通に写真撮った方がカンタンじゃない……?

 

 まあ、楽しかったからいいか。

 

「投稿するのは帰ってからね」

「はーい」

「了解!」

 

 奈良公園の後は東大寺大仏殿や宇治平等院を巡って、京都市内の宿泊施設に到着だ。

 

 宿泊施設は、入り口に竹が並んでいて、和の情緒があるホテルだ。私たちは入り口で写真を撮って、部屋に荷物を置いてフォトスポットを探しては写真を増やした。

 

 夕食は宴会場で松花堂弁当をいただいた。

 

「王司。カレー風味の鶏つくね照り焼きあげる。好きでしょ」

「わあ、カナミちゃんありがとう! 大好き」

「今の録音できた!」

 

 カレーのスパイシーさがほのかに香る鶏つくねは、和風甘辛ダレがとろとろだ。美味しい。

 

「王司ちゃん、近くのホテルに保護者団も団体宿泊してるって知ってた?」

 

 アリサちゃんは抹茶ごま豆腐を上品に口に運んで、スマホをチラ見させてくれた。

 わあ、高槻(たかつき)大吾(だいご)が保護者団の写真を送ってきてる。

 

高槻大吾:アリサ、お兄ちゃんは大人の修学旅行中だ

 

 うちのママがツアーガイドみたいに旗を持っていて、周囲をママ友グループが固めている。

 アリサちゃんのママやカナミちゃんのママもいる。外側にはパパグループが並んでいて、団体様ご一行って感じだ。パパグループに見覚えのある着ぐるみたちがいるのだが、なんで?

 

 円城寺(えんじょうじ)(ほまれ)のお父さん、円城寺壮一(そういち)は旅行中でもスーツなのか。なんか一人だけ浮いてる。

 

高槻大吾:アリサ、そっちは無事かい

高槻大吾:保護者団は旅行中に子どもに会いに行くのは禁止なんだ

高槻大吾:お兄ちゃんはロミオとジュリエットな気分だよ

 

 その団体名と謎ルール、知ってる。

 

「それねえアリサちゃん。『大人も修学旅行したい!』って企画なんだよね。主催してるの、うちのママなんだ」

 

 ママは旅行会社を経営している。

 私たちが修学旅行に行くのを羨ましがって同じように保護者が旅行する企画を作ったんだ。

 

「この抹茶ごま豆腐美味しい。たけのこの天ぷらも。王司、あーんしてあげる。あーん」

 

 カナミちゃんは保護者を気にする気配皆無で天ぷらを食べさせてくれた。

 こっちもお返ししようか。

 

「カナミちゃん、サイコロステーキあげるよ。あーん」

「やったー! 動画撮っていい?」

「動画撮るほどのことじゃなくない……?」

 

 カナミちゃんは思い出作りに余念がない。はしゃいでいて可愛いと思う。

 アリサちゃんはその点、落ちついてるよね。

 

「王司ちゃん、お兄ちゃんがポエム考えてるって」

「ワア……楽しみだね……」

 

 アリサちゃんはいつも通りのブラコンだ。

 

 食後は大浴場だ。

 宿泊棟から出てお風呂の施設に行くと、入り口の壁にカラフルな風車がいっぱい飾られていた。

 

「ここも写真スポットだねアリサちゃん」

「撮ろう撮ろう! カナミちゃんもこっち来てー!」

 

 私たちが写真を増やしていると、海賊部の男子が「あっちに漫画コーナーあるぜ」と走っていった。

 元気だなー。でも走ると危ないよ。

 

「男子〜、走ると危ないよー」

 

 聞いちゃいない。あいつら絶対消灯時間の後も枕投げとかするタイプだろ。

 

 お風呂に行くと、露天風呂は岩に囲まれた川みたいな温泉で、ライトアップされて雰囲気が抜群だ。

 風が吹くたびにお湯の表面にさざ波が立つのをじっと見ていると、溺れている気分になる。

 

「王司ちゃん、岩盤浴も行こう」

「サウナもだよ王司」

 

 溺れる暇もなくあっちへこっちへと施設を堪能して、お風呂上がりに3人でアイスを食べていると、海賊部の男子たちが湯上り食事コーナーのショーウインドウを見てあんぱんまんランチに目を輝かせていた。

 

「おい、お前たち! さっき走っていただろう。学校の恥を晒すな!」

「あっ、二俣様」

「二俣様すみません!」

 

 二俣夜輝と円城寺誉が現れると、男子たちはかしこまって反省会を始めた。

 目立ってる、目立ってる。

 

「そのエネルギーは枕投げに取っておけ!」

「はいっ、二俣様!」

「よっくん、怪談は嫌なんだって。びびりだよね〜」

 

 男子、楽しそうだな。

 

「お部屋に戻ろうか、アリサちゃんカナミちゃん」  

 

 巻き込まれる前に撤収だ。私たちはいそいそとお部屋に戻り、就寝時間を迎えた。お部屋は和室だ。お布団はみんなで敷いたよ。

 

「電気消すよー」

「待って王司ちゃん。お兄ちゃんがポエム送ってきた」

 

 ほう。それじゃ、高槻大吾のおやすみポエムをみんなで読んで寝るかな?

 

高槻大吾:おお、ロミオ!僕がロミオだ。いやいや僕が。――ヨッ。

 

「……」

「……」

「寝よっか」

 

 私たちはポエムをスルーしてお布団で川の字になって就寝した。

 カナミちゃん、寝相が悪いね。

 気づいたら抱き枕みたいに抱っこされてる……。

 

「トイレに行きたいよカナミちゃん」

「ふぁー、おうじぃ……ちゅっ」

「起きてよカナミちゃーん……」

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆ 

 

 翌日は自由行動の日だ。

 

 空が晴れててよかった。

 私たちは意気揚々とホテルを出て京都駅からバスで四条河原町へ向かった。乗車時間は15分。

 

「なんか、見覚えのあるお姉さんがいる」

「いるよね」

 

 私たちのバスには西園寺麗華と放送作家のモモさんが乗っていた。お二人も『大人の修学旅行』に参加しているのか。

 動画を撮っているので、きっと西園寺麗華の動画チャンネルにVlogを投稿するんだろうな。

 

 思い出すのは、八町が教えてくれた情報だ。

 

八町大気:江良君。ドラマの仕事はキャンセルした方がいいよ

八町大気:加治(かじ)桐生介(きりゅうのすけ)の子飼いの放送作家が裏で騒動のシナリオを描いていて

八町大気:『このチャンネルのYouTuber』がドラマ制作反対を唱えてる

八町大気:しばらく火に油を注がれ続けると思う……自分の身を護るべきだよ

  

 放送作家のモモさんは政治家の子飼いでヤバイ人らしい。

 色々陰でやらかしていてゴシップの標的になっているという噂があるけど、立ち回りが上手いみたいで今のところ決定的な燃え方をしてないんだよね。

 世渡り上手というか、要領がいいキャリアウーマンって感じかな。

 本人は何を思って政治家に尽くしてるんだろう?

 実は弱みを握られているとかじゃないよね?

 

「あ、……」

 

 モモさんをあまり見ないように、と窓の方を見ると、バスの外に見慣れた姿が見えた。

 ママだ。

 黒いスーツ姿で、髪を首の横でゆるく結わえているスタイル。

 左手にスマホを持って、右手で操作していて、違和感を覚えた。私のママは左利きだから。

   

「王司ちゃん、着いたよー」

「あ、降りる降りる~」

 

 バスから降りようとしたら、二俣が先に降りてドヤ顔でエスコートしようと手を差し出してきた。

 それ、恥ずかしいよ。パーティ会場じゃあるまいし。バスを降りるくらいですることじゃないよ。

 

「結構です、二俣さん」

「遠慮しなくていいのに。お前は恥ずかしがりやか」

「うわ、なんかゾワッと来た。鳥肌立っちゃった」

 

 カナミちゃんの腕にすがると、カナミちゃんは「あたしも今のやだなって思った」と同調してくれた。

 持つべきものは友だちだよ。

 アリサちゃんはくすくす笑ってるけど。

 

「どうぞ、お嬢様」

「ありがとう円城寺君」

 

 えっ、円城寺誉がアリサちゃんをエスコートしてる。なにあれ。

 

「王司、あれ浮気じゃん」

「カナミちゃん。二俣さんと円城寺さんはケンカップルだから当てつけみたいにああいうことをするんだ。あとで喧嘩して仲直りすると思う」

「アリサ当て馬じゃん」

 

 私たちがヒソヒソ秘密トークをしていると、アリサちゃんがちょっと困り眉になって近寄ってきた。

 

「今、もしかして悪口言ってた? 私の名前が聞こえたよー」

 

 なんだって?

 確かにそんな構図に見えたかも。やばい誤解じゃん。

 

「違うよアリサちゃん。私たちは円城寺さんと二俣さんの愛の行方について語ってたんだよ」

「王司、二俣と円城寺だから。順番間違えないで」

「あれ? そうだっけ?」

「あはは……っ」

 

 あっ、アリサちゃんが笑ってる。

 誤解解けたんだ、よかった。

 

 綿市場の入り口に行くと、なぜか円城寺壮一がティッシュ配りをしていた。なんで?

 

「気にしないで。僕のお父さん、政治家としてやり直したいって地道にがんばってるんだ」

  

 ティッシュを受け取ってまじまじと見ていると、円城寺誉がコソッと耳打ちして漬物屋に入って行った。その店、うちのママのママ友グループがいっぱいいるよ。

 ママ友と楽しそうにしている私のママは、軽やか素材のニンジン色のロングスカート姿だ。

 白いペプラムの上に軽くグレーのジャケットを羽織っていて、オシャレな感じ。

 髪型はアップスタイルだ。ふ、ふむ……。

 

 この感覚、懐かしいな。

 ガンダムのニュータイプみたいにピキーンときたぞ。

 さてはさっき見かけたのは別人だな。

 

 名前なんだっけ、ママの妹。王司の産みの母親。……みやび?

 

 探偵気分になっていると、二俣(にまた)夜輝(よるてみ)がリーダーぶって注意する声が聞こえて来た。

 

「おい、(ほまれ)。ひとりで行くな。女子もばらけるな。団体行動だぞ」

 

 市場は両側に店が並んでいて、人も物も雑然としていて賑やかだ。

 本当に不思議なんだけど人混みの中に見えちゃったんだよね、着ぐるみが。

 トドとパンダとシロウサギとピンクパンサーがいたんだよ。いや、なんでいるんだよ、みんな忙しいメンバーなのに。

 聞いてみる?

 

葉室王司:八町、着ぐるみ着て大人の修学旅行してたりする?

 

 LINEを送ると、返事はすぐに届いた。

 

八町大気:江良君。僕は岐阜でバンジージャンプしてきたよ(写真)

 

 何をしてるんだ、何を。

 楽しそうだな。

 

 私が八町のバンジー写真を見ていると、カナミちゃんがお菓子を買ってきた。

 

「王司、アリサ。さつまいもチップス買ったけど食べる?」

「ありがとカナミちゃん」

「二人とも~、たこたまご買わない~?」

 

 赤いタコの形をしたうずらの卵を買ってスマホで写真を送信すると、漬物屋の入り口にいたパンダが手を振ってくれた。

 なんで着ぐるみなんだ? 目立つなあ。

 

「あ、あの網焼きいい感じじゃない?」

 

 カナミちゃんは「いい感じ」を見つけるのが早い。どれどれ。  

 醤油を塗って網焼きしてるお煎餅か。確かにいい感じだ。

 

「私、串焼きを食べ歩きしたいな。なんか買わない?」

 

 私が誘って店に近付くと、カナミちゃんとアリサちゃんは付いてきてくれた。

 海老串とはもカツ串をゲットして扇子売り場でママへのお土産の扇子を選んでいると、ママ本人が同じお店に入って来てちょっと気まずい。

 

「あら。ニアミスしちゃった。だめね、旅行先では遠くから見守るルールなのよ」

「ママ。これお土産にどう?」

「いいと思うわ。おほほほ」

 

 お土産選びは結構楽しい。

 でもお土産を送ろうと思ったママや八町が現地にいるんだよな。

 変な修学旅行だよ。

 

「王司ちゃん。私、お兄ちゃんに抹茶スイーツを買おうかな」

「えっ、お兄ちゃんに? じゃあ、私も恭彦お兄さんにわさびふりかけ買おうかな」

 

 あちこち見ているとキリがない。

 気付けば帰る時間になっていた。

 

「二俣班、点呼だ」

「いーち」

「にー」

「さんー」

「よんー」

 

 バスに乗り込むと、後部座席に着ぐるみ一行が並んで座って注目を集めていた。

 おっと、八町からLINEが。

 

八町大気:舞妓はんひぃ~ひぃ~(写真)君へのお土産

葉室王司:八町! 愛してる!

八町大気:え?

 

 いけない、ついカナミちゃんみたいなリアクションをしてしまった。

 それはそうと、アリサちゃんが「見て。お兄ちゃんが『油取り紙お土産にどうぞ』って。3人分買ってくれたって」と見せてくるので対抗したい。

 恭彦に旅先からのメッセージを送ってみようか。 

 

葉室王司:恭彦お兄さん、わさびふりかけ買いましたよ

 

 兄からの返事はなかった。既読すら付かない。

 SNSでは火臣恭彦出演の新しいCMが話題になっていた。

 多忙か……売れっ子め。

 

葉室王司:CMおめでとう!

火臣恭彦:ありがとうございます

 

 あっ、中身いた。

 

火臣恭彦:お土産のお返しにカレーのルーを葉室さんのご自宅に送っておきますね

 

 わぁ〜、帰ったらカレー食べよう。

 楽しみだな!

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