3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
マスターズ8の席を奪い合う、熾烈なランクマッチが、今日この日からまた始まるのだ…。
PWCS開幕戦は両スタジアム共通で16時会場、17時にセレモニー開始、18時に試合開始というスケジュールで開催された。
そこからサトシvsアランの試合は18時30分過ぎに、ダンデvsアイリスの試合は19時前にそれぞれ終了。
選手インタビューと試合参加ポケモンの体力回復が行われ、選手たちがスタジアムを後にできたのは、20時を過ぎた頃であった。
『リザードン、オノノクス、両者戦闘不能!よってこの試合、勝者なしの引き分けッッッ!!』
『ウオオオオオ!ドロオオオオオ!!』
「あー!!もー!!あともうちょっとだったのにー!!」
「ははは!いやー、まいったまいった!」
「すっげー!!」
時間は21時になる少し前、ガラル地方キルクスタウンのステーキハウス"おいしんボブ"。
事前に貸切の予約がされてあったこのお店に、試合を終えた3大チャンピオンの姿はあった。
普段着姿のアイリスは髪をわしゃわしゃ。ダンデは大笑いしている。笑うしかない、といった様子だ。
サトシは、店内備え付けの液晶テレビでナックルスタジアムでの試合動画を見て、目を輝かせていた。
オノノクスがリザードンを竜星の真下に押し込む形の、いわば"死なば諸共"による、両者壮絶なる共倒れ。
コレが、ナックルスタジアムでの死闘の幕切れであった。
「ぴかぴか。」
「きゅー。」
「ぐるぅ。」
ピカチュウがお疲れさん、とでも言うように座り込むオノノクスの足にペチペチと触れる。
リザードンは、方向音痴のダンデをここまで導くので四苦八苦したのか、試合の後より安堵の表情を浮かべていた。
アラン戦の殊勲であるピジョットは、ピカチュウを眺めて、こいつ変わったなぁ、と言うような視線を向ける。
ピジョットがサトシの元にいた頃には、始めは主人であるサトシに対してもあまり従順でなく、その指示に従うようになってからも、どちらかと言えば気怠さが目立っていたようなスタンスを、ピジョットはピカチュウに抱いていたのだ。
「はーいおいしんボブの特製ハンバーグお待たせッした〜!」
「おッ、来た来た。」
「ステーキハウスなのにハンバーグなんですか?」
「ステーキもいいけどハンバーグも絶品なんだよここは。」
「仕上げは目の前でしますのでぇ〜油避けのペーパーをグイッと持っててくださいね〜。」
妙に威勢のいい男女のスタッフが、ジュウジュウと小気味よく焼けてるハンバーグを三人分テーブルに運ぶ。
事前に置かれていたペーパーをチャンピオン3人持ち上げて待てば、専用フォークで軽く圧を加え、そこにナイフで半分に切られ、再度圧が加えられる。そのたびに油が跳ね、肉汁が溢れ出た。
「うまそ〜!」
「ジュージューいってる!うわ、すっご!」
「だろ?チャンピオンになってからは試合の後、よくホップを連れてここで食べたんだ。」
特製ハンバーグの仕上げがされてくチャンピオンたちの足元では、一足お先にとばかりにポケモンたちが宴を始めていた。
「ぴかぴか、がじがじ。」
ポケモンフーズに色とりどりのきのみの果肉がブツ切りに分けられて混ざっている。
これは店の商品ではなく、サトシが用意したものだ。
「にしても、流石に3年も経てばサトシでも、ポケモンたちへのご飯は少しはマシにできるようになるのね〜。んー肉汁たまんな〜い!」
「タケシに色々教わったんだ。一からポケモンフーズの配合が無理なら、きのみの果肉や果汁を混ぜるだけでもだいぶ違うって。美味い美味い!」
「ガラルはだいたいみんなキャンプでカレーだったからな。カレーとなったらソニアがうるさいんだコレが。」
いただきますもそこそこに、それぞれ会話を挟みながらナイフとフォークを上手く…使えているかはともかくとしてハンバーグを切りながら口に運んでゆく。
マクロコスモスの前代表と付き合いが深く相応のレストランへ連れられることも多かった年長のダンデも、この場でテーブルマナーは気にも留めていない。早い話が腹を満たしたいのだ。
そんな食事をしながらの話題と言えば、自然とトレーナー活動の方へとシフトしていく。
職業柄だろう。そこに店のドアが開きドアベルが来訪者を告げた。
「やぁすまない。渋滞とレディーに巻き込まれて時間を取られてしまってね。」
「プラターヌ博士!アラン!」
「先に始めさせてもらってます!」
プラターヌ博士とアランが合流したのだ。いやー疲れた、と席に着くプラターヌ博士。アランはまずダンデの側に向かっていた。
「お久しぶりです。」
「積もる話は食いながらにしよう。腹減ってるだろ?」
堅苦しいのはなしだ、とダンデはウインクして見せてから肉を頬張る。頷いてからアランは席に着いた。
それぞれボールからポケモンを出せば、アランのリザードンがのっしのっしとダンデのリザードンの元へ行き挨拶しようとしては、トレーナー同様いいから食えよ、と食事を勧められてるのはやはり似た者と言うべきか。
2人が席に着くタイミングで、前述のハンバーグが運ばれてくる。店に通い詰めてるダンデが到着に合わせて注文しておいたのだ。
こういう気遣いを普段からレディーに出来れば男として完璧なのに、と幼馴染の新米ポケモン博士が頭の中で小言を挟むがダンデはそれを無視する。
「やっぱり諸々の業務とトレーニングの両立はしんどかったんじゃあない?」
「アイリスが強かったってだけですよ。」
プラターヌ博士に、ダンデは自身の調整不足を否定する。
ガラルリーグ委員会とマクロコスモスでの仕事に、ポケモントレーナーの二足はおろか三足の草鞋。
それを凋落の理由にだけは絶対してはならないし、したくもない。
そんなダンデの言外の主張にプラターヌ博士は満足しそれ以上聞かなかった。次にサトシに話題を飛ばす。
「サトシくん。ピジョットナイトは、やはりメガ島で?」
「もぐもぐ、はい!1年半前にんぐ、行ってそこでコルニやコルニのお爺さんと、っぐ、特訓しました!」
「食べるか喋るかどっちかにしなさいよ。相変わらず子供ねー。」
食べ進めるのと、会話とでどっちつかずなサトシに、3年前からの決まり文句が出る。ふと、アイリスが何かに気付いた。
「ていうか、そっか。この中であたしだけなんだ。」
「なにが?」
「リザードンよ。」
イッシュ地方を旅していた際、何度交わしたか分からない"子供ね"のやり取りの後にアイリスが独りごちるのをサトシが拾う。
「この中であたしだけリザードン持ってない。」
「アイリス、リザードン欲しいのか?」
「リザードンはドラゴンタイプではないが…。」
「メガシンカしたらドラゴンタイプになるんでしょ?」
アランの指摘に、アイリスは付け合わせのポテトにフォークを突き刺しながら返す。
ダンデほどではないにせよ、リザードンに一家言あるアランとしては、リザードンのメガシンカには2種類存在することを話したくなったが、相手はドラゴンチャンピオン。
ドラゴンポケモンとなるメガリザードンXと、ほのおポケモンとしての特長がより強化されるメガリザードンYのどちらに意識を向けているのかは自明の理であった。
サトシ、アラン、ダンデ。三者三様に共通してリザードンを所有するトレーナーだ。
そこにきて、メガシンカによりドラゴンタイプとなるリザードンは、ドラゴンマスターを目指すアイリスからしたら魅力的に見えるのも無理からぬことだろう。
そこにダンデも話に混ざる。
「よかったら俺がマグノリア博士に話して、初心者用のヒトカゲを回してやろうか?」
「えっ、いいんですか!?」
「あれ、でもアイリスってイブキさんのところで修行してたんだろ?イブキさんと付き合いがあるなら、ジークさんに話を通すのもあるんじゃあないか?」
「あぁ〜それもアリね!」
思い出したようにサトシも案を追加する。
ジョウト地方に存在するリザードンの保護特区"リザフィックバレー"。
そこの管理人ジークは、アイリスの修行先の1つでもあるフスベシティのジムリーダー、イブキと幼馴染で、アイリスも何度か面識はあったようである。
アイリスのリザードンゲットは、いずれにせよそう難しい話でもなさそうだ。
「サトシ、ゲッコウガはまだ帰ってきていないのか?」
「あぁ、うん。まだちょっと時間かかるみたい。」
「そうか…てっきり今日出てくると思ってたのだが。」
「いたら確かに一緒にリベンジだー!ってなってたかも。」
3年前のカロスリーグ終了直後に起こった悪の組織フレア団による暴動。
その鎮圧後に、負のエネルギーによりカロス地方の至る所で蠢く"触手"の気配を察知する力を、その当時サトシが連れていたゲッコウガが有していた。
彼の生来の正義感を尊重し、"触手"伐採の為にサトシは別れを選択。
ボール契約を解除し、正式に逃がしたわけではないが、未だ手元に戻ってくる気配もなかった。
「前会ったときも元気してたし、そのうち戻ってくるよ。そしたら今度はゲッコウガとリザードンでまたバトルしようぜ、アラン!」
「あぁ、もちろんだ。」
思えば、この屈託のない笑顔と明るい言葉が、自分を"正しいことの白"へと引き戻してくれたのだろう、とアランは思う。
自身の持つ強さの根幹を与えてくれたフレア団のボス、フラダリの思想や恩義を否定はしない。
しかし、この場にいれるありがたみに比べれば、今となっては小さなことと振り切れるようにもなってきていた。
「(俺はもっと強くなろう。なれるんだ。)」
頬張る肉汁が五臓六腑に染み渡る。
この日の味を、アランは忘れないと誓った。
「ねぇサトシ。」
「なにアイリス?」
「多分あたしだけじゃなくて、この場にいるみんな気になってると思うんだけど、アレ、オコリザルよね?」
「あー…まぁな。」
「うむ。」
サトシに切り出すアイリスに、ダンデとアランも頷く。
ボサボサな灰色の長い体毛、ギラギラと真っ赤に輝く目、目の下のドス黒い隈…。
ぶたざるポケモンのオコリザルに近いと言われたらそう思えるフォルムだが、前述の特徴がそれと認識するには主張が激し過ぎるのだ。
「(アレが試合で出てこなかったサトシの3体目か。)」
ピカチュウ、ピジョットの影に隠れるような位置でフーズを口に運んでいるポケモンにアランは察する。
「あーそうだ、思い出した!先月くらいにパルデア地方のポケモン学会からあそこで見つかる原生種の資料が届いてきたんだ。オコリザルの進化系で、確かふんどざるポケモンのコノヨザル。」
スマホロトムに保存していた研究資料の画像データをプラターヌ博士が皆に見せる。
少なくともパルデア地方以外では馴染みがないポケモンであるのだ。
「コノヨザル?お前そう言う名前だったのかー。」
プラターヌ博士の話で話題の彼が主人の元に寄ってくる。
サトシはそのコノヨザルの頭を撫でながらの呟きで一同ずっこけてしまった。
当のトレーナー本人が名前を把握してなかったことに、である。
PWCS開幕戦 ダンデvsアイリス
3C1D方式
ヌメルゴン ドラパルト
ドラパルト→バリコオル
ヌメルゴン→カイリュー バリコオル→ドラパルト
カイリュー→オノノクス ドラパルト→リザードン
オノノクス●(ダイマックス使用) リザードン●(ダイマックス使用)
両者ノックダウンにより引き分け