3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 チャンピオンテストは、オモダカが劇的な勝利を飾った。
 新たなチャンピオンランク保持者として、更なる研鑽と成長を、オモダカは人々に誓う。
 人々は、新たなチャンピオン誕生を祝福するのだった…。


スカーレットアドベンチャー 幼馴染、男2人語り

 凄まじい死闘であったオモダカのチャンピオンテストから2日が経過し、サトシがパルデア地方に来ておおよそ2週間が経過していた。

 

「テラスタルオーブ、ゲットだぜ!」

 

「ぴっぴかちゅう!」

 

 テラスタルの座学を受け終えた段階で、シゲルの計らいにより実技試験を免除されているサトシは、そのまま貸与されていたテラスタルオーブを自身の所有物として入手することに成功した。

 これにてサトシのパルデア地方での目的は完了したことにはなる。

 だが、リーリエが保護したチオンジェンと、同じくパルデアの大地に解き放たれた残り3体のさいやくポケモンの件もあり、サトシは引き続きパルデアに留まっていた。

 そのさいやくポケモンたちの動向を探らんとサトシもフィールドワークに出ることにしたのだが、そこをバトル学の教師に呼び止められ、この2日間は授業のサポートを頼まれてしまっていた。

 

「あっ、テツヤさんだ!懐かしいなぁ〜。」

 

「えっと、チャンピオン?この試合はどういうところを意識して立ち回ってたんで?」

 

「え?あ、そっか。えーっと…無我夢中だったから忘れちゃいました。」

 

 ポケモンリーグの公式アカウントから投稿されている動画サイトにある、自身の試合動画を流されながら、その試合ごとの考え方や判断のコツを当事者に聞く、という方針は画期的であった。

 しかし、この教師の失敗は、それが極めて感覚的な試合運びをするサトシを教材兼講師に選んだことであった。

 

「ははは!それはきみを選んだ先生の選択ミスだね。じめんタイプの前にでんきタイプを出すようなものだよ。」

 

「そこまで言うかー?」

 

 2度目のバトル学の授業に講師側として参加したのち、ロビーでばったり出会したシゲルに事情を話せば、盛大に大笑いされてしまうのでサトシは憮然としていた。

 そんな2人は、そのまま空飛ぶタクシーでテーブルシティを空路から抜け出し、フィールドワークに出掛けていた。

 シゲルにサトシが引っ付いてきた形である。

 

「生徒会長の仕事に加えて、各所から新チャンピオン就任の挨拶でお客さんがやって来てきみの案内役どころじゃあない、か。」

 

「オモダカ、ホント頑張ったからなー。」

 

 パルデアの土地勘がまだ身についていないサトシでは仮に1人でフィールドワークに飛び出したところで大した収穫もなく迷って終わりにしかならない。そんな中、シゲルの存在は渡りに船と言えた。

 

「ぴかぁ。」

 

「どうした?ピカチュウ。」

 

「ぴかぴか。」

 

 ピカチュウは、少し奇妙な光景として、シゲルが乗り込むそらとぶタクシーにサトシが同乗するのを見ていた。

 ピカチュウからして、サトシは警戒心の皆無な人間だ。それで自分も災難に巻き込まれることは少なくないが、それがサトシという人間であると理解してからは特に気になることもない。

 そんなサトシが、シゲルに対しては特別無警戒に見えた。

 シゲルもシゲルで、特に同意を得ることもなくタクシーに相乗りするサトシを嗜めることもない。

 

「そう言えば授業はいいのか?」

 

「あったら今頃教室か職員室さ。」

 

「それもそっか。」

 

 付き合いの長い幼馴染らしく、短く簡潔なやり取りをする中、空飛ぶタクシーが向かったのはテーブルシティから南西部に位置する南6番エリア。周囲より高地に位置しており、『星と陶磁器の町』と呼ばれているベイクタウン。

 

「くぇあー!!」

 

「ありがとうなー!」

 

「ぴかぴか〜!」

 

 ゴンドラを運ぶイキリンコたちは、町のすぐ近くの平原に2人を下ろし、飛び去ってゆく。

 サトシはイキリンコたちを見送ってから、シゲルが広げる地図を覗き見た。

 

「なにゲットするんだ?」

 

「特定のターゲットはないかな。気のいい子を満遍なく、って感じ。この辺りの生息ポケモンをまとめたいんだ。」

 

「そっか。」

 

「よし、行こう。僕から離れないでくれよ?迷子になりたくないならね。」

 

「分かってるよ。」

 

 シゲルの軽口に、サトシは一瞬ぶすっとして見せてから後に続く。

 シゲルとしてはサトシの動向を許したのは、面倒ごとへの露払いをしてもらえたらいい、というくらいのものであった。

 もっとも、長い付き合いからサトシ本人がその面倒ごとを持ってくる可能性も少なからず感じているシゲルではあったが…。

 

 

 

「わふぅ…。」

 

「今だッ!いけッ!モンスターボール!!」

 

 全体的に焦げ茶色の毛皮をした、香ばしい匂いのするポケモンが胞子を吸い込み、突如襲い来る睡魔に負けて眠りこけたところにシゲルがモンスターボールを投げ込む。

 

モニュモニュモニュ…ポーン…。

 

 中に入れられたポケモンが眠ってしまっているのもあり、ボールは抵抗もなく振動が止まり、ゲットが確定する。

 

「よし、バウッツェルゲットだ。」

 

「手際いいなぁ。」

 

 リククラゲのキノコのほうしを活用し、可及的速やかにポケモンゲットするシゲルの手腕に舌を巻きながら、サトシはポケモン図鑑アプリを開いてたった今シゲルがゲットしたポケモンを調べる。

 

『バウッツェル、いぬポケモン。パピモッチの進化系。体から放つ良香りが小麦の成長を助けるため、農村で大切にされてきた。』

 

「そういえば。」

 

 シゲルが何かを思い出したように口を開けば、スマホロトムをポケットにしまいながらサトシは次の言の葉を待つ。

 

「こうやって2人で冒険してるのは5.6年ぶりくらいかな。」

 

「確かに。」

 

 サトシはシゲルに首肯する。まだトレーナーデビューする前の頃、2人は事あるごとにマサラタウンの外の草むらや、オーキド研究所の庭の敷地内にある山々を駆け回り、色んなポケモンの営みを見て育っていた。

 たった5.6年と言えども、ポケモントレーナーとなり、それぞれに激動たる行く道を歩んできたサトシとシゲルにとっては、とても遠い日のことに思えたのだ。

 

「5.6年ぶり、かぁ…。」

 

 サトシも過去を回顧する。ポケモントレーナーとしてデビューしてゆく時を夢見ながらマサラタウンで過ごした日々…。

 シゲルとは顔を合わせるたびに衝突し、くだらない競争に熱中していた。シゲル、とは…。

 

「あっ。」

 

 今度はシゲルがサトシを向き、言の葉を待つ。

 彼らしく子供じみた、もとい、無垢な思い出話を掘り起こしたのだろうという予測は、概ね的中する。

 

「そう言えばあいつら覚えてる?ほら、俺たちと同期のケンとワタナベ。」

 

 サトシが切り出した話に、シゲルは目を丸くする。そのすぐ後にふふ、と笑みが溢れた。

 

「なんだよ?忘れちゃったのか?」

 

「いや。まさかきみの口から僕たち共有の知り合いの名前が出てきて、それを覚えているか?なんて言葉が飛び出してくるなんて思わなくてさ。」

 

「なんだよそれー…。」

 

「サマーキャンプで仲良くなった可愛いガールフレンドのことをすっかり忘れてた、ってママさんから聞いてもいたし、ねぇ?」

 

 セレナのことである。オーキド博士主催のサマーキャンプで知り合った彼女のことを、サトシはカロスで再会し、本人の口から語られるまでさっぱり忘れていたのだ。

 

「ママ…。」

 

 サトシからすれば、母のハナコがシゲルにそのことをあっさり話してあることが、羞恥心を掻き立てた。

 この分だと旅のやらかしの大半はママ伝いで仲間たちに広がっているのでは…?

 サトシは思わず天を仰ぐ。そこからすぐ持ち直すリカバリーの速さが、サトシのメンタルの強さでもあった。

 

「俺のことはいいだろ。あいつらのことだよ。」

 

「ケンとワタナベ、か。確かに懐かしい名前だね。」

 

 強引に話を戻すサトシに、シゲルは特に追撃することなく乗り直す。

 3年前のデビューしてすぐならいざ知らず、サトシのことを自分より高みにいる存在であると認識しているが故のことだ。

 

「彼らも交えて4人でもよく遊んでたね。」

 

「だろ?ケンはいつも落ち着いてて、ワタナベはなんでも豪快だったよな。」

 

「ケンはフシギダネ、ワタナベはヒトカゲを選んでたよ。」

 

 どこかの誰かさんが寝坊してる間に、とは言わない。シゲルが後から聞くに、3年前、自分たちがデビューする頃の祖父オーキド博士は、研究業にこそ熱心であったが、ポケモン研究所を預かる身として研究同様に力を入れねばならない新人トレーナーの指導とサポートに関しては、おざなりになっていたと言わざるを得ない状況であった。

 4人のルーキーがデビューすると言うのに、初心者用ポケモン3体を1セットしか用意していなかった、というのがそのなによりの証左であろう。

 それからすぐ、サトシが頭角を現し始めたことで祖父が新人トレーナー方面にも力を入れ始めたのは、孫の立場からしても良い変化と言えた。調子が良い、とも言えたが。

 

「でも2人ともセキエイ大会には間に合わなかったみたいって博士言ってたよな。」

 

「あくまであの時の大会には、ね。」

 

 シゲルがタブレットを取り出し、操作している。それで引っ張り出した検索結果をサトシに見せた。

 

「あっ!ケンだ!この澄まし顔、間違いない!!」

 

「"マサラタウンのケン選手、ホウエン地方ミナモシティで開催されたミクリカップを制覇"…ニュースの時期的には、僕たちがジョウトリーグでやり合ってる頃だね。彼はポケモンコーディネーターに転身したらしい。こっちは、ワタナベの記事。」

 

 シゲルがタブレットの画面をスワイプさせ、別の記事を出す。

 

「えっと、なになに?"マサラタウンのワタナベ選手、ハザック地方独立リーグのチャンピオンに就任"…ハザック地方?」

 

「まだ全国入りは果たせていない、いわゆる辺境地方だね。それでもリーグチャンピオンにまでなるのは凄いことさ。」

 

 それは、トレーナーとしての道を諦めたシゲルからしたら実感がこもっていた。

 嫌味じゃあないよ、とサトシに笑みを向けてみせる。

 

「なんだ、2人ともすげぇ頑張ってんだな。」

 

「僕たちも負けてられないね。」

 

「そうだな。」

 

「ぴかっちゅ!」

 

 シゲルにサトシが頷けば、彼方より紫色の風船型ポケモンのフワンテが風に乗って飛んでいる。

 それを見つけたピカチュウが彼らを指差していた。

 

「フワンテか…彼らが出てくるということは、そろそろ暗くなってくる頃だね。」

 

 シゲルはタブレットを操作し、そらとぶタクシーの手配をする。

 

「帰るのか?」

 

「宿直を頼まれてるんだ。」

 

「そっか。」

 

 仕事なら仕方ない、とサトシは引き止めるのを諦めた。

 程なくして、数多のイキリンコがゴンドラを運んでやってきた。

 

「きみはベイクタウンで一泊する感じかな?」

 

「そのつもり。」

 

「ホテルのスタッフさんに迷惑かけないようにね。」

 

「分かってるよ。」

 

 お前は俺のママか、サトシはそうシゲルにツッコミを入れる。

 シゲルはハハハ、と笑いながらゴンドラに乗り込んだ。

 

「くぁ〜!」

 

「「「「けぁ〜!」」」」

 

 仕切り役らしい1体が号令すれば、イキリンコたちが一斉に翼をはためかせ、シゲルを乗せたゴンドラを空へ運び出す。

 

「じゃあな〜!」

 

「ぴかぴか〜!」

 

 サトシとピカチュウは手を振りながらそれを見送っていた。そんな中、サトシのズボンポケットがブルブルと震える。

 スマホロトムに着信アリだ。電話をかけてきたのは画面を見るにリーリエである。

 

「ん、もしもし。どうしたリーリエ?」

 

「サトシ、今どこにいます?クラベルさんから、研究所に来て欲しいって。」

 

 リーリエの口からクラベルの名前が出るということは、おそらくはさいやくポケモンに関わる話であろう。

 ポケモンハンターたちの動きも何か掴めたのかもしれない。

 

「分かった。すぐ行くよ。」

 

「お願いします。」

 

 通話を切ると同時にサトシはボールホルダーからボールを取り出し、ポケモンを繰り出した。

 

「ファイアロー、キミに決めたッ!」

 

「ふぉぉぉう!」

 

 れっかポケモンファイアロー。ハヤブサに似た大型の鳥ポケモンの背にサトシは飛び乗る。

 ピカチュウは定位置の左肩でしがみつく準備を整えていた。

 

「ファイアロー、あのでっかい建物が見えるとこまで頼む。」

 

 サトシは彼方に見えるオレンジアカデミーを指差しながら指示を出す。

 それにファイアローは短く首肯し…。

 

「ふぉぉぉぉぉう!!」

 

 ひとっ飛びで移動を開始した。

 瞬く間にそらとぶタクシーを追い越してゆく様を、ゴンドラの中でタブレットを操作していたシゲルは見ていなかった。

 

 

 




 『テツヤ』
 21歳。ポケモントレーナー。3年前、サトシをホウエンリーグ準々決勝で破り、そのまま優勝まで戦い抜いた猛者。
 彼の代名詞はなんといっても長靴を履いたニャースだろう。
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