横から口出しするだけの簡単なお仕事です 作:シリアルナンバー
「そう、僕こそが稀代の天才魔術師! ゴーシャ=マルウッド! C級冒険者の期待のホープさ!」
カリンに紹介されたのは、実に自意識過剰そうな人族の青年……ではなく女性だった。遠目から見ると男っぽいのだが、ローブを被っていているとそうとは気づけない。その原因は背の高さだった。俺と同じくらいの背丈のゴーシャと名乗る女を連れて、俺たちはギルド共有の修練所に来ていた。
冒険者は戦闘をする以上、当然訓練をしなければならない。しかし街中で剣を振り回していたら犯罪者そのものである。というわけで冒険者ギルド内にはやたらと広い修練所が設置されていた。周囲にはちらほらと暇そうな冒険者が模造刀を振って鍛錬をしている。
しかしそれにしても、とゴーシャという女性を改めてみる。その整った顔も勿論ではあるが、何より気になったのがその名前だった。
「家名があるのか、ということは貴族の出か」
一般的に、名誉騎士を除いて貴族は家名や苗字を持つ。逆に平民は名前のみだ。とはいっても、地域によっては文化が違うため様々なパターンがあるのだが、今回は典型的な例らしかった。ゴーシャは胸を張って語る。
「とはいっても妾腹さ。まあ才能は兄弟の中でも一番! だから追い出されてしまったということさ。でも僕は諦めない! 必ず最強の冒険者として返り咲いてみせるのさ!」
「うぜぇぇ……」
「トールのおっさん、仕事熱心なナルシストと仕事をしない自堕落なおっさん、どっちがマシだと思う?」
「おい今の俺あいつ以下なの!?」
「昼から酒飲んでるじゃん」
カリンの鋭い指摘にまったく反論できない。確かにこいつ、うざいだけでわざわざ俺に教えを請いに来る、適当にやっとこうみたいな意識の低さもない、と考えるとかなり頑張っているタイプの若手だ。
となると、ベテランとしては真面目に教えてやるしかないか。
「俺も名乗っておこう。トール、元A級冒険者だ。今は依頼の仲介業とこういった指南で食っている。よろしく」
「よろしく、トールさん!」
ゴーシャは屈託のない笑みを浮かべて俺の手を取り、ぶんぶんと握手する。貴族っぽい高貴さはないが、何となく人好きのする性格のようであった。
「騙されてるよゴーシャさん、絶対後で金を請求するに決まってるよこのおっさん」
「失礼な、請求先は『暁の鋼』だから安心しろ。あいつら絶対金をため込んでるからな、搾り取ってやるぜ」
「で、そのお金をあたしが搾り取るってわけ。今日はお酒50%upね」
「理不尽!」
「ふふ、仲良しだね」
まあそんな冗談はさておき、仕事は素早く終わらせるに限る。
「で、お前が『暁の鋼』の新入り魔術師というわけだな。確か、全然後任の魔術師が決まらないんだったか」
そう、今回の話は、『暁の鋼』の後任魔術師が下手である、という話であったはずだ。確かあのパーティーは全員がBランク冒険者。それもベテランであることを考えると、Cランクの魔術師が入るのは相当難易度が高いように思えた。
「話は広まっているんだね。そう、あのパーティーは既に「使えない」と言って魔術師4人をクビにしている。そして今、僕は5人目になろうとしている!」
「もうそこまで話が進んでるのか。どうした、実力差が激しくてついていけなかったのか?」
話を聞いていて真っ先に思いつくのはそれだった。C級となると実力不足の者も多い。ドラムやセラあたりはかなりの上澄みである。が、どうやら俺の予想は若干ずれていたようだった。
「それは全く違う。『暁の鋼』のドワーフの皆さんが滅茶苦茶言うせいでみんな逃げて行ったんだ! セオリーに反している!」
「……状況は見えてきたな、ちょっと試してみるかよし、俺が前衛を想定した動きをするから、魔術で援護をしてみてくれ。いつもみたいにな」
こういうのはグダグダ話すより、実際に見せてもらうほうが早い。特に戦闘は、自分の動きは自分で見れないからこそ、思い込みに陥りやすいからだ。ゴーシャは待ってましたと言わんばかりに背中の杖を構える。カリンは興味津々の様子で、少し下がってこちらをじっと見ている。まあこういうのはあまり見れないもんな。仕方がない。俺は早速今回の模擬戦の相手を召喚する。
「ふふん、勿論いいとも。僕の技術を見せてあげよう!」
「じゃあ『サモンスピリッツ:ビースト』、と」
「精霊魔術をこんなに簡単に!?」
「お、流石魔術師。難易度の高さが分かるのか」
大気にあるマナを精霊として定義し、疑似生命体として扱う魔術、それが精霊魔術だ。難易度が高い分できた精霊の性能は高く、例えば疑似的な肉体の構築を行うこともできる。代表的なのが鳥を作成し、視界を共有して遠くまで観察する、などだ。セラの評価が高いのもこのあたりが一因である。
そして今回作成したのは、狼のような体をした無属性精霊だ。実体を持たせ、あたかもモンスターかのように振舞うように設定している。組み上げた術式は精霊を駆動させ、ぐるると本物の狼かの如く唸り声まで上げていた。
「いいからテストするぞ、動け」
さっと俺は模造刀を手に取り、狼に向ける。飛び掛かってきた狼の爪をいなし、腹の部分を蹴って軽く距離を取る。あくまで攻撃はしない。
冒険者の典型的な戦い方として、前衛が足止めし後衛がとどめをさすというものがある。ここで言う足止めとは文字通りの意味だ。倒す、足を切り飛ばす。そうやって動きが鈍った所で後衛がとどめを刺す。この方法であれば誤射もなく効率的に敵を倒すことができる。
教本通りの動きを続ける。狼の行く手を阻み、足を模造刀で払う。その間にゴーシャはぶつぶつと呟きながら素早く円を描くように狼から20mほど離れた位置をキープする。そして狼の動きが止まり、誤射の可能性が無い角度まで移動してからゴーシャは叫んだ。
「術式解放、アイススピア!」
ゴーシャの手に魔法陣が生まれ、氷の槍が生成され勢いよく射出される。狼の脇腹に突き刺さった氷のダメージを受け、形を維持できなくなった無属性精霊は霧散した。
魔術師としては十分合格点の火力だった。速度も威力も申し分ない。教本通り落ち着いて行動出来ているし、B級冒険者に混じっても十分活躍できるレベルだろう。
「持続詠唱も問題なし、距離の取り方も火力も問題なし。C級にしては言うだけのことがある。期待のホープは嘘じゃないな」
「だろう!」
「だから気になる。何故俺に依頼した? この腕ならまともなパーティーで十分活躍できるはずだが」
俺がそう聞くと、ゴーシャの顔が曇る。それを見てカリンは場の空気を和らげようとしたのか俺の頬をつついてくる。
「トールのおっさんが若い女の子を虐めてるー変態迷惑親父だー」
「棒読みで何てこと言ってやがる。それに俺が虐めているのは若い冒険者どもだ。主に金銭的にな」
「でたね、ツンデレおっさん」
「ぶちのめすぞお前!?」
失礼な、長期的に搾り取ることを考えると雑にやることはできねえんだよ。一時だけ金取っておしまいの焼き畑農業だと同業者に取られるからな。
そんなことを話していると、ゴーシャがぽつりと語り出す。こいつの性格だから俺たちのかけあいをからかってくると思ったのだがそうでもないらしい。それができないくらいに思い悩んでいる、ということでもあった。
「……何故か何度も誤射してしまうんだ。きちんと角度もつけて、準備して魔術を撃つのに、前衛の人たちが射線に入ってしまう。それで怪我をさせてしまって、この前の依頼も失敗してしまった」
「おお、わりと本気の悩みだな」
「C級期待のホープともあろうものが……!」
「ほんとに本気だとは思えないんだけど」
カリンはそうぼやくが、ゴーシャの態度には割と強がりが見える。しかし誤射か。これだけきちんと射角も調整しているし、魔術の腕も十分。となれば原因はゴーシャの腕ではない可能性が高い。
そう思っていた時に、修練所に二人の男が入ってくる。一人はドワーフの中年の男だ。彼はゴーシャと俺を見て驚いたような様子をする。ゴーシャはドワーフの男を見て、勢いよく頭を下げた。
「ダンボさん、この前の誤射はすみませんでした!」
そう、この男こそが『暁の鋼』のリーダーであるドワーフのダンボ。身の丈ほどの斧を軽々と扱う重戦士だ。ダンボは穏やかな笑みで頭を下げるゴーシャを宥める。
「いいさゴーシャちゃん。お試し期間としてのパーティーだ、そういうこともある分かっている。それで、どうしてトール殿を?」
「魔術の指南をしろと言われてな。俺なら十分だろ」
「十分すぎます、あのトール殿に指導いただけるなら問題の解決の糸口が見えます。しかしどうするか……」
ダンボはあごひげをさする。すると、ダンボの後ろに居た細身の女がすっと前に出てきた。眼鏡をかけたつり目の美人で、スーツに近い商人の正装をしているが何故か露出が多い。長い赤髪を軽く押さえながら、俺に慇懃無礼に挨拶をする。彼女から放たれるあまりにも押しつけがましい言葉に、俺たちは眉を顰めるのであった。
「初めまして、冒険者殿。私はアリベラ、『赤蜘蛛商会』の一員です。今回は『暁の鋼』を立て直すべく派遣されてきました。早速ですが、『暁の鋼』健全化のためにそこのゴーシャ殿をクビにしましょう。いいですね、ダンボさん」
「「「え?」」」