万年見習い底辺絵師の俺でしたが爆乳少女たちをモデルにしてからバズりまくってます 作:青ヤギ
火村さんに案内されたアパートを見て、俺は驚いた。
いまどき、こんなドラマに出てくるような建物があるのかと。
蘭胤荘、と表札には書かれていた。
「これ、なんて読むんだ?」
「『らんいんそう』よ。ようこそ、カケル。我らが住まいへ」
「……あのさ、火村さん。やっぱり名前で呼ばれるのは、少し慣れないというか……」
「璃里耶よ」
「うっ」
「璃里耶って、呼んでちょうだい」
彼女の笑顔には圧があった。
呼ばないと、すき焼きを食べさせないわよ? とばかりに俺の前に立ちはだかる。
己の飢えた胃袋を救うため、俺は意を決した。
「じゃあ……り、璃里耶」
「うん」
璃里耶は満足そうに返事をした。
異性と名前で呼び合うなど、人生で初めての経験だった。
照れくささを誤魔化すように、俺は蘭胤荘を観察するフリをする。
「その、なんというか……レトロ好きにはたまらない感じの建物だな?」
「素直にボロいって言っていいわよ? 実際にボロいわけだし。でもまあ、住めばなかなか快適な場所よ。カケルもきっと気に入るわ」
そう言って璃里耶は、錆だらけの門を開ける。
反射的に耳を塞ぎたくなるような、鉄の悲鳴が起こった。
こんなオバケ屋敷のような場所で璃里耶は本当に住んでいるのか?
しかし実際、玄関には明かりが灯っており、人が暮らしているらしき気配もある。
磨りガラスの格子戸を開けて璃里耶は「ただいま」と言った。
「さあ、入って」
俺はいまだに及び腰になりながらも、玄関に入った。
中は、田舎にある祖父の家と似たような匂いがした。
古びた木材特有の香りだ。
「トイレは玄関のすぐそこの扉。廊下の途中にあるのが台所とダイニング。奥が風呂場になってるわ」
靴を脱ぎながら璃里耶が簡単にアパート内の説明をした。
「住人へのご挨拶は後にしましょ。とりあえず大家にあなたのこと説明しなきゃ。姉さん! いる~?」
璃里耶が大きな声で呼びかける。
へえ、こんな声も出せたのか。
教室とは異なる璃里耶の様子に新鮮味を覚えた。
「ん~? な~に~?」
廊下の途中にある引き戸が開く。
璃里耶の説明によれば、ダイニングルームの扉だ。
そこから間延びした、どこか呂律の回っていない声がしたかと思うと、ひとりの女性がヌッと出てきた。
「ブッ!?」
俺はギョッとした。
長身の若い女性だった。ブロンド色の長い髪が似合う、色白の美人さんだ。
しかし、非常に目のやり場に困る格好をしていた。
上は黒のタンクトップ。下はなんと桃色のショーツ一枚だけだった。
鼻腔から熱いものが噴き出しそうになるのを抑え、俺は目を逸らした。
「ん~? だれ~? その薄汚い坊や~」
「同級生の空野カケルくん。住む場所に困ってるみたいだから連れてきたの」
「な~に~璃里耶~? またそういう子拾ってきたの~?」
拾ってきた、って……俺は捨て犬かよ。
「紹介するわカケル。こちらが蘭胤荘の大家で、私の従姉妹の
「よろ~。一応、君らの学園の卒業生だから、大先輩として敬いたまえ。ヒック」
大家さんが近づいてくると、酒臭い匂いが漂ってきた。
大家さんの手には日本酒の一升瓶が握られていた。
トロンとした目つきに、赤く上気した顔を見るに、どうやらすでに酒が回っているらしい。
そのせいか妙に艶めかしい雰囲気が滲み出ている。
刺激的な格好も手伝って、いけないと思いながらも、つい視線が引き寄せられてしまう。
大玉のスイカのように大きい胸。
タンクトップの緩い肩紐がズレ、いまにも見えてはいけないものが見えてしまいそうだ。
ショーツから伸びる丸出しの太ももも、足フェチなら一瞬で悩殺してしまえそうなムッチリ具合だ。
エ、エッチすぎんだろ!
年頃の男子には刺激が強すぎる!
ていうか、男の俺を前にしていながら、大家さんはまったく恥ずかしがる素振りを見せないんですけど!?
「ちょ、ちょっと! 何か服を着てください!」
とうとう耐えきれず、挨拶よりも先に大家さんに着替えを要求した。
大家さんは「ん?」と首を傾げる。
「着てるじゃん。タンクトップにパンツ」
「人前で見せる服じゃないでしょ!? 特に男の前では!」
「だって風呂上がりで熱いんだも~ん。グビグビ」
「熱いなら、お酒飲まないでくださいよ!」
「何言ってんの? 風呂上がりなら飲み物を飲むのが普通でしょうが」
「飲酒は水分補給じゃありません!!」
「まー、堅いこと気にするなよ少年。サービスだよサービス。せっかくだから目に焼き付けたまえ」
と言って、大家さんは挑発的に乳房を揺らし、酒をラッパ飲みする。
完全に酔っ払いだ。
「ちなみに、姉さんはシラフでもこんな感じよ」
マジかよ。
こんな人が真っ当に大家としての仕事を……いや、そもそも社会人をやれているのだろうか。
本当に俺はここに住むべきだろうか?
「……というわけで、彼をここに住まわせたいの。いいかしら、姉さん?」
葛藤している俺の横で、璃里耶はあらかたの説明を終えたようだ。
俺の懐事情も伝え、家賃を待ってほしいと頼むと、大家さんは「ふーん」と真顔になって、しばし考え込む素振りを見せた。
すると、とつぜん酔っ払いとは思えない、鋭い光の宿った瞳を向けた。
「……アンタが拾ってきたってことは、その子にも、何か特別なものがあるってわけね?」
大家さんの奇妙な問いに、璃里耶はどこか誇らしげに頷いた。
「凄いわよ、彼は。きっと、皆にとっても刺激になる」
璃里耶がそう言うと、大家さんはまた酒をひと口飲んでから、静かに頷いた。
「いいよ。家賃は待ってあげる。空いてる部屋はいくらでもあるから、好きなとこ使って」
「へ?」
あっさりと了承され、俺は素っ頓狂な声を上げた。
「い、いいんですか本当に!? 入居審査とか、そういうのとかも無しで……」
「ああ、そういうのいいから。というか、璃里耶が連れてきた時点で、ここの入居条件は満たしてるようなもんよ」
「……どういう意味ですか、それ?」
「そのまま意味よ。ラッキーだよ、君。璃里耶のお眼鏡にかなう子なんて、そういないんだから」
口ぶりからするに、蘭胤荘の入居審査は、大家さんではなく璃里耶に委ねられているらしい。
従姉妹の璃里耶を信頼してそんなことを言っているのか、それともただ面倒だから丸投げにしているのか、俺には判断がつかなかった。
「細かい手続きも後でいいから。とりあえず……先に風呂、入ったら?」
鼻を手の甲で押さえながら、大家さんは入浴を勧めてきた。
……そうだった。
いまの俺、完全に悪臭を放つ小汚いホームレスそのものだった。
素直にお言葉に甘えることにした。
服も全部洗濯したほうがいい、と璃里耶に言われた。
着替えは大家さんが持っている大きめのジャージを借りることにした。
「洗濯機は脱衣所にあるやつを使って。面倒だろうけど、下洗いしてから入れてね」
璃里耶に風呂場へ案内され、一通りの説明を受ける。
下洗い用の洗面器を渡されると「じゃあ、ごゆっくり」と璃里耶は扉を閉めた。
もともと学生寮だったためか、脱衣所はそれなりに広く、洗面台もふたつあった。
静かな脱衣所でひとりきりになったことで、ようやく気持ちが落ち着いてくる。
思いきって入居を決めてしまったが、本当にこれで良かったのかな。
とはいえ、他に行くあてもない以上、しばらくはここで暮らすのが最善と言えるだろう。
とりあえず、いまはとにかく身を綺麗にして、人並みの生活に戻るべきだ。
衣服をすべて脱いで素っ裸となり、汚れた服を下洗いすることにした。
すると、脱衣所の扉がとつぜん開く。
「え?」
「は?」
扉を開けた少女と目が合う。
璃里耶ではない。
黒のロングストレートヘアーの、幼い顔つきをした女の子だった。
手元には、バスタオルと着替えらしきものがある。
いまから入浴しようと入ってきたに違いない。
時間が止まったかのように、お互いの動きが止まる。
驚きに見開いた少女の目が、ゆっくりと下に向かっていく。
童顔が茹で蛸のように赤くなった。
「いやああああ!!」
つんざくような悲鳴が脱衣所どころか、アパート中に響き渡った。