【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~   作:朱音ゆうひ

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97、お兄さんとカレーを食べるよ

――【葉室王司視点】

 

 ノートパソコンの電源を落としてスマホのDMの続きを待っていると、恭彦は直接の会話を提案してきた。

 

火臣恭彦:チャットだとログも残りますし

火臣恭彦:直接会ってお話ししたいのですが

葉室王司:おお

葉室王司:うちに来ますか?

火臣恭彦:それはちょっと……

火臣恭彦:店にしましょう

火臣恭彦:スタバ、マクドナルド、サイゼリヤ

葉室王司:カレー屋さん!

火臣恭彦:じゃあカレー屋さんで

 

 やった、カレーを食べられるぞ!

 私は検索してありったけのカレー屋さんをリストアップし、恭彦に送り付けた。

 

「……あ」

 

 知らない人からツイッターにDMが届いている。女性っぽいアカウントかな?

 

:めーちゃん&りーちゃんのコミュニティを、見ました。

:コミュ、抜けた方がいいと思います

:DV男が被害者ぶってますけど、危険な男から子供を連れて避難しただけの女性は悪くないでしょう? むしろ、女性は保護して、嘘つきDV男は制裁しないといけません。

:王司ちゃんはまだ子供なので、大人の世界の事はわからないと思います

:大切なのは、一方の言い分だけを聞いて騙されるなってことです

 

 わぁ、大変だな……。

 羽山(はねやま)修士(しゅうじ)だったら全速力でコミュニティを抜けて保身を図るに違いない。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 

 カレーを食べる約束の日、授業が終わった後、クラスの委員長が文化祭用のクラスの看板を見せてきた。

 

「は、は、葉室さん、看板に一筆くれましぇんか」

「わぁ、みんなで一筆ずつ塗って仕上げるんですか? 素敵ですね」

  

 筆を受け取ろうとすると、委員長は「ひゃあっ」と悲鳴をあげて筆を落とした。

 

「ご、ごめん葉室さん。手がすべべべ」

 ……そんなに怯えなくてもよくない?

「気にしないので、大丈夫ですよ。私、怖くありませんよ?」

 筆は看板に落ちて、ちょうど血痕みたいな赤い痕を作っていた。お化け屋敷らしくていいよね。この血痕、増やそう。

「えい、えい」

 

 べしょべしょと赤い塗料で血痕を増やすと、委員長は「さ、サインがほしかったんだけど、血痕もいいね」と褒めてくれた。

 サインを足すと、「よっしゃ! 終わった後オークションてを売れる!」とキャラを一変させて喜んでくれた。売るの? 売るなら儲けの何割かくれない?

 

「アリサちゃんもサイン書こう~」

「わーい、書く書く~」

 

 アリサちゃんに筆を渡すと、私のサインの隣に『高槻アリサ』と書いてくれた。

 

 委員長はめちゃくちゃ喜び、ぷるぷる震える手で線を描き足している。

「ふふふふたりとも、ここ、ここに傘を足したら相合傘になりましゅ、価値が爆上がりでしゅ」

「ほんとだー」

「価値上がるの?」

「王司ちゃん、傘の両端から地面に向けて線を足したらお家になるよ」

「アリサちゃんは天才かな……?」

 

 お化け屋敷の看板に、なんで相合傘作ってるの?

 まあ、いいか。

 

「委員長。売れたら5割アリサちゃんにあげてくださいね」

「……‼︎」

「私は1割でいいですよ」

 

 アリサちゃんは「え、いいよいいよ」と言ってるけど、お金のことはちゃんとしておかないとね。

 

「アリサちゃん、アイドル部で練習して帰るの? 私ね、今日は予定があるから先に帰るね」

 

 どんな予定か言っちゃう? 

 言っていい?

 いや、でもな! 

 マウントみたいになったらダメだよね。

 ここは詳しく言わない方が大人かな。

 私は大人だからな。

 

「王司ちゃん。今日はどんなご予定なの? お仕事?」

 

 アリサちゃんが質問してくれる。

 そっかそっか、気になるか。

 聞かれたら答えた方がいいかな? 

 質問されてるんだもんね!

 

「ふふふ、アリサちゃん。知りたい? 教えてあげようか?」

「うん、うん。王司ちゃん、嬉しそうだから気になるなぁ」

「えへへ、アリサちゃん。私は今日、カレー屋さんに行くんだよ。家族とだよ。お兄さんと行くんだよ」

 

 アリサちゃんはお兄ちゃんとカレー屋さんに行ったりするのかな?

 ……するんだろうなぁ……。

 

「わぁ~、王司ちゃん、よかったね。楽しんできてね。今度、私ともご飯食べに行こう~!」

「うん、うん!」

「カナミちゃんも誘おうか?」

「うん、うん」

「お兄ちゃんも誘う~?」

「なんか、人数がどんどん増えるね」

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 

 帰宅して着替えを選ぶときに、以前買ってもらったジャージが目についた。

 

 これを着ていこうかな、せっかく買ってくれたのだし?

 いや、しかしあの事件を思い出して嫌な気分になるかもしれない。

 やっぱりこっちのトレーニングウェアかな。それとも、フード付きのパーカー?

 

 恭彦はフード付きパーカーでフードをかぶって変装して来る気がする。

 ならば私も同じ変装ファッションで合わせて「ねえ、あの兄妹、お揃いコーデだね」と言われようか。

 アリサちゃんに写真を撮るときにも「お揃いだったんだよ」って仲良しアピールできるもんね。

 

「……」

 

 迎えに来た恭彦は、今日に限ってパーカーフードじゃなかった。

 水色のストライプシャツに白いキャスケット帽を被り、色付き眼鏡をかけている。

 しかも、シルバー製のマグロのペンダントを首から下げていた。

 爽やかなような怪しいような変装コーデで、隠しきれないイケメンオーラが出ているのが今日の兄だ。

 

「お迎えありがとうございます、お兄さん。お魚お好きなんですか? 可愛いペンダントですね」

「こんにちは、葉室さん。もしよければ同じのを贈りましょうか?」

 

 恭彦はスマホで通販ページを見せてくれた。

 あ、マグロだけじゃなくてカジキマグロもあるんだな。

 

「恭彦お兄さん。私、このカジキマグロのペンダントがいいです」

「なっ……」

「ほら、これ」

「葉室さん。俺にはカジキマグロなんて見えません」

「え?」

「葉室さん。それ、マグロですよ」

「商品ページにはカジキマグロって書いてますよ?」

「マグロです」

「ええ……」

 

 恭彦はスマホを取り上げて運転を始めた。

 よくわからないが、地雷だったのかな?

 謎な地雷だ。まあ、ペンダントの商品名なんてどうでもいいか。

 

 って言うか、待って。

 助手席に座ってから気づいたけど、彼のシャツ、よく見たら小さなドラえもんのキャラ絵が散りばめられてるよ。

 遠目に見たら普通なのにさりげなくキャラクターワールドだよ。

 

「写真撮っていいですか?」

「どうぞ」

 

 動画にしよう。運転してるところを撮って、あとでアリサちゃんに見せてあげよう。

 

「今、お兄さんが運転してまーす」

 自分もフレームにインして解説を足すと、なぜか恭彦は「血筋を感じる……」と呟いていた。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

  

 カレー屋さん――ナイルなレストランは、銀座にある。

 創業者は日印平和条約の業務に携わっていたという。

 これから仲良くしようね、美味しいカレーを召し上がれって感じでお店を作ってくれたんだ。

 美味しいごはんは言葉の壁を越えて笑顔を生む。

 我々も仲良くしようではないか、ライバル宣言済で別チームになっている兄よ。

 

「俺はこの店が初めてです」

 

 初見のお客様だよ、店主さん! 

 派手な柄のシャツを着た愛らしい店主さんに勧められた看板メニューは、ワンプレートに全部載せてくれた感じの愛しい一品だ。

 

 7時間煮込んだ大ぶりの骨付き鶏もも肉。

 岩手県産のイエローライス。マッシュポテトに、キャベツにグリーンピースと、具もいっぱい。

 

「恭彦お兄さん。骨付きのチキンをほぐし、骨を取り外す儀式は神聖な儀式です。祈りましょう……」

「何に?」

「カレーにです」

「なぜ?」

「美味しくなあれ。萌え萌えきゅんきゅん」

「それ、オムライスにやるやつじゃないですか?」

 

 恭彦は疑問が多いな。

 箸が転がっても理由を探しちゃうお年頃か? 

 ほら両手でハート作って。動画撮るから。

 

「恭彦お兄さん。カレーをまじぇまじぇしながらお願いすると叶うんですよ」

「へえ……混ぜ混ぜ」

「まじぇまじぇですよ?」

「ま、まじぇまじぇ……」

 

 よく煮込まれた地鶏がほどけて、逃げ場がなくなるぐらい全てがルーに呑まれていく。

 混ぜるうちに期待が膨らむ――もうすぐこのご馳走にありつけるのだ。

 頬がゆるゆる緩んじゃう。ワンコだったら全力で尻尾を振ってるね。

 

「よーし! いただきますっ」

 

 手を合わせて最初のひと口をいただくと、スパイシーなルーが「ようこそ」って抱きしめてくれた。

 ハートがキュンとした。

 カレーが私をギュッてしてくれたよ。

 やった……ここが楽園か……。

 

 キャベツが「ぼくは砂漠のオアシス」って言いながらスパイスに侵食されている。

 マッシュポテトは甘いんだ。舌触りが滑らかで、舌を優しく包み込んでくれる。それなのに辛いというのが本当に好き。

 ああ、お米が自己主張を始めたよ。この食感、安心する。

 

「グリーンピースがほくほくしてる……美味しい……」

 

「葉室さん、俺はアプリのことを都市伝説として知っていましたが、自分のスマホにアプリが出てきたのは、あなたと鈴木家で共演して少し経った頃でした。アッポーポイントを執事さんがくれた後のことです」

 

 恭彦はカレーを食べながら話してくれた。

 

「俺は、母から離婚と托卵の話を聞いた時期でもありました。役も降板になり、まあ……落ち込んでいたのです……」

 

 お話は家庭の事情から始まった。思わず周囲を確認したけど、幸い盗聴の心配はなさそうだった。

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