3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

102 / 302
 シゲルのフィールドワークに引っ付いていき、昔語りに花を咲かせるサトシ。
 リーリエから招集を受け、急ぎ研究施設へ飛ぶのだった。
 事態は今、風雲急を告げる…。


スカーレットアドベンチャー 集う勇士たち さいやくポケモンを救え!

 リーリエから連絡を受け、ベイクタウンの近辺からテーブルシティのアカデミー玄関口まで辿り着くまでにおおよそ10分。時間は、17時30分を少し過ぎた頃…。

 

「おまたせッ。」

 

 サトシは研究所を訪れる。

 そこにはグラジオ、リーリエの兄妹にサワロ…グズマとクラベル、そしてナンテ。

 さいやくポケモンの存在や、ポケモンハンターの暗躍を知るメンバーが集まっていた。

 

「オモダカは?」

 

「生徒会のお仕事を片付けるので手間取ってて、もうちょっとかかるみたいです。」

 

「ならもう始めちまおう。あいつが聞けてねェところはお前らが後から教えてやりゃあいい。」

 

 緘口令を敷いた張本人のオモダカがいない理由をサトシが問い、リーリエが答えれば、グズマが会合の開始を求める。

 クラベルが視線を送れば、ナンテは頷いてホワイトボードの前に立ち、マーカーのキャップを取り外した。

 

「とりあえず幸いなことに、封印の解かれたさいやくポケモン3体と、その捕獲のため暗躍するポケモンハンターの集まり…"ポケモンハンターズギルド"との追っかけっこは、1週間ほど経過しましたが未だ決着はついていません。」

 

「ポケモンハンターズギルド?」

 

 サトシが首を傾げる。

 

「ポケモンハンターたちの組合ということだ。全く、くだらん奴らほどよく群れやがる。」

 

 グラジオが簡潔に説明を入れる。その表情には義憤が浮かんでいた。

 

「自分がクラベルさんに協力してくれている生徒さんたちと連携してパルデア中を探索し、ハンター連中の動向を探ったり嫌がらせしたりしてみたところ、連中は、どうやら3年前に壊滅した組合の残党と思えます。」

 

「3年前の残党…。」

 

「かつて連中を率いていた頭目は…"ポケモンハンターJ"。」

 

 ナンテの口から出たワードにサトシの目が分かりやすく見開かれる。同時に、これまた分かりやすく苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 

 

「あんまり頭に来て……どうにかなりそうだぜ!」

 

 3年前、シンオウ地方を旅していた頃のサトシが抱いた彼女に対する憤りを、この一言が端的に現していた。

 ポケモンハンターJ…。組織的にポケモンの密猟を行い、依頼者に売り渡す女頭目であった。その黒尽くめの衣装に跳ね上がったショートの銀髪は、見るものに恐怖を植え付けるに十二分であった。

 恐るべきは見た目のみならず、その実力にこそあり、当時のサトシとシゲルがまるで歯が立たないばかりか、伝説のポケモンレジロック、レジスチル、レジアイスを従えるフロンティアブレーンのジンダイすら手玉に取るほど彼女は強かったのだ。

 

 

 

「でも、Jは確か…シゲルから聞いた話だと、飛行艇が撃墜されて行方不明になったはずじゃ。」

 

「おや、知ってましたか。」

 

「俺は、別のことをしてましたけど。」

 

 かつてシンオウ地方にて暗躍していた悪の組織『ギンガ団』を相手に大立ち回りを演じていた、とはサトシは語らない。この場にあまり関係のないことであろうからだ。

 

「なるほど。そのポケモンハンターJの所属していたギルドは、彼女が消息を断ったのち、組織の本拠地に国際警察が踏み込み、メンバーの悉くは今頃は塀の向こう…となってるはずだったのですが。」

 

「そうではないのですか?」

 

 リーリエにナンテは首肯する。

 

「調査の中で"聞き取り“を行った結果と、連中を尾行してくれていた学生諸君からの話を総合してみた結果、今回パルデア中で好き放題しているこのポケモンハンターどもには、ガサ入れから上手く逃げおおせたらしい指揮官が4人いる、というのが分かりました。」

 

「なるほど。この広大なパルデア地方全体をマークし、さいやくポケモンを追いかけ回すには、リーダーが1人ではどうにも手が足りないのでは…と思っていましたが。」

 

「クラベルさんの仰る通りですね。その4人の指揮官というのが、J同様、アンノーン文字になぞらえたコードネームを名乗っているのです。」

 

 アンノーン文字。シンボルポケモンアンノーンのボディ全体が、各所の遺跡に刻まれた古代文字に酷似していることから、なんらかの旧来文明が使用していたと思われる文字だ。

 それぞれの単語の発音法が近年発見された程度であり、単語同士を組み合わせての活用法もあると思われているが、その辺りはまだまだ解明される時を待つばかりと言う状況だった…。

 

「そうか、俺が鉢合わせしたLというのが…。」

 

「俺様はNとかいうのとやり合ったぜ。」

 

「N?」

 

 グズマの言にサトシが反応し、若干空気がピリつく。グズマからの圧が増したからだ。

 

「そのNって…背が高くて、緑色の髪の毛だったり?」

 

「いや。3年前のお前と同じくらいのチビだったな。髪の色は緑だが。」

 

 ピリついた空気がすぐに収まってゆく。

 グズマとしてもサトシ相手に険の表情になっていたのを自覚し、自重したのだ。

 グズマにとって忌々しいのはサトシの後見にいるであろうアローラの若きポケモン博士であって、サトシではないのだ。

 

「(まさかあの人じゃあないとは思うけど…。)」

 

 今度はサトシが表情を険しくする。3年前、イッシュ地方を旅していた頃に知り合った、ポケモンの言葉が分かるという美青年…彼もまた、Nという名前だった。

 ポケモンに対して深い愛情を見せていた彼が、その対極たるポケモンハンターへと身をやつすなど、考えたくもないことだ。

 

「ぴかぴ…。」

 

 心配そうに顔を覗き込むピカチュウを前に、サトシは険を取り払った。

 冷静に考えてみれば、パルデアに来てからNの波導を感知したことはない。

 波導使いとしてはまだまだ粗があるにしても、その事実はサトシの嫌な懸念を払拭するにはじゅうぶんと言えた。

 

「なにやら事情はそれぞれあるようですが話を続けます。ポケモンハンターズギルドにおいて指揮官として動く4人の構成員は、それぞれ"K"…"L"…"M"…"N"と名乗って部下を動かしているそうです。それで、ここからが皆さんに集まってもらった本題になるのですが…。」

 

 ナンテは一旦言葉を切り、ホワイトボードへ殴り書きでまとめた情報の隣に一枚の紙を貼り付ける。

 パルデア地方の全体像をまとめた地図だ。

 

「目覚めたさいやくポケモンたちは、その後、自身が封印された祠を中心に活動しているというのが、学生さんたち調べで明らかになりました。」

 

「流石はクラベルさんの選抜した優秀な方々ですな。」

 

「私はともかく、彼らが優秀なのは間違いありませんよ。」

 

 サワロにクラベルは嬉しいような、困ったような顔をしながら答える。

 オレンジアカデミーでは、原則としてポケモントレーナー以外の就労に関して、面倒な手続きを挟んで許可をもらう仕組みとなっている。

 それに対して、クラベルは精査をした上で選び抜いた生徒たちを、名目は研究のお手伝い…という形でフィールドワークに従事させていた。

 実質的にはフィールドワーク専門のリサーチフェローとして扱っており、当然相応の報酬も支払っている。苦学生には有難い隠れ蓑であった。

 

「その情報は、ハンターズギルドの連中も既に掴んでいるようで、現在進行形で本腰を入れた捕獲作戦がすでに展開しているらしいです。」

 

 一気に一同の目が見開く。こうしている中でも、さいやくポケモンたちに本格的な危機が迫っているというのだ。

 

「今すぐ止めないと!」

 

 身を乗り出すリーリエに、ナンテは宥めるように両手を前に差し出し、首を横に振って見せる。

 まだあわてるような時間じゃない。そう、言外に伝えたのだ。

 

「現在の我々では、ギルドを相手に真正面から立ち向かう術はありません。なんせ数や装備からして違う。こちらにあるとしたら、トレーナーの質くらいのもの…。」

 

 ナンテが一同の目を見渡す。そこには確かな信頼があった。

 

「それにさいやくポケモンたちとて、いかにポケモンハンターたちが総力戦を仕掛けたとして、それですんなり捕まるくらいなら長いこと封印されてくれてるようなタマでもないでしょう。おそらくは、連中にも相当の被害が出ているはず…そこに我々の勝機があります。」

 

 ホワイトボードに張り付けたパルデア地方の地図の3箇所にキュキュキュ、とナンテはマーカーで大きく丸を書く。

 その丸の中心は、残りのさいやくポケモンたちが封印されていた祠のあるエリアだ。

 

「ある程度包囲作戦をスルーし、奴らが疲弊したタイミングを突いてさいやくポケモンを保護する。このために必要なのは少数精鋭かつ迅速な展開が寛容、ん…?」

 

 ナンテの説明に熱が入り出したところで研究所の扉が開く。

 皆一様に視線を向ければ、息を整えているオモダカの姿があった。

 

「はぁ、はぁ…すみません、遅れました。」

 

「オモダカ。」

 

 息を整えながらオモダカはサトシの隣の席に着く。

 

「話を続けますね。要は、奴らが疲れ切ってるところに突撃して、さいやくポケモンを連れて帰ろう、ということです。」

 

「それは、かなり無茶な作戦では?」

 

 クラベルが待ったをかける。

 

「1人ならそうでしょうね。なのでここは、3箇所に2人ずつ、ツーマンセルを組んで当たってもらおうかと。」

 

 ナンテはクラベルの言に頷いて見せてから自身の案を展開する。

 

「この場に集まるトレーナーたちは、リーグチャンピオンに地方予選突破者、ポケモンリーグ外の全国規模の大会で好成績を収めた猛者ばかり。あなた方の力なら、必ずやさいやくポケモンたちを救い出せると確信していますが、如何ですか?」

 

「ならば私はサトシとペアで行動します。」

 

 ナンテの作戦立案に口火を切ったのは、遅れてやってきたオモダカだ。

 

「ぴぴかか!」

 

「頼むぜオモダカ!」

 

「はい!ガイドはお任せを!」

 

「なら俺様は凍裂の祠の周りを張り込む。」

 

「グズマくん、1人は危険だとナンテさんが…。」

 

「頼れるダチを呼ぶさ。ワールドチャンピオン様がどう思ってんのかは知らねェが、Nって野郎には借りを返さにゃあ気が済まん。」

 

 サトシとオモダカが互いにサムズアップし、再度コンビ結成と洒落込む中、グズマは早々に場所まで指定して立候補。並行してポケラインでその『ダチ』にコンタクトをとりながら言葉を紡ぐ。

 

「一度やり合ったから分かる。Nって野郎は狙った獲物は逃さないタイプのしつこい奴だ。だから必ずパオジアンを追い回してるだろうぜ。」

 

「結構。ならば残るグラジオくんと自分で塵土の祠へ。グズマさんはお友達と一緒に凍裂の祠へ、ワールドチャンピオンとオモダカさんが火難の祠へ…これで大丈夫ですか?」

 

 ナンテが話をまとめれば当該メンバーは大きく頷いた。さいやくポケモン保護の実行部隊がここに編成されたのだ。

 

「あっ!皆さん!たった今母からポケラインに連絡が来て、エーテル財団所有の船舶でもって、明日の正午から夕方までにはハッコウシティの港に到着するそうです!」

 

「おぉ!それは朗報!」

 

 リーリエからの報告にサワロが表情を明るくし、リーリエも微笑んで返す。

 可憐な美少女とゴツい男子の取り合わせながら醸し出されるキュートな空気が場を和ませ、余計な緊張感を削ぎ落とした。

 

「リーリエさん。今夜は研究所の方で一泊なさってください。お兄様たちの動向も気にかかるでしょう。」

 

「はい!ありがとうございます、クラベルさん!」

 

「よろしい。事態は一刻の猶予もなく、依然パルデアリーグには頼れません。それでもこの場の勇士たちならば!必ずや窮地に追い込まれているポケモンたちを救い出せるでしょう!」

 

 ナンテが会合を締めにかかり、今一度集まった面々と視線を合わせ、互いに頷く。

 

「それでは解散の後、各自行動開始!現地の学生さんたちとも連携して慎重かつ確実に事に臨みましょう!!」

 

「「了解!!」」

 

 ナンテの号令にサトシ、オモダカが律儀に返し、グラジオはただ頷き、グズマは既に研究所を出発していた。

 さいやくポケモン救出作戦は、今この時をもってスタートしたのだった…。

 

 

 




 『ジンダイ』
 53歳。カントーバトルフロンティアのフロンティアブレーンにして、受け持つエリアから『ピラミッドキング』と異名を取る豪傑。
 伝説のポケモンであるレジ系を苦もなく扱う傑物で、3年前のサトシやシンジからの挑戦を幾度となく跳ね返すほどの猛者だ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。