「我が社の志望動機を教えてください。」
「それは……」
「———ああそれと。—————あなたのお姉さんはどうやらアビドス高校に所属しているよう ですが…?重ねて聞きますが、それでも我が社を志望する動機とは?」
「…」
志望動機の確認に挟まれた突然の質問。
やけにわざとらしい質問口調の面接官の言葉に、入室から着席、自己紹介。それまで100点満点中満点と言っていいほど進行していた面接の出鼻をくじかれる。
疑われているのだ。お前は不穏分子ではないのかと。
現在アビドス高校はカイザーローンに多額の借金を負っている。
理由は数十年前から始まった急激な砂漠化への対策のための投資。
しかし砂漠化の対策は思うようにいかず借金ばかりが膨らんでいき、学校の経営は破綻。
その結果、生徒とその自治区の人口の流出が止まらず、現在でもなお悪化の一途をたどっている。
その衰退に関わっている企業の系列への入社。
僕の相手をしている面接官はスパイでもするつもりかと疑っているのだろう。
誤解を解くために本音を明かす。
「…僕が御社を志望する理由は…アビドスへの勢力拡大の一助をさせていただきたいからです。
「…ほう?」
「現在アビドス高校は多額の借金を負っています。それゆえに返済を今でも続けていますが…その返済も長くは続かないでしょう。生徒の流出により収入が安定しないアビドス高校は、このまま続けば、返済の継続が不可能になり…向こう側は土地の売却をするのみとなります。」
「話を続けます。知っていると思いますが、キヴォトスの生徒たちは皆自身の生まれ育った土地に並々ならぬ愛着を持ちます。流石にほとんどの生徒はアビドス高校を見限っているようですが…それでも何人かの生徒はいまだにあの高校へと進学しています。そんな彼らは、土地の売却———自身の学校を捨てることに対して、少なからず抵抗をしてくるでしょう。その時の制圧に力を貸すことができればと。」
数あるカイザー系列の中でPMCを選んだ理由、それは武力行使におけるヘイロー持ちの有用性だ。
PMC兵士たちは、そこらにいる不良生徒ですら負けてしまう雑魚である。
いずれ起きるであろうアビドス生徒たちとの武力衝突はかなり不安材料ではないのだろうか。
しかも噂によれば、あの『小鳥遊ホシノ』がアビドス高校を志望しているらしい。
であるならば、ヘイロー持ちの戦力がこちら側にいることはかなり嬉しい要素となってくるだろう。
自分で言うのもなんだが、僕はかなり強い。この強さが入社へ一歩進ませるだろう。
「なるほど。素晴らしい志望動機をありがとうございます。重ねて聞くようで申し訳ないですが———アビドスの復興についてはどのようにお考えで?」
こちらに傾きつつある相手の心をもう一押しするために、普段家族には言えない、本音をぶちまける。
「……正直不可能だと思っています。アビドスをもう一度興すには……あまりにも問題点が多すぎます。借金返済を頑張っている彼らには申し訳ないですが…泥舟を泥で補修しているようにしか思えません。」
そうだ。不可能に決まっている。
砂漠化、人口の流出、負債の返済。
どれも手を施すにはあまりにも遅すぎるのだ。
穴が空いた沈没する船に乗客員ができることなんて…祈りをあげることだけだろう。
「ええそうですよね!彼らは頭が悪すぎる…!アビドス高校はもう詰んでいるんのにまだあがこうとする…!いやあ生徒会のあのバカの妹と聞いてどんなやつかと思っていたら…こんな賢い子だったなんて…!…おおっとすみません。それでは面接の続きを始めましょう!」
「…ええ。」
先ほどとは打って変わった底抜けに明るいこちらの本音への賛同。姉の悪口にキレそうになるが、こちらへの上機嫌を崩さないために怒りを押し殺す。
その賛同が、自分の相手へ媚を売る態度が、お前はアビドスを、姉を捨てる最低なやつだと言っているように思えて、僕をひどく苛立たせた。
その後面接は滞りなく進み、程なくして終了した…
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(…クソっ…)
面接でのやり取りを思い出し、苛立ちながら、駅に備え付けられた大型のロッカーを開けて、朝に姉さんにバレないように、家を出た時に着ていた私服を取り出す。
今朝は、まるで親にバレないように学校をサボる学生のように、カバンの中にスーツを隠して普段の格好で面接会場に向かっていたのだ。
同時にかさばるためにロッカーに置いて行った愛銃も取り出す。
口径5,56mmのアサルトライフル。小学4年の頃、広告で一目惚れした僕は姉と一緒にわざわざミレニアムまで行って買ってもらってから、今も大事に扱っている。
トイレで着替えを済ませ、改札を通り、自宅の最寄駅へ向かう電車を待つ。
アビドスでは砂漠化の影響もあって、かなりの路線が廃線となっているが、ありがたいことに最寄駅が含まれる路線はなんとか踏みとどまっている。おかげで都市部までの行き来が楽だ。
しばらくして、到着した電車に乗り込み、座席に座る。全然人がいないので、余裕で座れる。
電車の弱冷房で涼みながら、今後のことについて考える。友人や姉への説得をどうするか。
まだ誰にもカイザーに入る旨を言っていない。だからもし落ちたら言わなくて済む。
が、それはそれでアビドス高校行きというまた別の苦しみが待っているので、受かってて欲しい。
友人たちの中にアビドス高校志望の猛者はいないので、カイザーに対する対抗は薄い。
だから、金を稼ぐため、なんて言えば、姉さんが生徒会で借金を返済していることと整合性がとれて、驚きはすれども納得はしてくれるだろう。
でも姉さんにはどう言おうか。一応言い訳は考えている。外からではなく、従来のアプローチから変えて、敵であるカイザーのスパイをする、なんて言えば、カイザーPMCに入ることに納得してくれるだろうか。
だが仮にカイザー系列に入ることに納得したとしても、PMCに入ることだけは難色を示すはずだ。なんせ軍事関係の会社なのだから危ないことでいっぱいのはずだ。
キヴォトスのヘイロー持ちは皆総じて頑丈だから、大事に至る、なんてことはそうそうないはずだが、姉さんからすれば、大事な肉親が危険に晒されることなど会ってほしくないだろう。
そこはどう言い訳すれば……
「うごくな!武器をすてて両手を上げろ!この車両は私たちプルプルヘルメット団がジャックした!命が惜しければ金目のものを出せ!」
突然、車両の前から大きな声で犯行が告げられる。
それと同時に後ろの座席に座っていた乗客が僕に銃を突きつける。
どうやらお金が欲しいようだ。
他の座席に座っていた数少ない乗客がゾロゾロとリーダーらしき人の周りに集まる。
乗客だと思っていた他の人たちはなんと、なんとかヘルメット団の一味だったらしい。
どうりでふざけたヘルメットをつけているわけだ。
「おい!お前!お前に言ってるんだぞ!そこの緑の髪のショートの女!」
「え?…僕?」
「当たり前だろ!お前以外に誰がいるんだよ!」
それもそのはず列車に乗車した人間はこのふざけたヘルメットどもと僕以外にいないのだ。つまり必然的にターゲットは僕のみとなる。
「…あのさ。なんで僕一人なのにジャックとか敢行しちゃったの?
利益とんでもなく低くない?」
「うるせえ!この後焼肉の予約があるんだよ!巻き上げた金で食うつもりだったやつが!
クソ!一人からしか巻き上げられないんじゃほぼ自腹じゃねえか!」
「そうだよリーダーどうすんのさ!私今月金欠なのに!」
「うるせえ!知るか!」
「えぇ…」
あまりの計画性の無さに思わず声が漏れる。
しかし焼肉を食うつもりだったのならば、もっといい感じに金を巻き上げられる場所があるはずなのにどうしてこんなところでことを起こしてしまったのだろうか。
まあいい。
見たところヘルメットの奴らは5人。
今後ろから銃を突きつけている奴が1人。
横から動きを監視している奴が1人。
頭とその周りに集まったやつ合わせて3人。
この列車は2両編成だから後ろの方で待機しているかもしれない。
見たところ通信機器の類は持ち合わせていないようだ。スマホでやり取りを行なっているのかもしれない。
と、すると後部車両への伝達は少し遅れがでる。
銃撃の音がしてから気づくだろう。
…よしやれる。
「後ろにいる子と横にいる子は大丈夫なの?焼肉」
「私はだいじょうぶかなー。なんかあった時のために貯めてるし」
横の子が僕の問いかけに答える。
どうやら焼肉の費用は問題ないみたいだ。
…いや貯めるほどの堅実さがあるならジャックなんてするなよ。
「黙れ。いいから立て。そして両手を上げろ。」
後ろの子がそう答える。
どうやら話をするつもりはないみたいだ。
…この子のミスは座席の後ろに立って銃を突きつけていること。
そして僕を立たせようとしていること。
立っていることでより僕との間合いが近くなる。
そして立とうとする動作のおかげでよりスムーズに殴打の動きができる。
両手を上げ、手に持った銃を落とす。
二人の意識が落ちる銃に逸れたところで,で突如として体を反転させ、後ろの子を殴り飛ばす。
結構な力で殴ったせいか自分の拳がヘルメットを貫通する。
殴られた勢いで座席の窓に叩きつけられ、ガラスが割れる音を背中で聞きながら、横の子を蹴り飛ばし、落とした銃を拾い、意識を刈り取るために頭部へ集中射撃。
「…一つ訂正させてもらうね」
「君たちが巻き上げられる金額は————0だ」
「てっ…てめ…!」
降り注ぐ銃弾の雨を座席の背もたれで避けながら、銃に力を込める。
いつからかできるようになったことだけど…体から銃へ力を分け与えるようなイメージをすることで銃弾の威力が跳ね上がるようになる。
奴らはさっきから少しも車両の先頭から動いていない。
背もたれの裏からリーダーの位置にあたりをつけ…発砲。
何席もある座席の背もたれを貫通しながら…リーダーの腹部に着弾。
「ガッ…!」
「なっ…!リ…リーダー!」
「大丈夫ですか!」
突然撃たれたリーダーに訳もわからずに動揺する古文たち。
その隙を逃さない。
動揺している隙に傍の子分たちに正確に頭部に銃弾をお見舞いし、意識を刈り取る。
これだけ派手にやったのに後部車両からは援軍は来ない。
おそらく待機してる奴らなんていなかった。
残るはリーダーだけだ。
「いやあ、ごめんね。君の子分たちを痛めつけちゃって。
僕もあんまり痛くするの好きじゃないんだけどさ……まあ…襲われちゃったからには…‥
仕方ないよね?」
「クソっ…!クソっ…!クソがアアアアアアアアアアア!!!」
こうしてヘルメット団たちの焼肉を他人の金で食うと言う野望は僕によって打ち砕かれたのであった……
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「ただいまあ〜〜」
「ウツミちゃんおかえり!どうしたの?おやつの時間くらいにはかえるっていってたよね…?」
列車の中でのいざこざの後、めちゃくちゃ遅れてきたヴァルキューレの人たちへのヘルメット団たちの引き渡し、事情聴取により帰宅時間がとことん遅れた僕は疲れ果てながら帰宅した。
「いやそれがさ…電車に乗ってたらヘルメット団たちに襲われてさ。そのいざこざのせいでこんなに遅くになちゃった…」
「ええっ!!大丈夫!?怪我とかない!?」
姉さんは慌てふためきながらも僕に近づき、怪我がないか確認するかのように、僕にベタベタと触る。
「ちょっ…姉さん、怪我なんて一つもないし大丈夫だから…」
「ほんと!?よかったぁ…」
姉さんはやっぱり心配性のようだ。
「それよりご飯作らなきゃ。僕が遅かったからまだ作ってないでしょ?急いで作らなきゃ…」
時刻はもう7時ごろ。
今から晩御飯を作るなら悠長にしてられない。
ご飯は昨日余った分があるから、炊き込みに時間はかからない。
今から何作ろうか、そう考えていると
「ウツミちゃん。安心して。私もう料理作っといたから!」
「え?全部作ってくれたの?…ありがとう…」
我が家ではいつも姉妹で手分けしてご飯を作る。
全部一人で作ったとなると相当な労力のはずだ。
少し申し訳なく思う。
「いいよ全然!あ、今お風呂沸いてるから、ご飯の前に入っちゃって!」
「わかった」
ここにくり広げられるはなんの変哲もない我が家の日常。
「失礼します」
「入れ」
「先日行われた面接の合格者の一覧です」
「またそれか。そんなしょうもないことのためにわざわざ時間はさか—————
「いえそれが…合格者の中に興味深い名前の人物がいまして…名を『梔子ウツミ』と言います…」
「ほう?あのアビドスの…その妹か」
「はい」
「…面接時の録音は残してあるんだろうな」
「おそらくは」
「ククク…!これは面白いものが見れそうだ…!」
梔子ウツミの志望動機
他の高校に入る→姉のアビドス復興という夢を否定してしまう
同じ高校に入る→沈みゆく泥舟になど乗りとうない
↓カイザーPMCに入ればええやん
*内側から叩き込むことで協力していると言い訳できる
→姉の夢を否定せず、さらに姉の気持ちを傷つけない
*泥舟どころか将来が確約された特急号である。