3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 クラベルの研究施設に集まった仲間たちはさいやくポケモンたちの危機を知る。
 一同はそれぞれにチームを組み、ポケモンハンターの暗躍を阻止すべく動き出すのであった。


スカーレットアドベンチャー チオンジェン防衛戦① アカデミー襲撃

 会合を終え、ナンテの号令によりさいやくポケモン救出作戦の実行部隊がそれぞれ割り当てられたエリアへ出発したのは18時を過ぎた頃。

 彼らのことが心配であろう、とクラベルの申し出を受け、研究所にて一晩過ごすことにしたリーリエと、彼女に付き添うサワロはそのままクラベルら研究所の面々と夕食を摂ることにした。

 

「あむあむ。」

 

「きゅい〜!」

 

「ふふ、おかわりたくさん用意してますからね。」

 

 アローラキュウコンのシロンとキュワワーのガーデンが、リーリエの用意したポケモンフーズを美味しそうに食べている。

 それに倣っているのは、件のさいやくポケモンチオンジェンだ。

 

「カシ…カシ…。」

 

「チオンジェンは、すっかりリーリエさんのポケモンたちと打ち解けたみたいですな。」

 

「はい!」

 

 肩の上のパチリスにポケモンフーズを指で摘んで運んで食べさせているサワロにリーリエは頷く。

 食べるスピードはシロンやガーデンほど早くない。味の好みというよりは、単にマイペースな性格面が原因とリーリエは見ていた。

 保護目的のゲットを行なって1週間半ほど、彼女なりに距離を縮めていき、今では相応にチオンジェン側からの信頼を得ることは出来たようだと自負する。

 

「こうして見てみますと、とても伝承にあるような恐ろしさは感じられませんね。」

 

 クラベルも両手を背中に回し、にこやかにチオンジェンを見ている。

 本音を言うならば、研究者として伝承に語られているポケモンを直接調べたい欲求はある。

 しかし、ポケモンハンターに狙われている身の上である彼らさいやくポケモンに対し、自身の欲求を優先しては、それこそ彼らとなんら変わらない立場になってしまう…。

 その辺りの良識を弁えて外さないからこそ、クラベルは周囲より絶大な信頼を寄せられる好人物足り得ているのだ。

 

「カシ…げっぷ。」

 

 食事を済ませ、チオンジェンは一息つく。

 シロンやガーデン同様、リーリエのもとでリラックス出来ていると見て取れる。

 

「ふふっ…。」

 

 有肺類のようなボディをぐにゃりと曲げながらチオンジェンはほどよく脱力しており、シロンは体をぐいい、と伸ばしてストレッチ。

 ガーデンに至っては円形にしている花を飾った蔓をぐでっと広げ、床に横たわっている。

 それぞれ食欲が満たされたようだ。健康的な問題点も見受けられない。

 

「こうして見たら、他のポケモンと変わらないんですよね。」

 

 ポツリとリーリエが呟けば、サワロも頷く。

 

「父も常々言っておりました。ポケモンとは、自分の心を映す鏡。自分の心が荒んでいれば、ポケモンもまた荒む。クラベルさんが仰っていたように、人の欲望をぶつけられたさいやくポケモンたちは、その欲望を跳ね返すより他になかったのでしょうな。」

 

「他の3体も、人の都合で封じられて、また人の都合で目覚めさせられて…追いかけられて…。」

 

 沈痛な面持ちで俯くリーリエと、その傍らに居続けるサワロの肩に優しく手が触れられる。クラベルだ。

 

「サトシさんたちを信じましょう。彼らなら必ずやさいやくポケモンたちをポケモンハンターの魔の手から救い出し、元気に帰ってくることでしょう。」

 

 手から肩に伝わる温もりと同じく、その言葉は優しく響く。

 

「はい!」

 

 振り向いてクラベルの顔を見るリーリエの表情からは、暗さが消えていた。

 その時だった。

 

パパッ…!

 

 研究所内にいた者たちの視界が急に暗転する。

 

「停電!?」

 

ガシャン!コロッコロッ…!

 

 それと同時に、窓ガラスの割れる音と、何かが投げ入れられる音がした。

 

プシュー…!!

 

「こ、これはッ…!!」

 

 鼻につく香気からクラベルは、何者かに催涙ガスの類を放り込まれたと確信する。ドガースの噴出させているガスの濃度を高めたタイプかな…?

 

「皆さん、ハンカチで口元を押さえてください!」

 

 即座に指示を出す。

 予備電源が付くまでにはまだ少しかかるだろう。もしかしたら、そこも対応されているかもしれないが…。

 

「(やるしかない!)ヤレユータン、少しばかり無茶を頼みます!」

 

「やれやれ。」

 

 意を決したクラベルがボールから出したのはけんじゃポケモンヤレユータン。

 ヤレユータンは、ボールの中にいた時点から状況を把握しており、即座に手に携えた軍配へサイコパワーを集中し、勢いよく振り払ってからその場に座り込んだ。

 

ブォワッ!!

 

 ヤレユータンが軍配を振るい、サイコパワーが込められた突風によって有毒な成分を含むガスが立ち所に外に吹き飛ばされていく。

 サイコパワーによって、窓ガラスが全滅してしまうのは必要経費とクラベルは割り切った。

 

「けほ、こほ!あっ、電気が…。」

 

 直後、研究所内に明かりが戻る。予備電源が問題なく作動したのだろう。

 リーリエとサワロは慌てて食後に寛いでいたポケモンたちをボールに戻す。

 

「(まさか本当にアカデミーまで踏み込んで来るとは…!)」

 

 クラベルは事前にポケモンハンターズギルドの情報を集めており、その凶暴性から、チオンジェンを奪いに襲撃をかけてくるのではという警戒のもと、リーリエを目の届く場所に留め置いていた。

 その警戒が正しかったというのは、嘆くより他ないのだが…。

 

「ぬうッ…!?」

 

 間髪を入れずに玄関口の扉が蹴破られ、全滅した窓からも黒尽くめのコートの集団が研究所内へ押し入ってきた。

 各々ポケモンを出して今にも襲い掛からんという空気だ。

 

「あなたたち…ポケモンハンターズギルドですね?」

 

「ターゲットを捕捉。これより確保に入る。」

 

 クラベルからの問いかけに集団の誰も返答はしない。

 しかし、彼らの視線がリーリエに、正確にはリーリエのボールホルダーに収納されているチオンジェンのボールに向いていることが、その問いかけへの肯定であると受け取れた。

 

「サワロさん!リーリエさんを連れて校内へ避難を!」

 

「校内、ですか!?」

 

 クラベルの指示にサワロは仰天する。テーブルシティ市内ならばまだしも、わざわざ校内に悪人たちを雪崩れ込ませる事になりかねないのだ。

 

「彼らは見境がありません!早く!!」

 

 サワロの疑念にクラベルは簡潔に存念を述べた。

 たとえ街中に逃げようと、この無法者どもは構わず追跡のために無関係な人々を巻き込むだろうという確信があったからだ。

 

「クラベルさんは!?」

 

「"昔取った杵柄"というものがあります。急いで、宿直当番の先生と合流するのです!」

 

「うにゃあ〜!!」

 

「ああっ!」

 

 重ねて校内への避難を強く訴えるクラベルがリーリエとサワロを向く中、その背にかぎづめポケモンのマニューラが飛びかかっていた。

 そこにクラベルの腰元のボールホルダーから光が飛び出し…。

 

「うぇーーーーーい!!」

 

「にゃげッ!?」

 

 姿を現したポケモンが、空中のマニューラの腹に膝蹴りを突き刺し、吹っ飛ばして着地。

 青色の目立つボディにオレンジの嘴、水でできた水滴の形の羽飾りを背後に扇状に展開し、エキゾチックなステップを見せるのはダンサーポケモンウェーニバル。

 パルデア地方固有の初心者用ポケモン、クワッスの最終進化系だ。

 

「逃走経路は、私が開きます!ウェーニバル、アクアステップ!!」

 

「うぇいうぇいうぇ〜〜〜い!!」

 

 クラベルの指示に、ウェーニバルが包囲を固めるポケモンハンターたちのポケモンへダンスのステップを踏みながら一気に距離を詰めていき、次々と蹴散らしてゆく。

 

「クラベルさん、凄いです!」

 

 多数を相手に奮戦するウェーニバルの活躍に、思わずリーリエは両手を組む。

 サワロも、ポケモンハンターたちを相手にたった1人で立ち向かうクラベルの漢気に感激していた。

 

「やれ。」

 

 そんなリーリエとサワロに、ヤレユータンが軍配を玄関口へ指し示す。

 ウェーニバルに蹴散らされたポケモンの下敷きになり、出入り口を封鎖していたポケモンハンターたちが退かされ、逃走経路が出来ていた。

 

「リーリエさん!サワロさん!私に構わず行ってください!」

 

「うぇ〜い!うぇうぇ〜い!」

 

 カポエラーもビックリなカポエイラキックをウェーニバルが披露し、何体ものポケモンをKOしている。

 KOしてゆくポケモンが吹っ飛ばされ、資料を保管してある棚が倒れようともクラベルは一瞥もくれない。

 ただただリーリエたちを逃がそうと必死なのだ。

 

「リーリエさん!さぁ…。」

 

 可愛いものが好きなサワロも男の子である。

 クラベルの漢気に感じ入り、その奮戦を無駄にしてはならない、とリーリエの手を取る。

 その真剣な眼差しに、リーリエも頷き、共に走り出した。

 

「ターゲットが逃げるぞ、追え!」

 

「追わせるかーッ!」

 

 研究所の外に待機していたポケモンハンターたちが、中から飛び出し、アカデミー校内へ逃走を開始するリーリエとサワロを追いかけようとするのを、買い物袋を投げ付けて阻止する者たちが現れる。

 研究所にいるみんなで食べる用の夕食の買い出しに出ていた白衣のスタッフだ。

 

「皆さんもリーリエさんたちの後に続いてください!おそらく敵は既に校内にも侵入しています!彼女たちの護衛と、外部への連絡を!」

 

 単身敵を食い止める覚悟のクラベルが殺気を感じ、上を向くが反応が一瞬遅かった。

 

ズドオオオオオン!!

 

「うぇ、うぇー…い…。」

 

「ウェーニバル!」

 

 天井を突き破るでんきエネルギーの奔流がウェーニバルを捉え、強烈な効果抜群ダメージを与えたのだ。

 元より多数のポケモンハンターたちを相手にして体力を減らしていたところに不意の一発をくらってしまってはどうしようもない…。

 

「よくやってくれましたウェーニバル…。」

 

 クラベルが倒れ伏し、目を回して戦闘不能なウェーニバルをボールに戻すその一瞬、頭上から放たれたオレンジ色のレーザー光線に振り向けば、それはヤレユータンに命中していた。

 

「や、れ…。」

 

「なッ…!!これは、金…いや、プラスチックコーティング…?」

 

 レーザー光線を当てられたヤレユータンの全身が、瞬く間に鬱金色に変質し、動けなくなった様に、表皮の物質を特定したところでクラベルは背中に熱を感じた。

 ヤレユータンが変質させられたレーザー光線を、自身も当てられてしまったのだ。

 

「なんとッ…!?人間にも作用する、強制変質光線…!」

 

 体が鬱金色に染め上げられ、その視界も閉ざされてゆく。身動きを封じられる中で、クラベルはただただ念じるより他になかった。

 

「(お願いします…!リーリエさんたちをお助けください…!シ…ゲ…。)」!

 

ガチィィィィィッ…!

 

 程なくヤレユータンに続き、クラベルも鬱金色のオブジェに変えられ、沈黙した。それを認めてから、突き破られた屋根より飛び降りるは、ポケモンハンターズギルドの共通ユニフォームたる黒尽くめのコートに身を包み、目元はゴーグルで隠れたスキンヘッド頭。

 褐色で筋骨隆々な大男の左腕には、レーザー光線発射用のデバイスが装備されていた。

 




 『強制変質光線』
 命中させた対象を問答無用でオブジェ化させて制圧する。
 ポケモンハンターJ率いるポケモンハンターズギルドが当時他の追随を許さず違法ハント事業を拡大できたのは、この技術を確立できていたのが大きいとされる。
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