許されよ 許されよ
「いよいよ始まるぞ。オレの冒険が!ゆうしゃの旅路が!」
鎧をガチャリと揺らし、歩き出す。始めて着た鎧は想像より軽い。或いは、気持ちが誤魔化しているのだろう。
新しくなった盾を手に馴染ませ、歩いていく。あとは剣さえあれば…
「ん?あれは…」
黄金色に輝く木々の合間を縫う一本道。その自然が作り出す風景に不釣り合いな、松明の炎が見える。
カーレの言う『正気を失くした兵士』なのかな。遠くから見ても異常に顔色が悪いし、どこか殺気立っているように感じる。
とにかく近づいてみよう。会話くらいはできるかも。…でも、もし戦いになったら?オレは人間と戦えるのか?
…いや、幾ら正気を失っているといっても、酔っ払いみたいなものでは…?うん。酔っ払いだなぁそうに決まってる。だって人間だもの。
「こんにちは兵士さん。初対面だけどお姫様の居場所は…」
「グゥゥ………!」
…!剣を抜いたッ!!!
「グォォォォォ!」
〔ゴドリック兵が あらわれた!〕
「クソ!やっぱり戦うしかないのか!」
最悪だ。期待していたオレが馬鹿だった!優しい人に出会ったからか、忘れていた。この世界の残酷さを!
スライムでもドラゴンでもない!目の前の敵は魔物じゃない!まさか、生きた人間と戦うことになるなんて!
〔兵士は こちらが みがまえるまえに〕
〔おそいかかってきた!〕
「グアアア!」
〔ゴドリック兵は 力任せに きりつけた!〕
「くっ!」
〔ゆうしゃは なんとか 身をかわした!〕
覚悟を決めろ!迷っていたら、早速棺桶だ!
「うああああッ!」
〔ゆうしゃの こうげき!〕
〔ゴドリック兵は ダメージを うけた!〕
この感触!今までの奴等と違って、攻撃が当たる!これなら…
〔ゴドリック兵は 松明を ふりまわした!〕
「ぐぁっ!?」
〔ゆうしゃは ダメージを うけた!〕
熱ッッッ!!畜生、迂闊に近づけない!もっと距離を取らないと!
「グウウウウ……」
〔ゴドリック兵は ちからを ためている!〕
やばい、く、くる!
「グアッッッ!!!」
〔ゴドリック兵は 鋭い突きを はなった!〕
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!?」
〔ゆうしゃは こうげきを盾で ガードした!〕
受け止めきれない!!!クソ、長期戦は無理だ!
〔ゆうしゃは きょりを とった!〕
なら、両手持ちでやるッ!
〔ゆうしゃは 盾を ルーンにかえた!〕
「グウウウウ……」
〔ゴドリック兵は ちからを ためている!〕
あれは、さっきの突きがくる!なら、相手より疾く、仕留める!!!
〔ゆうしゃは こうげきにそなえ〕
〔身がまえている。〕
「グァァァァ!!」
「今だッッッ!!!」
〔ゆうしゃは 会心の一撃を はなった!〕
「ウグアアア!??」
〔かいしんの いちげき!〕
「これで…終わりだあああああ!!!」
〔ゆうしゃの こうげき!〕
「グゥゥ!!??グゥアアァァァァ………」
「………………………………」
沈黙。力を失い、倒れていく…。
「や、やった…?」
!?こいつの体からルーンが出て、しかもオレに流れている!それじゃあ、もしかしてオレは…
〔ゴドリック兵を やっつけた!〕
「や、やった!初めて勝ったぞ!!!!」
この狭間の地に来て、初めての対等な戦い。栄光の勝利!なんという高揚感!この目線こそ、敗者を見下す、勝者の…
「あ…」
目が合った。斃れた死体と目が合った。色褪せた瞳が、死してなおこちらを見つめているような気がした。
「………………………どうか、安らかに」
その言葉は、祈りの意志から来るものか。或いは罪の意識から、罰の恐怖から来るものか。自分でも、分からない。
〔ゆうしゃは 聖杯瓶を つかった!〕
〔ゆうしゃの キズが かいふくした!〕
進まないと。死体を跨ぎ、前を向く。…どうやら奥も兵士たちが巡回しているみたいだ。見えているだけで三人。バレないように進もう。
…今の戦いで分かった。彼は間違いなく人間だと。いや、人間だったと。ならば当然、必要ない戦いは避けなくては。
「…………………ふぅ」
草むらに紛れ、森を出た。今でも殺気が肌を覆っている気がする。
「この像は…」
何処かで見たような…まぁいい。お地蔵さんみたいなものだろう。
正面に目をやると、沢山の瓦礫と兵士たちの姿、そして突き立てられた旗が見える。あれが野営地だろうな。
カーレが言うには、お宝が眠ってるらしいが…奴等に見つかったら袋叩きだろう。どうするかな…
「あっ祝福だ!」
向かって左、巨大な石門の近くに祝福が見える。ひとまずあそこまで向かい、触れておこう。触れてさえしまえば、恐らく死んでもそこから蘇られる筈だ。
「…………………よし、着いたぁ…」
ゆっくりと腰を下ろす。張り詰めていた意識が、一気に緩む。疲労はたちどころに消え、安堵に包まれる。この感覚はやはり素晴らしい。
…なんだ、何処かでルーンが乱れている?この違和感は………!なんだ…?
空間が歪む。ルーンが歪む。歪みは蒼い粒子を伴い、その姿を現す。やがて歪みは安定し、収束した。
「君は………」
「はじめまして」
黒いローブ。まだ幼さを残す女の子の声。
「霧の彼方から来た人よ」
「私はメリナ」
その瞳は 黄金色に輝いて。
「…貴方と、取引がしたいの」
オレを真っ直ぐ 見つめている。
瞳と瞳で見つめ合う
それは、人の最も濃厚な接触であろう