横から口出しするだけの簡単なお仕事です   作:シリアルナンバー

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『紹介』するということ(3/3)

 豪奢、としか表現しようのない部屋に案内される。花瓶一つをとっても俺のいつも過ごしている部屋と大違いだ。そこに座っていたのは穏やかそうな壮年の男性であった。品の良い服を身にまとったその男性の名を、ピグルー男爵と言う。俺のお得意先の一人であり、聖人とすら呼ばれるほど優しい人物だ。

 

「これは、名誉騎士トール殿のお連れとは存しませんでした」

「いえいえ、通常こういった冒険者を男爵様の所に直接お呼びすることはあまりありませんので、当然でしょう。こちらドラムとセラ。C級冒険者です」

「「よ、よろしくお願いします……」」

 

 この国はいわゆる王政で成り立っており、王族とそれを支える貴族が権力を握っている。

 

 そして名誉騎士というのが、特定の偉業を成し遂げた平民に与えられる一代限りの貴族としての地位であった。  

 

「このクソダサ昼から酒飲みおっさん、一体何をしたんだ……?」

「ど、ドラムやめてよ。わ、賄賂だよきっと」

「お前ら聞こえてるぞー」

 

 俺の隣に座ってぼそぼそしゃべっている二人は明確に緊張していた。そもそも貴族ときちんとしゃべるなんて初めてだろうし、ましてや俺が貴族だったなんていうわけのわからない事態にもなっている。驚くのも当然だろう。

 

 ピグルー男爵は二人を見ても見咎めず、さて何をするのかと静観している。ご厚意に甘えてささっと色々確認していこう。

 

「さて、今日来ましたのは例の薬草依頼についての確認でして。セラ、この依頼の値段が高い理由について、予想をもう一回言ってみてくれ」

「え、ええと」

「別にいい。これも勉強だ」

 

 セラはおびえた様子だが、男爵も俺も穏やかな目で見ていることから怒られることはないと判断したらしい。恐る恐る口を開く。

 

「ええと、トールさんがお金を取り過ぎているか、それとも危険を隠しているのか」

「ぷっ」

「男爵、経験が無い以上はこういう回答にもなりますよ。じゃあ答え合わせといこう。今回の薬草はなんだ?」

「ば、バルスモルの茎300本……」

「生息域と効用は?」

「魔の森の内部で、効果は見つかりませんでした」

「そう、そこがカギなんだ。お前、男爵が薬草なんてそう必要になると思うか? 普通は市場に流通しているものを買えばいいだろ」

 

 そう、特にこの冒険者がたくさんいる町では傷を治す類の薬は山ほど常備してある。わざわざ原料を取りに行く意味なんて全くないのだ。つまり。

 

「これは奥方の美容目的のものでしたよね?」

「その通りです。あまり知られていないのですが、社交場で最近話題になったようでして。妻が騒ぐので仕方なく」

「あっ、だから冒険者用の古い薬草辞典に効果が記載されてなかったんだ」

「妻は美容オタク、みたいなものでして、肌に効く薬草に目がありません。ですのでトール殿を経由して定期的に魔の森の薬草採取を依頼しているのですよ」

 

 セラは頷き、「だ、だから男爵様がわざわざ依頼を出されたのですね」と納得した様子を見せるがすぐに固まる。そう、これは報酬がやたらと高い理由にはならない。

 

 つまりここで大事なのは、美容目的だということではなく貴族が依頼を出している、ということなのだ。

 

「お前、自分が依頼を出す側だとして嫌なことは何だ?」

「え、急に何ですか?」

「zzzzz……」

「いいから言ってみろ」

「か、価格が高い? あと失敗する?」

 

 セラが挙げたのは、あくまで一般的な冒険者が依頼を出すときの話である。だが、それは貴族と考えは違う。

 

「違う。答えは失敗すること、そして経理資料の作成だ」

「僕らはお金は多少ある。けれど、時間がないんだ。だから失敗して依頼を出しなおしたり、王国の横領がないかの監査への対策としての資料作成はとにかく嫌なんだ。あ、今回は妻が社交で使うから経費扱いだったりしてね」

「そ、そうなんですね……」

「まあこれは知らなくて当然だ。特に最近、金管理にやたらと厳しい奴が王になったからな。反発もあるし対応しきれていない貴族も多い」

 

 そういえば元パーティーメンバーが王に嫁いだと記憶しているが、あいつは元気なのだろうか。そろそろ子供もいてもおかしくないが、上手くやれているかはかなり不安である。

 

 と、それは置いておくとして。

 

「つまりこの資料作成や、依頼が失敗したときに他の冒険者に依頼しなおしたり最悪自分が行く、といった対応があるから俺の取り分が高くなっている、というわけなんだ」

「一回失敗してから依頼しなおすとなると時間も短いから無理させないといけないし、自然と依頼費や経費も上がる。書類作成の手間や紹介費も考えれば、ちょっと高めだけど妥当じゃないかな」

 

 つまりここである。貴族は金は出せるが絶対に失敗してほしくないし書類も書いて欲しい。それを普通の冒険者が約束するのは難しいからこそ、俺が入る意味がでてくるのだ。でなければ10万ゴールドを取る意味などない。セラは暗い表情になる。

 

「そうなんですね……じゃ、じゃあ私たちは言いがかりをつけてしまったことに」

「zzzzz」

「いや、そんなことはない。あとドラムは起きろ、男爵様は優しいから笑って許してくれるが普通なら追い出されて当然だぞ」

「ふがっ?」

「親戚の子供がこんな感じだったなって懐かしくなるし、部屋を汚さないならトールさんに免じて許すよ」

 

 ドラムが半分覚醒した横で、俺は身を乗り出す。そう、今回わざわざこんなことをしたのは他でもないセラに免じてのことだ。普通なら、適当に論破して終わり。だが今回はかなりレアなことが起きた。

 

「いや、あの弱気なセラがきちんと俺に食って掛かるなんて珍しいと思ってな」

「す、すみません無知なのにつっかかってしまって……」

「必要なことで、冒険者として大事なことだ」

「え……」

 

 セラに求めていることは謝罪なんかじゃない。というかこれ自体は本当に素晴らしいことなのだ。特に前の世界と異なり、法律の力が及びきらない部分がある。だから自分の権利を主張する、分からないなら聞くということは冒険者として必須の技術なのだ。

 

「昔俺もやってしまったことがある。依頼相手が上の立場だから、理不尽だがとりあえず従うか、って思考停止してしまった。結果として、俺のほうがストレスがたまり、ある日突然我慢の限界が来て依頼を受けなくなってしまった」

「zzzz」

「今思えば、早いうちに話をしておくべきだった。依頼主も譲歩できる余地があっただろうし、そんなことになる前に問題を解決できたはずだ。だから、いつも弱気なセラがきちんと俺に文句を言った、というのは素晴らしいことだと思っている。冗談じゃないぞ」

 

 セラの言うことも間違っていなかったしな。理由を知らなければ10万ゴールドも俺が持っていくのは明らかにおかしい。きちんと話をするべきときに、きちんと勇気をもって言いに来た。弱気なセラにとっては一世一代の冒険(本人の中では)のはずだ。なら、まあ多少は報酬を持って帰るべきだろう。

 

「というわけで男爵様に相談したいのは、今後しばらく依頼を受けて問題なければ、彼らと直接取引をしてはいかがか、ということです。魔の森の薬草関係の依頼は、定期的に出されているわけですし」

「えっ」

「いいのかい、君の取り分はなくなるけど」

 

 通常はこのようなことはありえない。だが俺がわざわざ提案するのには理由があった。

 

「特にこのドラムは竜人でブレスも吐ける、魔の森の魔物たちと相性が非常に良い。加えてセラの魔術もあれば、そうそう中層の採取任務程度では失敗しないでしょう。となると、私が間に入って保証する意味が一気に薄くなります。なら、直取引にするほうが皆様のためになります」

「ふむ。今後も妻の美容関係の薬草は頼むだろうし、ありがたいけど。でも書類はどうするんだい?」

「知力が高いですし、セラならできるでしょう。私が教えます」

「い、いいんですか!?」

「勿論多少金はとるぞ」

「ありがとうございます!!!」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「というわけでセラたちは高額依頼をもらえるお得意様を手に入れ、男爵は奥様のわがままに答えやすくなったというわけだ」

「いい話じゃんおっさん、で、裏は?」

「辛らつだな」

「だって私だけ入れてくれなかったしー」

 

 翌日。再び昼の酒場で俺とカリンはまったり話をしていた。カリンはちょっと不機嫌気味。貴族の屋敷に入ってみたかったのだろう。正直わかる。入れない場所って入りたくなるよな。体育館の非常用はしごの先とか。

 

 まあそれはさておきとして、当然裏はある。自分から金づるを失うような真似をするわけもない。

 

「くっくっく、直接依頼を受けてもいいといったがその前につけた条件を覚えているか?」

「あー何度か依頼を受けてから、というやつ?」

「そう、つまりはしばらくの間は中抜きし放題というわけだ!」

「直接依頼が受けられる、という餌があるからか……」

「さらに言えば、ドラムのやつは情報屋からこの依頼の話を聞いた、って言ってただろ。つまり男爵は安ければ他の奴に依頼するし、情報屋が掴めるくらいには競合が出始めてるってことだ。となれば、近いうちに価格競争が始まり利益が減る。なら男爵に良い印象を残したうえで撤退すべき、という判断だな」

 

 そもそも、この手の高額依頼は直接受けようとする不届きものも多く、競合も数多くなりがちだ。故に自然と俺への依頼が減る可能性も高い、というわけだ。

 

 だからこういう立ち回りでも利益は出る。何なら今回のことで信頼を得られれば競合に話を持っていく前に俺だけに依頼をくれる可能性も高まる。

 

 

「くくく、金が入ってくるぜ、働かずに入ってくる金最高! 金は何でもできる! というわけでサンダードラゴンの竜田揚げ一つ!」

「売り切れでーす」

「金はあるぞ!?」

「金があっても使えないね、トールのおっさん」

「ぐぬぬぬぬ……」




こんな感じでまったり進んでいきます。
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