横から口出しするだけの簡単なお仕事です   作:シリアルナンバー

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『紹介』するということ(1/3)

 俺、トールは異世界人だ。10年前、仕事帰りに酒を飲んで気を失ったと思ったら、気が付けばこの世界に来ていた。

 

 それから10年間、冒険者として様々な活躍を繰り広げ、今はこの街、都市アンバスに居を構えている。

 

「ふぁあ……」

 

 とはいっても、今となってはただの中年冒険者。鏡に映る自分は髭が生えていて、髪の跳ねた黒髪黒目の中肉中背、ありふれたおっさんでしかない。

 

 俺の住処は都市アンバスの北東にある小さな一軒家だ。相続により分割され続けた結果、やたらと小さくなった土地に一人暮らし用の一軒家を建てたのだ。とはいっても保管している武器などの関係上、一軒家と言うよりは事務所という扱いになるのかもしれない、

 

 外を見ると時刻は既に昼。となると今日も昼から酒を飲んで上手い飯を食べて、ぐうたら過ごすしかない。

 

 灰色のシャツと使い古したズボンを履いて、のそのそと立ち上がり扉を開ける。外は俺の前いた世界とは大きく異なり、レンガで造られた中世風の建物が並んでいる。

 

 俺が転移したのは中世ファンタジー風の世界で、魔法や異種族の溢れる不思議な世界だ。幸いにもガチの中世、すなわち暴力が横行し衛生環境が劣悪ということはない。魔法の力により一部だけ歪に発達した結果、技術の低さを補ってくれているという印象だ。だって貴族の家には魔法で動くエアコンがあるんだぜ。俺の世界の中世の人間はマジギレするだろう。

 

「トールちゃん、今日も昼から酒かい?」

 

 そう聞いてくるのは、向かいの家に住む竜人のおばちゃん、バウルだ。5人いる子供を育てながら、冒険者として働く旦那のサポートもするパワフルな主婦である。 

 

「違うよ、商談だ商談」

「そんなことを言って、ギルドで飲んだくれている姿しか見ないけどね。旦那が寂しがってたよ、あの頃の伝説はどこに行ったって」

「腕は何一つ落ちてねえよ。ただ働きたくねえんだよ……」

「切実すぎる叫びね」

 

 いや本当に働きたくないんだって。冗談抜きにここまで自分が働くのに向いていないとは思わなかったんだよ。確かにチート能力を使えばこの世界の最上位まで辿り着けるし富も名声も思いのままだった。だけど。

 

「仕事って、戦うだけじゃいけなかったんだよ……強ければ強いほど部下を持たされるし、よく分からない貴族様の条件やこだわりに巻き込まれる」

「そんなにひどいかしら?」

「一回、3日以内に20日かかる道を踏破してペガサスの肉を持ち帰れ、という任務があったくらいだぞ。しかも断ったら事実上の犯罪者扱い、弟子も巻き添え」

「トールちゃん、想像以上に酷い話に巻き込まれてたのね……」

「しかもその貴族、横領事件があったとかでやたらと細かい経費明細書かされたしな。それが無ければ任務をしたと認めない! とか言い出しやがって」

 

 この世界は個人での実力差が激しい。俺みたいに指先で岩を破壊できる奴もいれば、前の世界の一般人程度の能力しかない者もいる。そのせいか、どこまでが無茶な要求なのかとても分かりにくいのだ。例えば俺はこの任務、転移術習得RTAを敢行し2日で終わらせたしな。徹夜で全力集中、ほんと辛かった。

 

 そう、仕事とは単に暴力を振るえば良いというものではないのだ。

 

「そんなわけでもう仕事なんてこりごりなんだよ。じゃあ酒飲みに行ってきまーす」

「やっぱり商談じゃないのね……。というかそのお金はどこから出てるのよ……」

 

 当然である。もう働きたくない、趣味は中抜き。それが今の俺である。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「しかしトールのおっさん、羨ましいよ。横から口出すだけで金貰えるなんてさ」

「だろ?」

「そこは否定しなよ……」

 

 そして今日も今日とて俺は昼間からギルドの酒場で寛いでいた。手元には分厚い本が3冊。最近購入した娯楽小説たちだ。隣にはいつも通りカリンちゃんがいて、本を覗き込んでくる。

 

「こういうの、高いと思ってたけどどうなの?」

「魔法を使用するためのスクロールや魔導書の技術が転用されてるからな。高いけど手を出せる程度の価格なのさ」

 

 因みにジャンルは冒険もの。対象層が限られた貴族だけのせいか、結構尖った作品が多くて楽しいんだよな。代償として万人受けするタイプの作品はなかなかお目にかかれないけど。

 

「で、実際トールのおっさんの仕事、なんでそんなに楽に稼げるの? この前もよくわからないおっさんと顔合わせるだけで数十万ゴールドとか貰ってたじゃん」

「ああ、あれは薬草採取の依頼でな。俺が貴族と冒険者の間に入って、紹介をしているんだ。貰ったゴールドから俺がピンハネし、残った分が冒険者に入るという仕組みだな」

「あれ、正直意味がわからないんだけど。体張ってる奴が全部金を貰うべきだとあたしは思うんだけど」

「ぐうの音もでない程の正論だな」

 

 全くもってその通りである。が、そんな綺麗ごとでは終わらないのが世の中である。

 

「まあ実際には色々役目があるんだよ。もしなかったら、俺のような人間が継続して金を稼げているわけがないだろ」

 

 そう話している時だった。ギルドの酒場の扉がばん、と開かれる。

 

「見つけたぞトール!」

「ドラム、やめてよ!」

 

 そう叫びながら入ってきたのは、赤髪の気の強そうな竜人の女ドラムと、平凡そうな魔術師の少女セラだった。

 

「おう、一昨日ぶりか。薬草採取の依頼はどうした」

 

 そう、彼らこそが俺が薬草採取の依頼を紹介した相手であり。

 

「お前、依頼主から20万ゴールド貰ったのに、アタシたちには10万ゴールドしか払わないってどういうことだ! ピンハネ率50%は流石におかしいだろ!」

 

 俺の収入源でもある。




◆トール
働きたくない系主人公。搾取するタイプではないが、取れる金は取る主義。元A級最上位の冒険者ではあるが、現在は降格しB級となっている。好きなものはソーセージとビール、白米。なお最後については周辺で栽培されておらずレアなため、時たま入手不可になるのが悩み。
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