「ウッウッ…ぐすん………」
「おーよしよし。いい子だからこの毟ってきたよくわからない実をお食べ」
「ウゥッありがとうございます……まっず!!」
「うんうん。口にあったようでなにより………って不味いのそれ?」
「貴方、これはロアの実といって人間の体で消化できないんですよ……」
「あらそうなの。ごめんなさいね。わざとではありませんのよ」
「…私も、少々頭に血が上りすぎていたようです。このヴァレーが血に呑まれるとは」
「あんたヴァレーっていうのか。個性的でいい名前だな」
「いえいえ、貴方程ではありませんよ。勇者様」
「おっついに認めてくれたか!」
「認めたというより諦めですよ。貴方は何をしても自分を曲げそうにありませんから」
「ふっよせよせ照れるわ///」
「…不思議な方だ。いや、だからこそ導かれたのかもしれませんね。この醜く歪み、壊れた世界に」
あっそうだ。色々と聞かねぇとな。
「早速だがヴァレーさん。オレは目覚めてばかりで右も左も分からない。だからオレに教えてくれねぇかな。この世界のコト。そして、褪せ人について」
「いいですよ。私も色々と話したかった所です。先ず、この地は名前を『狭間の地』といい、永遠の女王たるマリカという名の神と、あちらに見える黄金樹のもたらす恵みにより、永らく栄華を極めておりました」
マリカ。それにあの世界樹は黄金樹というのか。
「けれどそれは、束の間だったのです。すべての生命と同じように。黄金樹の祝福の根源たるエルデンリングが砕け、同時に世界も壊れたのです」
エルデンリング。
「世界の修復には砕かれたエルデンリングの破片である大ルーンを集め、掲げる必要があります」
ふむふむ。
「その使命を持つ者達こそ、褪せ人。かつて狭間の地を追放された戦士の末裔であり、次代の王たる資格を持つ者です」
なるほどな。あのスケスケおじさんが言っていたのは、そういうことだったのか。
「大ルーンを持つデミゴッドは皆、女王マリカの血族。手に入れるには奪い、殺すしかありません」
「神様の家族を、殺せと?」
「えぇ、そうですとも。存分に奪い、殺すのです。その為に向かってください、貴方。導きの指し示す先、あの断崖の城、ストームヴィルに。たとえ巫女無しでも、エルデンリングを求めるのならば」
「………」
「あぁ、伝え忘れていました。我々の目の前にある祝福。その灯から光の筋が生じ、ある方向を示すことがあります」
「それこそが、祝福の導き。褪せ人が、進むべき道なのです。…ええ、そうですとも。導きが教えてくれるのです」
「褪せ人が、どこに向かうべきなのか」
「…あるいはどこで、死ぬべきなのか」
「…きっと、導きは指し示すと思いますよ。あの断崖の城、ストームヴィルを。あれは、老醜のデミゴッド、接ぎ木のゴドリックの居城ですから」
「…祝福の導きがもたらす使命は、略奪と死の定めだというのか」
「えぇ、そうとしか言いようがありませんね」
「…そんなものが 使命であるものか。導きであるものか。世界を救う者 であるものか。」
「……!えぇ、えぇ!その通りですよ。私の貴方。やはり、貴方は分かっていらっしゃる!実は、私もそう思うのですよ!」
「……………」
「導きなどという、真実かも分からぬ、がたのきた老人の世迷言。それに、二本指には、我らへの愛を感じない。私はそれが許せないのです!」
「ああ、それで、聡明な貴方に贈りたいものがあるのです」
〔ゆうしゃは 爛れた血指を 手に入れた!〕
「…それは、導きを外れんとする、ひとつの手段。是非、試してみてください。そしてもし、気に入って下されば、またお会いしましょう。」
「期待していますよ。私の」
「いや」
〔ゆうしゃは 爛れた血指を 手渡した!〕
「これは 受け取れない。」
「なんですって…?」
「血塗れた手では 大切な人を 抱きしめられない。だからオレに これは必要ない。」
「…巫女無し風情が、この私に愛を説きますか」
「流れる血も その先にある犠牲も 少ないに越したことはない。そう思うのは ごく普通のことだ。そう 例えば… 医者なんかは分かってくれる だろうさ。」
「ッッッ!!くだらない!!!そんなものは偽善、何も為せない偽善者の縋る馬鹿げた妄想に過ぎませんッッッ!!!」
「犠牲なき救いなど、血に穢れぬ使命など、あるわけがないでしょうに!!!世界とは悲劇なのですから!!!」
「悲劇ならば 幕を引いて 喜劇を始めるまで。」
「簡単に言わないでくださいッッッ!!!それができたのなら、私は………」
「ヴァレーさん。私の目を 見てください。」
「来ないでください!!やめて、やめろ!!!」
グサッッッ!!!!
「ぐっ………」
〔ゆうしゃは 出血した!〕
「貴方、手を離してください!!手から血が、血がこんなに出て………私が終わらせないと……」
「いいや この手は 離さない。だって 離す必要が ないのだから。貴方の手は 穢れてなど いないのだから。」
「なにを、言って…」
「誰かを慈しんで 流される血と 誰かを害する為に 流される血は 全くの別物です。貴方には その両方が こびり付いている。」
「では 私達の手の間を伝う この血は 果たして どちらでしょう。」
「…後者の血でしょう。私は貴方を、傷付けたのですから…」
「ヴァレーさん。私は傷付いてなど いない。私が受けたのは 人の為を思って 施された治療。」
「世界の流血を憂い 人の命を救わんとした者の手による 『慈悲の刃』です。」
「………!!!」
「それに貴方は 自分の罪を背負い 救いを求めてきた筈です。救われたいと願う者は皆 即ち自らを罪人であると 認めた者。」
「罪から目を背けず 向き合い続けること。それができる貴方が 優しい人でなくて 一体何だというのです。」
「…何故、そこまで………」
「救いは罪人の上にこそ その姿を現すもの。涙は生者の為に 流されるもの。だから貴方は 泣いていい。けれど これ以上 害する為の血は流してはいけない。」
「世界を救うとは その世界に生きる生命を救う ということ。だから貴方は もう充分救ってきたのです。後を託して よいほどに。」
「……………」
「だからオレは 進み続けます。ヴァレーさん。貴方の意志を 後世に繋ぐ為に。」
「ぐっ………っと。それじゃ。もう行きます。本当は一緒に行きたいけれど、貴方は仕えるべき人がいるみたいですから。また何処かで会ったら、今度は美味しいものでも食べましょう」
「……………勇者様」
「オレたち、もう仲間ですから!」
「………行ってしまわれたか」
「…………ははっ。本当に、不思議な人でした。ねぇ、モーグ様。あの人ならば本当に、救えるのかもしれません」
「たとえ導きが 壊れていても」
静かに笑う、血塗れた殺人鬼の声。それは今や呪いではない。それは、医師が貫き、勇者に託した、祝福のファンファーレだったろうか。
貴方に寄る辺がありますように