周子に対して事情を説明するより先にプロデューサーが現れてしまい、ありすと飛鳥が居ない事を当然ながら問い
「う~ん、そういう事なら仕方ないかなぁ」
「あら、そんなことも無いでしょう。意外と小学生のうちにその辺りの事はなんとなく知るものよ。文香がちょっと過保護だったと私は思うわ」
文香の判断に関して、プロデューサーと奏では正反対の感想。ありすに歳も性別も近い奏の意見に、文香は自分の過敏な反応は失敗だったかと思い、もう一人の傍観者、周子の判断を
「ありすちゃんは優等生だからってプロデューサーさんは思ったのかもやけど、ありすちゃんのご両親がどれくらいフィルターとかかけているか知らへんけど、ネットとかやと意外と知れちゃうのとちゃうん?」
「むむむ…」
「問題はありすの性知識じゃなくて、文香がありすを侮った…少なくともありすにはそう受け取られた事でしょう?」
「そう思います。ちゃんと正面から話し合えばわかって貰えるんじゃないでしょうか」
ありすの余りの剣幕に
「そうなんだが…ありすはここしばらくは直帰の仕事を詰め込んでしまって、その後は逆に学業に専念しないといけないようなスケジュールなんだ。顔合わせと言っても皆お互いの事は良く判っていると思うから、事務的な事を終えたらしっかりと話して誤解を解いてくれ」
「判りました」
「その前に出て行ってしまったありすと飛鳥を連れ戻さないとね。あの場にいた私だと二人がひょっとしたら嫌かもしれないから、周子、頼める?」
「しょうがないねぇ、貸し一だよ~」
そう言うと普段からどことなく妖精めいた雰囲気を持つ薄い銀髪の少女がふわふわと部屋を出て行った。
結論から言うと二人の仲の修復はならなかった。顔合わせの間もありすも飛鳥も硬い面持ちだったが、ありすはプロデューサーが締めくくった途端に誰にも何も言わせずに立ち去ってしまったのだ。
「あ…」
何とか声を掛けようと思っていた文香の言葉は、ありすの背中まで届く美しい黒髪を掴むことはできなかった。
「ありすちゃん…」
「電光石火やね~」
「笑い事じゃないでしょう、どうするの、文香?」
「今からでも追いかけます」
「無駄だよ」
今日を逃せばしばらく機会が無いと知っている文香が慌てて立ち上がったところに、飛鳥が水を差した。
「済まない、文香さん。今になってみると、貴女の言動に理由が有るとは思えるのだが…さっきありすと話していた時のボクは冷静では無かった」
「ひょっとして、ありすが飛び出す何かの方法を教えたという事?」
「うん、私費でタクシーを回しておいた。今頃ありすは自宅へ向かう車の中だ。それは申し訳ないけれど…結局、文香さんがあんな態度を取った理由について、説明を求めても良いかな?」
「貴女の社会性が成長するのは良い事かもだけど、今回は不味い方向へ行ってしまったわね…」
奏が飛鳥の歳不相応な行動力に呆れたように溜息を漏らすが、しかし文香はそれどころではない。ありすは今日を逃せばしばらく時間が取れないとプロデューサーが断言した。それは何とかしなければぎくしゃくした状態のまま、舞台稽古に突入してしまうという事だ。解決策を必死に模索した文香は、一つだけ方法を思いついてプロデューサーに質問する。
「プロデューサーさん…ありすちゃんのご両親には…連絡を取れませんか?」
「ん?親から話してもらうという事かい?」
「いえ、それでは決して…ありすちゃんは納得しないでしょう…その…今夜、ありすちゃんのおうちに
「そりゃまた大胆やねぇ。でもええんちゃう?親御さんだってありすちゃんが
「文香」
周子は乗り気だが、プロデューサーは否定的な表情だ。
「事務所としては、所属アイドル同士のプライベートを
「プロデューサーさんの…責任感は、
「ほとんど
天井を
「今、ありすのお母さんに事情を簡単にメールで伝えたが、忙しい方なので返事は今日中に貰えるかはわからない」
「判りました…ギリギリまで、待ちます…その間に、飛鳥ちゃんにも何が有ったか…」
「そうだね、そういえばボクも今の時点では蚊帳の外だったか」
飛鳥の返答に一つ頷きを返した文香は、飛鳥に結局何故自分があんな言動を取ったのかを説明し始める。小学生のありすが読むべき内容なのかどうかは自分にも良く判らない、としながらも飛鳥も少なくとも文香の言動自体には納得したようだった。
そしてメンバーがそれぞれの事情で後ろ髪を引かれるような表情で事務所を去った後の午後7時ごろ、橘家から文香を招くという文面のメールがプロデューサーの携帯電話に届いた。
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