まどマギとDMCのクロスオーバーssです。

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坊やの出番はありません。



誤字報告ありがとうございます。助かります。


Devil Magica Cry

 何処かも分からない廃墟を、訳も分からず進んでいく。ただひたすら、上へ向かって階段を上る。上りきった先のドアを開けると、屋上に出た。そこからは私の街が見える。空は荒れ、ビルが飛び、綺麗な街並みは見る影もないくらいに壊されていた。

 その街を一人の女の子が駆け抜ける。その女の子が向かう先には、大きな化け物。逆さ吊りで、スカートの中に歯車。顔の半分、鼻から頭にかけてが存在しない化け物。不気味な笑みを浮かべ、気味の悪い声を出しながら少女へ攻撃を放った。

 女の子はその攻撃を避けきれず、左手の盾で受けるも吹き飛ばされてしまう。

 

 諦めたらそこまでだ。

 

 でも、君なら運命を変えられる。

 

 だから僕と契約して魔法少女になってよ! 

 

 いつの間にか足元に居た白い生物に迫られた時、空から二つの光が降り注ぐ。赤と青の、力強い光。その光に包まれたところで、目が覚めた。

 

 そんな夢を見たのがこの前。その夢を見てからは非日常が続いている。

 転校生が来たと思ったらその女の子、暁美ほむらちゃんが夢の中で会った女の子だったり、さやかちゃんと買い物に寄ったショッピングモールで白い生物、キュゥべえを助けたり、ほむらちゃんと出くわしたり、魔女という化け物の結界に閉じ込められて、その魔女の使い魔というものに襲われたり、危ないところを魔法少女で先輩の巴マミさんに助けて貰ったり。

 マミさんから魔法少女や魔女の事、キュゥべえの事、私とさやかちゃんにも魔法少女になる素質がある事を教えて貰って、魔法少女の使命と魔女と戦うことについて知るためにマミさんの魔女退治に着いて行って。

 魔女と戦うのはまだちょっと怖いけど、それでも魔法少女になる決心をして、マミさんと一緒に戦う約束をしたのがついさっき。

 今はさやかちゃんとキュゥべえを助けるために魔女の結界を駆け抜けている最中。

 通路の先のドアを開けると、ドーナツの影に隠れるさやかちゃんを見つけることができた。

 

「おまたせ!」

「あぁ、間に合ったぁ……」

「気を付けて、出てくるよ!」

 

 キュゥべえの一声を合図に結界が揺らぎ、紙を破って小さな魔女が産まれた。その魔女が足の長い椅子にヒラヒラと落ち、座るのと同時にマミさんも飛び出し、椅子の足をかっこいい銃で叩き折って魔女を落としました。

 

「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせて──もらうわよ!」

 

 落ちてきた魔女を野球のボールのように打ち、壁に当たった所を銃で追撃して、落ちてきた所をマミさんのリボンで拘束してみせました。

 

「やったぁ!」

 

 これにはさやかちゃんを私も大喜びでした。憧れの先輩が、今日もかっこよく魔女を倒してしまったのですから。

 マミさんは魔女を倒すために、持っている銃に魔法をかけ、大きな大砲にして構えました。前にも見たマミさんの必殺技です。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 強力な攻撃が魔女の小さな体を貫き、更にリボンで拘束したところで、異変が起きました。

 魔女の口から、更に魔女が出てきたのです。

 それは目にも留まらぬ速さでマミさんに近付き、マミさんを、食べようと──

 

「Ha-ha! おい見ろよ! 一面スイーツだらけだ、ストロベリーサンデーは無いのか!?」

 

 ピンチのマミさんから目を離せなかった私は、見てしまいました。

 魔女の上に十字形の亀裂が入り、そこから広がった穴から飛び出てきたバイクを。夢で見たような、赤い輝きを。

 


 

 異なる世界、魔界にて。もう何十日、何ヶ月と戦争、いや、兄弟喧嘩をしている男が二人が居た。大剣を巧みに振り回す男と、神速の刀を扱う男。

 何合か打ち合ったのち、大剣の男は刀の突きを防ぎ切れず、後方へ吹き飛ばされ、転けてしまった。

 

「おおっとバージル選手、一点リード」

「算数からやり直せと言っているだろう、これで同点だ」

「真面目かよ」

 

 大剣の男──ダンテは自らの名を付けた大剣を消し、寝転ぶ。

 それを見た刀の男──バージルも刀を鞘に納め、座った。

 

 バージルが発端となったクリフォトの樹によって、レッドグレイブ市から異界化が広がってしまった。それを止めるためにダンテとバージルはクリフォトの樹の根がある魔界へ飛び込み、その根を伐採。

 その後は決着をつけるため、延々と兄弟喧嘩を続けていた。

 

「あー、腹減った」

「食えるものならばそこら中に落ちているだろう」

 

 辺りを指すバージル。そこには兄弟喧嘩の余波で肉塊となった数多の悪魔。

 流石にこれを食べる気にはなれなかった。

 

「俺が食いたいのはそんな不味いモンじゃなくて、美味いピザとストロベリーサンデーなんだよ」

「そんなものここには無い」

「だよなぁ」

 

 しばし項垂れると、妙案。バージルと閻魔刀の力を使って空間を割けば魔界から戻れるのでは、と。

 バージルが開いてくれるとは思えないが、頼むだけ頼んでみることにしたダンテ。案の定断られるが、食い下がりに食い下がり、ネロのことやらVのことやらユリゼンのことやら何もかもを引き合いに出し、頷かせることに成功した。

 

「言っておくが、レッドグレイブに──そも人間界に出るとは限らんぞ」

「ま、やるだけやってみて、出たとこ勝負だ」

 

 そういうとダンテは、最近手に入れたバイク型重量級魔具のキャバリエーレに跨った。

 

「何をしている」

「やっぱ登場ってのは派手じゃないとな」

 

 エンジンを吹かし、空間が裂かれるのを待つ。

 バージルは溜息を一つ吐くと共に抜刀し、空間を十字に切りつけ、次元を裂いた。

 閻魔刀を鞘に納め、ダンテの後ろに跨り、腕を組む。

 

「お、乗り気じゃねえか」

「くだらん、さっさと行け」

 

 ダンテは返事の代わりと言わんばかりにアクセルを全開、空間の裂け目へと飛び込んだ。

 

 抜けた先はレッドグレイブ市でも、魔界ですらない、お菓子の国だった。

 甘ったるい匂いに、ダンテは思わず叫んでしまう。

 

「Ha-ha! おい見ろよ! 一面スイーツだらけだ、ストロベリーサンデーは無いのか!?」

 

 眼下に広がるのは一面のデザートに、パティよりも小さなお嬢ちゃん達(Ladies)。そしてそんなお嬢ちゃん達を喰らおうとする悪魔っぽいやつ。

 

「デザート前のメインディッシュってか?」

 

 キャバリエーレから飛び降りると、エアトリックで悪魔っぽいものの頭上まで接近し、出現させた魔剣ダンテで斬り伏せる。怯んだところを更に踏みつけ、真上からエボニー&アイボリーを乱射、銃弾の嵐(レインストーム)を撃ち込む。

 呆然とする金髪の少女の横へ着地すると、レディから借りパクしたカリーナ・アンとニコから貰ったカリーナ・アンIIを同時に構え、ミサイルを一斉射した。

 

「コイツはおまけだ!」

 

 更にその二丁を連結させ、レーザーを放つ。モロに食らったそれは身体中から煙を出しながら白目を向いていたが、大きく口を開けると、その中から新しい身体が生まれてきた。

 

「どうなってんだ?」

 

 今度は魔剣を逆手に持ち、連続で赤い衝撃波(オーバードライブ)を撃ち込むが、また同じように大きく開けた口から新しい身体が出てきてダメージが無かったことになってしまう。

 どう攻撃するか悩んでいると、やたら足の長い椅子に足を組んで座っていたバージルが降りてきた。

 

「新たに生えてくるならば、全て斬り伏せればいいだけのこと」

「あ? おいバカ野郎!」

 

 我関せずだったバージルが口を挟むと同時に抜刀。悪魔っぽいものをダンテや少女達ごとまとめて斬り裂こうと閻魔刀を振るう。

 ダンテは金髪の少女を持ち上げ、少し離れた場所にいる少女達の元へグラウンドトリックで移動、迫り来る斬撃を全てロイヤルブロックで防ぎきって見せた。

 バージルが納刀すると同時に、次元と共に斬り裂かれた悪魔っぽいものの身体は細切れになった。黒い種が柔らかい地面ふわりと落ちる。

 

「おいバージル、危ねぇだろうが!」

「貴様がこの程度で死ぬわけがないだろう」

「俺もだが、こっちの嬢ちゃん達が死ぬだろうが!」

「知らん」

「この野郎……」

 

 またこの場で喧嘩勃発かと思われたが、お菓子の空間が歪み、景色が変わる。お菓子の国は結界で隔たれ、異界化した空間だったようで、結界が壊れた事で元の街並みへと戻り、喧嘩の続きはお預けとなった。

 デザートを食べ損ねたダンテは落ち込んだ。

 

「あ、あの」

「ん?」

 

 今まで呆然としていた金髪の少女が話しかけてきた。たどたどしい英語で助けてくれたことへのお礼を言っている。日本人のようで、恐らく英語はそんなに話せないのだろう。

 

「あー、言葉わかるから別にいいぞ」

「え、あ、はい……その、助けて頂いて、ありがとうございます……あのままだったら私……」

「どーいたしまして。反省してんならあんな危ないヤツには二度と近づくなよお嬢ちゃん(Lady)

 

 言いたい事だけ言って、立ち去ろうとするダンテ。結局デザートを食べる事はできなかった。

 しかし金髪の少女は引き止める。

 

「あの、何かお礼を……」

「私達からも、ありがとうございました!」

「めっちゃカッコよかったっす! バイクとか剣とかミサイルとか、そっちの刀の人も!」

 

 のべつまくなしに喋り倒すところはパティに似てると内心苦笑いのダンテ。これ以上青いのにウザ絡みされる前に先手を打つことにした。

 

「わかったわかった、じゃあその辺の店でストロベリーサンデーを一つ、それでいい」

 

 少女達に囲まれるダンテを少し離れたところから眺めるバージル。くだらんと言わんばかりに首を振っている。

 

「バージル、お前はどうする」

「くだらん。貴様一人で行け」

 

 それだけ言い残してバージルは去っていく。

 

「だとよ、つれねぇな」

「とか言って、こんな美少女三人も連れて舞い上がっちゃったりしてるんじゃないです?」

 

 ヒラヒラとダンテの周りを回るさやかに対し、ダンテは挑発的な笑みを浮かべながらこう答えた。

 

「ガキには興味無えよ、それぞれ十年経ったら出直してきな。その時は相手してやる」

 


 

「魔法少女に、キュゥべえねぇ……」

 

 まどか達が良く利用するというファミリーレストランへ移動し、マミは自己紹介も兼ねて魔法少女や魔女についてダンテに事細かに説明していく。

 

 曰く、キュゥべえとかいう面白生物が魔法少女の才能のあるいたいけな少女を勧誘し、なんでも願いを叶えるという悪魔の囁きとも取れる取り引きを持って、その少女を魔法少女に変身させ、魔女という悪魔もどきと、その生涯をかけて戦うことを強制されることになるらしい。

 ストロベリーサンデーとちゃっかりピザを注文を注文し、久しぶりにピザを食べれて満悦気味のダンテはそう解釈した。

 

「そのキュゥべえってのは悪魔か何かか?」

「え? そんな訳ないじゃないですか。あれで結構可愛らしい姿なんですよ」

「そうっすよダンテさん、悪魔っていうともっとこう……化け物っぽい感じっていうか、それこそ魔女とか」

 

 軽くマミ達に聞いてみるが、当人はそんな風には思っていないらしい。

 Ha-ha、とダンテは笑うと運ばれてきた追加のストロベリーサンデーを食べる。

 

「だがよ、『お前の望みを叶えてやろう。その代わりお前の体を俺に寄越せ』なんてのは昔から悪魔の常套句だぜ」

「あ……」

 

 談笑していた少女達は沈黙。疑問、困惑と言った感情が少女達を駆け巡る。

 

「ま、冗談だ」

「も、も〜ダンテさんてば、冗談キツいんだから!」

 

 おちゃらけたようにさやかが呟くが、ショックからは抜け出せていないようだった。

 マミも笑顔を作って話題を変える。

 

「え、えっと次はダンテさんについて聞いてもいいですか?」

「なんでも答えてやるぜ、嬢ちゃん。c'mon!」

 

 ストロベリーサンデーを食べ終えたダンテは、器をテーブルの端に寄せ少女達の質問へ答えていく。

 真っ先に挙手をしたのはさやかだった。

 

「じゃあじゃあ、何してる人なんですか?」

「なんでも屋だ」

「なんでも屋ってなにやるんですか?」

「気分次第だな」

「それって儲かるんすか?」

「仕事の度に請求書が増えてくな」

「も、もう美樹さん!」

 

 この話をこれ以上続けるとダンテを見る目が変わってしまいそうなマミはさやかを止めた。まどかも苦笑いしている。

 次に質問したのはまどかだった。

 

「あの、さっきいなくなっちゃった人は?」

「バージルっつってな、まぁ兄貴だ」

「やっぱり? 髪型は違うけど顔はそっくりだったもんなー」

「もうさやかちゃん、失礼だよ?」

 

 うんうんと、バージルの顔を思い出すように呟くさやか。ちょっと眉間のシワが多かったかな、などと言っている。

 

「では次なんですけど、どうやって魔女の結界に入ってきたんですか?」

 

 自身の衰弱や、魔法少女などについての話で有耶無耶になりかけていた事をダンテに聞いてみる。

 

「そういうのに巻き込まれやすい体質なんでな」

「それだけで魔女の結界に迷い込むなんて……それにあの武器や動きだって一般人のものとはとても……」

「なんでも屋やってると、面白いおもちゃ見つける事も敵も増えるんだよ。もういいか?」

 

 結局マミが真に聞きたかった部分ははぐらかされてしまった。

 日もとっくに暮れ、遅い時間となってきた。今日はお開きという事で辺りも暗くなってきたので、さやかとまどかは足早に家へと帰って行った。

 

「お前はいいのか?」

「魔法少女ですし、家に帰っても待ってる人は居ませんから……」

「そうか」

「ダンテさんは帰らないんですか?」

「ドライブ中に居なくなっちまった迷子のお兄ちゃんを探さねえとな」

「ふふ、そうですか……ではここでお別れですね」

「おう。またな」

「はい、また」

 

 ひらひらと手を振りながら人混みに消えていく赤い影を見送ってから、マミも帰路へ着く。

 

 そして、その影を追いかける者が一人。

 マミやまどか達と同じ見滝原中学の制服を着た黒髪の少女が、ダンテの後を尾けている。

 ダンテが人気の無い路地に入ったのを見計らって距離を詰めるが、見失ってしまった。辺りを注視しながら一本道のその路地を進んで行くと、その先は行き止まりとなっていた。完全に見失ってしまったことに溜息を吐いた瞬間、ハッとする。ここまで()()()()()()()()()()だったのに、見失うというのはおかしい。身構えた瞬間に、すぐ後ろから声をかけられた。

 

「パパラッチにしちゃあ、また随分と可愛らしいお嬢ちゃんじゃねえか」

「くっ!」

 

 少女が振り返り、行動するよりも速く、ダンテは彼女の頭に手を置いた。

 

「おいおい、何も取って食おうって訳じゃねえよ。その服、マミ達と同じとこの学生だな? 俺を尾けてきたって事は魔法少女か?」

「……えぇ、そうよ。事情があって貴方達が何をしたのかは分からないけれど、お菓子の魔女の結界から巴マミが生きて出てこれたのは貴方達のおかげね?」

「まぁ成り行きだがな」

「その事に関してだけはお礼をさせてもらうわ」

 

 逃げる事は無いと判断し、ダンテは少女の頭から手を離した。

 少女は少し大袈裟に振り返り、その長い黒髪をかきあげる。

 

「初めは離れたもう一人の方と接触しようと思ったのだけれど、何処を探しても見つからないから、貴方を待つことにしたの」

「それはそれは、光栄だな。で、要件は?」

「この件にはもう関わらないで。速やかにこの街を出ていきなさい」

 

 そういうと同時にに少女の格好が魔法少女のものへと変わる。

 白と黒を基調とした服に、左腕に小盾。その盾の内側から拳銃を取り出し、銃口をダンテに向けた。

 

「へえ、断るとどうなる?」

「撃つわ」

 

 片手で持っていた拳銃を両手で構え直し、ダンテの眉間に狙いを定める。

 

「おお、怖い怖い」

「どうするの?」

 

 両手を挙げながら、ダンテは自信に満ちた顔で目の前の少女の命令を蹴った。

 

「悪いが、受け取っちまった依頼料は返金不可(食っちまったん)でね。暫くはこの街に留まらせて貰うつもりだ」

「そう、残念ね」

 

 左手の盾の仕掛けが起動し、彼女以外の全ての時間が停止した。

 これが彼女の固有魔法による副産物、時間停止である。

 彼女と彼女が触れているもの以外は、この止まった世界を動くことも認識することさえできない──

 

「貴方達はイレギュラー……本来この街には存在しないはずの人間。貴方達が動くだけでこの先何が起こるか分からなくなる。残念だけど、あと一ヶ月は動けないようにさせてもらうわ」

 

 ──はずだった。

 

「ほォ、珍しいな。馬でも連れてんのか?」

「な──」

 

 想定外の出来事に反射で引き金を引いてしまったが、ダンテは手元に出した魔剣を切り上げ(ハイタイム)、弾丸を弾いた。

 

「ヒュー、おもちゃじゃないってか」

 

 今まで手ぶらだった男が何処からか禍々しい大剣を現出させ、その剣で弾丸を弾いて見せた。その上、この止まった時の世界で自由に動いてくる。

 この男、普通じゃない。そう判断し、時を止めたまま足に魔力を込めて周りの建物を駆け登る。

 

「おいおい、今度は鬼ごっこか?」

 

 魔剣はもう既に戻し、代わりに大型の拳銃を二丁、エボニー&アイボリーを手に建物の壁を駆け登っていく。

 

 建物から建物へ飛び移りながら逃げる少女と、それを追いかけるダンテ。少女がダンテに向けて発砲するが、ダンテはその尽くを撃ち落とす。

 少女がサブマシンガンを撃てば、エボニー&アイボリーの速射で一つ残らず弾丸を撃ち落とした。

 

「Ha-ha! 楽しくなってきたな!」

「この……!」

 

 この男、絶好調の巴さんよりもずっと強い……! 

 

 ただでさえ自分と相性が悪いのに、理由は不明だが時間停止も通用しない。

 逃げていた足はもう止まってしまった。この足とは対照的に、止まっていた時間は再び動きだす。

 

「鬼ごっこはもうおしまいか?」

「えぇ。元々、私の魔法少女としての格は低い。願いによって象られたこの魔法がなければ、そこらの魔女にも勝てない。そんな私が、この魔法による状況有利のない状態で貴方から逃げることは絶対にできない」

「そうか? やって見なきゃわかんねえだろ」

「わかるわ。でも、私はここで死ぬ訳にはいかない……あの子のためにも……お願い、だから」

「おいちょっと待て、なんかおかしな方向に話が進んでねェか?」

 

 涙ぐみながら命乞いにも聞こえる台詞を言う少女と、エボニー&アイボリーをホルスターに仕舞いながら冷や汗をかくダンテ。

 まるで自分が殺人鬼か悪魔のような物言いでは無いか、とダンテは思った。確かに半分は悪魔だが。

 

「だから、私にできる事ならなんでもする。だから命だけは──!」

「全く話を聞けっての、別に殺さねえよ」

「じゃあ、なんで追いかけて……」

「逃げたから追っかけただけだ。それに、依頼人に関係なけりゃあ別に首突っ込まなかったんだがな」

「依頼人……? 巴さんの事?」

 

 目を擦り、涙を拭く少女に、ダンテは今回の依頼人達の事情を話す。

 

 今回の依頼人は三人。巴マミと美樹さやか、そして鹿目まどかである。

 

 巴マミからは

(魔法少女)の話を聞き、貴方(ダンテ)について話すこと』

 

 ストロベリーサンデー一つで請け負った。

 

 美樹さやかからは

『マミさんと協力して魔女退治をして欲しい』と。

 

 ピザ一枚で請け負った。

 

そして鹿目まどかからは。

 

「友達のホムラチャンってのが俺の所へ来るかもしれないから、その時は話を聞いてあげて欲しいってよ」

 

 追加のストロベリーサンデー一つで請け負った。三人は依頼料を割り勘し、会計はマミが行った。

 

 それを聞いた少女──ほむらは泣き崩れた。

 

「まどか……まどかぁ……」

 

 その想いは彼女だけの秘められた物。その内を暴くような真似はしない。

 

「つまり嬢ちゃんは俺の客の依頼な訳だ。Welcome to Devil May Cry.(ようこそ Devil May Cryへ)話なら聞くぜ」

 

 


 

 見滝原市の隣に位置する風見野市。

 その街を縄張りとしている魔法少女、佐倉杏子はとても不機嫌そうに夜の街を散策していた。

 以前放した魔女の使い魔がそろそろ魔女へ成長するはずだったので、それを狩ってグリーフシードをいただこうと思っていたら、知らない奴に先を越された。

 しかも魔法少女ですらない、外国人の男だった。

 現場に着いたときには既に魔女は狩られ、その男がグリーフシードを拾ったところだった。

 獲物を横取りされてしまったことを理解した杏子は、ならばコイツからグリーフシードを奪ってやろうと魔法少女へ変身し、武器である槍を手にその男に襲い掛かった。

 

 だが、戦いどころか、男の持つ刀を鞘から抜かせることすらできずあしらわれた。

 そのうえ、自分には不要とグリーフシードを投げ渡された。しかも二つ。

 お情けで見逃して貰った上に施しまで受けるということは、魔法少女になってもう長いベテランの杏子にとってはこれ以上ない屈辱だった。

 

「あの男、一体何者なのさ……」

 

 もう暫く探しているというのに一向に見つからない。季節外れの黒コートに銀髪のオールバック、そのうえ刀を持ち歩いているという特徴しかない男だというのに、何処を探しても見つからない。

 キュゥべえから情報を貰おうにも、肝心のキュゥべえも見つからない。

 

「はぁ……こりゃ今日は諦めるしかないかね」

 

 今日の寝床を探そうかと辺りのホテルに目を付けたところで、魔女の気配を察知した。

 

「丁度いい、ストレスも溜まってたところだしね。ちょいとボコして発散しよっか」

 

 杏子はソウルジェムを取り出し、魔力を辿って魔女の元へ向かう。

 

「ここだね」

 

 魔女の結界へ手をかざし、内部へ侵入する。

 目当ての魔女は入ってすぐのところに居た。使い魔から魔女になったばかりだったのだろう。

 

「ラッキー、早速ぶちのめさせてもらうよ!」

 

 杏子は素早く魔法少女に変身し、槍を構え魔女へ突撃する。

 まず一太刀入れようとしたところで、魔女を無数の()()が、目に見える形で魔女を、空気、否、空間、違う。次元ごと斬り裂いた。

 魔女はあっという間に切り刻まれ、塵となりグリーフシードだけが残った。

 それを地面に落ちる前に掴み取り、またも自分の獲物を横取りした人物を睨む。

 

「またアンタか。アタシの獲物を横取りばっかして、何がしたいんだい?」

 

 結界が崩れ、元の街並みに戻る。少し高いビルの上、自分を見下ろす男が居る。銀髪のオールバックに、季節外れの黒コート。そして既に鞘に収まっている刀。ずっと探していた男だ。

 

「俺の行く先に貴様が居るだけだろう」

 

 男は杏子を挑発するかのように顎を撫でながら杏子の問いに答えた。

 その行為が杏子の癇に障り、溜まっていた怒りも爆発してしまった。

 

「……そうかい、さっきは不覚をとったが、今度という今度は本気で行くよ!」

「フン……」

 

 杏子は再び槍を構え、突撃。素早い連撃を浴びせるも、やはり刀を鞘から抜かせることできず、そのまま全て捌かれてしまった。

 

「チッ……なら、これならどうだ!」

 

 ならばと槍を多節棍へと変形させ、縦横無尽に攻撃を仕掛ける。

 しかし、今度は鞘で受けさせる所か、身のこなしだけで躱されてしまった。

 まるで挑発するかの様に動かれ、頭に血が昇ってしまった杏子は早り、多節棍による攻撃がズレてしまった。

 男にその隙を突かれ、高速で後ろに周り込まれた挙句、鞘の一突きを後頭部に食らってしまった。

 不意の一撃により体のバランスが崩れ、杏子は前のめりに転けてしまう。

 

「痛っ」

「この程度か」

 

 この場を立ち去ろうとする男を、杏子は倒れたまま結界を張り巡らせ足止めする。

 

「……アンタ、なんでそんなに強いんだ?」

 

 上半身だけ起き上がり、男の顔を見据えて、その強さの理由を問いかける。

 杏子は強くなったつもりだった。家族を失い、マミと離別してからはただひたすらに魔法少女としての力を研いた。

 その甲斐あって、自分一人で魔女を狩り、その日を生きて行くだけの力を得た。なのに。

 

「力が無くては、己の護りたい物も護れん」

 

 力。

 アタシにもっと力があれば、親父も、母さんも、モモも、死ななかったのか? マミさんとも、喧嘩別れすることもなかったのか? アタシが、弱かったから……。

 

「なあ……アンタに着いていけば、アタシ、強くなれるのかな」

「……勝手にしろ」

 

 杏子は起き上がり、魔法少女の姿から元の格好へ戻ると、男の後ろを着いていく。

 

「アタシ、佐倉杏子。なあ、アンタの事、なんて呼べばいい?」

「好きに呼べ」

「じゃあ考えとく」

 


 

 バージルはダンテと別れてから、周囲を観察しながら街を移動していた。

 この付近の街は何処もかしこも、悪魔とも違う何かが蔓延っている。

 歩き回っている内に日が暮れ、夜が来ると、その気配が増大した。興味本位でその気配の元へ向かうと、たまに悪魔が張る侵入は出来れど脱出は困難なタイプの結界を見つけた。その中へ入ると、有象無象の雑魚が束になって向かってきた。

 その場から動くことも無く、幻影剣で全て処理。

 溜息を吐きながら閻魔刀を抜刀し、この結界を張った使い魔の主を挑発する。

 

使い魔(貴様ら)では相手にならん。時間の無駄だ」

 

 閻魔刀を軽く振り、再び納刀。

 すると結界内部の空間が歪み、主であろう巨大な生物が姿を現す。

 

砕け散れ(Ashes to Ashes)!」

 

 閻魔刀を居合の様に構え、抜刀。目にも止まらぬ速さで数回、結界の主ごと次元を斬り裂く。

 結果として、バージルはその場から動くことなく結界の主を討伐。

 その戦利品なのか、消えていく結界の主の残骸から、黒く小さな装飾品が出てきた。

 結界が消え、元の街並みに戻るのとほぼ同時に、少女に声をかけられた。

 

「ちょっと、人が育てた獲物を横取りなんて、いい度胸じゃない?」

 

 そのおかしな格好からして、先程ダンテが助けた女と同じ類の者だろう。

 そして、この異形のものを獲物と言う辺り、デビルハンターの様なものかもしれない。

 

「人のナワバリ荒らす不届き者は、懲らしめないと、ね!」

 

 槍の突きを鞘に納めたままの閻魔刀で弾き、次の袈裟斬り、逆袈裟もいなす。

 

「魔法少女でもないくせに魔女を狩って、なんのつもりだい!?」

 

 槍を地面に突き刺し、それを支えにして踏み込み、蹴りを繰り出してくる。

 その蹴りをトリックドッジを用いて躱し、閻魔刀を変わらず鞘に納めたまま突きを繰り出し、小娘の虚を衝く。

 思わぬ攻撃を食らった小娘は怯み、バージルから距離を取った。

 

「獲物といったが、貴様の狙いはコイツか?」

 

 懐から先程拾った黒い装飾品を取り出すと、目の前の女は目の色を変えた。

 特に不要なのでこれと、ついでに甘味の結界の主──魔女と言ったか、其奴を斬った時に出た同じものを小娘に投げ渡す。

 

「おい、どういうつもりだ?」

 

 小娘の語尾に力が籠る。施しを受けるのは嫌いなタイプの様だ。

 

「俺には不要な物だ」

 

 そう言い残し、エアトリックを用いてこの場を去る。

 この地に蔓延る魔物は魔女と呼ばれ、小娘たちがそれを相手取っている、という事がわかった。

 力の性質は悪魔に似ているが、少し異なるもの、ということもわかった。

 新たな力の次元への手掛かりになるかと思ったが、大本の主があの程度ではたかが知れている。

 まだ無尽蔵に湧く悪魔共を狩っていた(ブラッディパレスの)方がマシというものだ。

 さっさとダンテを連れて戻るか、と考えていると、先程の小娘が街中を走り回っているのが見えた。

 何をしているのかは知らないし興味もない。

 なぜ、こんなことをしているのか。理屈では説明できない。

 強いて言うなら勘というものだろう。

 魔女の結界へ足踏み入れると、目の前で戦闘を始めようとしている魔法少女と魔女が居た。

 トリックアップを用いて高いところへ移動し、閻魔刀を抜刀。連続して次元ごと魔女を斬り刻み(ジャスト次元斬)、邪魔な魔女を始末する。

 自分の介入に気付いた小娘はこちらを睨む。

 

「またアンタか。アタシの獲物を横取りばっかして、何がしたいんだい?」

「俺の行く先に貴様が居るだけだろう」

 

 バージルは適当に、かつ挑発的に答えた。

 挑発を受け、小娘の表情がさらに強ばる。

 

「……そうかい、さっきは不覚をとったが、今度という今度は本気で行くよ!」

「フン……」

 

 再び向かってくる小娘を、前と同じようにあしらう。

 勘が外れたか、と今度こそ去ろうとした時、行く手を結界に阻まれた。

 そこで倒れている小娘が魔力で作り出したものだ。

 邪魔くさい、と閻魔刀を抜こうとした所で小娘に問いかけられた。

 

 何故そんなに強いのか、と。

 

 少女の顔を見る。その顔には見覚えがあった。

 大切な人を失い、それを自分の力不足のせいだと思い込んでいる愚か者の顔だ。

 

 勘は外れてはいなかったらしい。

 

「力が無くては、己の護りたい物も護れん」

 

 力。

 お前にもっと力があれば、母を護れたか? 弟を助けれたか? 父に追いつけたか? 

 お前がもっと強ければ。

 俺が出した答えは、間違っていた。

 

「なあ……アンタに着いていけば、アタシ、強くなれるのかな」

「……勝手にしろ」

 

 顔を上げた小娘はどこか幼少期の弟を彷彿とさせた。

 

「アタシ、佐倉杏子。アンタの事、なんて呼べばいい?」

「……好きに呼べ」

「じゃあ考えとく」

 

 名前くらい、教えてやればいいものを。

 捨てたかった、結局捨てられなかった者が心の内で囁いた。

 


 

 大きな振り子仕掛けが揺れる部屋に、ダンテとほむら。

 なかなかユニークなその部屋には、所狭しと並べられている資料の数々。街の尺図に地形図から古い文献、新聞の記事の至る箇所に『ワルプルギスの夜』という単語。

 壁には逆さ吊りで笑う奇妙な歯車女のスケッチが画鋲で止められていた。

 

「約二週間後、この街にワルプルギスの夜が来る。貴方の力も貸して欲しい」

「コイツがワルプルギスの夜って奴か?」

 

 壁のスケッチを指すとほむらは頷く。

 

「ほお、俺の知ってる魔女の祭壇話とはまた違うらしいな」

「魔法少女の間で名付けられただけの、ただの伝説の魔女よ」

「なるほどな。んで、その伝説の魔女サマがこの街に来て、街を滅茶苦茶にしちゃうから撃退に協力して欲しいってとこか」

「話が早くて助かるわ」

「悪いがお断りだ」

 

 ダンテはまたもほむらの申し出を蹴る。

 まさかここまで来て断られるとは思っていなかったほむら。

 

「……何故?」

「まず一つ、お前に協力する理由がない。二つ、気が乗らない。三つ、俺に頼む前にやることがあるんじゃねえのか」

 

 ダンテの言葉に、思い浮かぶのは巴マミ。

 しかし、ほむらは首を横に振った。

 

「それは難しいわね。彼女には嫌われているもの」

「お前が手の内明かさねえからだ」

「それは……」

「俺には能力を明かしたが、マミには話せねえってか?」

「いえ……そうね、明日にでも巴マミに話を──」

「ま、お前話すの下手そうだしな。少し手伝いはしてやるよ」

 

 ダンテの物言いにムッとなるも、思っていることを上手く伝えることは苦手なので言い返せない。

 

「お前にピッタリの方法だ」

 


 

 ダンテから気持ちを上手く伝える方法を教わり、猛特訓を経た翌日。ほむらは昼休みを利用してマミを学校の屋上へ呼び出した。

 

「来たわね、巴マミ」

「──あの、暁美さん、この前は──」

 

 マミの言葉を遮る様にほむらは魔法少女へ変身した。

 マミは身構えるが、ほむらは気にせず盾の内側から『あるもの』を取り出した。

 

「ぼ、帽子?」

 

 ほむらは盾から取り出したもの、小さなラジカセを地面に置き、CDを再生。白いテンガロンハット──Dr.ファウストを被り、CDのポップ調に合わせてリズムを刻み、踊り始めた。

 

「──は、え?」

 

 困惑するマミ、それを置いていくかのようにほむらはヒートアップしていき、魔力で編まれた短いスカーフが靡く。

 まるで外国の有名なダンサーを彷彿とさせるダンスだ。ムーンウォークはぎこちなかったが。

 そして曲が終わるのと同時に決めポーズ。

 

「ぶわっはっはっはっは! 何してんのアンタぁ!」

「かっこよかったよ、ほむらちゃん!」

 

 校内へ続く扉から、爆笑しながら出てくるさやかと、拍手喝采のまどか。そしてもう一人、拍手しながら現れる。

 

「ヒュー、ブラボー!」

「あ、ダンテさん、どうしてここに、それにこれは?」

 

 まだ頭が混乱しているマミは、おそらく事情を知っているダンテに問いかける。

 

「ソイツがどうしてもって言うんでな、気持ちの伝え方ってやつを教えてやったんだ」

 

 言い終わるか、終わらないかの所で、ダンテの顔面をほむらのゴルフクラブの一撃が襲った。

 顔を赤くし、息を切らせながら一心不乱にダンテの頭をゴルフクラブで殴り続ける。

 

「あな、たが! こうすれば! 伝わるって!」

「Ha-ha! こっちの方が面白そうだったんでな!」

「あ、ちょ、ちょっと!」

 

 暴れるほむらをマミが押さえ、まどかは頭が床にめり込んでるダンテを何とか起こした。

 さやかはまだ笑っている。

 

「フー、フー」

「どうどう、落ち着いて暁美さん」

「ダンテさんも大丈夫ですか?」

「ああ、問題無え」

 

 ほむらもある程度落ち着いたのか、ダンテを殴りすぎて変形したゴルフクラブを盾に仕舞い、脱いだDr.ファウストで顔を隠していた。

 

「どっかで気付くかと思ったんだがな」

「うるさい」

 

 ほむらはDr.ファウストをダンテに投げ渡し、咳払いしてから本題に入る。

 

「約二週間後、この街にワルプルギスの夜が来る。貴女にも力を貸して欲しい、巴マミ」

「──なるほどね。もしそれが本当なら、協力は惜しまないわ」

「ワル、何?」

「さやかちゃんはちょっと静かにしてよっか」

「でも、確証はあるの? いきなり出てきて、ワルプルギスの夜が来るって言われても、信憑性ないわよ」

 

 マミの疑問はもっともだ。そして、ほむらも昨日のダンテの言葉を忘れた訳では無い。疑いを晴らすには行動で示す。

 だからほむらは、マミへの交渉の手札として切れるものを全て切る。

 

「手を」

 

 マミに向けて手を差し出す。

 警戒しつつも、マミはその手を取った。

 その瞬間、盾の仕掛けが回り、時を流れる砂を止めた。

 ほむらと、ほむらに触れているマミ以外の時間が止まったのだ。

 

 一緒に居たまどかも、さやかも、ダンテも、同じ姿勢のまま全く動かない。

 

「なに、これ」

「これが私の願い、私の魔法よ」

「これが、貴女一体」

「私は約二週間後の未来から来た魔法少女。正確には、二週間前から、この一ヶ月を何度も繰り返している」

「な──」

「信じて貰えたかしら」

「……にわかには信じ難い、けど、もしかして、この前のお菓子の魔女の時、私を引き留めようとしたのって……」

 

 ほむらは一瞬、苦虫を噛み潰したように顔を歪めるが、直ぐにいつもの無表情に戻した。

 

「統計上、貴女があの魔女に敗れる可能性は高かった。油断や慢心していなければ相手にもならないけれど、あの魔女相手に一瞬の油断は命取りになる」

 

 思い当たる節があるマミは、ほむらの言葉を黙って聞く。

 あの時、ダンテとバージルの乱入がなかったら、間違いなく自分は頭から食べられて命を落としていただろう。

 思い出すだけで身震いする。

 

「それに、貴女が死ぬ所を何度も見たくなかった」

「……暁美さん」

「私からは以上よ。貴女の答えを聞かせてくれるかしら、巴マミ」

 

 マミの答えは、とうに決まっていた。

 自分の手を握っているほむらの手を強く握り返す。

 

「決まっているわ。一緒にワルプルギスの夜を超えましょう、暁美さん」

 

「話は纏まったみてえだな」

 

 ほむらの能力で止まっている時間の中を、聞こえるはずのない男の声が聞こえた。その事に驚き、ほむらの手を離しそうになるが、ほむらも握り返してくれたおかげで止まった時の中から追い出されずに済んだ。

 

「ダ、ダンテさん? どうして?」

「俺が口を挟む様な問題じゃねえしな」

 

 そういうことを聞きたかった訳では無いのだが、どうせはぐらかして答えてくれないのだろう。

 

「これで貴方も協力してくれるわよね」

「ま、仕事だしな。手は貸してやるよ」

 

 それを聞き、ほむらは魔法を解いた。止まった時が動き出す。

 ほむらはマミの手を離すと、早々に屋上から立ち去ろうとした。

 

「ね、ねぇちょっと、待ってよ」

「話すべき事は話したわ。これ以上ここにいる必要はない」

「そ、そうかもしれないけど、せっかくこれから協力して戦うんだから親交を深めたほうが良いじゃない? 一緒にお昼でも、ね、鹿目さん、美樹さん?」

「もちろん、一緒に食べよ、ほむらちゃん!」

「アンタの事、全然知らないからさ、少しくらい話してよ」

「……少し待ってなさい」

 

 そういうと、再び時間停止の魔法を発動。ほむらとダンテだけが時の流れに取り残される。

 

「なんだ、逃げんのか?」

「そんな訳ないでしょう。お弁当を教室から取ってくるのよ」

「そりゃあ良かった。嬉しかったか?」

「それ以上喋るならもう一度地面に頭めり込ませるわ」

 

 それを聞いて、ダンテは肩を竦めて黙った。

 

「今夜、巴マミと今後の対策会議をするわ。貴方も来なさい」

「あいよ」

 

 そう言い残してほむらは屋上から去っていった。校内へと続く階段を走って降りていく音が聞こえる。

 

「やっぱ嬉しかったんじゃねえか」

「何か言ったかしら」

「いくらなんでも早すぎじゃねえか?」

 

 ほむらが扉をやや乱暴に開けて屋上へ戻ってきた。手にはゼリー飲料とカロリーメイトが握られている。

 

「それが昼メシ? 貧相過ぎねえか」

「黙りなさい」

「おっと、じゃあお喋りついでにもう一つ。お前、まだ何か隠してんだろ」

 

 今度はほむらが黙る。

 ここまで来てまだ話さない、話せない事とは何なのか。

 

「ま、なんでもいいが、取り返しがつかなくなる前に吐き出しちまえよ」

「……忠告、感謝するわ」

 

 けど、これだけは迂闊には話せない。機会を間違えれば、私か巴さんのどちらかが死ぬことになる。

 

 心の内でほむらが呟き、魔法を解く。それは、この話をこれ以上するつもりは無いという意思の表れだった。

 服も魔法少女のものから見滝原の制服へと戻る。

 

「待たせたわね」

「いや全く待ってないから! 少し待ってなさい、って言ってから一瞬も経ってないから!」

 

 さやかがツッコミを入れた。

 

「じゃ、俺もそろそろ行くかね」

 

 そう言ってダンテは転落防止用の柵を飛び越え、屋上から飛び降りた。

 ダンテもお昼に誘おうとしていたマミ達はほむらを除き悲鳴を上げ、ダンテが落ちていった先を見るが、既にダンテの姿は無かった。

 

「あの男、生身で魔法少女以上に動けるから心配はいらないわ」

「て言ってもさ……」

「そうだよ、こんなの危ないよ」

「でもあの男、魔力をフルに活用した私より速くビルを登って来たわよ」

「一体何者なのかしら、ダンテさん……」

 

 さやかは数秒考え、閃いた様に顔を上げた。

 

「正義の味方とか?」

「ないわ」

「ないわね」

「さすがに無理があるよさやかちゃん」

 

 閃きを即座に否定されギャン騒ぎするさやか。

 何時もより騒々しい昼休みは始まったばかりである。

 


 

「本当に、どんな願いでも叶うんだよね?」

「大丈夫、君の祈りは間違いなく遂げられる」

 

 じゃあ、良いんだね? 

 

 放課後、幼馴染のお見舞い帰り。

 少女は願った。

 

 事故にあったせいで動かせなくなった幼馴染の手を治してくれ、と。

 目の前の白い生き物──キュゥべえによって少女の中から何かが抜き取られ、形を成す。

 

「さあ、受け取るといい。それが君の運命だ」

 

 意を決して、少女──さやかはソレを手に取った。

 


 

 ほむら宅にて、ワルプルギスの夜への対策会議が行われていた。

 先日に増して、床には乱雑に資料が積み上げられ、それに反して綺麗に片付けられた机には紅茶の入ったティーカップとショートケーキが置かれている。

 

「ワルプルギスの夜についてはこれくらい、何か質問はあるかしら」

「あの、複数人で戦った記録がほとんどないみたいだけど……それぞれの時間軸の私は何をしていたの?」

「この前のように死ぬか他の魔女に殺されてるわ。次、貴方は?」

「無えな」

 

 ほむらから淡々と告げられた事実にマミは頭を抱えた。

 ダンテもこの時点で特に質問等は無いらしく、会議を次の段階へ進める。

 

「なら、次はこちらの戦力についてなのだけれど」

 

 そう言ってほむらは別の資料を取り出した。

 そこには魔法少女と思われる人物の名前と写真、そして戦闘能力が端的に描き連ねられていた。

 資料を見ていたマミは一人の魔法少女を見つけ、表情を曇らせる。

 

「比較的近辺にいる、またはこれから契約する魔法少女の一覧よ。でも、その中でもまともな戦力として扱えるのはただ一人」

「佐倉さん、ね?」

「ええ、佐倉杏子よ」

「私とあの子の関係、知らない訳が無いわよね?」

「互いが歩み寄るだけで解決する問題よ。それに、彼女は問題ないわ」

 

 問題なのは、こっち。

 

 そう言ってほむらが示した名前は──

 

「……やっぱり、美樹さんは」

「ええ、魔法少女になる可能性が高いわ」

 

 早ければ、明日にでも。

 

 そう言いかけた言葉は、ほむらの携帯のコール音に掻き消された。

 着信相手は、今日の昼に交換したばかりの鹿目まどか。

 電話に出た瞬間、雑音に紛れるまどかの悲鳴。

 

「これまでより早い!」

 

 そう叫んで、ほむらは家を飛び出した。

 マミとダンテもそれに続く。

 ほむらは既に魔法少女へ変身していた。

 

「暁美さん、一体……」

「もう奴が動き出した……恐らく、貴方達が私以上のイレギュラーだからよ」

 

 ほむらは走りながらダンテを見つめる。

 

「奴ってのが何処のどいつか知らねえが、見る目あるな」

「貴方は急いで美樹さやかを探し出して、契約を阻止して。まだ間に合うかもしれない。私達はまどかを魔女の手から助け出すわ」

 

 それを聞いたダンテはキャバリエーレに跨り、公道を爆速で駆けていく。

 

「……暁美さん。奴って、もしかして……」

「ええ。貴女が死にかけて以来、一度も私たちの前に姿を現していない、キュゥべえの事よ」

「……そんな」

 

 マミの走る速度が落ちるのを、ほむらは手を繋ぎ止める。それと同時に、ほむらの魔法によって時間も止まった。

 

「……今はキュゥべえのことより、まどかを助けることを考えましょう、巴さん」

「……ええ、そうね」

 

 マミは空いてる手で自らの頬を叩き、魔法少女へ変身する。

 

「場所は知っているんでしょ、暁美さん!」

「ええ、急ぐわよ」

 

 マミが魔法でリボンを生成し、構造物に結びつけてターザンの様に移動していく。行く先は、最近倒産した町外れの工場。

 止まった時の静寂を掻き消すバイクの音も、同じ場所へ向かっている様だった。

 

「遅かった──!」

 

 時間停止を解除し、ほむらは奥歯を噛み締める。到着した工場に魔女の結界は無く、転がるグリーフシードと、マントを翻す魔法少女のさやかの姿があった。

 

「あ、マミさんに転校生。お先でした〜!」

「美樹さん……」

「貴女は……」

 

 一体何処まで愚かなの。

 

 その言葉は、吐き出す事無く飲み込んだ。

 

「いや〜、心境の変化と言いますか……」

「言いたい事はあるけど、今は置いておきましょう。鹿目さん、無事?」

「は、はい……さやかちゃんが助けてくれて……」

「危機一髪って所でしたけどね!」

 

 外見上、まどかに怪我はないようでマミとほむらはホッとする。

 

「危ない所もあったけど、初めてにしては良く動けてたよ、さやか」

 

 さやかの影から、キュゥべえが出てくる。どうやら一緒に行動していたようだ。

 マミは息を飲み、ほむらは拳を握りしめる。

 

「久しぶりだね、マミ。最近忙しくてあまり会えなかったけど、会えて嬉しいよ」

「え、ええ、そうね。私も嬉しいわ、キュゥべえ」

「今度は何を企んでいるの」

 

 ほむらの問いかけに対し、キュゥべえは首を傾げた。

 

「企むも何も、僕はただ僕の仕事をしているだけさ。何かを企てているのは君の方じゃないのかい? 暁美ほむら」

 

 そう言われたほむらは、ただキュゥべえを睨むだけ。

 空気が張り詰める。

 

「パーティ会場にしちゃあ、空気が重すぎねえか?」

「あ、ダンテさん」

 

 いつからそこに居たのか、屋根の上に足を組んでダンテが座っていた。

 そこから降りて来たダンテに、まどかとさやかが駆け寄る。

 

「おう嬢ちゃん。似合ってんな、その格好」

「やっぱりそう思います? そう思いますよねえ〜!」

「さやかちゃん、今はそんな事より……」

 

 ほむらとキュゥべえによる一触即発の状況をどうにかしようとまどかがダンテに頼もうとする前にダンテが動いた。

 

「お前がキュゥべえか」

「やあダンテ。会うのは初めてだね」

「な──!」

「え!?」

 

 まさかキュゥべえが見えているだけでなく、キュゥべえの方も既にダンテの事を知っているとは、とマミ達は驚いた。

 そんな驚愕を置いていくかのように、ダンテはキュゥべえと言葉を交わす。

 

「俺はテメェの事を初めて見たけどな。俺の地元には生息してないのか?」

「そんなことは無いね。君が見落としてただけじゃないのかい?」

「そりゃ悪かったな」

「君の事は大体知っているよ。君の兄の事も、父親の事も」

「親父も知ってんのか。物知りだな」

「彼ほどの伝説を記録しない訳無いじゃないか。伝説の魔剣士スパーダ。そしてその息子、ダンテ」

「全く有名人は辛ェな」

「レッドグレイブから魔界へ行って消息不明だったはずだけど、こんなところにいるとはね」

「道に迷っちまってな」

「随分と方向音痴なようだね。帰り道を教えてあげようか?」

「いいや、仕事の途中だ」

 

 そう言い切ると同時にダンテは二丁の拳銃、エボニー&アイボリーを抜き、その速射でキュゥべえを蜂の巣にした。

 その暴挙に、ほむら以外の開いた口が塞がらない。

 

「ち、ちょっとダンテさん!? 何やっちゃってんの!?」

「本職はコイツみたいな血も涙もないやつを狩る事なんでな。それに、これで終わりじゃねえぜ」

 

 そう言って何も無い壁を撃ち抜くと、更にそこから額の部分を撃ち抜かれたキュゥべえが落ちてきた。

 

「な、え!?」

「キュゥべえが、もう一匹?」

 

 さやかは困惑し、まどかは短い悲鳴をあげる。

 マミはリボンでダンテを拘束しようとしたが、ダンテはそれを容易く解いた。ほむらは動かない。

 

「困るな。代わりは幾らでもあるけど、無意味に潰されると勿体ないじゃないか」

 

 そう言いながら、何処からともなくキュゥべえがもう一匹現れた。

 そのキュゥべえは死骸となって転がっているキュゥべえだった物へ近付くと、それを捕食し始める。

 

「──きゅっぷい」

 

 あまりの光景にまどかとさやかは口を覆い、胃の中の物を吐き出した。

 マミも、キュゥべえへの認識を改めた。

 もしキュゥべえが複数匹いるとして、仲間が殺されたのに、出た言葉が「勿体ない」。

 キュゥべえとはそれなりに長く過ごしたから、キュゥべえが嘘をつかない、いや、つけないのは知っている。

 キュゥべえが放った言葉は、紛れもない事実であることを示していた。価値観が人間(わたしたち)と全く違う。

 

「おーおー、共喰いかよ。悪魔でもなかなか見ない……いや、そんな事無ェか」

「こんなになっても、持って帰ればまた動ける個体を作り出せるからね。リサイクルだよ」

「害獣の癖に意識高ェな」

「キュゥべえ、貴方一体……」

 

 何がしたいの? 

 

 マミはキュゥべえに問う。聞かなければならない。ほむらの言葉の真意も、キュゥべえ自身の事も。

 しかしキュゥべえはそれに応えず、踵を返した。

 

「僕は別にここで話してもいいけど、これ以上無駄に数を減らされるのも嫌だからね。また会える時を楽しみにしてるよ」

「そうかよ、とっとと失せな。豚野郎」

 

 ダンテの暴言へ返事することも無く、壁の影へ入り込むように消えてしまった。

 

「さて、どうするんだ?」

 

 エボニーとアイボリーをホルスターへ仕舞いながら、ダンテはほむらに問いかけた。

 この場で話すのか、話さないのか。それを受け取ったほむらは決断する。

 

「……巴さん、美樹さん。これから話す事は、貴女達を容易く絶望の底へ叩き落とすような事だけれど……どうか、希望を持って……話を聞いてください」

 

 改まって、懇願するように頭を下げる。普段より弱々しく、様子のおかしいほむらの言葉に、魔法少女の二人は息を飲む。

 そしてほむらは語り始めた。魔法少女の仕組み、キュゥべえの本性、目的、魔女の成り立ち、契約した少女達の末路。

 

「──これが魔法少女の秘密、その全てよ」

 

 話の途中で仕掛けられたほむらへのリボンの拘束は緩まない。ほむらに向けられたマスケット銃はダンテによって切り落とされ、キングケルベロスの鎖と氷によってマミは拘束されている。話を聞いたマミは涙を流し、絶望の淵に居た。

 

「こんな、こんな事って……魔法少女が、魔女に? この石ころが、私?」

 

 さやかは虚ろな目をして、焦点が合わない。ソウルジェムが黒く濁り始めている。

 

「酷いよ……こんなの、あんまりだよ……嫌だよぉ……」

 

 まどかは膝を付き、嗚咽する。

 先輩が、友達が、こんな酷い目にあっている。その事実を知って、涙を流した。

 ほむらはダンテへ視線を送り、受け取ったダンテはほむらを拘束するリボンを魔剣で切り裂く。

 解放されたほむらは二人のソウルジェムへグリーフシードを当て続けた。

 穢れを吸い取りきれなくなったグリーフシードを盾へ仕舞い、新しいグリーフシードを出しては二人のソウルジェムの穢れを吸い取らせる。

 

「お願い……お願い……最後まで希望を捨てないで……もう、貴女達を死なせたくない、殺したく、ない……」

 

 何回繰り返したかも分からない、時間の迷路の中で見つけた一筋の光。これを逃してしまえば、ほむらも二度と立ち上がれないかもしれなかった。

 もう誰にも頼らない。そう固めた彼女の心は、とっくに溶かされ、砕けてしまった。

 

 その様子を見ていたまどかは目を擦り、立ち上がってほむらの手からグリーフシードを一つ取り、さやかのソウルジェムを浄化する。

 

「さやかちゃん、さやかちゃんもマミさんも、そんな石っころなんかじゃないよ。だってこんなにも、暖かいんだよ?」

 

 さやかを抱きしめて、また泣き出してしまった。まどかを追うように、さやかも涙を流す。

 

 

 マミは交通事故で死の淵を彷徨っている時に、キュゥべえへ「助けて」と願い魔法少女になった。

 それから、マミにとって魔法少女である事とは生きていく事と同義となった。死んでしまった父と母の為にも、多くの人々を助けようと魔女を倒した。

 その魔女が、自分と同じ魔法少女だった。

 

 ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしか無いじゃない。

 

 魔法でほむらを拘束し、銃を向けるもダンテによって阻止されてしまった。

 冷たいのに暖かい氷と鎖に抑えられながら、ほむらの話を聞き、魔法少女に救いは無い事を知ってしまった。

 

 もうこの先、生きていける自信がない。

 魔女の起源を知ってしまった以上、対峙した時に引鉄を引けない。

 魔女を殺せないなら、グリーフシードも手に入らない。

 魔女になって人を襲いたくない。

 

 だから、最期の介錯を頼もうとした時、声が聞こえた。

 こんな自分に憧れてくれた、後輩の声。

 彼女の言葉で、目が覚めた。

 

 魔法少女になってしまった、なってくれた美樹さんに、暁美さんだっているのに、私が先に死ぬなんてことあっていい訳がない。

 

 魔法少女の真実は、確かにマミの心を蝕んだ。

 しかし、マミはもう割り切った。

 魔法少女は魔女になる。これはもう覆せない、最期は自死を選ぶだろう。

 だが、それは今じゃない。

 

「──ありがとう、暁美さん。もう、大丈夫よ」

「巴、さん?」

「ダンテさんも、ご迷惑おかけしてしまって……」

「頭は冷えたみてェだな」

「ええ、お陰様で」

 

 氷と鎖による拘束が解け、身体が自由になると同時に、目の前のほむらを抱き締める。

 肩が少し跳ねた。きっとまだ警戒されているのだろう。

 

「私、魔女にはなりたくないわ。それは暁美さんも美樹さんも、他の魔法少女も、魔女になってしまった娘達だって同じだったはず。なら、魔女という絶望から彼女達の心を救ってあげなきゃ。それが同じ魔法少女としてできる、せめてもの手向けよ」

 

 心と、生き方は決めた。同じ境遇の仲間もいる。先の事は怖いけど、できる限りを尽くそう。

 私は、希望を振り撒く魔法少女なのだから。

 


 

 夜、静まり返った風見野に蔓延る魔女を狩る。使い魔も狩る。杏子が魔女へ育てるため放置していた使い魔だが、共に行動しているバージルが見かけた端から切り伏せてしまう。

 一度苦言を呈したが、聞き入れては貰えなかった。どうせ全部潰されるならと、今では杏子も進んで使い魔を狩っている。

 

「あーあ、これでこの街の魔女も使い魔も、全部仕留めちまった。なー師匠、これじゃあちょっと困っちまうんだけど」

 

 グリーフシードを孕む魔女が居なくなってしまえば、いずれソウルジェムが濁り、魔力が枯渇してしまう。縄張りの範囲に居た魔女を全て狩ったので、それなりの数のグリーフシードが手元あるものの、無限に使える訳ではない。

 

「その黒い種を使えば、貴様の魔力を回復できるのだろう?」

「へ? まあ、そうだけど、一個を何回も使える訳じゃないよ」

「何を考えて俺の事を師と呼ぶかは知らんが、折角だ。手合わせしてやる」

「──なるほどね、上等! 今度こそその刀抜かせてやる!」

 

 そう意気込み、杏子は槍を構え、突撃。勢いを乗せた突きを放つ。

 バージルはその突きを左手の納刀された閻魔刀で弾き、体勢を崩した杏子を自身の周りに展開させた八つの幻影剣(急襲幻影剣)で攻撃する。

 突然現れた浅葱色の剣に驚くが、直ぐに立て戻し、距離を取って向かってくる剣を防御する。しかし、高速で飛んでくる八つの剣を全て捌き切れず、一本だけ肩に食らってしまった。

 突き刺さった剣を抜き、傷を塞ぐために杏子はさらに距離を取るが、遠くに居たはずのバージルがいきなり目の前に現れ、閻魔刀の鍔で頭を軽く叩かれた。

 

「あ」

「これで俺の一点先取だ」

 

 ぶー、と口を尖らせながら、杏子は肩の傷を治す。治療魔法は得意では無いが、これくらいの軽傷であれば難なく治すことはできる。

 それよりも、あの浅葱色の剣。恐らく自身の魔力固めて形成し、射出しているのだと杏子は推測し、見様見真似で同じものを生成する。

 結界を作る時と同じように、芯に魔力を通し、外殻を固める。

 杏子の手には、バージルと同じ、色は深紅の幻影剣が握られていた。それを指先で取り回し、頭上まで持っていき、握り砕く。

 

「どんなもんだい?」

 

 バージルは同じように幻影剣を指先で回しながら杏子を挑発した。

 

Let's have some fun(遊んでやろう)

「上等……! 今度は同点に持ってってやるっての!」

 

 バージルがやったように、自身の周囲に幻影剣を展開し、その全てをバージルへ向け射出する。

 バージルはその全てを、消える様なステップで躱し、市街の屋根を伝って高速で杏子から距離を取った。

 まるで先程の攻防の解を見せられているようで、杏子の頭に血が上った。そして同時にその全てを吸収せんと思い、離れるバージルを追いかけた。

 

 


 

「さやかちゃん、今日も学校に来なかったな……大丈夫かな」

 

 廃工場で、魔法少女の真実を知った日から、三日。

 あれ以来、一度もさやかを見ていない。マミとのパトロールにも行っていないようだ。

 家を直接訪ねてみたら、部屋に籠ってるとの事だったので、家出や魔女に負けてしまった訳では無いようで少し安心した。

 少しでも話しを、と言ったが、さやかの親を通して拒絶されてしまった。

 いつもは三人で帰る道を、仁美と二人で歩く。

 なんだか知らない世界に来たみたいな感じがする。

 

「さやかさん、一体どうしたんでしょうか」

「……きっと、ちょっと疲れちゃったんだよ」

 

 魔女も魔法少女も知らない仁美に、本当のことを話す訳にはいかないので、誤魔化す。

 

「上条くんも退院なされたというのに、今度はさやかさんがいないなんて、困りましたわね……」

「……そうだね」

 

 なんて話している内に、別れ道。仁美と別れ、今度は一人で帰路に着く。

 一人で居ると、どうしても考えてしまう。魔法少女の事。魔女の事。

 ほむらから聞いた、魔法少女と魔女の事を思い出す度、体が強張り、震えてしまう。

 何も知らなければ、知らないまま契約してしまっていたかもしれない。そして、誰も知らないまま魔女に殺されるか、人を食べる魔女になるか。

 そんなのは嫌だ。

 そして、魔法少女の事を知っているのに、そう思ってしまう自分がとても嫌だった。

 

 そんなに嫌なの? 

 

「……うん」

 

 じゃあ、貴女も一緒に祈ろ? 

 

「……うん」

 

 そうだ。せめて祈ろう。さやかちゃんの心の回復を、ほむらちゃんやマミさん、全ての魔法少女の未来を、ここで──

 

「──え?」

 

 気付けば、世界から色が消えていた。

 太陽を模した塔に続く道、その終点で黒塗りの少女が祈りを捧げている。

 少女だけでは無い。塔を中心に太陽以外の全てが黒に、影に塗り潰されている。

 

「これって、魔女の──」

 

 少女の──影の魔女の髪の毛が蠢き、鋭利な木の枝となってまどかへ襲いかかる。

 転けるように一撃目を避けるが、倒れた後に続く二撃目はもう避けられない。

 

「ひっ──だれか」

 

 助けて──ほむらちゃん。

 

 自分を突き刺そうとする魔女の攻撃が視界に入り、まどかが咄嗟に助けを求めたのは、憧れの先輩でも、親友でもなく、知り合ったばかりの転校生だった。理由はまどかにも分からない。

 

 しかし、その想いに応えるかのように紫色の衝撃が走った。

 目の前に見えるのは、白と黒を基調とした衣装の、黒髪の魔法少女の背中。

 攻撃を防がれた影の魔女は更に多数の枝を生成し、獲物を狙うが、紅く迸る複数の斬撃によって全て切り落とされた。

 

「大丈夫、まどか!」

「──ほむら、ちゃん」

 

 ほむらが来てくれた安堵と、緊張の糸が切れ、まどかは気を失ってしまう。

 まどかが地面へ倒れるよりも早く、ほむらはまどかを抱き寄せ、影の魔女が行動する前に盾の魔法を使い時間を止めた。

 止まった時の中を、当たり前のように歩いてくるダンテ。

 手に持つ大剣は真ん中から裂け、炉心のような内部から発生した魔力の剣がダンテの周りに浮かんでいる。先程はコレを使って魔女の攻撃を切り落としていた。

 

「お姫様は無事か?」

「ええ。まどかを連れてここから離れる。始末は任せるわ」

「OK、ここから先はR指定だ。嬢ちゃん達は帰って寝てな」

「グリーフシードは美樹さやかの所へ持って行ってあげて。貴方なら、多少話くらいはできるはずよ」

 

 ほむらはそれだけ言い残して、まどかを背負ってここから離れていく。

 数秒後には時間が再び動き出した。結界を抜けたのだろう。

 口を付けた獲物を取り逃した影の魔女は激昂し、ダンテを囲うように数十匹の使い魔を召喚し、襲いかからせる。

 

「いいねェ、パーティは派手じゃねェとな!」

 

 ダンテは魔剣を背負い、エボニー&アイボリーを構える。

 標的は向かってくる使い魔全て。

 二丁を水平に構え、紅く帯電する魔力を込めて引鉄を引く。

 二発、十発、三十発、六十発。

 一瞬にして、ダンテの前方に居た使い魔は殲滅された。

 

「さーて次の相手は……お前だ」

 

 右手のアイボリーを頭上で一周させ、振り向くと同時に真後ろに迫る使い魔の頭を撃ち抜いた。

 

「Ha-ha!」

 

 身体を触手のように伸ばし攻撃してくる使い魔を蹴り上げ、銃弾を食らわせる。さらに自らも飛び上がり、消えかかっている使い魔を踏み台にさらに飛翔。

 ダンテを追いかけるように使い魔も一斉に飛び上がった。

 

「Bingo」

 

 身体を捻り、回転しながら横方向、下方向の使い魔へ向けてエボニー&アイボリーを乱射し一掃する。

 

「後は君だけだ、影のお嬢ちゃん(Shadow lady)

 

 容易く使い魔を蹴散らされた影の魔女は更に(いか)り、直接始末せんと自らの髪を模した枝の触手をダンテへ仕向けた。

 ダンテはそれらを躱し、切り落とし、踏みつけ、その上を駆けて影の魔女へ肉薄する。

 触手を足場に飛び上がり、相手に合わせて魔具を取り出す。

 三又のヌンチャク状のキングケルベロスを一つに連結、一本の棍へ変型させる。棍となったキングケルベロスからは熱を帯びた魔力が炎となって吹き出している。

 それを軸にし、ダンテは回転しながら、まるでポールダンスを踊るかのように炎を纏って蹴りを放ちながら落下。

 着地と同時に、身に纏っていた炎をキングケルベロスに集め、薙ぎ払う。

 蹴りと地獄の業火による連撃を食らった影の魔女はもがき苦しみ、身を灼かれながらもダンテを殺さんと触手を振るった。

 しかし、()()()()キングケルベロスはそれを許さない。

 

「Thunder!!」

 

 ダンテはキングケルベロスを三節棍へ変型させ、帯電するそれを頭上へ掲げ、地面へ突き刺す。

 瞬間、ダンテを中心に雷が降り注ぎ、まともに食らった影の魔女は感電した。動きが鈍るが、それでも攻撃を止めない。

 ダンテは迫り来る触手を、帯電する三節棍を巧みに操り、振り回してその全てを弾いた。

 影の魔女の触手は全て崩れ、本体も徐々に炎に灼かれ灰と化していく。

 ダンテはキングケルベロスを氷のヌンチャクへ戻して懐へ仕舞い、その手に魔力で紅い薔薇を編む。

 

「これで君は自由だ」

 

 ダンテは薔薇を投げ渡し、その花弁が魔女の身体に触れると同時に影の魔女は消滅した。

 結界が崩壊し、足元には影の魔女だったグリーフシードが転がっている。

 それをポケットに仕舞い、ダンテはさやかの元へ向かうことにした。

 


 

 回復したまどかを家まで送り、ほむらも自宅へ戻ってきていた。

 まさか、まどかが影の魔女に誘い込まれるとは思わなかった。気付けたのは、偶然だった。

 学校を早退し、杏子を雇うために風見野へ向かったが、高確率で滞在しているホテルにも、ゲームセンターにも彼女の姿は無かった。

 その帰りに、嫌な予感がすると言うダンテに会わなければ、確実にまどかを失うか、もしくは契約させてしまっていた。

 これもインキュベーターの仕業だろうか。

 

 ともかく、早いとこ杏子を見つけなければ。

 マミならば居場所を見つけることができるだろうか、と考えていると、玄関のチャイムがなった。

 ドアスコープを覗くと、銀髪と紅いコートが目に飛び込む。

 大分早かったが、ダンテが戻ってきた。

 一応、ドアチェーンを掛けたまま玄関を開ける。

 

「早かったのね、美樹さやかは?」

「そっちは問題ねェ、多分な。それよりも、面倒なモンに付き纏われてんだ。早いとこ入れてくれ……おい、なんで閉めんだ」

 

 よく分からないが、珍しく疲れきった顔をしているダンテが何となく不憫に思えたので、一度玄関を閉め、ドアチェーンを外してから再び開けた。

 

 その瞬間、辺りに強い魔力が迸った。即座に魔法少女へ変身し銃を構え臨戦形態に入るほむらとは裏腹に、ダンテは大きなため息を吐いて項垂れる。

 

「やっと見つけた! なんで逃げんのさ、ただちょっとお願いしただけだろ!?」

 

 その声を聞いて、ようやくほむらは気付いた。先程の魔力、覚えがある。質も量もこれまでのものより大きく強かったからすぐに気が付かなかった。

 これだけの魔力を撒き散らしながら隕石よろしく落下、もとい襲撃してきた人物こそ、ほむらが探していた魔法少女、佐倉杏子であると。

 

「ヤツがお前をけしかけてきたってだけで面倒な匂いプンプンなんだよ、さっさと失せな」

「そこをなんとか! アンタも強いんだろ、師匠が言ってたし、さっきの魔女狩りも見てた!」

「アイツが師匠? 目を離したうちに面白いことしてんな」

「武器、アタシの槍見て変えたんだろ? あの魔力の変質の仕方とか教えてくれてもいーじゃんか!」

「メンドくせェ。ほむら、コイツのこと知ってんだろ、何とかしてくれ」

 

 いまいち状況を飲み込めていないほむらだったが、当初の目的である杏子の発見は叶った。

 後はいつものように交渉し、引き入れるだけだ。

 

「佐倉杏子」

「ん、魔法少女か」

 

 これまでの時間軸であれば多少警戒されているが、何故か杏子は微塵も警戒する素振りも見せず、私服に戻ってたい焼きを食べ始めていた。

 

「別に縄張り争いしに来たんじゃないよ、訳あってグリーフシードはそこそこ貯まってるんだ。それにこの街には巴マミがいるだろ」

「……貴女なら力ずくで奪うことも出来るわ」

「そんな自信はちょっと前に二回くらい叩き折られたよ。てか、アンタとは初めましてだよな?」

「こっちも訳アリで貴女のことはよく知っているわ。話は中でしましょう」

「ちょっとちょっと、いくらアンタがアタシを知ってるったって、そんなホイホイついて行くと思ってる訳?」

「中にケーキがあるわ。知り合いが置いていった物なのだけれど、私一人では食べ切れそうにないの」

「オッケー! 積もる話もあるみたいだしとりあえず上がらせて貰うよ!」

 

 ほむらに招かれ、杏子は家の中へ入っていく。その隙にダンテはこの場を去ろうとする。

 

「貴方もよ」

「……ハァ、メンドくせェ」

 

 ダンテは重い足を動かし、ほむらの家へ入っていった。

 

 


 

 影の魔女に襲われた日の翌朝。まどかはいつものように学校への通学路を歩いている。昨日までと違うのは、二人ではなく、三人揃っているということだ。

 

「復ッ活ッ!! さやかちゃん復活! さやかちゃん復活! さやかちゃん復活! さやかちゃん復活!」

「朝から近所迷惑だよさやかちゃん」

「元気になられたみたいで、良かったですわ」

「いやーその節は、ご迷惑をおかけして……」

 

 バツが悪そうに頭を搔くさやか。前のように陰りはない。

 魔法少女に関することはテレパシーで話すが、依然として問題は見られない。

 

「本当に大丈夫? マミさんもほむらちゃんも心配してたよ」

「大丈夫大丈夫。私も、もっと頑張ろって思えるようになったからさ」

 

 さやかはファイティングポーズをとり、二、三度拳を振るう。その様子を見て、まどかは思わず笑みをこぼす。どうやら本当に本調子に戻ったようだ。

 

「……またお二人で目配せして、もしや本当に!? それは禁断の恋なんですのよー!!」

「あ、ちょっと違うって! 仁美! ……行っちゃった」

「うぇひひ。なんだか、昔に戻ったみたい」

「……だね。行こっか」

「うん。昨日の夜、何があったの?」

「あー、ダンテさんがね、まどかを襲ってたっていう魔女のグリーフシード持ってきてさ。私の部屋まで」

「部屋……って、あのマンションのさやかちゃんの部屋まで?」

「うん、飛んできた」

「……なんだか、訳が分からないなって」

「それはそうなんだけど、とにかく励まされてさ。魔法少女に、ゾンビになっちゃった私でも、誰かを好きになっていい、愛していいんだって思えるようになったんだ」

 

 昨日聞いた、悪魔と人間の恋と愛の話を思い出し、自分のソウルジェムを見つめる。一切の濁りない、綺麗な海の色をしていた。

 

「……すごいね、ダンテさんって」

「うん、凄くて、強い。私もああなれるように頑張りたいなって」

「さやかちゃんならなれるよ。私が保証する」

「ありがと、まどか。じゃあ早速今日から頑張っちゃいますよー!」

「おー! うぇひひ!」

 

 二人は仁美の後を追うように、走って学校へ向かう。

 

 


 

 

 放課後。暁美ほむらの家では、ワルプルギス対策会議という名のお茶会が開かれていた。

 

「ん、出来たてはより美味い!」

「佐倉さんがそう言ってくれるなら腕によりをかけた甲斐が有るわね」

「ちょっと杏子、アンタ私の分まで食べてんじゃないわよ!」

「一口くらい良いだろ」

「それがデカすぎって話よ! ダンテさん、何か言ってやってください!」

「残りは俺の分だからな」

「ダンテさん!?」

 

 主催者はほむら。参加者は巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか、そしてダンテ。

 ほむらが積み立てたままだった資料を纏めている間に、会議室だったはずのリビングはお茶会場へ一変してしまった。

 

「そろそろワルプルギスの夜についての話をしたいのだけれど」

「ああ、そういえばそういう話だっけ。いいよ、始めて」

 

 杏子がモグモグとケーキを頬張りながら返事した。それに若干苛つきながらも、このままではお茶会だけで解散となってしまう。一度深呼吸してから、ほむらは本題を提示する。

 

「ワルプルギスの夜の出現予測位置は、ここと、ここと、ここ」

「ちょっと待てよ、なんでワルプルギスの夜が現れる場所が分かるのさ。この辺に現れたなんて話、聞いたことないけど?」

「統計よ。私の素性は昨晩話したでしょう」

「あ、そっか」

 

 見滝原市の地図を指しながら、ほむらは続ける。その予測地点は、何れも指定の避難所が近い。談笑もケーキを食べる手も止まり、各々が固唾を飲む。

 

「ワルプルギスの夜が発生するのは一週間後。私は火器の調達や迎撃の準備で忙しくなるから、貴女達三人にはその間にグリーフシードをできるだけ集めておいて欲しいの。美樹さやかの特訓も兼ねて」

「魔女退治は言わずもがな、美樹さんの特訓も並行してするつもりだったもの。佐倉さんは?」

「タダ働きはゴメンだね」

「ワルプルギスまでの間、この家を自由に使っていいわ」

「おっし、魔女狩りはコッチに任せときなよ」

「現金すぎない?」

 

 杏子はほむらから合鍵を受け取り、半分ほど残っていたケーキを一口に頬張った。そんな杏子に、さやかはジト目を送っている。

 

「おいおい。愉快なパーティに、俺は仲間ハズレか?」

「貴方は自由にして構わないわ。貴方を御しきれるとは思っていないし、ワルプルギスの夜に遅刻さえしなければ、その方がいい」

「OKOK。なら、こっちはこっちで勝手に動くからな」

「できれば貴方の兄の方も合流して欲しいのだけれど」

「さてな」

 

 そう言ってダンテは後ろ手を振り、ほむらの家を後にした。バイクの音がどんどん遠ざかって行く。

 

「あ、逃げられちまった!」

「ケーキに夢中になってるからでしょうが。ていうかそれ、マミさんの分じゃん!」

「いいのよ美樹さん。じゃあ暁美さん、私達もパトロールに行くわね」

「えぇ、任せたわ」

 

 マミ、さやか、杏子も続いてほむらの家を出る。

 ワルプルギスの夜は近い。

 


 

 マミ達はほむらの家を後にし、夜の街に潜む魔女の痕跡を探し、辿り、結界を見つけた。それぞれ魔法少女へ変身し、結界の中へ入っていく。出迎えたのは大量の使い魔だった。子供がクレヨンで描いたかのような、車や飛行機に乗っている使い魔。

 

「早速大量だね!」

「佐倉さん、使い魔は──」

「わーってるって、ちゃんとやるさ」

「──ありがとう。私が二人を援護するから佐倉さんは美樹さんの補助をお願いね!」

「あぁ!」

「行くわよぉ!」

 

 さやかが使い魔の群れに突撃していき、それを追うように杏子が走る。

 

 さやかが剣を振るい、討ち漏らした使い魔を杏子が始末する。さやかの死角から襲いかかる使い魔はマミのマスケット銃が撃ち抜いた。

 

「あんまり突っ込みすぎると、無駄に魔力使う羽目になるよ。もうちょっと考えたら?」

「その通りよ美樹さん。まずは立ち回りの勉強からね」

「は、ははぁ……頑張らせて頂きます」

 

 たった数十秒の戦闘で、さやかの問題点が浮き彫りになった。課題はまだまだありそうだと、さやかは使い魔を片付けた後、喜ぶ間もなく落胆した。

 

「ま、確かに成り立てみたいなボンクラ加減だわ」

「うっさいわね。見てなさいよ、将来的にはスーパー魔法少女さやかちゃんになってみせるんだから」

「でも、二回目にしては良く動けてたわ。頑張ったわね、美樹さん」

「……マミさん」

「ここにこれだけ使い魔が居たって事は、魔女も近いはず。気を引き締めていきましょう」

「はい!」

 

 マミの予想は当たり、結界を少し進んだ先にもう魔女が居た。

 

 落書きの魔女。

 その性質は、無知。

 

 そういえば少し前にも結界入ってすぐのところに魔女がいた事があったな、と杏子は思う。それが顔に出ていたのか、マミに心配そうな顔を向けられた。

 

「佐倉さん?」

「や、なんでもない。それよりさやか、よく見てなよ。魔法少女の連携ってヤツ」

「……分かった!」

「行くぞ、マミ!」

「オーケイ!」

 

 杏子が魔女の前に飛び出し、槍を自身の真横に振るう。そこに現れたのは、もう一人の杏子だった。髪を束ね上げ、漢服のような衣装を纏い、黒い棍棒のような槍を持つ、存在が虚ろな杏子。

 それを見て疑問を感じるさやかと、懐かしく嬉しいものを見て満面の笑みを浮かべるマミ。

 

「──アレって……杏子? 服とか違うけど」

「ロッソ・ファンタズマ! ロッソ・ファンタズマね! 佐倉さん、貴女!」

「うっさいマミ! 一人で片付けちまうよ!」

 

 興奮しながらも、マミも一点の疑問を持った。

 ロッソ・ファンタズマは佐倉杏子が持つ固有魔法の幻惑を最大限に活かしたトリッキーな技。多数の()()()()()()()分身を生み出し、相手を撹乱しながら攻撃を行うもの。しかし、杏子が出した分身は一つ。何故か姿形、得物も違う。

 

「さ、どれくらいやれるか試してみようじゃん」

 

 困惑するマミを置いていくかのように、杏子とその分身は魔女に向かって走り出す。

 落書きの魔女の攻撃を掻い潜り、杏子は槍を、分身は杏子の動きをトレースし黒槍を振るう。

 マミの知っているロッソ・ファンタズマであれば、分身の方の攻撃は意味を持たない。

 しかし、魔女の体には槍による裂傷と黒槍による打撲傷の二つが見て取れた。

 つまり、杏子が作り出した漢服の分身は()()()()()()()()ということである。

 

「まだまだぁ!」

 

 杏子は槍を多節槍へ変化させ、変幻自在な追撃をかける。一方分身は今までのように動きをトレースするのではなく、まるで自我を持っているかのように黒槍を操り、本体の杏子と連携して魔女に攻撃を加えていく。

 華麗に、格好良く魔女を相手取る杏子の姿は、まるでさやかが理想とした正義の魔法少女そのものだった。

 

「──すごい」

「合わせろ、マミ!」

「ええ!」

 

 杏子と分身の連撃を食らい、目を回しながらフヨフヨと浮いている魔女の脳天に、多節槍から一本へ戻した槍と分身の黒槍を振り下ろす。

 衝撃に従って魔女は地面に叩きつけられ、杏子はさらに追撃で幻影剣を生成し投擲。魔女に突き刺さった幻影剣を起点に、多数の幻影剣が魔女の体へ降り注ぎ、地へ縫い付け固定する。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 もはや動くことすらできなくなった魔女へ、マミはとどめの一撃を放つ。

 体も動かせず、手下も使い切った魔女に必殺の一撃を防ぐ術はなく。魔女は種を残して消滅した。

 

「ふぅ」

「いっちょ上がりってね」

 

 杏子は地に落ちたグリーフシードを拾い、自身のソウルジェムの穢れを吸い取らせてからマミに投げ渡した。

 

「ま、ワルプルギスの夜を倒すまでの間だけよろしくって事で」

「──ふふ、そうね。代わりと言ってはなんだけど、さっき作ったケーキが残ってるの。食うかい?」

「真似すんなっての! 食うに決まってんじゃん」

「ちょっと置いてかないで下さいよ! え、マミさんと杏子ってただ魔法少女同士だから名前とか知ってるってだけじゃないんですか?」

「それはそのうちな」

「そうね、こんな所でするような話じゃないし……それよりも佐倉さん、さっきの分身についてなんだけど」

「あ、私も聞きたい! さっき投げてた増える剣とかも!」

「あー、どっちも師匠から教えてもらったんだよな。剣の方はマミとさやかもできると思うぞ」

「分身は?」

ドッペルゲンガー(アレ)はアタシの幻惑魔法の応用でもあるからな……マミはともかくさやかには無理っしょ」

「えぇー、ずるいー! もう一人の自分と共闘とかカッコイイじゃん!」

「こーら、喧嘩はその辺にして。そろそろ帰りましょう」

「だな。今度教えてやるよ」

「言質取ったからね杏子!」

 


 

 マミ達が侵入した魔女の結界内、高台から魔法少女と魔女の攻防を見下ろす影が一つ。その男は何を思い、何を見定めるのか。

 

「ちょっと目を離したうちに面白いことになってんな、バージル。師匠なんてガラか?」

「ヤツが勝手に言っているだけだ」

 

 男──バージルの横にダンテが現れる。癇に障る薄ら笑いを向けられたバージルは舌打ちした。

 

「にしちゃあ、見覚えのあるような小技ばっか使っているようだが」

「あの小娘が見て盗んだに過ぎん。それに、アレに必要なのは俺が持つ力では無い」

「だから俺に投げやがったのか?」

「お前も他のヤツに投げたようだが、その方があの小娘に良かったかもしれんな」

 

 それだけ言うと、バージルは踵を返し、閻魔刀を抜いて結界を斬り裂いた。

 

「なんだよ、最後まで見ていかねえのか?」

「あの程度に負けるようなヤツらではあるまい」

「そうかよ」

 

 閻魔刀によって結界は開かれ、その穴を抜けてバージルは去っていく。

 穴が閉じた数秒後には魔女も倒され、結界そのものが消滅した。

 

 


 

 

 薄暗い部屋の中、ベッドで横になる。眠い訳じゃない、むしろ目が冴えている。枕元に数ある人形の一つを手に取り、抱きしめて目を瞑るが、やはり考えてしまう。魔法少女の事。親友であるさやかと、先輩であるマミの事。そして、ほむらのこと。

 ワルプルギスの夜が近い。その事を直接まどかに伝えに来たのはキュゥべえだった。

 

「……そのワルプルギスの夜って、どんな魔女なの?」

「そうだね。一言で表すなら、最強の魔女ってところかな」

「勝てるの?」

「まさか。マミやさやか、暁美ほむらに佐倉杏子が力を合わせたところで、彼女達だけではワルプルギスの夜には万に一つも勝ち目はない。最も、あの二人が本気で参戦するつもりならその限りではないけどね」

「あの二人、って?」

「バージルとダンテさ」

「ダンテさんが?」

「詳しい説明は省くけど、彼らは伝説の魔剣士の血を引いているからね。簡単にとはいかなくとも、ワルプルギスの夜は討たれるだろう」

「じゃあ、ダンテさん達がワルプルギスの夜を倒せば、みんな無事に終わるの?」

「ワルプルギスの夜に限って言えばそうだね」

「でも、それって」

「君の考えている通りだ。魔法少女の運命が変わるわけじゃない。とくにまどか、君は最高の魔法少女になり、最悪の魔女になるだろう。その時僕らは、かつてないほど大量のエネルギーを手に入れるはずだ」

 

 この宇宙のために死んでくれる気になったらいつでも声をかけて。待ってるからね。

 

 そう言い残してキュゥべえは去っていった。

 

「さやかちゃんも、マミさんも、ほむらちゃんも……」

 

 魔法少女はいずれ、魔女になる。

 

「そんなの、いやだよ……」

 

 魔女なんて、生まれなきゃいいのに。

 

 


 

 スーパーセル。突如現れ、見滝原に直撃した災害。

 その正体は──。

 

 

「──来る」

 

 

 

 緑色、赤色、ピンク色、様々な色の動物を模した使い魔がまるでサーカスの行進のように舞台を引き連れてやってくる。

 

 

 

 幕が上がる。

 

「あれが、ワルプルギスの夜……大きいわね」

 

 その姿を目視したマミが呟いた。

 

 

「ねぇ、ダンテさんいつもよりテンション低くない?」

「何したんだよさやか」

「なんもしてないわよ、失礼ね!」

 

 言い合うさやかと杏子に対し、ダンテは何も言わず、彼女達より少し後方からじっと舞台装置の魔女を眺めている。

 そんなダンテは、以前とは違う剣を背負っていた。ダンテの魔力が溢れていた黒い大剣ではなく、鍔に髑髏の彫刻が施された直剣を背負っている。

 しかし、彼がどんな武器を使おうがほむらには関係ない。

 

 

「アレは元々イレギュラー、あまりアテにはしてないわ」

「アレって……」

「ワルプルギスの夜を引き付けて的にでもなってくれればそれでいい。アイツは私達だけで倒す」

 

 ほむらが呆れたように髪を払った。さやかも苦笑いしかできない。

 

 

 全員が一斉に魔法少女へと変身する。

 

「まず私達がアイツを誘導する、その後は作戦通りに」

「ええ」

「おう!」

「やってやろうじゃない!」

 

 

「今度こそ──」

 

 ほむらの左腕にマミのリボンが巻き付き、そのリボンはマミの右腕へと繋がっている。

 それを確認したほむらは時間を止め、この日のために用意した兵器を盾の内部からとりだし、周囲に展開した。

 

「決着をつけてやる」

 

 一般的にロケットランチャーと呼ばれるそれを、止まった時間の中でワルプルギスの夜に向けて発射する。その数は100発をゆうに超えていた。

 マミもマスケット銃を肥大化させ、ほむらの移動に合わせて砲撃を繰り返す。

 

「──リリース」

 

 停止していた世界が動き出し、空中で止まっていた砲弾も一斉にワルプルギスの夜に向かっていく。

 放った砲撃はほぼ全て命中したものの、ワルプルギスの夜の笑い声は止まらない。ゆっくりと人の集まる場所、避難所の方へ向かって進んでいく。

 

「まだよ」

 

 マミに砲撃を続けさせながら、ワルプルギスの夜の進路へ向けて設置した迫撃砲を撃ち上げていく。やはり、これだけでは効き目がない。それは分かりきっていたことだった。

 

「暁美さん!」

「これなら──!」

 

 盾内からタンクローリーを取り出し、マミが魔法で操りワルプルギスの夜へぶつける。しかし、ほむらはこの程度では足りないことを知っている。

 マミを引き連れて橋から飛び降り、隠蔽していたミサイルを引き出す。

 そのミサイルの周囲をマミのリボンが這い周り、二基の列車砲を作り出した。

 

「ボンバルダメント! ──ティロ・フィナーレ!」

 

 二発の砲撃を食らってワルプルギスの夜は大きくよろけ、その後に直撃したミサイルに引き摺られながら大きく吹き飛び、今はもう使われていない廃工場へ落ちていった。

 そして、その廃工場の内部にはワルプルギスの夜を覆い尽くす程のセンサー爆弾。それらが一斉に起動し、ワルプルギスの夜を中心に爆炎をあげた。

 

「──暁美さん!」

 

 激しく燃え上がる工場跡を睨む二人に、高速の攻撃が迫る。

 最初に気付いたのはマミだった。

 自身は身を躱しながら、ほむらの左腕に巻き付いたリボンを引っ張り、ほむらの体勢を崩させる。

 

「キャハハハハハ!」

 

 二人の頭があった場所を何かが通過した。直線状だったそれは段々と人型へと変化する。夜空の色の、魔法少女を模したワルプルギスの夜の手下だ。

 ここまでやって、ようやくワルプルギスの夜は魔法少女達を邪魔物と判断した。

 一撃目を躱した二人に二撃目が襲いかかる。

 ほむらの時間停止はギリギリ間に合わない、マミも体勢を崩していて直ぐには動けない。

 その二人を助けたのはダンテだった。

 ほむらに迫る攻撃を剣で弾き上げ、マミに迫る攻撃を剣の腹で受け止める。

 ダンテが攻撃を防いだ事でほむらの時間停止の魔法が起動し、世界がほむらとマミを残して止まった。

 

「ハァ……ハァ……」

「ワルプルギスの夜……まさか、ここまでなんて」

「アイツはようやく私達を認識した程度よ……」

 

 グリーフシードを使い切って自身のソウルジェムを浄化し、マミにも新しいものを一つ手渡す。

 この一連の攻撃で二人のソウルジェムは大分濁ってしまっていた。

 

「ここからが正念場ってことね、美樹さんと佐倉さんはちゃんと回り込めているかしら」

「ともかく、ここはこの男に任せて私達は杏子達と合流する」

「えぇ、私と佐倉さんがどれだけワルプルギスに近付けるかが鍵だもの。急ぎましょう!」

 

 時間を止めたまま、二人は合流地点へと向かって行った。

 

 

 ほむらの世界から切り離されているダンテに気付く事無く。

 

 


 

「おー、派手にやるねえ」

「マミさんはともかく、ほむらのあれ見ると魔法少女について考えさせて欲しくなるよね」

 

 ワルプルギスの夜に向けられた砲撃爆撃ミサイルの雨を、指定の誘導先から眺める杏子とさやか。

 さやかは軽口を叩くも顔は強ばっている。

 これで終わるんなら苦労はしないね、と杏子は独り言ちた。

 などと言っているそばから、爆炎の中のワルプルギスの夜がマミとほむらに攻撃を仕掛けていた。不意に放たれた高速の攻撃に、杏子は思わず飛び出しそうになったが、二人が初撃を躱し、追撃もダンテがカバーしたことを確認して胸を撫で下ろす。

 ともかく、ワルプルギスの夜が本格的に攻撃を始めた。こちらも打って出る必要がある。

 

「っと、動き出したね。マミとほむらは上手いことこっち来れるのか?」

「あの二人が揃ってるんだもん、大丈夫に決まってる」

「えぇ、心配には及ばないわ」

 

 突然、誰も居なかった背後にほむらとマミが現れた。

 杏子はほむらの魔法の特性を理解し、慣れたから問題ないが、さやかは未だにひょうきんな声を上げていた。

 

「びっくりしたぁ……」

「ごめんなさいね、美樹さん。こっちもそんなに余裕が無くて」

「随分と派手にぶちかましてたみたいだけど、あんま効いてる感じじゃないね」

「近付いて直接叩くしかない」

「つまりアタシ達の出番って訳だ」

 

 杏子が一歩前へ出て、自らのドッペルゲンガーを作り出す。

 

「私と暁美さんで二人を援護するわ」

「……無策で突っ込むとああなるわよ。よく見ておきなさい」

 

 ほむらが指す先には、瓦礫を飛び越え高速でワルプルギスの夜へ迫るダンテの姿。ワルプルギスの夜が吐く炎に阻まれ、更には無数の手下がダンテに襲いかかり、半壊していたビルに叩きつけられている様が見える。その衝撃でビルは全壊してしまった。

 

「……肝に銘じます」

 

 さやかは生唾を飲み込み、剣を更に強く握り込む。一方の杏子は、ダンテに対し違和感を持った。

 しかし、考えている余裕は無い。ワルプルギスの夜がまた避難所の方向へ向き直り進み始めた。

 

「最短で行く」

「使い魔は任せてちょうだい」

「負けるもんか……」

「ああ、背中は任せたよ」

 


 

 大勢の見滝原市民が避難している体育館が大雨と暴風で悲鳴を上げている。

 突如発生したスーパーセル。この体育館の中で、その原因を知っている人間は、まどかのみ。

 

「ねぇー、きょうはみんなでおとまりー? きゃんぷあのー?」

「そうだよー、今日は皆でキャンプだー!」

 

 まだ小さい弟と、不安にさせまいと明るく振る舞う父。まどかは膝を畳み、スーパーセルの原因たるワルプルギスの夜と戦っている少女達の無事を祈っていた。

 

 一際大きく体育館が、地が揺れる。

 

 みんななら大丈夫。そう思いつつも身体を起こし、立ち上がってしまった。

 

「まどか、どうした?」

「──ちょっとトイレ」

 

 声をかけてくれた母に嘘を吐き、ホールを抜ける。

 出入口前の手すりの上には、まるで待っていたかのようにキュゥべえが鎮座していた。

 

「やぁ、まどか」

「……みんなは本当に勝てるの?」

「本来だったらそのはずだった」

「だった?」

「どうやらダンテは不調らしい。バージルも現れる気配はないし、こちらとしては嬉しい誤算だね」

「それじゃあ──」

「今更言葉にして説くまでもない、その目で見届けてあげるといい。彼女達魔法少女が、暁美ほむらがどこまでやれるか」

「みんなは……ほむらちゃんはどうしてそうまでして戦うの?」

「彼女がまだ希望を求めているからさ。最早今の彼女にとって、立ち止まる事と諦める事は同義だ。選択肢なんて無い。勝ち目の有る無しに関わらず、ほむらは戦うしかないんだよ」

「希望を持つ限り、救われないって言うの?」

「そうさ。過去の全ての魔法少女達と同じだよ。君だって一緒に見ただろう」

 

 以前、キュゥべえに見せられた残酷な過去がフラッシュバックし、腹の中と感情が込み上げてくる。

 しかし、それを飲み込み、食い縛らなければならない。

 

「──でも、でも!」

 

 涙を拭い、歩を進める。皆を助けるために。

 階段を一歩降りたところで、誰かがまどかの手を引いた。

 その温もりを、まどかは知っていた。行こうとすれば、止めに来ることを知っていた。

 

「どこ行こうってんだ、おい」

「──ママ。私、友達を助けに行かないと」

「消防署に任せろ、素人が動くな」

「私じゃないとダメなの!」

 

 まどかが言い終わるより早く、乾いた音が響いた。まどかの頬が母の平手によって赤く腫れる。

 

「てめぇ一人のための命じゃねえんだ! あのなぁ、そういう勝手やらかして、周りがどれだけ心──」

「分かってる!」

 

 まどかの決意はもう揺るがない。

 

「私にもよく分かる。私だってママの事、パパの事、大好きだから。どんなに大切にしてもらっているか知ってるから。自分を粗末にしちゃいけないの、分かる。だから違うの! みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないから、そのためにも、私今すぐ行かなきゃいけないところがあるの!」

「──理由は説明できねえ、ってか」

 

 まどかは静かに頷いた。

 

「なら、私も連れていけ」

「……ダメ。ママはパパやタツヤの傍に居て、二人を安心させて上げて」

 

 母の表情が少し歪んだ。

 

「ママはさ、私がいい子に育った、って言ってくれたよね。嘘もつかない、悪い事もしないって。今でもそう信じてくれる? 私を正しいと思ってくれる?」

 

 母の手がまどかを、娘を引き止めるように伸び、娘の力強い瞳を受け止め、手を引き戻した。

 

「絶対に下手打ったりしないな? 誰かの嘘に踊らされてねぇな?」

 

 そう言った母の声は、震えていた。

 

「うん」

 

 そう返事する娘の声は一遍の揺れもない、力強いものだった。

 そんな娘のために、今自分がしてやれる最大限のことをしてやろう。そう思って、母は娘の背を押した。

 

「──ありがとう、ママ」

 

 激励を受け取ったまどかは階段を駆け下りていく。キュゥべえも手すりを滑り降り、まどかの後を追う。

 施設入口の扉を開け、まどかはほむら達が戦っている場所へ向かおうとした。

 

 

 

「よう、嬢ちゃん(レディ)

「な──」

「嘘、なんで……?」

 

 外で待っていた人物に、まどかとキュゥべえは絶句した。

 

「……なんで君がここに居るんだい?ダンテ」

 

 壁に寄りかかり、まどかを待っていたのは、戦場に居るはずのダンテだった。

 

「だって、さっきキュゥべえが──」

「そうか、ドッペルゲンガーか。不調だと思っていたけれど、そもそも君本人ですらなかったのか」

「覚悟は決まったみてェだな」

 

 キュゥべえに一瞥することなく、ダンテはまどかに向き直る。

 まどかもダンテを強く見つめ返し、頷いた。

 

「私、みんなの希望を絶望で終わらせたくない。だって、魔法少女は希望を振り撒くものだから──!」

「まどか、まさか君は──きゅぷ」

 

 キュゥべえが言い終わるよりも早く、ダンテがキュゥべえの顔を鷲掴みにし、持ち上げた。

 

喋んな(No talking)。さぁ、お手をどうぞ。お姫様の所まで案内してやるよ」

 

 ダンテはまどかに空いている方の手を差し伸べ、まどかもその手を取った。

 そのまま流れでまどかを持ち上げると、ダンテの身体が紅く発光を始める。

 

「へ? だ、ダンテさん?」

 

 空気が揺れ、周囲を魔力が迸る。やがてダンテの身体そのものが変質──回帰する。

 ダンテ本来の──悪魔の姿へと。

 

「しっかり捕まってろよ」

 

 何処かノイズ掛かったその声は間違いなくダンテのものだったが、まどかは何が起こったのか脳が処理しきれず、呆けてしまっていた。

 そんなまどかを気に止める事無く、ダンテは背の四枚の羽を大きく広げ、衝撃波を発生させながら猛スピードでその地を飛び立った。

 

 まどかは数日前、さやかが話していた事をふと思い出していた。

 

「と、飛んできたって、そのままの意味だったのぉおぉおお!?」

 

「凄まじい魔力だ。流石は──きゅぷ」

喋んな(No talking)。俺は俺よりお喋りな奴は嫌いなんだ」

 

 魔人は弧を描くように空を飛び、嵐の目へと向かっていく。

 


 

「ッ──! くそ、多すぎる!」

 

 杏子はこの戦況に舌を打つ。戦況は劣勢。負け一歩手前といったところだった。

 最初に戦闘不能となったのは、意外にもほむらだった。

 時間停止の時間切れが来てしまったのだ。高速で迫る使い魔を躱すために盾に魔力を回したが、ピクリとも動かない。それに一瞬気を取られ、使い魔の攻撃が直撃し、瓦礫の中へと突っ込んで行った。

 次はさやか。ほむらが落とされたことに動転した所を使い魔に落とされた。二人ともテレパシーが通じない。気絶しているのか、あるいは。

 マミと二人で、溢れ出る使い魔を叩きながら二人の元へ向かおうとしたが、数が多すぎた。

 戦っているうちにマミとも分断され、一人で延々と使い魔を相手取っている。

 時間の経過と共に傷が増え、もう修復も間に合わない。

 手持ちのグリーフシードはもう使い切ってしまった。ほむらがいればストックを取り出せるが、肝心のほむらが真っ先に脱落してしまった。

 

「何とかマミと合流するしか──」

 

 かなり離れたところではあるが、まだマミは魔力を感じる。だが、流石のマミも大技を使う程の余裕はないようだ。

 

「邪魔っだあああ!」

 

 槍節を細かく分け、鞭の用に振るい使い魔を蹴散らす。

 しかし、一向に減る様子は無い。むしろ増えているようにすら感じる。

 再びドッペルゲンガーを出すべきかと一瞬過ぎったが、魔力の消費が激しいし、出すには溜めが要る。ロッソ・ファンタズマだったらすぐに出せるだろうが、数体の幻惑分身を出したところで多勢に無勢なのは変わらない。

 手札はもう残されていない。

 

「ここまで──か」

 

 全員やられるくらいなら、マミだけでも。

 

 髪留めを外し、ずっと隠していた形見である教会のシンボルを手にし、残った魔力を高め始める。

 

 

「それで終わりか?」

 

 

 声が聞こえた。振り返る間も無く、何かが──否、刃が通り過ぎていった。

 杏子を取り囲む使い魔は、魔を断つ刀の主たる男のその技量によって斬り裂かれた。使い魔だけでは無い。世界そのものが切断され、周囲の景色がズレて見える。

 

「だとすれば期待外れもいいところだ」

 

 静寂が包む世界に、納刀による金属音が響く。まるでガラスが割れるかのような音と共に、使い魔が切られたことを思い出したかのように次々と絶命し消えていった。

 燃やし切らんと滾らせていた残り少ない魔力を落ち着けながら、杏子は虚勢を張って師に言い返す。

 

「──へ……まだまだ、これからやるつもりだったっての……でも、見せ場は、譲ってやる……」

 

 言い切るのとほぼ同時に杏子は仰向けに倒れた。

 バージルは杏子を一瞥し、次の標的へと目を向ける。

 

「露払いに使われるのは気に食わんが、いい機会だ。よく見ておけ」

 

これが力だ

 

 バージルが発する蒼い魔力が荒々しく迸り、その真の姿を現す。圧倒的なまでの力の奔流。目に映るもの全てを威圧し、畏怖させるその姿は正に悪魔。

 左腕と一体化した鞘から閻魔刀を抜き放ち、四枚の羽を広げ、その場を飛び立った。

 

「──はは、やっぱ凄いや、あの人……人なのか、アレ?」

 

 見滝原に蔓延るワルプルギスの夜の手下達を、まるで辻斬りの如く始末して周り、あっという間にマミとさやかが救出され、杏子のそばに投げ出された。二人共、外傷はあれどソウルジェムに損傷は見られない。穢れは溜まってはいるが致命的な程でもない。

 

「──良かった」

 

 バージルは僅か一分足らずで、杏子達が手こずっていた大量の使い魔を一掃し、ワルプルギスの夜本体へと向かって行く。

 それを見送った杏子は、体力の限界に抗えず、意識を落とした。

 


 

 飛んでいた意識が戻った。どれくらい気絶していたのかは分からないが、少なくともワルプルギスの夜はまだ街を破壊しながら進んでいる。

 起き上がらなくては。

 足が動かない。瓦礫に挟まれ、潰れてしまっている。

 

「これ以上進まれたら、避難所が襲われる……どうにかして、ここで食い止めないと……」

 

 盾へ魔力を回し、時間を止めようとするも、うんともすんとも言わない。時間の砂は全て落ちきってしまった。

 

「そんな……どうして、どうしてなの? 何度やっても、アイツに勝てない! ……繰り返せば、それだけまどかの因果が増える。私のやってきたこと、結局……」

 

 絶望が心を覆い、ソウルジェムが濁っていく。

 

「なんだ、もう諦めちまうのか? お前はもっと根性(ガッツ)のあるヤツだと思ってたんだがな」

 

 横から声が聞こえた。ワルプルギスの夜に吹き飛ばされ、戦闘から退場していたはずのあの男の声だ。

 

「……考えうる最大の戦力でヤツに挑めた、それなのに……」

「不貞腐れてんな、嬢ちゃんもなんか言ってやったらどうだ?」

「は?」

 

 顔を上げると、目の前には何よりも守りたい少女が居た。

 ほむらの手をとり、優しく微笑んでいる。

 

「もういい、もういいんだよ。ほむらちゃん」

「──まどか? なんで……」

「ダンテさんが連れてきてくれたの。私がここまで連れてきてって、お願いしたの」

「貴方、なんで!」

 

 ほむらはダンテを叱咤するが、当のダンテは知らぬ顔。

 そして、キュゥべえまでもが現れた。

 この状況から、この先の展開を推察し、ほむらの息が詰まる。

 

「ダンテさん、ワルプルギスの夜をお願いします。私はほむらちゃんと少し話すことがあるから」

「OK、任せときな」

 

 ダンテは自らの名を関する魔剣を担ぐと、瓦礫の山を飛び越えていった。

 

「まどか……」

「ごめんね、ほむらちゃん。私、魔法少女になる」

「私、やっとわかったの。叶えたい願い事、見つけたの。だから、そのために、この命を使うね」

「やめて……それじゃ……それじゃ私は、なんのために……」

 

 遠くで激しい衝撃。ワルプルギスの夜が撃ち落とされたようだった。

 そして、それに追い打ちをかけるように、激しい魔力が迸る。

 紅い光と蒼い光が交差し、次々とワルプルギスの夜に攻撃を加え、後退させていく。

 押している。きっとワルプルギスの夜を倒す事ができる。

 

「まどか、ワルプルギスの夜なら、きっと倒せるから……!」

「うん、きっとワルプルギスの夜は倒せる。でも、それだけじゃダメなの」

「ダメ……?」

「うん。マミさんやさやかちゃん。今まで頑張ってきた全ての魔法少女。そして、これまでずっと、ずっとずっと、私を守ってくれていたほむらちゃん。みんなが救われないなんて、そんなの認めたくない。だから、信じて。絶対に……今日までのほむらちゃんを無駄にしたりしないから」

「……まどか?」

 

 まどかはほむらの手を離し、立ち上がってキュゥべえと向き直った。

 

「数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない望みだろうと叶えられるだろう」

「本当だね?」

 

 まどかの確認に、キュゥべえは静かに頷いた。

 

「さぁ、鹿目まどか。その魂を対価にして、君は何を願う?」

「私──」

 

 深く、深呼吸。

 緊張を解し、落ち着いて、自らの願い、祈りを口にした。

 

「全ての魔女を産まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で」

 

 


 

 

「Ha-ha!!」

 

 ダンテは群がってくるワルプルギスの夜の手下達を吹き飛ばしながら、標的であるワルプルギスの夜本体へと一直線に走る。

 ある程度近付いた時、別方向から、こちらも高速で突き進むものとかち合った。

 黒いコートに、閻魔刀。瓜二つの顔に、違う髪型。

 バージルだった。

 

「遅かったな、ダンテ」

「あぁ? 先に行かせてたろ」

あんなもの(ドッペルゲンガー)など数の内に入らん」

「そりゃそうだな。お前も来るとは思わなかったが」

「アレなら多少は楽しめそうだ」

 

 そう言って、バージルは閻魔刀の切先をワルプルギスの夜に向けた。

 

「ハーン。じゃあ、早い者勝ちだな」

 

 ダンテは魔人へと変身し、瓦礫の山を飛び越えてワルプルギスの夜へと向かって行った。

 

「遅刻して来たのは貴様だ! 先は譲らん!」

 

 バージルも真魔人へと変身し、四枚の羽を広げワルプルギスの夜の元まで飛んでいく。

 

 

 先に辿り着いたのはバージルだった。ワルプルギスの夜の頭上──ワルプルギスの夜は逆さに吊られたように浮いているため、天に向いている歯車の方──を取り、両手足の魔装具ベオウルフへ魔力を集中させた。

 

「──Rest in Peace.(安らかに眠れ)

 

 左腕に魔力を集約させ、叩きつける。(ヘルオンアース)

 打撃点を爆心地とし、凄まじいまでの魔力の奔流と衝撃波が辺りを吹き飛ばし、ワルプルギスの夜はバージルによって地に叩きつけられた。

 

 

 否。

 

 

 叩きつけられる筈の地面にて、待っている魔人が居た。

 

 

「お、やっと来たか」

 

 両足には魔装具バルログを装備し、踊るように手下と遊んでいるダンテ。

 相手にしていた手下を蹴り飛ばして、バク転。地と魔具を擦り合わせる様に半円を描くと、魔具は目覚め、燃え上がる。

 

 

焼き尽くせ(ヒートアップ)!』

 

 

 ダンテが拳を握り締めると、呼応するように足の魔装具が姿形を変え、両手両肩へと移動した。

 腰を落とし、右手を溜めると、両肩の装具が右拳へ集まっていく。それに伴い、燃え上がる熱も右拳へと集中する。

 

「──ハァッ!」

 

 ワルプルギスの夜との追突の瞬間に、溜めた右拳を振り上げる。

 自身が飛び上がるほどの勢いで振り抜いた右拳はワルプルギスの夜に直撃し、ワルプルギスの夜は空に向かって吹き飛んだ。

 

「ハッ、硬ェヤツだな!」

 

 魔人から、さらに身体を変質させ、真魔人へと変身して飛ばしたワルプルギスの夜を追いかける。

 右手に魔剣ダンテを握り、魔力を乗せた衝撃波をワルプルギスの夜へ、一撃。二撃。さらに魔力を溜め、巨大な魔剣を生み出し、振り下ろした。

 途切れ途切れに笑うワルプルギスの夜を、さらに刃の雨が襲う。

 ダンテの放つ荒々しく強大な魔力の刃ではなく、鋭く、尖った魔力の刃。浅葱色の魔力の短剣の雨が、ワルプルギスの夜に降り注いだ。

 その短剣は飛ばされたワルプルギスの夜の巨体を貫き、空間に縫いつけ、動きを固定させた。

 

「これで終わりだ」

 

 目にも止まらぬ高速移動で、一瞬の内にワルプルギスの夜を何回も斬り抜ける。

 再び、世界が切り裂かれた。

 これがバージルの技量によって繰り出される絶技。次元斬・絶。

 地に降り、閻魔刀を納刀。斬り裂かれた世界が元に戻る。

 

 しかし、ワルプルギスの夜は健在である。

 もっとも、高らかに笑う余裕は無いようだが。

 

「フフフフ…………キャハハハ……」

「ようやく静かになってきたな?」

 

 ワルプルギスの夜の眼前に浮かぶのは、先程ワルプルギスの夜を殴り飛ばした張本人である。

 右手に持つ魔剣を後ろに構え、ダンテを中心に巨大な魔法陣が展開される。

 放たれるは、かつて父が稽古としてバージルとダンテに見せた剣技の型、その再現。

 一振り一振りにダンテの強大な魔力が乗り、嵐を生み出す。

 魔剣を振り終え、自身の顔前に構えると同時に、周囲に放たれたダンテの魔力が集約し、一斉に放たれた。

 

「…………ハハハハ、フフフフ……」

「まだ息があんのか、しぶてェな」

 

 ダンテがワルプルギスの夜に左手をかざすのと同時に、後方から強い魔力と、光の柱が天に登った。

 魔法少女となった鹿目まどかが、ゆっくりとダンテの元へ向かって飛んでくる。

 

「おまたせしました、ありがとうございます。ダンテさん」

「俺の仕事はここまでみてェだな」

「はい。あとは、私が──」

 

 


 

 

「全ての魔女を産まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で」

 

 その願いを聞いたキュゥべえは驚愕する。

 魔女という存在を、産まれる前に消し去る願い。過去も未来も、全ての魔女を。そんなもの──

 

「その祈りは──そんな祈りが叶うとすれば、それは時間干渉なんてレベルじゃない! 因果律そのものに対する反逆だ!」

 

 そんな祈り、叶う筈がない。にもかかわらず、まどかはその祈りを叶えるべく魔力を高めていく。

 

「──君は、本当に神になるつもりかい?」

「神様でも何でもいい。今日まで魔女と戦ってきたみんなを、希望を信じた魔法少女を、私は泣かせたくない。最後まで笑顔でいてほしい。それを邪魔するルールなんて、壊してみせる、変えてみせる。これが私の祈り、私の願い。さあ! 叶えてよ、インキュベーター!!」

 

 契約は、成立した。

 

 一際強い光の中から、かつてほむらが繰り返す度に目にした、魔法少女の姿をしたまどかが立っていた。

 

「じゃあ、ほむらちゃん。行ってくるね」

「まどか……ダメ、行かないで……」

 

 ほむらの伸ばした手を取ることなく、まどかはワルプルギスの夜の方へと飛んで行った。

 

「おまたせしました、ありがとうございます。ダンテさん」

「俺の仕事はここまで見てェだな」

「はい。あとは、私が──」

 

 まどかは弓に魔力の矢を番え、天空へ向けて構える。

 見滝原を覆う厚い雲の下に、ダンテが展開したものよりも遥かに巨大な魔法陣が現れる。

 その中心へ、矢を放った。

 着弾と同時に、空が晴れ、無数に増えた矢があらゆる場所へと放たれる。

 その矢は時空を超え、絶望を振り払う希望の矢。

 払う絶望は、振りまく希望は、目の前の魔女ですら例外では無い。

 

「もういいの、もう、いいんだよ。もう誰も恨まなくていいの。誰も、呪わなくていいんだよ。そんな姿になる前に、あなたは、私が受け止めてあげるから」

 

 ワルプルギスの夜の姿が崩れ、歯車だけが残り、まどかへ向かっていく。

 やがて歯車も崩れ、一際激しい爆発が全てを包んだ。

 

 


 

 ふと、意識が覚醒する。

 最後の()()が燃え尽き、戦闘が終わった。

 四人居た筈の私達は、今は三人しか居ない。

 

「──ッ! さやかは、オイ、さやかはどうした!?」

「行ってしまったわ……円環の理に導かれて。美樹さん……さっきのあの一撃に、全ての力を使ってしまったのね」

「バカ野郎……惚れた男のためだからって、自分が消えちまってどうするんだよ……バカ……やっと友達になれたのに」

「それが魔法少女の運命よ。この力を手に入れた時からわかっていたはずでしょう。希望を求めた因果が、この世に呪いをもたらす前に、私達はああやって、消え去るしかないのよ」

 

 ずっと手に握っていた、赤いリボンを強く握り締める。

 これが、あなたの作った世界なのね──

 

「まどか……」

「暁美さん? まどかって……」

「誰だよ?」

 

 あぁ、やっぱり、誰もまどかの事を、知らないのね。

 覚えているのは、私だけ。

 

「私の、大切な友達よ」

「そうなの、是非お会いしてみたいわ」

「ええ、きっといつか。……そうだ、しばらく街を留守にするわ」

「どこ行くってんだ?」

「アメリカ」

「「アメリカ!?」」

「少し、人探しに」

 

 もしかしたら、彼らなら。人の理の外にいる彼らなら、もしかしたらまどかを覚えているかもしれない。

 

 

 

 ある程度の情報を集めてから日本を立ち、アメリカへ。

 悪魔が現れたとか、人を喰らう魔の樹木が生えたとかで崩壊したらしい、レッドグレイヴという街を訪れる。復興もそこそこに、活気があるとは言い難いが、それでも生活する人々がいた。

 さらに転々と近隣の街を移動する。

 その間、様々なモノ、有り体に言えば悪漢というものに絡まれもしたが、実力で追い払った。魔法少女である姿をあまり人目に見せるものでも無いが、抵抗しなければ身ぐるみ剥がされるので正当防衛だろう。

 追い払う最中で、銃を落として行った奴もいた。奇しくも、かつて良く扱っていた、オートマチックピストルと同じものだった。

 まぁ、勝手に襲ってきて、勝手に落として逃げていっただけなのだからと、なんの躊躇もなくそれを拾い、慣れた手付きで状態の確認をして、まだ弾が残っている事を確認してズボンの腰ベルトに差し込んだ。

 

 いくつも街を移動した頃、休憩がてらに入ったお店で、モリソンという男性と相席した。ストリートジャングルと形容するに相応しい街に似つかわしくない、紳士然とした風貌の彼は、「仕事の仲介屋」であるという。

 彼を探っている私に接触して来たのだ。

 

「単刀直入に聞くわ。ダンテって男、知ってるわよね」

「あぁ、俺の仕事は色々あるが、アイツに仕事を回すのも仕事の内だな」

「案内しなさい」

「なら俺からも一つ聞いていいか?」

「ええ、答えられる範囲なら」

「結構。一つ前の大仕事から戻ってきたダンテの様子が、どうもおかしいんだが、アンタが何か関係してるのか?」

「……さぁ? それを確認するためにも、彼と会わせて欲しいの」

「……ハァ。この店でもうちょい待ってれば、その内来るだろうよ」

「そうなの?」

「あぁ、ヤツの行きつけの店だからな。好物の──」

「ピザ?」

「いや、ストロベリーサンデーの方だな」

「あら、そっちね」

「ダンテの好物まで知ってるとなると余程親密になったようだが、俺の顧客リストにアンタは載ってないんだが……」

「大仕事の時に、色々あったのよ」

「魔界でパティより小さい娘を口説いてたってか?」

「そうかもね」

「人聞き悪いこと言ってんじゃねェよ」

 

 モリソンと楽しく会話していた所を割り込んできた人が居た。

 紅いコートに、銀の髪。

 髪の毛と髭が以前会った時より少し短くなっているけれど、清潔感があっていいと思うわ。

 

「久しぶりね、ダンテ」

「……ハァ……賭けは嬢ちゃんの勝ちか……」

「賭けぇ?お前が命の懸かってない賭けで勝てる訳ないだろう」

「るせェよモリソン、どっか行け。アンタの仕事はここまでだ」

「なんだ、気になるから聞かせてくれてもいいだろう」

「仕事なんでな」

「仕方ねぇな……じゃ、お嬢さん。またどこかで」

「ええ、楽しかったわ。また会いましょう、モリソンさん」

 

 後ろ手を振って、モリソンは店を後にした。

 空いた席にダンテが腰を下ろし、ローラースケートで品を運ぶ店員にストロベリーサンデーを注文した。

 

「どうせ長ェんだろ?」

「ええ、沢山聞かせて貰うわ」

 

 


 

 

 世界が作り直される様の一部始終を、ダンテはどこかを漂いながら、ただ眺めていた。

 バージルが居ないくて自分だけいる理由は良く分からないが、分からない事を考えても意味が無い。さっさとこれが終わってくれれば、さっさと事務所に戻ってピザとストロベリーサンデーを食べれるものを、なんて事を考えていると、見知った顔が現れた。

 姿格好はさっきまでの魔法少女然としたものと違って神々しい装いになっているが、世界がこうなる前に近くに居た鹿目まどかで間違い無い。

 

「神を騙るデカブツなら見た事あったが、まさかホンモノのカミサマってやつを見ることになるとはな。しかもそれが嬢ちゃんとは」

「すみません、ダンテさんに少しお願いしたいことがあって……」

「依頼か?」

「できればそうしたいんですけど、払うものも何も無くなっちゃうみたいなので……」

「ま、仕方ねェな。で、話ってのは?」

「これから、世界が作り直されます。魔女が生まれない世界に。きっと、その世界でも、ほむらちゃんはダンテさんを訪ねると思うんです」

「わざわざ? 無ェよ」

「絶対、賭けてもいいです」

「ほォ、面白ェ。もし来なかったらピザ10枚頼むぜ」

「もし来たら、またほむらちゃんの話しを聞いてあげて、力になって欲しいんです」

 

 


 

 

「ようするに、友達のホムラチャンが俺の所へ来るかもしれないから、その時は話を聞いてやって、力になってやって欲しいとよ」

「──ふふ」

「嬢ちゃんの依頼の支払いはお前に請求していいか?」

「ええ、まどかからのお願いだもの」

 

 

 まどかは確かに存在した。まどかを覚えているのは、私だけではなかった。彼女が存在した証は、ちゃんと残っている。

 ずっとポケットにしまっていた、まどかがくれたリボンを取り出し、ヘアバンドの代わりに髪に結ぶ。

 

「嬢ちゃんのやつか?」

「ええ。まどかがくれた、大切なものよ」

 

 まどかが守ろうとした、この世界。

 窓の外を見れば殴り合い、掴み合いの喧嘩やひったくり。

 魔女の代わりに、人の呪いが生み出す魔獣。

 悲しみと憎しみばかりを繰り返す、救いようのない世界だけれど。

 だとしてもここは、かつてあの子が守ろうとした場所なんだ。

 それを、覚えてる。

 決して、忘れたりしない。

 だから私は、戦い続ける。

 

 




「銃の扱いはともかく、問題は補充ね……あなたの銃ってどうなっているの?装弾数よりも多くの弾を撃っているようだけど」
「魔力で弾丸を直接作ってる。お前も出来んじゃねェか?」
「……それはあなたが無尽蔵に近い魔力を持ってるからでしょう。私の魔力は有限なの」
「……知り合いに武器兵器を取り扱ってるヤツは居るが……」
「そうなの?」
「ぼったくりだ」
「……暫くは、弓の扱いに専念しようかしら」
「まぁ、アイツがぼったくるのは俺が金を返さねェからだが」
「……返しなさいよ」
「無いモンどうやって返すんだよ」

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