マンハッタンカフェと。恋と。僕と。怪異と。   作:ハガさん

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 アヤベさんルートです。

 本編には関係がないIFルートです。

 だいぶ鬱展開と胸糞展開があります。

 それでも大丈夫な方は、どうぞ。



アドマイヤベガIFルート
※アドマイヤベガト。ボクト。狂イト。モシモト。


 

 

 

 

 

 

 

 もし僕がそのままウマ娘の世界に残っていたらどうなったのだろう。

 たまにそう思うことがある。僕は姉さんに寄り添うことができただろうか。僕は姉さんを助けることができただろうか。僕はカフェとその世界でも付き合っているのだろうか。ジャンプにハマることができただろうか。髪型を変えていないだろうか。ダンツのサブトレーナーになっているのだろうか。そもそもトレーナーを目指しているのだろうか。

 

 そこまで変わっているのならそれは僕であるのだろうか。

 なんてテセウスの船的なエセ哲学に耽ってみる。

 ウム……哲学というものは案外悪くないのかも知れない。ソクラテスもニーチェや、プラトンや、アリストテレスや、釈迦や、孔子より、黒崎一護に孫悟空、承太郎に、ジョナサンジョースターに、人吉善吉に、球磨川禊に、ナルトに、サスケに、虎杖悠仁に、トリコで哲学をしてきた自分にとっては転機かもしれない。

 

 これを機に哲学について一から学んでみるのはどうだろうか。

 一人トレセン学園のトレーナー待機室ででそんな普段では思いつきもしないことを思っていた。

 

 

「よう葉月。何だか一人ですごく気分がよさそうに意味深な表情をしてってどオレのパンツテメェは知らねぇか?」

 

 

 おっと物騒な娘がニコニコ笑顔で入ってきた。ジャングルポケットとかいう奴のパンツをわざわざ盗むだなんて物好きな変態もいたもんだな。僕が哲学者なら『パンツは借りてもならず、貸してもならない。貸せばパンツを失うし、友も失う。借りればパンツを被った途端馬鹿になる。』なんて台詞を残してらに違いない。あれ?シェイクスピアは作家だったっけか。

 

 

 

「ならテメェが被ってるその白い布をしたソレは一体何なんですかこのヤロウ?」

 

 

 確かに僕は、今日白い布をした三角上の又に入れるとすっぽり入りそうなそれを頭に被ってはいる。だがしかしこれがパンツである証拠はどこにもないわけだ。それこそ哲学の領域だ。シュレディンガーのパンツだ。

 そうだ今こそパンツについて議論しようではないか、ソクラテスが一対一で議論を交わしたときのの様に、パンツについてもう一度学んでみようではないか。

 

「さぁポッケパンツについ__________________ズコォンンンンン!!!

 

 

 僕の左横の壁にポッケの蹴りが見事なクリティカルヒットする。ひびは入ってはいないが、もう一度その蹴りを入れられたらこの静子さんのトレーナー室がポッケによって崩壊してしまうことは間違いない。

 何ならその蹴りを僕が受けたら僕の体が崩壊スターレイルしてしまう。流行に乗ってしまう。

 僕は必死に言い訳を考えるというかこれは仕方のないセクハラなのだ、これは本当に琵琶湖より深くて富士山より高い訳がある。マジで。

 

 「今日は本当についていないんだマジで。ゴールドシップって奴の人間ペットボトルロケットの代表に選ばれるわ打ち上げた先で、サイレンススズカって奴に引かれるわ、ウララちゃんの勉強教えてたらキングヘイローって奴にドロップキックされるわ。メガネを探してたドリームジャニーのメガネ踏んづけて黒服とオールフェーブルに追われるわ散々だったから、フクキタルさんに占ってもらったら今日のラッキーアイテムは女性のパンツだったからたまたまナベさん家に合ったお前のパンツをだ________________________「言い訳無用!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 その蹴りで僕は見事に、頭から吊り下がる形で僕は天井に埋まることとなる。これがジョジョ4部なら杜王町の観光地になってたに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなポッケと馬鹿をやって、カフェと付き合って、タキオンの実験体にされ、ダンツのサブトレーナーになる話とはまた別の______

 

 

 

 

 

____________僕が姉さんを救った。いや。救ってしまった物語。

 哀れな道化の理解のし難い悲劇であり喜劇を作った僕の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「葉月は……私の前からいなくならないわよね?私に残っているのは葉月だけなの……葉月が私が生きている証なの……だからお願い。」

 

 震えた口調で彼女が僕に向けて泣きながら、姉としての威厳もへったくれもなく、ただ聞いてくる。ただ僕に向け愛情の確認を、ただ僕に向け繋がりの確認をする。

 

 当たり前のことの確認という無意味な事をするまで、そんな悲劇的な姿に僕は何て答えたら良いのだろうか。これは僕が招いた悪夢で、これが僕の背負うべき十字架だ。それは変わりなく日常的に子供の頃から背負ってきた物だから。

 もう、重みも何もわからなくなってきたが。

 もう、動けないほど雁字搦めなのだが。

 もう、再起不能なほど縛り付けられてるが。

 

 ただ一つの限りとして言えるのは

 

 

 彼女をこんなにも心配させたのは僕のせいで

 

 彼女が僕に依存しているのも僕のせいで

 

 彼女の精神が不安定なのは僕のせいで

 

 彼女のみ不遇な目なのは僕のせいで

 

 彼女に不運がのしかかるのも僕のせいで

 

 彼女には幸せが来ないのも僕のせいで

 

 彼女から笑顔が消えたのも僕のせいで

 

 彼女で運命が遊んでいるのも僕のせいで

 

 彼女より僕が幸福なのも僕のせいで

 

 彼女ばかり不幸な目に遭うのも僕のせいで

 

 彼女しか薄幸な目に遭わないのも僕のせいで

 

 彼女へ悲劇が巡ってくるのも僕のせいで

 

 彼女さえ幸せにできないのも僕のせいで

 

 彼女も惨憺な様子にさせたのは僕のせいで

 

 

 

 

 

 

 

 彼女と僕が依存しあっているのも僕のせいだ

 

 

 

 

 

 全部、総て、凡て、総て、みんなまとめて、一切の澱みもなく、全体的に、全般的に、どれもこれもそれもあれも、丸ごと一部始終、つま先から根元まで、完全に完璧にどう考えても、どう思考しようとも、どう考え方を変えようとも、全てにおいて、全体にわたってただ一つの疑いもなく、一欠片も彼女に罪はなく、何一つ彼女の罪は残らずに、もしも彼女自身が許そうとも、もしも僕以外の全員が間違えを否定しようとも、神が僕の誤ちを否定しようとも、世界が僕の非をなかった事にしても、全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て

 

 

 

 

 

 

________________________僕のせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 家から出てずっと一人で路上を彷徨っていた僕は、ふと、姉と通った懐かしの喫茶店が目につき意識が朦朧とする中、フラフラと火を追う蛾のように惹かれるままに入っていった。

 

 僕はここ数日何も食べていない為、何か食事を取ろうと考えた。だが喫茶店の食事の値段の高さは、とても家出した高校生が払えるような額ではなかった。コーヒーは喫茶店にしては珍しく学生向けに安くしているようだが、空きっ腹にコーヒーを入れると気持ち悪くなることぐらい心得ている僕はみすみすコーヒーを頼むわけにもいかずに

 

 ただメニュー表と睨めっこしながら無意味な時間をただ過ごしていた。

 

 正直なところ、食事などあの事件があってから喉を通らず、無理に食べようとしようものなら砂を噛んでいる味になるのだが、体は我慢の限界らしく何かを頼まないとここで餓死してしまいそうであった。だが、朦朧とする意識の中注文することが非常に難しく意識を戻しては、離れ、意識を戻しては離れという無駄な作業を繰り返している。

 

 僕は、店側からすると来てほしくもない迷惑極まりない客に違いない。

 

「やあ」

 

 

 テーブル席に一人で座っていた僕に、さも知り合いかの如く同席してきた、1人の女性が現れた。

 

 席が満員で空きがなかったのだろうかと辺りを見回してみたが、休日のこの時間帯など繁忙期に関わらず、ガラリとした店内がそこにはあるだけだった。

 

 

「紅茶を彼の分とボクの分2つ頼むよ」

 

 

 勝手に注文された。新手のナンパだろうか、いやこの場合僕は男である故、流行りの『逆ナン』と言うやつだろうか。しかしながら、相手は女性だ。側から見たら男が女かわからない三つ編みをしている。そのせいで、女性ウケはめっぽう悪い為、その線は無さそうだとは思う。

 

 姉さん達からはしつこくナンパに気をつけてと何度も何度も言われているが、一人でいる時に会うナンパは大抵男である為、男である事を証明したら少し距離を取ったような様子で離れていく事がほとんどだ。

 

「…久しぶりだね葉月。アヤベさんが心配しているよ。そろそろ顔を見せたらどうかな?」

 

 

 ナンパでは無く知り合いだったらしい。僕は朦朧とするし意識の中、足りない脳みそをフル回転させ今までにあってきた数々の人を思い出す。しかしながら、僕には目の前の人物の声が誰か記憶を探ることはできなかった。

 というか三日三晩寝れていない為、正直なところ意識を保つ事すら怪しかった僕は視界がずっとぼやけて見えて、目の前の人物を把握することが難しかった。

 

 

 

「ひどい顔だ…まるで放浪しているイアーソーンのようだよ」

 

 

 ようやく視界が戻り顔が見える。少し黄色みがかったグラデーションが入ったウルフカットに、女性なのにメンズスタイルとも取れるような男性らしいファッション。その態度からの想像が容易い豪華絢爛の擬人化のような態度、そして耳が僕の位置とは違うところにあるウマ娘。

 

 思い出した。と言うか強制的に思いださされた。このオペラに全てを捧げたような喋り方は姉さんの友人、テイエムオペラオーさん。オペラオーさんだ。

 どうやら僕は姉繋がりで交流で付き合いのある知り合いの記憶が消えてしまっている辺り相当追い込まれているらしい。

 

 

「どうも…オペラオーさん」

 

 

 この数年間で気づいたことなのだが、ウマ娘という種族はなかなかどうして変人や、フランクな人が多く、僕は彼女らに巻き込まれてばかりだった。

 不良に酷い有様ににされているところをヤンキー口調のウマ娘に助けられた事があったが、無機質な僕のどこかを気に入り、今ではその友人と共に僕の数少ない友達の一人になっている。

 

 

 姉さんの友人もそうだ。僕を見るや否やカワイイと大きな声を出して一緒に自撮りを撮ったよくわからない人もいれば、入院している姉さんのお見舞いにきている時の休憩室で、ドジっ子なウマ娘が熱々の緑茶を全身に浴びたこともあったか。

 

 

 僕は痛覚という物が鈍感で、痛みに対して怒る人間がよくわからない為、不良に殴られようが、熱々の緑茶を浴びされられようがどうしてもどうやってもどうでも良いのだが、その後何度も何度も謝られてこちら側の方が悪いような気がしてならなかったのは言うまでもない。

 

 しかしこんな悲惨な目に遭った事を姉さんが知ったらどうなるかなんて、想像すらしたくない事は確かなのだが。

 

 

「顔を見せろ……ですか」

 

 

  僕は言葉に詰まる。

 

 僕が家出をした。僕が彼女らを心配させている理由。

 忘れもしない。忘れたくても忘れられない。     

 今でも当時のことを思い出すだけで、頭痛が走る。記憶力の悪い僕ですら、当時の様子は鮮明に脳裏に焼きついて離れない。こんな気力の無くした僕ですら、何かに駆られてそれを否定しそうになる。もしあの時間に戻れるなら、もし僕が約束をきちんと覚えていたら、もし彼女らを救えるなら、どんな事もなんだってしただろう。

 例えそれが犯罪であろうとも、例えそれが笑えない道化であろうとも、例えそれで姉達家族にに嫌われようとも、例えそれで一生家族としての縁が切れようとも、例えそれが自殺であろうとも、例えそれが____________他殺であろうとも。

 

 

 

 なんだってする。僕は絶対に。

 

 

 だが現実は僕が何もしなかったばっかりに、僕が無力であるばかりに、姉さんは、アドマイヤベガは前回の菊花賞で『足を折って』しまった。

 

 ただ足を折っただけならまだ救いがあったのかもしれない。ただ足が壊れただけなら望みを捨てなかったかもしれない。なんならこの際、二度と歩けなくなった程度ならまだ、希望を持てたかもしれない。

 

 だがそうはならなかった。ならなかったから僕は今こうやって失意の果ての様な有様になっている。ならなかったから僕は自暴自棄になり願望を失った傀儡の様に、ただ無意味に時間を浪費している。ならなかったから、僕とアヤベ姉さんは今絶望の檻に囚われているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉さんが倒れると同時に菊花賞を走っていた『アドマイヤクルス』僕のもう一人の姉が倒れた。

 

 僕とアヤベ姉さんをいつも困らせては、それ以上に笑顔にしてきた『もう一人の姉』

 困った時はいつも相談に乗り、喪意の塊である僕をいつも助けてくれた頼りになる姉。

 時に優しく、時に厳しく、姉としてこれ以上のない誇りであった存在。

 もし彼女がいなかったら、アヤベ姉さんや僕は大変な事になっていたに違いない。もしかしたらアヤベ姉さんは昔の僕の様に心が使い物にならなくなっていたかもしれない。

 もし彼女がいなかったら、僕らは別の運命を全く別の世界を歩んでいたに間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『菊花賞』の終わり____僕の姉で、アドマイヤベガの双子の妹の『アドマイヤルクス』が走行後ほぼ同時と言えるタイミングで倒れた。

 

 

 当時の様子は酷い悲劇だった。トップロードさんがゴールし、その後の後続が走り切る中、二人が力が抜けた様に倒れた。ウマ娘のレースは相当力を使う為倒れる事などあまり珍しくないかもしれない。

 

 最初は僕も家族もあまり心配はしなかった。それよりも菊花賞に負けた悔しさに襲われるはずの彼女らをどう励ますか、僕は彼女らをどう元気づけるか。

 

 あまりそういうことが得意でない僕ですら、思考回路をそれいっぱいにしていた。

 

 何もできない観戦して応援する事しかできない傍観者である僕自身に対するやるせなさで心が支配されていた。

 

 

 

 しかし、時間が経つにつれ、様子がおかしくなる。いつまで経っても立ち上がらない彼女達、彼女ら2人の様子は明らかにゴールによる疲労ではない。

 

 激痛に見舞われた様なそんな彼女らの表情が、会場全体をざわめかせる。駆け寄る他のウマ娘達。

 トップロードさんがアヤベさんの状態を確認し、オペラオーさんがルクス姉さんの様子を駆け寄って見る。

 

 2人ともがレース後だと言うのに大声で関係者を呼び始めた。どよめくその場の空気。不安感でいっぱいになる応援に来ていた家族や親戚一同。

 

 唖然とする会場の数え切れないほどの人混みを掻き分け、観客席とコース上を分ける高さ60cmほどの柵を無理矢理にでも乗り越え、心配するウマ娘達に囲まれている、彼女らの元に駆け寄りたかった。僕には心当たりがあったのだ。この惨劇に対する心当たりが。

 

 何か歯車がおかしくなる。狂った時間が回り出す。

 ウマ娘界では快挙と言われる双子による菊花賞出場。その当事者2人が不幸に見舞われたのだ。そんな偶然、神様の様な存在が彼女らで遊んだと思う人もいるだろう。そう感じてしまえる様なそうとしか思えない様な出来事だった。

 

 

 僕は忘れていたあの約束を思い出した。

 あの幼い日の純粋無垢な約束を思い出した。

 バカみたいなあの約束を思い出した。

 

 

 

 もちろん、家族であることなど知る由もない関係者たちが、僕の体を押さえつけようとのりかって取り押さえられる。そんなことはわかっていた、もしかしたら警察のお世話になるかもしれないなんてことは、了承の上だ。

 

 その上で僕は2人の姉を失う恐怖が、また一人になる恐ろしさが僕を包み込んで怖かった。突発的な行動であるには変わりないが、それでも僕は彼女らが消えてしまいそうで、ただ突っ立って運ばれる様を見るだなんてできなかった。

 

 何よりこれは『僕が産んだ悲劇』だ。

 『僕が起こした厄災』だ。

 

 

 苦しそうに息をする彼女達、意識はあるのかないのかわからない。医療班が駆けつけ、彼女らの治療をする。そして医者と思われるその人物が、逼迫したその表情の中、すぐに救急車を呼ぶ様宣言する。

 

 その焦慮の様子で、彼女らがどれだけ追い詰められているのかがわかる。もしかしたら二度と走れなくなるかもしれない。__________________もしかしたら命の危機もありうるかもしれない。

 

 その元凶の僕はただ取り押さえられて、その様子を眺めていた。そんな自分自身に、見る事しかできない自分自身を殺したくて、火事場の馬鹿力が働いたのか、運命が蜘蛛の糸を垂らしたのかわからない。ただ力が入り押さえつける人々をその瞬間は振り払うことができた。そして担架で運ばれようとされている彼女らに駆け寄ることができた。

 そして僕がレースコーナーに近寄るとルクス姉さんの方は目を覚ました。アヤベ姉さんの方も気になるが、意識がある方を元気付ける方が良いと判断した僕はルクス姉さんに駆け寄る。

 

 僕は彼女の手を取る。全力で走った後とは思えないほどのその冷たい手をしていた。僕の追い詰められた僕の表情を見て、安心する様に返事をする。

 

「……大丈夫だ……よ?アヤベ……お姉ちゃんもルクス……お姉ちゃんも?……こんなところで……走れなくなるほど弱くないから…安心してね…」

 

 そう言った最後の言葉を尻目に彼女は意識を無くした。そして僕は再び関係者に取り押さえられてそのまま身動きが取れなくなってしまった。そして運ばれる彼女らをただただ組み伏せら見送る事しかできなかった。

 

 

 

 無力な僕では彼女らを救うことなどできなかった。

 非力な僕では彼女らを助けることなどできなかった。

 『あの少女』を助けることができなかった僕には彼女らを助ける事など夢のまた夢であった。

 

 

 

 

 

 アヤベ姉さんは病院に運ばれた後、すぐ意識を取り戻した。僕の顔を見るや否や安心した様な顔を見せたが、それでもルクス姉さんのことが気がかりの様で、どこか緊張した表情をしていた。

 だけどそれが杞憂で治ることはなかった。考え過ぎ思い込み過ぎで終わる事などなかった。僕はそれをなんとなく感じ取っていた。

 

 ルクス姉さんは家族に何も告げられないまま、緊急治療室に運ばれた。

 恐らく現代の医療の最善を尽くしたのだろう。だけれど最善の治療が命を救う事など限らない。最善の選択が最悪の未来を生み出す事など僕はもう見慣れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その事件があった数日後____________『アドマイヤルクス 死亡 原因は不明』とそう事実が淡々と大画面に流れる雨の街中で、壊れた僕が変えようのない現実を眺めていた。

 

 

 アヤベ姉さんは足の怪我のせいで葬式に参加できなかった。僕はアヤベ姉さんの代わりに花を多く彼女の棺に捧げた。

 

 3姉弟の中では、唯一僕だけが人間だった。親戚の中では、至って平凡で、これと言った才能もない凡夫である僕の評価は、あまり良いものではないらしく、『葉月くんが代わりにねぇ…』という心無き声が聞こえてきた。

 人のなった父はその場で怒ってくれた。人のなった母は何度も慰めてくれた。ただその事に対して、僕は全く持ってその通りの正論であるが故に怒りも悲しみも何も感じなかった。

 

 

 ただこの悲劇を起こしたのは

 

 

「僕のせいだ」

 

 

 

______誰にも聞こえぬ声でそうぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 思い出すだけで胃液が込み上げてきた。僕はそれをグッと我慢をし、そのままの勢いでそれを飲み込んだ。幸いな事に何も食べていなかった為純粋な胃液しか喉元に来ず、どうにか胃の中に戻すことができた。

 

 頭痛と吐き気がものすごい。

 だが、それでもオペラオーさんは話を続ける。オペラオーさんもライバルの一人であったはずだ。オペラオーさんもこの苦しみを乗り越えた上でアヤベ姉さんの為に僕を連れ戻そうとしている。

 

 

 

「ルクスお姉さんの事は残念に思うよ…だけど君まで消えてしまったらアヤベさんをより深く闇に閉じ込めてしまうに違いない。」

 

 彼女は話を続ける。

 僕ら姉弟の命を救う為に。

 

「お願いだ。君はアヤベさんにとっても、ルクスお姉さんにとっても、そんな彼女を通じて知ったボクにとっても、変わりはきかないんだ」

 

 彼女は話を続ける。

 僕ら姉弟の心を救う為に。

 

「どうか、生きて彼女の元に帰ってくれ。ルクスお姉さんにも追悼の花を捧げてくれ」

 

 彼女は話を続ける。

 僕ら姉弟の壊れた心を治す為に。

 

「どうか彼女らにロミオとジュリエットの様な悲惨な最期を迎えさせないでくれ」

 

 

淡々とした口調で、しかし情熱を忘れずに事実を述べる。そこには弔意の気持ちも忘れずにあり、ルクス姉さんがどれだけ慕われていたのかがわかる。

 彼女もルクス姉さんとレースを共にした仲間であるにも関わらず、仲間の死を、万物万象に訪れる恐怖の対象を乗り越えた彼女は、恐らく何事にも揺るがされない強靭な意志をを持つのだろう。揺れてばかりの軟弱な僕の心とは大違いで彼女に全てを任せそうになる。

 

 

「優しいんですね…貴女は」

 

 僕はくすりと笑った。数日間ふらふらになりながら街を行き来した僕には数日ぶりの笑顔だった。そこにシニカルな意味合いは無く、ただ彼女の様な仲間に恵まれた姉さんが純粋に羨ましくなって、それを追いかけたくなって、僕は彼女らのレースに熱中していたのだ。

 

 朦朧とする意識も、彼女の言葉を聞いて整理がついたのか今までにないほどはっきりとした視界に戻った。僕も彼女の強さに彼女をに対する心意気に答えてみようと意識を変える。

 

 ______その中で気まづそうに僕らの間に入った店員さんが僕の前とオペラオーさんの前に紅茶を置き、逃げる様にその場からさっていった。

 あまり大きな声は出していないはずなのだが、神妙な雰囲気を感じ取るとはとはなかなか気の利く店員さんだと思う。もしかしたら居心地が悪くてとっとと逃げたかっただけなのかもしれないが。

 

 僕は置かれた紅茶を片手に取ろうと思ったその時____

 

「アチっ」

 

 上手く取っ手が掴めず、紅茶をこぼしてしまった。

 

「大丈夫かい!?」

 

 心配するオペラオーさんと焦った様に近づいてくる店員さん。すぐに机に広がった紅茶を店員さんが拭き取り、代わりの品のもう一杯を丁寧に僕の元に置く。

 

「すいません…あまりまだ意識がちゃんとしてないのかもしれません。」

 

 オペラオーさんはそんな僕を心配するかの様にきをつかっているが、今度こそきちんと紅茶と受け取り、自分の口に運ぶ。

 

「ふぅ…」

 

 ようやく一息がつける。今まで何も口にしてなかった為か紅茶出あってもそれで空腹が満たされた様な気がきた。

 

 

「オペラオーさんとも初めて会ったのはここの喫茶店でしたよね。」

 

 そうだ。僕と釣り合っても釣り合いきれない彼女がこうやって話を僕とできているのは、姉さん達と一緒にここに食べにきた時にたまたまオペラオーさんもここでお茶をしていたからだ。

 

「そうだね。あの2人の1等星に弟がいたとはボクも驚いたよ。しかも似ても似つかない飄々している個性の塊だから血が繋がっていないのではないかと疑ったね」

 

 そう言いながら紅茶を飲むオペラオーさん。 

 飄々としているのだろうか僕は、いやこうして自由に家出をして、彼女らを心配させてるあたり、自由でないと言ったら嘘になるな。

 やはり他人が言う様に飄々としているのだろう。姉さん達が異様に心配するのもわかる。

 

「あの時_____僕がオペラオーさんに跪き手の甲にキスをしたのが懐かしいですね」

 

 紅茶を吹き出しそうになるオペラオーさん。何かまずいことでも言っただろうか。

 

「ゴホッ……ゴホッ……その時は…『あーっはっは!アヤベさんの弟かい!!覇王であるこのボクに会えるだなんて光栄だね!!』と言ったらいきなり跪いて手の甲にキスをされたのは初めてだよ」

 

 どうやら覇王でも初めての経験らしい。天下人ってのは案外身近な者なのかもしれないし、僕らとそんなに変わらないのかもしれない。

 

「あの時はルクス姉さんとアヤベ姉さんのどちらを応援するかで問い詰められてたので間をとってオペラオーさんにしました。たまたまいたので」

 

 あの時の姉さん達は大変だったんだ。どちらを選んでもめんどくさくなる事が決まっている。しかし僕はあえてめんどくさい選択肢を選ぶのが嫌いではないため、最もここで問題が厄介な事になるたまたまそこに居合わせたG1ウマ娘のオペラオーさんを選んだ。

 

 

「あの後の弁解が大変だったのを覚えているよ…『今、ファンになりました。皐月賞応援しています。』と言ったきり黙りこけるからねルクスとアヤベさんにそれはもうたっぷりと絞られたよ」

 

「特にルクスが凄かったね…『絶対絶対絶対絶対的絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対葉月には私を応援してもらうんだから!』と駄々をこねて涙目になった際には僕も困り果てた」

 

 

 あれ家に帰ったらアヤベ姉さんに洗脳されるほどの『私を応援して』とメッセージが送られてきていたから、アヤベ姉さんの方がすごいのかと思ったがその場ではルクス姉さんだったか。意外だな。

 しかし、それで適当に言った事を成し遂げて勝ってしまうんだから、この人は本当に覇王の素質があるのかもしれない。いや僕の運が良かっただけなのかもしれないが。

 

 こんな感じで、僕はなんて事のない談話を楽しんだ。雑談していくうちにやつれている顔も少し彼女から見ても元気を取り戻したのかもしれない。彼女の表情に少し安堵の笑みが浮かんだ様な気がした。

 

 僕はルクス姉さんがもう会えない事を思い出し、ぽつりと彼女に心からの疑問を投げかける。

 

 僕からの心の弱みだったのかもしれない。自暴自棄になって自殺未遂の家出をするまで追い詰められてる僕が放ったSOSだったのかもしれない。

 

 

 

「………ルクス姉さんが今の僕を見たらどう思うでしょうか?」

 

「____怒ると思うよ。彼女はドトウの様に少しおっちょこちょいだったが、トップロードさんの様な明るさや責任感もある。少なくとも彼女は今の君の有り様を見て、喜びはしないだろうね」

 

 即答だった。それはそうかもしれない。僕が彼女の立場であるなら絶対にアヤベ姉さんを心配させることなどするなと怒るであろう。

 僕らの仲は強いもので繋がれていて、それだからこそこうして全く僕と姉弟以外で全く関係のないオペラオーさんとも話しているのだ。

 

「……多分ルクス姉さんなら『お姉ちゃんを泣かすとは何事かー!!謝ってきなさーい!』…なんていうに違いありません」

 

 

 冗談混じりに彼女との雑談を楽しむ。オムライスは時間が経つにつれ冷めていくが、今は食べるというより、何か彼女とルクス姉さんの思い出について話しておきたかった。そんな気分になってしまった。

 

「はははっ!違いない。ボクはルクスのお姉さんの姿をあまり見たことがなかったけど、いつもアヤベさんに怒られている分を見るに、君に当たってるのかもしれないね」

 

 

「そうですね…」

 

「けどすごく優しい姉でした。僕が心の底から信頼してるぐらいには」

 

 哀悼の意をルクス姉さんに捧げる。僕はルクス姉さんに彼女ら姉に受け取った感情や過去を掘り起こす。

 

 

______過去を思い出す。

 

 

 

 僕が"ある少女"と2人で遊んでいる時にとある事故に巻き込まれた。僕はあまり当時の内容について覚えていないし、あまり思い出したくもないのだが、その日僕は少女と遊んでくると、一人でに出て行った。しかし夕暮れ時になっても一向に帰ってこない。

 心配になった母親は父と一緒に街を駆け巡ったらしい。姉さん達は家に帰ってきたらすぐ連絡する様にと二人で留守番していた。

 そんな行方不明さながらの中僕はガチャリと玄関のドアを開け、一人で家に帰ってきたらしい。

 その姿はその様子は彼女らを騒然とさせて一生のトラウマを植え付けた。

 

 肩が脱臼しており、足はあり得ない方向に曲がっていながら、腹からはもう少しで内臓が見えるのではないかというぐらい、肉がただ抉られていた。そんな中、あり得ない方向に曲がった片足を引きずって何処かから突然と帰ってきていたと言う。『守れなかった……ごめんね……許して……』と呟きながら、そんな僕を見て姉さん達は恐怖し戦慄しすぐに救急車を呼んだ。

 

 

 

 僕は入院している最中に、何度も何度も彼女らに向けて遊んでいた少女を救えなかったことを嘆いて泣いていたと言う。自分の弱さ、自分自身の惨めさについて、7歳ぐらいの僕が嘆く様は彼女らの心に大きく影響を残したんだと我ながらに思う。

 

『葉月……大丈夫……あなたは悪くない』

 

 

 アヤベ姉さんはただ僕の頭を撫でて、僕を慰める。1歳しか歳が変わらないはずなのに、真剣に僕を宥めるその様子は母親の様な母性を感じられた。

 

 

 

『おねーちゃんの言うとおりだよ…お友達のことは…何も言えないけどね…葉月が生きてて良かったーってルクスおねーちゃん思っているよ』

 

 幼い言葉を紡ぎながら僕を宥めるルクス姉さんもまた僕の心を救う手助けをしてくれた。それが僕にとっては凄く嬉しかったのか彼女らの声を聞くと良く安心して眠れたらしい。

 

 

 

 

______僕はあまりのショックな出来事で当時の事を思い出したくないのかその少女が一体誰だったのか、何があったのか、何をしてそうなったのかは一切合切周りにその事を話さなかった。

 そして、周りの人々曰く、僕はその事件を境に性格がガラリと変わったとだけ聞いている。活発だった様子は静かな子変わり、大好きだった漫画も読まなくなりただ虚空を見つめる様に変わってしまった。

 

 その事件を境に姉さん達が過保護になった。

 僕が虚空を見つめると姉さん達が積極的に遊んでくれていた。アヤベ姉さんは読めなくなった漫画の代わりに星座の本を教えてくれた。ルクス姉さんがキャンプについて教えてくれた。""救えなかったあの少女""の変わりに純粋な彼女達は僕の寂しさを悲しさを少しづつ埋めてくれていた。

 

 

_______過去を思い出す。

 

 

 

 

 待合室に彼女らのトレーナーの好意で入られせてもらったことがあった。トレーナーさんは優しい方で、僕がトレーナー志望である事を言うと勉強を見てくれたり、僕を含めた家族のために専用の席を用意してくれたり、その中でも僕に対しては姉達との仲がいいのもあってか、僕の身に余る待遇をしてくれていた。

 

『ね!見て葉月!!ね!!すごいでしょお姉ちゃん達!!勝負服だよ!G1だよ!!』

 

 

 ルクスお姉さんが青をベースとした制服の様な服上にチューブドレスを着き、その下に綺麗なミニスカートを履いた華やかで繊細なデザインの服を身につけて僕に自慢の様に見せびらかす。

 

 高校生で思春期真っ只中であった僕に対して感想を求めるなど中々に酷ではないかという怪訝な表情をしているトレーナーさんを尻目に僕は感想を呟く。

 

 

『凄く似合ってて可愛いよ。ルクス姉さん』

 

 素直に恥ずかしがらず僕はルクス姉さんに言葉を放った。今思い返してみると聞いている人は照れくさくなりそうなセリフだった。

 

 

『ほんとー!?やったー!!!』

 

 

 浮かれてはしゃぐルクス姉さん。昔から彼女は単純だったが、その単純で明るい様子が僕の心を少しづつ癒してくれた。記憶としては消えたが無意識下に残るあの悲惨な事件に対する思いを少しづつ消してくれていた。

 

 

『浮かれない』

 

 アヤベ姉さんがルクス姉さんに向けチョップをする。姉さんの服装はルクスの勝負服に金色の装飾を追加したものだった。似ている勝負服ではあるが、どちらも個性があって僕にはどちらの方が優れているかなんて決めつける事など難しかった。

 

 

『あいた!そんなん言ってお姉ちゃんだって葉月に「似合ってるって言ってくれるかな…」なんて心配してたくせにー!!!』

 

 

 そうだったのか、それならルクス姉さんだけを褒めるなんて不公平だよな。

 

『ん”ん”っっ!!ルークース!!!!!!!』

 

 アヤベ姉さんがルクス姉さんに顔を近づける。その顔の威圧感は、僕には可愛い姉の顔である事には代わりないが、恐らくルクス姉さんにとっては言葉に言い表せないほどの恐怖が込められていた。

 

『あはは………冗談だって!!お姉ちゃん本気で顔怖いよ!!』

 

 そんな馬鹿なやり取りをしながらレース前にみんなで笑い合っていた。そんな平和で幸福な二度と訪れない日々を思い返した。

 

 

 

 アヤベ姉さんもルクス姉さんもどちらも尊敬していた。ウマ娘の双子はどちらか体が弱くなる危うい存在というジンクスを破り、二人共がG1出場という快挙を成し遂げたその様子を、僕はリアルタイムで1ファンとして、1人の家族として、歓喜していた。

 

_______過去を思い出す

 

 

『菊花賞だねお姉ちゃん』

 

 僕は姉さん達の背中を見つめて何も言わない。

 

『ええそうね』

 

 姉さん達ステージに一歩一歩近づくのがわかる。

 

『どっちが負けても恨みっ子なしだよ。』

 

 姉さん達が何処か遠くに行きそうだが、それは夢を叶えるための一歩であるため僕は何も言わなかった。

 

 

『負けないわルクスだとしても』

 

 姉さん達が己の全力をぶつけてこのレースに挑むのがわかる。姉さん達が最後の力をぶつけてクラシックのG1ウマ娘を目指すのがわかる。僕は何も言わない。僕は何も言わなかった。

 

『葉月も見ててねお姉ちゃん達最高のレースにして見せるから』

 

 アヤベ姉さんが振り返る。僕に向けて最愛の弟に向けて、レース前最後の言葉を放つ。

 

『貴方の記憶力のなさには困ってるけどこれだけは忘れられない様にしてあげるわ』

 

 

 それを僕は心にしまい彼女らのクラシック最後のレースを見届けるため、観客席に戻った。

 

 

 

 彼女らは僕にあり得ないほどの贈り物をしてくれた。彼女らは僕に沢山のワクワクをくれた。彼女らは僕に""救えなかった少女""の変わりに沢山の愛情を注いでくれた。

 

 

 

 

 

 オペラオーさんとのやり取りで出てくる記憶がルクス姉さんを亡くした僕の心を癒す。僕ももう一度生きてみようと、自暴自棄になった僕の心を治していこうと。こんな僕でも最後まで抗って生きていこうと。ルクス姉さんに天国で、恥をかかせない様に。あの世で待っているルクス姉さんに怒られてしまわない様に。アヤベ姉さんに、もう一度会って傷ついた心を互いに慰め合っていこうと。アヤベ姉さんが僕を宥めてくれた時の様に彼女の心を治していこうと、そんな僕が心の隅にはいた。

 

 

 そんな優しいもう一人の僕がいた。

 

 そんな朗らかな僕がいた。

 

 そんな明るい僕がいた。

 

 そんな温厚な僕がいた。

 

 そんな温厚な僕がいた。

 

 そんなルクス姉さんの様な僕がいた。

 

 そんな気が利く僕がいた。

 

 そんな穏やかな僕がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はそんな心の中の優しい僕を______殺した。何度も何度も、入念に、念入りに、憎んで、恨んで、重点的に、一時も許さずに、殺して殺して殺し尽くした。殺戮の限りを尽くした。虐殺の限りを尽くした。惨殺の限りをつくりた。

 自分を電源コードで巻き尽くして絞殺した。

 自分を包丁で滅多刺しにして刺殺した。

 自分を身体中蜂の巣にして射殺した。

 自分を健寿の引き金を動かして銃殺した。

 自分を毒薬と毒物を食毒して毒殺した。

 自分を薬を飲まして薬殺した。

 自分をプレス機で潰して圧殺した。

 自分を爆薬に巻き付けて爆殺した。

 自分を自分で憎んで扼殺した。

 自分を納得いかない自分達で殴殺した。

 自分を無免許運転で轢殺した。

 

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も圧殺して暗殺して虐殺して絞殺して惨殺して斬殺して刺殺して自殺して射殺して銃殺して他殺して毒殺して撲殺して抹殺して薬殺して殴殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して

 

 

 心を殺して、殺して、殺して____ただ殺した。

 

 

 僕は許されてはいけないから。

 

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

「オペラオーさん今から話す事は、譫言の様な事だと思ってください。そして、告解の様なものでもありますが、話半分で大丈夫です。信じられない思るので。」

 

「……どう言う事だい?」

 

 真意な表情で聞いてくれるオペラオーさん。彼女は心は揺るぎないものがある。だから僕はこの人に懺悔しようと思った。この人に許されざる罪を裁いてもらうと思った。僕自身に永遠にのしかかるその十字架を分かってもらおうと思った。

 

「オペラオーさん…『怪異』って信じますか」

 

「いきなりだね…」

 

 紅茶を手に取り、一服しながら僕の質問に答える。

 

 

「ボクは信じるとも。それが良いものか悪いものかはさておき、ボクらの生活の中にそれは確かに存在すると思うよ」

 

 正直なところここで信じようが信じなかろうが僕は淡々とこの人に真実を告げるだけだ。僕は許されざる愚行を犯した。招かれざる大罪を呼んだ。

 

「怪異と言っても、色々とありますよね。」

 

「閉じ込める怪異に契約を持ちつけてくる怪異。一方的に暴力を振ってくる怪異。人間に幸福をもたらす怪異。」

 

 

「神様が怪異になったのか怪異が神様なのかは僕にとっては正直どうでも良いですが、そこには確かにいる。この世界には確かに。」

 

 

「…もしかしてそれが関係あるのかい?帰らない理由に」

 

 察しの良い人だ。

 この人は口調こそふざけている様な有様だが僕なんかより何倍も頭がよく回るタイプのウマ娘だ。

 

 

「関係ありますとも、関係しかございません。」

 

「……………………」

 

「僕が幼き頃、神社でその怪異と呼ぶべきか神と呼ぶべきか。そんな街談巷説にすら登場しない様な不気味で、気味の悪く、気持ちの悪い異形のものにあいました。」

 

 

「まだ幼き日の僕はそれに対してあまり恐怖心を持たずに挨拶をしたのです。純粋ですよね。それを人だと思ったのです。」

 

 

「そしたら顔と呼ばれる場所はわかりませんが、確かに笑った様な気がしたのです。そんな笑顔見たらこっちも嬉しくなって少しそいつとおしゃべりしました。」

 

 それがこの悲劇の

 それがこの有様の始まり

 このバカげた歌劇の始まり

 

「僕はそいつに向かって色々な事を話しました。姉の事に、友達のこと、最近ハマってる遊びのことに、幼稚園のこと、くだらない事だと一番面白いコロコロの漫画について話しました。」

 

「……結構おしゃべりだったんだね昔の葉月は」

 

 冷や汗をかきながら、それでも笑みを浮かべてオペラオーさんが言う。

 

「…そうですね。そうなんですよ。もしかしたら別の世界の僕だったら______オペラオーさんの様にナルシストだったのかもしれません。そんな可能性がゼロではありませんでしたね」

 

 

「話を戻しましょう__そうやって話していると真っ黒な化け物であるそいつが一つ指を掲げました。僕は幼い僕はその意味がよくわからなかったですがその後のカタコトの言葉で『一ツ夢ヲ叶エヨウ』と言い出してきました。」

 

 

 そう、それがルクス姉さんを殺した。

 張本人なんだ。

 原因で

 根元で

 因果で

 因縁なんだ。

 この時別の願いを叶えていたらもしかしたら別の道があったのかもしれないね。大層な願いに対する代償など。重いなどわかりきっているのに。

 

 

 

「僕は目をキラキラと輝かせました。僕はそれに対して凄く凄く凄く悩みました。それこそ昼間で日が照っているお昼時から、神社にに夕陽が沈むまで悩みました。」

 

 

「そして僕は言ってしまったのです。言ってはならない事を。言ってはいけない事を。」

 

 

「僕は""いつも泣いてるお姉ちゃんを笑顔にしたい""そう。怪異に言ってしまったのです。」

 

 

 オペラオーさんが疑問を浮かべた様な表情を浮かべる。それはそうかもしれない。姉の笑顔を願う。それだけでこの結末につながるとは思わない。それがこんな悲劇に繋がるとは考え辛い。

 

 

「それがどうしてこの事件に繋がってると考えたんだい?ボクからしてみたらそれは、あまり関係のない夢での出来事だったのではないかな?」

 

 

 

 それであって欲しい。それを僕も望んでいる。だけどもそれは、僕にとってはあり得ない出来事だ。絶対に確信してこの事件と、なんて事のないこの怪異譚とあの惨劇は関係がある。

 

 

「そうですよね、今はそう思っていただいて結構です。」

 

 そんな事は想定内だ。話を続けさせてもらおう。

 

「そしてその怪異は悩んだ様な口調で『本当ニソレデイイ?』『対価ハオオキイヨ?』と真意に僕に尋ねてきました。」

 

 それに対してバカで無知でノロマで飄々としていて何も考えていない幼き日の僕は、目の前の安易な幸せに、飛びかかった。自分の力で姉を笑顔にするのではなく、摩訶不思議な怪異の力に、神の力に頼ってしまった。それが原因。その単純な答えが原因。

 

「そして僕は『うん』と了承してしまったのです。」

 

「忠告してくれただけ僕はその怪異に感謝しています。何も考えなかった無知であった幼い僕のせいなのですこれは。」

 

 

「怪異側も姉を笑顔にするだけであるなら、ワライダケや、向精神薬や、麻薬がある様に、それに依存させたら、無理矢理にでも笑顔にできました。笑顔はもう科学で立証可能な現象なのです。」

 

 

 ただ純粋に幸せと笑いを起こすなら脳内のドーパミンをドバドバにすれば良い。ただの薬物中毒者にすれば僕の願いは叶う。だけどそうしなかった。もしかしたら元は心優しい怪異だったのかもしれない。対価を求めたとはいえ完全な形で幸せを実現したのだから。

 

「けどそうはなっていない______という事はどう言う事だい?幼き日のアヤベさんと葉月の間に何があったんだい?」

 

 

 探偵の推理を真剣に聞く推理小説の登場人物の様に、疑問に疑問と疑問を重ねてくる。

 

 

 何故、姉さんが泣いていたのか。

 

 何故、僕が怪異にそんな事を願ったのか

 

 何故、幼き日の僕は少女を助けられなかったのか。

 

 何故、僕が全てを僕のせいだとしているのか。

 

 何故、ルクス姉さんは死んだのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡単な事で単純な事です。ルクス姉さんは______元々存在しなかった。あり得なかった。死産していたんです。元の僕が願う前の世界では」

 

 

 

 

 そう、ありふれた怪異譚の様にオペラオーさんに言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

 

 

「僕が今まで歩んできた世界には『アドマイヤルクス』なんて姉はルクス姉さんは存在しなかったんですよ。それが家から帰るといきなり僕の姉として存在している。」

 

 

 そんな事あり得て良いはずがない。

 死者の蘇生など復活したキリストではないのだから、僕達人類は一時もそれを達成できてない。だからこその確信。だからこそのこの事故が僕によって引き起こされた事件だという確信。

 

 

「最初はあの真っ黒の化け物が化けているのだと思いました。家族達も洗脳されているのだと」

 

 

 だが、それは違った。

 それは大きな間違いであった。

 

 

「けれどもそんな雰囲気が、一切彼女からは感じ取る事ができなかった。それは最初から存在していたはずの僕の姉が生まれた世界に変わったんです。この世界が。」

 

 

 死者の蘇生が無理であるのなら、世界そのものを変えて仕舞えばよい。 

 シミが目立つのならば、布ごとその色に染めて仕舞えばよい並の暴論である。

 だけど怪異はやってのけたその大事を、それにどんな力が必要だったかは問うまでもない。だからこそどんな対価が必要なのかも問うまでもない。

 

 

「アヤベさんが泣いていた理由は死産したはずのルクスの事を思ってのことだった……のか?」

 

 

 戦慄した様子で僕に問いかける。まぁここまでくれば僕でも簡単に答えを導き出せることである。頭の良いオペラオーさんにわからないはずもない。

 

 

「はい。そうですね。そうなんですよ。残念ながら僕では笑顔にできなかった彼女をルクス姉さんはあっさりと笑顔にしていました。僕の怪異に頼まないと叶わなかった願いをこうもあっさりと」

 

 

「死産とはいえ死者の蘇生、それに対する対価が厳しいことなど想像に難くないでしょう。」

 

 

 僕はつまらない適当な話を言う様にオペラオーさんに聞かせる。これは僕が始めた道化話。何も救われない。誰も報われないただ一つの悲劇。

 

 

「その証拠として、僕は内臓がその日から数個______健康に害さない程度になくなっています。信じられないのなら診断書も出しましょう」

 

 

「ただ、これは分割払いの前金の様なもので、僕は最も幸せな時に完全な対価を払いました。」

 

 

「僕は子供の頃好きな子がいました。マンハッタンカフェという名のウマ娘です。僕は幼いながらに大胆なもので、彼女に告白しようとしたのです。姉が存在する世界になったその事件から丁度半年後に」

 

 

「少々不思議な子でして幽霊______常人には知覚できない怪異が見えてる子でした。その子に告白しようとその日は思ったのです」

 

 僕が悩んでいたのはこの子のこの体質を助けるか、姉さんを助けるか。その二択だった。この子の怪異に好かれる体質は子供ながらに危険だと思った。僕がなんとかしなきゃと。

 

 もしかしたら彼女を助ける願いをしていたらこんな悲劇は起こらなかったのかもしれない。

 

 

「告白自体は成功しました。おめでたくカップルの誕生です。ですが____その幸せの絶頂の時に対価を僕は支払いました。死者の蘇生の対価を。」

 

 

「真っ黒の底だけ世界が破けたかの様な謎の穴が現れて________________________そこから記憶がありません。ただわかっているのは血まみれでボロボロになった僕の体と消えた彼女。それだけでした。」

 

 

 これは僕の希望的観測に過ぎないのだが、その床に落ちている血液の量を考えると彼女が怪我をしていることはなさそうだとは思った。だが、しかし

 

 

「それ以降___彼女が僕の元に訪れる事はありませんでした。カフェが行方不明者としてこの世界から忽然と姿を消したのです。」

 

 

 黙って信じられない様なものを聞くオペラオーさん。僕が血まみれで帰ってきた事は姉さん経由で知っているのだろう。話に信憑性が増してきたことに対する恐怖感がオペラオーさんを襲う。

 

 

「僕は償いの為になんでもしています。カフェの捜索のために全国各地いろんなところを回っています。遺族に遺骨でいいから届けてあげたい。遺体でいいから備えてあげたい。ですが一向に見つけられない。一切の手掛かりもない。」

 

 

「だが!それなら!対価は支払い終わったのではないか!!?それならルクスお姉さんが亡くなった理由が説明つかない!」

 

 

 焦った声で大声を出してしまうオペラオーさん。もうすっかり僕達しか客がいないとはいえマスターの冷めた目が痛い。僕は宥める様にオペラオーさんに沈黙のジェスチャーをした後。

 

 僕が辿り着いた真実を告げる。

 残酷で冷酷で冷たい現実を

 

 

 「対価は____それだけじゃなかったんですよ僕の幸せの絶頂は7歳程度のそこであったけど、姉さんの幸せの絶頂は『菊花賞を2人で走ったこと』そうおそらくそれだっでしょうね」

 

 

「そして、それに付け加えるかの様におそらく僕はもう長くない。怪異に無責任な事を頼んで、ここまで人を呪い不幸に陥れている僕だ。自分の体の限界ぐらい自分でわかるんです。」

 

 

「右目、もう見えないんですよ。おそらく、アヤベ姉さんしかこの対価で生き残れる人はいません。僕はこれ以上姉さんを悲しませたくない______」

 

 

 紅茶を倒したのも、メニュー表がよく見えなかったのも、オペラオーさんを認識できなかったのも、右の視界が完全に塞がれてよくわからなくなっているからだ。

 

 僕はなんて罪深い人間なのだろう。

 僕はなんて許されざる人間なのだろう。

 僕はなんて気持ちの悪い人間なのだろう。

 僕はおそらく存在してはいけない人間なのだろう。

 

 オペラオーさんは頭を悩ませ、思考をし、ため息をつき、立ち上がり一言。

 

「……ボクにはそれが善か悪かなんてわからない。覇王としてならボクはキミを肯定したいところだ、『よく頑張ったと』『自分自身を否定するな』と。しかし、今日は一等星の騎士としてここに赴いた。………彼女がそれを許すかわからない。だから今日だけはボクは彼女に判断を任せるよ」

 

 あくまで中立的な意見。現実的問題を図れる人だ。それでいい。同情も同意も僕は求めていない。正義か悪かで言うのなら僕は悪に入り、善か悪かで言えば善になる人間だ。 

 

 一人を生かすために大勢の人を犠牲にした。その一人すら殺してしまった。だからこその悲劇だからこその喜劇。結果だけ見ればお笑い物だ。しかしその結果に至るまでの過程が悲惨なものである。

 

そして店員さんに一言。

 

「すまない。会計をよろしく頼むよ」

 

 そう呟き、僕の分の紅茶と彼女の分の紅茶の二つを

 その時彼女がポツリと

 

「今日の覇王は一等星に従える騎士だからね、後は彼女に任せることにするよ」

 

 

 

意味深な台詞を呟いた後に、古びた喫茶店を出て外に出ると、思考が止まった。佇立した。脳が理解を拒んだ。いるはずのない人物が、存在しないはずの人が、病院で寝てるはずの彼女が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには『松葉杖を持ちギブスをしたアヤベ姉さん』がただ立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「あまりボクが口を出せる事ではないからね。後は任せるよ」

 

 

 そう言ってその場を去るオペラオーさん。おそらく外で電話か何かでこの会話を聞いていたのだろう。

 ははは全部聞かれてたんじゃないか。

 僕はもう、おしまいだ。

 ルクス姉さんを殺したのも、姉さん自体の怪我も、自分自身の怪我で、アヤベ姉さんを心配にかけてたのも、これまで起こった不幸は全て僕のせいだ。

 

 彼女を渦巻いていた悲しみや怒りを僕にぶつけてくれ僕を怒るだけ怒ってくれ、憎悪や怨嗟を僕にぶつけてくれ、不幸なのは僕のせいだと嘆いてくれ、幸薄なのは僕のおせっかいによるものだと、怪異なんかに頼ったせいで私達は惨劇に巻き込まれたと、道化の一人遊びに付き合わせないでくれと。

 

 僕を殺して________楽にしてくれ。

 

 

 だが、そうはならなかった。希望していた事とは違う現実が、僕には理解の拒みたい意味不明な現象が、僕の想定とは全く違った世界が、そこには待っていた。

 

 

 アヤベ姉さんは松葉杖で一歩一歩近づくる。それが僕は死神の足音に聞こえた。今まで逃げてきた絶望へカウントダウンが一歩一歩進んできた。僕はそれにアヤベ姉さんから受ける暴虐の限りを怯え目をつぶっていると__________

 

 

 

 

 

 

 

 僕の唇はアヤベ姉さんに奪われその彼女の甘々とした彼女をそのまま受け止めた。

 

 

 

 

 反応が鈍る。曖昧模糊な現実を否定したくなる。なんだ。なんだよこれ。何があったんだよ。

 

 僕は理解不能になる。狂った物語に僕の人生に終幕を打てると思ったのに、なぜ僕は彼女にキスされているんだ。何故僕は自分を殺してくるべき相手に告白をされているだ。

 

 

「やっと……やっと手に入れたもう一つの私の一等星」

 

 

 彼女が呟く、僕に対して一等星と。

 それは______ルクス姉さんの席だ。僕の席じゃない。

 僕は座ってはいけない。座る資格などない。

 大罪人はここで死ぬべきなんだ。

 イカれてる。

 狂気の沙汰だ。

 

 

「ルクスがいなくなって天に登っちゃってね」

 

「ずっとずっとずっとずっと寂しかったの……辛かった……泣きたかった……悲しかった。」

 

「でもね葉月がいてくれたらねまだ私は一人じゃないって気がついたの。」

 

「葉月のおかげで私は一人じゃないって気がついたの。」

 

「葉月のおかげよ?正気を保てているのは」

 

 僕の目から見た彼女の目には灯火が宿っておらず、僕を永遠と求め続けている。明らかに正気ではないのに自分自身を正気だと言い張っている。

 正気じゃない僕に恋愛感情を向けるだなんて僕なんかにキスをしてしまうなんて二人も人を殺したこの道化師に愛を捧げるなんて。

 

 おそらく彼女自体も、僕と同じくおかしくなってしまったのだろう。僕の劇に巻き込まれてどこかネジが狂ってしまったらしい。そうに違いない。そうに決まってる。そうでないとおかしい。

 

 

「話をね聞いてなかったわけじゃないわよ…?」

 

「でもね?ルクスを殺したのはあなたでも、私は大丈夫よ?」

 

「薄々気づいていたの…ルクスがいない世界で一人で走る夢を見ていたの」

 

「ルクスが私のせいで殺されたって私のせいで走れないって」

 

「ルクス自体も自分が葉月に手を取られてこの世界に戻ってくる夢を見たって…」

 

 

「ルクスがね、葉月には内緒にしててって言ってたけど向こう側に引っ張られる夢を見てたからもう自分が長くないことは知っていたの」

 

「だからね……自分を責める必要はないのよ…?」

 

 

 

 安堵の表情で僕を見る。彼女は不完全な狂い方をしている。正気と思えば正気に見れるが、狂気のレンズで見たら狂気とも取れる。

 僕が無罪である理由がない。僕が許されるはずがない。僕が彼女に断罪されないはずがない。僕が彼女に殺されないはずがない。カフェを殺してしまった僕が許されるはずがない。ルクス姉さんを殺した僕が許されるはずがない。

 

「葉月の理論で言うとね多分優勝した日本ダービーじゃなくて菊花賞で不幸が起こった理由はね…私が葉月に告白しようとしたからなの」

 

「幸せになろうとしたわたしの責任でもあるの…そんなに自分自身を責めないで…」

 

 

 

 何を言ってるんだ姉さんは。

 姉さんが僕に告白?

 その愛はルクス姉さんに向けられる物だろう?

 世界が変わる前、いつも僕と遊んでいる時は無理矢理笑っていたのを知っているんだ。

 世界が変わる前、僕は姉さんに愛されていなかった事を知っているんだ。

 世界が変わる前、姉さんが一人で泣いていたことを知っているんだ。

 それは僕に向けられていい物じゃないはずなんだ。

 

 

 姉さんは狂ってる。

 

 

 

__________いや僕が狂っているのか?

 

もう、どちらでも良い。

どうでもいい。ただ疲れてきた。もう眠い。

 

 

 

「葉月は……私の前からいなくならないわよね?私に残っているのは葉月だけなの……葉月が私が生きている証なの……だからお願い。病院でその目や体は治していきましょう……?だから生きて……お願い」

 

 

 

 

 

 

 僕のせいだ。カフェがいなくなったのは。僕のせいだ。ルクス姉さんがいなくなったのは。僕のせいだ。アヤベ姉さんが狂ったのは。僕のせいだ僕が狂ったのは。

 

 

 

 ただ僕はその姉さんの狂いを見て、狂いを感じて________ただ今までの経験が全て救われた様な気がして、狂いながらでもようやく報われた様な気がして。

 

 

 僕は彼女に完全に心と身を委ね。意識を落とした。深い深い眠りについた。数日間の疲れが、家出での疲労が溜まりに溜まっていた。

 

 姉さんの胸はすごくすごく暖かくて気持ちが良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは僕がカフェを______救わなかった。

 カフェではなくアヤベ姉さんを優先した。

 

 

 ただそれだけの物語。

 

 ただそれだけの悲劇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 よう。

 

 

 いやはや残念無念。ここにきたからにはあとがきがあるのではないかと思った読むのに飽き飽きしてるそこのオマエ。ここは一定期間ずっと事後報告が終わるまで、俺様が占拠した。

 

 あ、後日談とかどうでもいいそのオマエ読み飛ばしていいぞ。

 

 

 あ?誰だって?まぁ正直なところ誰でもいいし誰でもないんだが。30代のタバコ咥えたスーツ姿のサングラスオッサンを想像してくれよ名前は______『タキオンのトレーナー』とでも名乗っておくか。正直に言うと、このあとがき以外俺様は表舞台には現れないだろうから問題ねぇよ覚えなくて。

 

 

 あ?

 『なんでタキオンのトレーナーがあとがきに現れんだ』って?

 おいおい質問が多いな、せっかちな奴は女にモテないんだぜ?知ってたか?因みに俺は知らなかったから、ここまで女を抱いたことがない。

 

 あははは!!!!!!!!!!

 まぁ正直なところ、誰が誰を抱こうが誰がどう生きようが、誰がどう救われようが、誰がどう誕生しようがどうでもいいんだけどよ。

 

 

 俺様は世界の糸の管理を任されてる怪異の専門家でね。俺様はとある怪異と契約してね。限りはあるが______並行世界の自分と自由に入れ替わることができるんだよ。ヴァレンタイン大統領あんだろ?ジョジョ7部の。あんな感じ。

 

 

 まぁ要するにテレビのチャンネルあるだろ?あれみたいな感じで好きな様に好きなタイミングで好きな世界に移動できるってわけよ。

 

 

 ま、そんな俺様の能力はどうでもよくて、今回『伊豆葉月』が基礎世界から大幅に歴史がずれて失敗した理由は『姉を救おうとしたこと』『カフェを救えなかったこと』だな。

 

 

 『伊豆葉月』がいる世界線での悲劇は『伊豆葉月』のあり方が変わらない限り『全てのものを救う』からこっちとしても、怪異に困ってる奴いたらテキトーに伊豆んとこか、フクキタルの嬢ちゃんにぶつければいいんだけどよ。

 

 

 まぁ何だ今回は相手が悪かったな。俺様も救える範囲では救ってるんだが、『伊豆葉月』が存在してる世界線はどうも後回しにしちまうんだよ他の世界の怪異で困ってるやつを救うためにさ。

 

 

 ん?俺様の在り方が神に片足突っ込んでるって?違いねぇ。

 

 俺の師匠は神様だかんな。

 

 

 俺様が気づいた時にはもう遅くてこの有様さ。俺様もバッドエンドは嫌いだからこの世界での後始末は色々とつけた。

 

 

 

 各人物のその後について話そうか。

 

 まずトップロードとオペラオー

 

 こいつらは問題ねぇな。今回の話にはトップロードの姉ちゃんなんかあんまり関わってねぇもんな。菊花賞優勝を伊豆家に台無しにされたのが可哀想ではあるが。

 

……オペラオーの嬢ちゃんが最後に騎士としてじゃなくて覇王として伊豆を救っていたら、葉月は狂わずに現実を見つめられたかも知れねぇが、アヤベ嬢ちゃんに譲っちまったから後の祭りさ。

 

 

 

 次にアドマイヤルクスか…

 

 

 不幸な嬢ちゃんだな……こいつだけは、救おうとしても救えない存在自体が稀なレアキャラみたいなもんだな。

 こいつを救う方法は前述の通り『姉を救おうした上で』『カフェを救う事』だな、別に最初から存在してる世界線なら問題ねぇが、あの神様もどきと契約した上でってなるとな。

 

 因みに神様もどきはオマエ達の通常ルートと呼ばれる世界でも葉月と契約してんだが、もしかしたらウマ娘の存在しない世界に行った理由はそれかも知れねぇな。

 

 

 

 あーマンハッタンカフェか

 

 こいつ伊豆には死んだと思われてるけど、普通に生きてるぜ?まぁ別の世界に飛ばされる形でだが。まぁ要は最初の伊豆と同じ感じだよな。

 

 因みに別世界に飛ばす怪異に勝つ方法は『だるまさんが転んだ』で溶けたり折れたり抉られたりする体の痛みに耐えながら動かない事だな。

 

 難しいがこれをクリアできたらルクス嬢ちゃんととカフェ姉ちゃんとアヤベ嬢ちゃん全員を救うことができる。つーか世界の伊豆がやってた。

 

 

 つまりあれだ。アヤベ嬢ちゃんの史上最高の幸せを存在しないことにするんだよ。カフェと葉月が付き合ってると言うのがある事で。

 

 最大の『幸せ』はすぐ近くに存在するんだが、それには手を出せないという感情のバグで怪異の代償を無かったことにする。

 というかこの怪異の代償トリガー自体が最大の幸福とか抜かしながらただ『恋愛をすること』だったりしなくもないんだが

 

 まぁアヤベ嬢ちゃんには残念だが、葉月と付き合える未来と妹が存在する未来ってのは同時に存在できないんだ。

 

 

 もしかしたら2人とも別世界に飛ばされて『ウマ娘の存在しない世界』ですらマンハッタンカフェと付き合ってる未来があるのかもな。

 

 

 

 

 

 

 おう、アドマイヤベガか

 

 

 良かったな付き合えたぜ。ハッピーエンドだ。……なんて口が裂けても言えないよな大好きな弟は狂うし妹は死んでしまうし、何なら自分自身もだいぶおかしくなってるし。

 

 

 まぁ安心して欲しいのはこの先の未来はそう暗くないってことだな。俺様が怪異による被害を知覚した世界線はバッドエンドが嫌いだから軌道修正する。もう助からないとしてもさ。やれることはやるんだよ。それが仕事ってもんさ。

 

 まぁこの世界ではあれだな。この世界でのフクキタルの嬢ちゃんに俺から頼んでおいたよ。伊豆とアヤベの嬢ちゃんについた代償ってのを解いておく。気休めにしかなんねぇがこれ以上の不幸も訪れないだろ。

 

 アヤベの嬢ちゃんが正常になった伊豆と幸せになれることを願ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 伊豆葉月

 

 まぁあれだ。

 この世界ではやることなすこと裏目に出たな。姉を救いたくてわけわからん怪異にどでかい借金作っちまったし、カフェを救えなかったから、趣味という趣味が消え、趣味という趣味が消えて保護欲を誘ったからこそ、アヤベの嬢ちゃんが恋愛感情を抱いちまった。

 

 

 

 ただアヤベの嬢ちゃんと付き合えただけ、まぁ救いがある様な気がしたが、本人はアヤベの嬢ちゃんが狂っているだけと思い込んでいる狂人になっちまった。

 

 

 

 全然全くこれっぽっちも笑えねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 俺様は悲劇は見慣れたがそれはそれとしてハッピーエンドが好きなんだ。だからこそ基礎としてる世界線でもアグネスタキオンを通して伊豆とはいつでもコンタクトを取れる様にしている。

 

 

 

 伊豆葉月の在り方に疑問は持っちゃいないが念のためな。

 

 

 

 さてこの世界の話は一旦閉幕ってことだが、結局のところ俺様が言いたいことは『もし』だとか『あの時こうしてたら』だとか言ったところでその先にあるものは誰にもわかんねぇし俺様みたいに怪異と契約しないとその先が見えないから。考えるだけ無駄だ。

 

 

 今を生きて今を謳歌しろ。

 

 

 語り部はアグネスタキオンのトレーナーで送ったぜ。

 

 

 

 

 






 アヤベさんにハマっているので書き殴りました。

 基本的にカフェを選ばないとバッドエンドになります。
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