『ウツミちゃんの夢ってな〜に?私?私はねえ、ウツミちゃんと一緒に生徒会で働くこと!』
姉さんはまだアビドス高校に入学する前まだはよく僕に夢を語ってくれた。
いつか僕と一緒に生徒会でアビドスを支えるために頑張るのだと。
でも入学してしばらくしてからは逆のことを言うようになった。
はっきりとではないけどやんわりと。
それとなく別の高校のパンフレットを机の上に置いたりとか、わざとらしく他の高校の学園祭の動画を見せてきたり。
姉さんもわかってしまったんだ。アビドス高校は——沈みゆく泥舟なのだと。
でもね姉さん、隠しきれてないんだよ『夢』が叶うことへの期待が。
けどその『夢』は叶えることはできない。沈みゆく泥舟にわざわざ身投げするなんて——そんな覚悟僕にはないんだ。
でも別の高校へ入学することは姉さんのまた別の『アビドス高校の復活』を否定することになる。
不可能と見限ることになるから。
僕の思いと姉さんの思いその二つを傷つけないために僕は————————————————
第一話
長続きした梅雨*1が開けてしばらくした頃、セミ*2が鳴き始めるとともに学業を一区切するアビドス中学校全生徒待望の学生だけの特権──夏休み*3が始まる……!
ある者は勉強へと費やし、またある者は遊びに捧げ、そしてある者は己の趣味へと集中する。
過ごし方は多岐にわたるが、各々が学生らしい生活をしながら、友と共に夏休みというボーナスタイムを生きていく。
そんな中、中学生らしからぬ事柄に手を染めるものがいた……!
「本日11時から——様と面談予定の梔子と申します」
受付はロボットではなくヘイローをもつ人間が来たことにギョッとしながらも面接の控室まで案内してくれる。
その案内に従いながら僕——梔子ウツミは控室に移動する。
そう僕です。就活してます。スーツに袖通してます。
何してんねんもう夏休みも終盤やぞ。
(今日まで何して過ごしてたっけ…)
今日までを振り返るために先ほどたどり着いた面接会場の控室の中で、頭の中の記憶を探る。
そこには友だちとビーチでキャッキャと遊ぶ煌びやかな思い出───などはなく。
面接とかいうなんなら期末テストよりもクソだるい一大イベントに傾向と対策を立て、確実に採用されるために、ネットで調べた手本の定型分と何度も睨めっこしながら、終わらないカンペづくりに血涙を流し苦しむ自分の姿があった。
そんな苦しい生活の中でもとりわけ手を焼いたことがある。
それは僕の姉さん——梔子ユメへの対処だった。
姉さんは頻繁に自分の思ったことや今日の出来事を話すためにノックもせずに僕の部屋にやってくる。
例を挙げるならば、
『今日おばあちゃんを助けてあげたー』とか
『柴犬が店主のあそこのラーメン屋さんがめちゃくちゃ美味しかったー』とか
『ドレスとかけまして桜の木と解きます。その心はー…!どちらも”はな”があるでしょーっ!』
といった感じである。
まあまあ大きめの声で突然入ってくるのでもはやテロに近い姉さんの所業。
正直ノックなしはやめて欲しいので、昔は毎回注意してたけど———改善の余地が見られないため結構前に諦めた。
だが別に嫌というわけではない。
しょうもないことを言われることもあるけど、役にたつ情報や心が弾む楽しいことを行ってくれる時もある。
そして何より、姉さんが楽しそうに喋っているのを見れるのが嬉しいのだ。
姉さんがあの泥舟の舵をとりながらも、絶望することなく毎日を遅れていることを確認できて。
だからといって、流石に今のタイミングにやられるのはきついものがある。
これがただの企業ならいいが……僕の入りたい企業は姉さんとかなりの因縁がある。
いずれなぜ所属したいのかを説明するつもりだが……いまはまだ覚悟ができてない。
覚悟ができないうちは姉さんに見せたくない。
でもお転婆な姉さんはこちらの考えガン無視でこの不定期開催の会話イベントをしにやってくるのだ。
そう、このゲリライベントこそが僕が1番手を焼いた事柄なのだ。
ここでミソなのが”毎日”ではなく、”頻繁に”というところだ。
毎日来てくれるのなら気を引き締め対処しやすいのだけども、姉さんのこの会話イベントは不定期開催である。
前回のイベントから日が経ち、気が緩んだところで、狙い澄ましたかのように突撃してきたり、逆に気を張っていてもこないというフェイントをかけてきたりと確実に心から削りに来ていたのだった。
そしてついにボロが出てしまう。
「はぁ……」
控室には他の人(機械?)もいるというのに思わずため息が出てしまう。
(あ、やべ)
時すでに遅し。
辺りを見回すと、案の定他の人(機械?)から怪訝な目(目?)で見られていることに気づく。
だが仕方がないだろう。あの日のことを考えるとついため息も出てしまうものだ。
『ねえねえウツミちゃん!聞いて聞いて!』
『アァア!?』
『えっ?何?どうしたのウツミちゃん!?』
思い返すのはついにバレかけた日。
完璧なカンペ*4作りの最中、企業から面接希望日を聞く旨のメールが届く。
疲れていたためか警戒を緩めしまったせいで、メールを開けた瞬間に、夜間布団の中でゲームする息子からゲーム機をとりあげる母親のような気配のなさと唐突さで、理不尽を振りまく姉さんに無防備に部屋への侵入を許してしまう。
パソコンの電源をおとす時間さえもなく、宛先に書かれている企業名をみられてしまうという究極のリスクに迫られた僕は———パソコンに張り付くセミとなったのだ。
セミと化
そこにはかなり疑っている表情の姉さんがいた。
『ねえ、ウツミちゃん。もしかして……』
『いや、ちがっ』
『”そういうの”みてたの……?』
『!?』
『ごめんね。ウツミがいつもノックしていってたのはそういうことだったんだ……。お姉ちゃんちょっとデリカシーなかったよね。次からは…お姉ちゃんちゃんとノックするからね…!』
『いや!ほんとに!それは!』
そういって姉さんはぼくに弁解の余地も与えず即座に出ていった。
僕は姉さんにピンク色の誤解を招きながらも自分の守りたいものを守り切ったのだった。
いやこれバラしたほうが良かったんじゃないの?
(いやでも大丈夫。ちゃんと報われる。)
回想から戻り右手の腕時計で時間を確認しながら、ここまでの気苦労は無駄ではないと自分を鼓舞する。
(…そろそろ自分の番だ)
控室に取り付けられたスピーカーからの『次の方どうぞ』の音声案内を聞きいて、サッと立ちながら気を引き締めて、面接室の扉のまえに立つ。
深呼吸を数回したのち、覚悟を決め、王冠を被ったタコのロゴが刻印された面接室の扉を3回叩く。
そう、僕があんな勘違いを起こしながらも頑なに隠した企業名とは———カイザーPMCだ。
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僕が小学生の時、内気なこともあってクラスの輪に上手く馴染めなかった。
少しおどおどしてて付き合いが悪い典型的な人見知り、それがクラスの子の琴線にどうやら触れてしまっていたらしい。
少し時間が経ってから、みんなから無視されるようになった。
さらに時間が経つと陰口から直接の悪口へ、自分の持ち物が隠されるといった実害が出てきて。
またさらに時間が立つと暴力まで振るわれるようになった。
頼りになる大人はいなかった。講師を受け持つロボットの先生に相談したことはあった。
だが無視された。面倒ごとはごめんだと。
姉さんにはいえなかった。
迷惑をかけたくなかったから。
でも銃弾で撃たれて顔に頭ができた日は流石に隠しきれなくて、姉さんにすごい剣幕で何が起きたのか聞かれた。
姉さんのみたこともない剣幕に負けて、これまであったことの数々を打ち明けた。
出来事の数々を聞いて、姉さんは何か覚悟を決めたような表情をして、それからよく頑張ったと口にした。
次の日姉さんはとんでもない行動に出た。
姉さんはたくさんの友達を連れてきて、授業中なのに僕らのクラスに入ってきて、姉さんの友達たちは僕のいじめっ子たちを取り囲み荒々しい説教を始めた。
姉さんはやりすぎとその友達たちを宥めていたが、いつもと違って表情が堅かったので、同じく怒っていたんだろう。
それから姉さんが優しく諭すように説教を始める。
小学生にとって上級生とは雲の上のような存在だ。だから逆らえないしどんなに優しくても少し怖い。
どちらの説教方法も彼らにはよく効いたのだろうか、次の日にはみんな頭を揃えて下げに来た。
『私は授業終わってからにしようって言ったんだけど……』
あのアイデアは友達のものだから私は特に何もしていないと言ってたけど、そんなことはない。
姉さんがみんなと相談してくれたから、いじめがなくなったんだ。
紛れもなくあの日僕を救ってくれたのは姉さんだった。
あれから誰にも負けないくらい強くなろうと、次は姉さんから頼られるようになろうと
精進した。
今や街にいる不良たちは苦もなく返り討ちにできるようになった。
だからこそ今、僕の『夢』が叶えられる。
姉さんから見れば裏切るも同然なんだろうけど、安心して。
ちゃんと
罪悪感で溢れながらなんでこいつはこんな軽いノリなんだ?
梔子ウツミ
既に強化イベントを済ましているが、強化イベントが一度という道理はない。
姉とは違い現実をみていて、姉の野望とは反りが合わない。
でも姉を傷つけないために自分の心を守るために嘘をつく優しい人。
最近姉にあらぬ勘違いをくらい弁解できてない。厳しいって。気まずいって。
梔子ユメ
残念ながら強化イベントはやってこない。最近妹がノックをあんなにも懇願する理由を知った。
かなり反省している。