3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ポケモンハンターMの追跡がか弱き2人を襲う。
 サワロが身を挺し、リーリエも傷付く中、救世主がやってくる。
 大事な生徒を守る為…今、シゲルが悪漢に立ちはだかるのだった…!


スカーレットアドベンチャー チオンジェン防衛戦③ 最終防衛ライン、シゲル

 シゲルと大男が対峙する。

 互いに射殺すほどの視線をぶつけ合う。先に動いたのは大男。例によって左腕のデバイスをシゲルに向けた。

 

「ヘッ!カッコつけたつもりだろうが無意味だなァ。貴様も固めてからゆっくり仕事はさせてもらうぜ。」

 

「シゲル先生、逃げて下さい!」

 

 体の痺れが引いて来たリーリエが呼びかけるのをシゲルは掌を見せながら制する。

 心配はいらない、言外にそう告げていた。

 

「そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!」

 

 躊躇いなく大男がトリガーを引いた。

 しかし、デバイスからはレーザー光線が発射される気配が一向にない。

 

「あれ?おい、どうなってやがる!?」

 

「簡単な話さ。機械とは精巧なほどほんの少しの異常の前には脆い。水なんてかけられたらイチコロだろうねぇ。」

 

 口角を吊り上げ、見下した笑みをシゲルは大男に向ける。

 生物、非生物を問わず対象を鬱金色のオブジェに変えてしまう特殊なレーザー光線を放つためのデバイスは、それこそ特殊な技術を存分に用いた代物であろう。

 多少の防水加工はしてあろうが、そんなものはポケモンから吹きかけられる水流には何の意味もなさない。

 とりわけ、鍛え抜かれたシゲルのカメックスのハイドロポンプの前では。

 

「こぉーん!」

 

「わぁわわ〜!」

 

「ぱち!ぱち!」

 

 レーザー光線の発射デバイスが濡れて破損したことにより自動的に効力が解除されたのか、オブジェ状態であったシロン、ガーデン、そしてサワロのパチリスがリーリエの側に駆け寄り、彼女を再度守らんと大男の前に遮るように立ち塞がった。

 

「シロン…ガーデン…パチリスさん…。」

 

 同時にリーリエのボールホルダーからポン、と光と共に飛び出し、彼女を背負う影…。

 

「カキシルス。」

 

「チ、チオンジェンさん!」

 

「ターゲット発見…!」

 

「おっと、行かせないよ。」

 

 大男がリーリエを背に抱えるチオンジェンに向くのをシゲルはササッ、と遮る。

 リーリエのボールから出てきたチオンジェンは、シゲルの初めて見るポケモンであり研究者として意欲を掻き立てられるが、今はそれどころではない…。

 

「リーリエさん!今のうちに避難したまえ。こいつは僕が対処する!」

 

「貴様のような奴がこの俺を…ポケモンハンターM様の相手をする、だと!?」

 

 大男、ポケモンハンターMは青筋を立て、怒気を放つ。

 その褐色で筋骨隆々な出で立ちを前にしてもなおシゲルの態度は冷淡であった。

 

「悪党の戯言はジュンサーさんに並べるんだね。」

 

「カシ〜!!」

 

カサカサカサカサカサ…!!

 

 パチリスがリーリエの肩に乗り、ガーデンが周囲を飛び回れば、チオンジェンは雄叫びと共に滑走を開始。

 生徒寮まで一直線に向かうのをシロンが護衛として並走する。

 

「チオンジェンさん…。」

 

「カキシルス。」

 

 頭と木管を巻き付けた背の間にリーリエを跨らせたまま滑走するチオンジェンは、一言彼女に語りかけた。

 ポケモンの言葉が分からないリーリエには何を言ったのか判別できようもない。

 だが、彼女の意思を尊重した上でボールの中に身を潜め続け、ここぞという場面で姿を見せてでもリーリエを助けたいという気持ちは伝わってきた。

 

「ありがとうございます…。」

 

 抱き付くように体を寄せたリーリエの顔の泥が頭中を纏う枯葉に付着し、少し汚れる。

 それも構わず滑走するチオンジェンの表情は、どこか誇らしげなようにシロンには見えた。

 

 

 

「さぁ、早くポケモンを出したまえ。それともこのまま大人しく捕まるかい?」

 

 シゲルの挑発にMはニヤリと不敵に口元を吊り上げる。そして右手の親指と中指を合わせ、パチリと鳴らした。

 

「所詮は表のトレーナー…正々堂々しか頭にないと見えるぜ。」

 

 Mの嘲笑がこもった言葉と共に感知するのは、殺気。

 どこからだ?シゲルはすぐに特定した。

 

「上かッ!」

 

バリバリバリバリバリバリ!!

 

「はははははは!!」

 

 瞬間、雷撃がシゲルを、カメックスを、脳天を打つように放たれる。

 完璧なる着弾に、Mは大笑いした。

 

「もう既にポケモンは出していた…先手必勝!カメックスはみずタイプだから、これでダウンだァ!!」

 

 雷撃が放たれて舞った土煙の向こうには、倒れ伏すカメックスと、そこに駆け寄る情けない色男の姿があるに違いない。

 そんなMの確信は、すぐに打ち消されることになる…。

 

「な…なにィ!?」

 

 Mの視界に映るのは、健在であるカメックス。

 シゲルも不敵に腕組みしている。それだけではなかった。

 カメックスは、全身に青白いオーラを纏い、雷撃を抑え込んでいたのだ。

 

「馬鹿なッ!?カメックスがサイコパワーを扱うだとッ!?」

 

「野蛮なポケモンハンターは勉強不足なようだね。」

 

 驚愕するMにすかさず煽りを重ねる。ポケモンリーグの頂点を目指すことを諦めたとはいえ、シゲルは1日たりとも鍛錬を欠かしたことない。

 それでもなお悔やまれるのは、3年前、Mと同じ出で立ちのポケモンハンターJを前に歯が立たなかった過去であった。

 

「(トレーナーは引退した…など言い訳にはならない。僕も、ポケモンたちも、鍛え続けなければならないんだ。)」

 

 シゲルは改めて己に誓ったのだ。

 非道を決して許さず、正道の元に虐げられるものを助け、手を差し伸べられるよう強さを磨くべきなのだ、と。

 それが、サトシとは違う、『シゲルにとってのポケモンマスター』への道筋と信じて。

 

「カメックス、ミラーコート!!」

 

「がぁめぁぁぁぁぁ!!」

 

カカッ!!

 

 カメックスは押さえ込んでいた雷撃をそのまま放たれた真上まで跳ね返す。ただ跳ね返したのではない。

 ミラーコートによるサイコパワーが上乗せされ、倍の破壊力に引き上げられていた。

 

ドッゴォォォォォン!!

 

ヒュルルルル…

 

 遙か上空にて跳ね返された雷撃が大爆発。Mの目の前に空からボトリと何かが落ちてくる。

 

「くッ…。」

 

「なるほどね。」

 

 落ちてきたのは白と赤のツートンカラーが特徴的なボールポケモンマルマイン。

 完全に目を回し、ダウンしていた。

 

「でんじふゆうで頭上を取り、トレーナーからの指示を受けてかみなりによる高度からの撃ち下ろし狙撃…威力から見るにじゅうでんを用いて火力の増大も抜け目なし、と言ったところかな?」

 

 ふむふむ、と顎に手を当てながらのシゲルの推察は、Mのマルマインの立ち回りを端的に言い当てていた。

 ぐぬぬ、とMはマルマインをボールに戻す。

 

「さぁ、どうするんだい。大人しくジュンサーさんを待つか、まだ抵抗するか。」

 

 ふふん、とMとは対照的に自信満々に口角を吊り上げるシゲル。その目は態度とは裏腹に、決して笑ってなどはいない。

 眼前のポケモンハンターの一挙手一挙動に神経を集中させていた。

 

「…ねェな。」

 

「なに?」

 

「"貴様をぶちのめして任務を達成する"って選択肢以外あり得ねェな!!」

 

 Mがばら撒くように投げ入れたモンスターボールは、4つ。そのどれからも同じ影が飛び出し、シゲルとカメックスを包囲した。

 

「ゴローニャ…アローラの姿、か。」

 

 メガトンポケモンゴローニャ。300kgを越す重量ポケモンは岩石のような殻で円形の体を覆っているのがよく知られている姿だ。

 対してMが繰り出した4体のゴローニャは、3年前アローラ地方にて存在が確認されたリージョンフォーム…アローラ地方の環境に適応し、体に磁力を帯びて、胴体から突き出す黒い岩の柱によるレールガン機能を獲得した別形態と言えよう。

 

「「「「らっしゃいしゃい!」」」」

 

 4体のアローラゴローニャがジリジリとカメックスに近付く。

 シゲルからすれば、元より無法者のポケモンハンター相手にフェアプレーなど望むべくもないが、彼らの体内からでんきエネルギーが段々と上昇していくのは流石に脂汗を生んだ。

 

「(どうする…?)」

 

 Mの狙いは、アローラゴローニャ4体による一斉だいばくはつ。シゲル的には、自分1人難を逃れるだけならばなんてことのない話だ。

 しかし、今のシゲルは短期的な雇用とはいえ、ここオレンジアカデミーに教育者として招かれている。

 教師と講師の際こそあれど、生徒たちの学び場を荒らされることには強い抵抗感があった。

 なんとか爆発させずにこの4体を処理したいのだ。

 

「どうだ!いくらそのカメックスが強力であろうと、ハイドロキャノンが2つだけでは対処しきれまい。」

 

 見当違いな指摘で勝ち誇るMに、シゲルは額の汗をさりげなく拭いながら鼻で笑って見せる。

 

「なにがおかしい!?」

 

「いや、なぁに…。最初にきみにぶち当てたハイドロポンプ、あれはカメックスの口から発射したいわゆる牽制の速射砲でね。背中のキャノンは使っていないのさ。」

 

「なんだと!?」

 

「それに…僕のカメックスのキャノンは、それ相応の相手と真剣勝負をするために使うもの。無法を働くポケモンハンター風情には使えないね。」

 

 シゲルの嘲りに、Mは浅黒い二の腕を震わせる。完全に頭にきていた。

 

「おのれ、俺を愚弄するか!」

 

「正当な評価さ。」

 

 怒り狂うMに対し、シゲルは手立てがないまま煽り立てる口数だけは止まらない。

 これはもう生来からのものと言えた。おそらく今後も直りはしないだろう…。

 

「シゲル先生!」

 

 その時だった。背後から声がするのでシゲルが振り向けば、そこにはリーリエとサワロ…その後ろに生徒たちが続いていた。

 窮地を脱したリーリエが、学生寮の生徒たちを引き連れて戻ってきたのだ。

 レーザー光線の発射デバイスが破損したことにより、それまでオブジェ化されていたものたちも復活し、アカデミー中の照明が点灯。

 グラウンドに向けられた眩しい光は、さながらMという悪意ある部外者の存在を晒し上げるように降り注がれた。

 

「リーリエさん!みんな、危険だ!避難するんだ!」

 

「いいえ、わたくしたちも戦います!シゲル先生ばかりに苦しい思いはさせません!」

 

「このオレンジアカデミーは我々の学校なれば、我々にも守るための戦いをする権利がありましょうぞ!」

 

 シゲルからの避難指示にリーリエは首を横に振り、サワロの談に生徒たちが同調する。

 生徒たちが繰り出したポケモンたちも、それに呼応して鳴き声を上げていた。

 

「フフフ。サワロ1年生の言う通り、このオレンジアカデミーはワタシにとって芸術を極めるために必要な場所!ポケモンハンターなぞにやらせはせぬぞ!」

 

「いつも似たようなことしてる人もいますけどね〜。」

 

 リーリエとサワロが連れてきた援軍の中には、2年生のコルサと、1年生のカエデもいた。

 定期的に美術室周りを騒ぎに巻き込んでいるコルサに対してカエデがしれっと毒を吐くも、コルサは意に介していない。

 

「しかし…ん?」

 

「ははははは!随分慕われてるじゃあないか!シゲル先生さんよう!!」

 

 生徒たちを戦いにことに難色を示すシゲルの視線がある一点に向き、目を丸くする。Mからの煽りも耳に入ってはいない。

 

「ならみんなまとめて吹っ飛びやがれ!!ゴローニャども、だいばくはつだぁーッ!!」

 

「「「「らっしゃ〜い!!!!」」」」

 

 アローラゴローニャたちの体内のでんきエネルギーが臨界まで達する。

 特性『エレキスキン』により、本来ノーマルタイプの技であるだいばくはつの威力も底上げされていた。

 

「はーははははは!そーれ、ドカーーーン!!」

 

 勝ち誇るMの笑い声と、起爆指示に合わせてアローラゴローニャ4体は盛大に大爆発。

 シゲルやリーリエら生徒たちは爆発に巻き込まれ、あえなく倒され…はしなかった。

 

シーーーン…?

 

「あれ?」

 

 襲い来るであろう爆発の衝撃を前に身構えていたリーリエたちは、いつまで経ってもそれが起こらなくて首を傾げる。

 

「おいどうしたゴローニャども!ほら、ドカーーーン!!」

 

「ら、らっしゃい…。」

 

「らっしゃい?」

 

 慌てながらに何度もMは起爆の指示を出すも、一向にアローラゴローニャたちはだいばくはつを使えず、彼らも顔を見合わせるより他にない。

 

「一体何がどうなってんだ?」

 

 異常事態を前にMは辺りを見回す。そうしてすぐに原因を見つけた。

 生徒たちが繰り出したポケモンたちの中にしれっといる、みずうおポケモンウパー…。

 

「し、しめりけかぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

「うぱぁ?」

 

 Mに指を差され、ウパーとトレーナーののんびり屋さんな生徒は何のことだか、とリーリエたち同様首を傾げていた。

 




 『カエデ』
 10歳。オレンジアカデミー1年生。
 ほわほわした雰囲気で周囲を和ませるお菓子作りが趣味の女の子。
 コルサとは先輩後輩の間柄ながら彼の暴走に対し毅然と対処する芯の強さも持っているよ。
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