3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
ダイマックスエネルギーと砂嵐でみんなが吹き飛ばされる中、シゲル、クラベル、リーリエ、サワロの4人が一丸となり立ち向かうのだった。
先鋒として、ポケモンハンターMのダイマックスバンギラスの面前に臆さず飛び込むウェーニバル。
その表情は、全身に突き刺さる殺気をスリルとして楽しんでいた。
ウェーニバルというポケモンが種として持つダンサーとしての本能と、クラベルを主人として信頼する思いが程よく調和しているのだ。
「インファイトです!」
モリモリモリモリィ…!
クラベルの指示に合わせ、ウェーニバルの両足がみるみるパンプアップされる。
「うぇ〜〜〜い!!」
ガキィィィィ!!
「な、なんと!?」
防御を捨てたウェーニバル渾身の蹴り。しかし、それは無情にも防がれてしまう。
バンギラスの全身には、あらゆる攻撃から身を守る不思議なバリアが展開されていたのだ。
それは、溢れるダイマックスエネルギーによる産物であった。
「そんなちっぽけな力で何ができる!!」
「くッ!」
バリアで攻撃を防がれたウェーニバルは、自由落下に身を任せるしかない。
少なくとも次の行動のためには一旦の着地を余儀なくされている。そこを見逃すMではなかった。
バンギラスは、空中のウェーニバルに狙いを定めた。
「ダイロックだぁ!!」
「ばんんんんん!!」
バンギラスの咆哮に呼応し、巨大な岩盤が地中より掘り起こされては、ウェーニバルめがけて倒れ込む。
「うぇッ…。」
たまらず身を屈めてガードを固めるウェーニバル。
その前に飛び出した小さい影は、パチリスだ。
「パチリス!このゆびとまれですぞ〜!!」
「ぱちぱちぃぃぃ!!」
跳躍して躍り出たパチリスはズビシ!と天に指をかざす。
すると岩盤は、ウェーニバルではなくパチリスの方に倒壊を始めたのだ。
「サワロさん!」
「ワガハイに出来るのは、このくらいであります。」
バンギラスのダイロックは、ウェーニバルからパチリスへと対象が変更された。
それはすなわち、巨大な岩盤は、小さなパチリスに降りかかることになる…。
ゴシャァァァァァ!!
「ぱちぃ〜!」
「(すまない、パチリスッ…!)」
シゲルの準備が完了するまで、クラベルのウェーニバルには少しでも前面にて暴れてもらわねばならない。
その為には、出来る限りウェーニバルへのダメージ蓄積は避けるべき…サワロの的確な判断は、パチリスに犠牲を強いるものであったが、パチリスはそれに一切反発せず完遂し切った。
「ぱちぃ…ぱち。」
倒壊し、粉々に砕けた岩盤の中から這い出てきたところがパチリスの限界であった。
皆にサムズアップを作ってからコテンと倒れ、戦闘不能になる。
「パチリスさんの頑張り、無駄にしません!シロン!」
「こぉぉぉーん!」
シロンが全身から冷気を発する。その冷気はやがて砂嵐を押し留め、ついには氷の世界を現出させた。
「ゆきげしき!」
すなあらしが上書きされ、グラウンド全体に雪が降り始める。
フィールドをゆき状態にすることで、バンギラスに有利な場を打ち消したのだ。
「無駄なことをしやがる!バンギラス、もう一度ダイロック!」
フィールドを上書きされたなら、再度上書きし返せば良い。Mの指示は冷静であった。
「ばぁぁぁ…!!」
それがポケモンに聞き入れられれば、という話ではある。
バンギラスは口を大きく開け、ほのおエネルギーを撃ち放つ準備をしている。ダイロックの体勢では、ない…。
「バンギラス!?なにしてる!!ダイロックだ、ダイロックを撃つんだよ!!」
「人工ガラテラ粒子を過剰に取り込み、不思議なバリアを展開できるまでに強化されたダイマックス…その反動としては、トレーナーの指示が完全には通らないようになる、と言う訳ですね。」
ここに来て、Mと彼のポケモンとの間に齟齬が生じ出したのをクラベルは見抜く。
「ぼぁぁぁぁぁんぎ!!」
「ほのおのダイバーン!」
バンギラスが口から発射した熱線がシロンに容赦なく叩き付けられる。
「きゃあッ!」
「リーリエさん!」
着弾の後の、大爆発。発生したほのおエネルギーが降っていた雪を蒸発させ、上空に超小型の擬似太陽を形成する。
ゆき状態から今度ははれ状態へとフィールドが変化したのである。
「わたくしは大丈夫です。シロンは…あぁっ。」
ダイバーンによる爆発で尻餅を突かされたリーリエはサワロの支えで起き上がれば、モヤが晴れた先の倒れたシロンが見えた。
戦闘不能になっている。
「なんとしてでもあのバリアだけでも…!」
サワロのパチリスが、リーリエのシロンが、次々と体を張って倒されてゆく…。
胸を痛めながらクラベルは決意する。自分もまた、捨て身でなければと。
「ウェーニバル、私たちもまた活路を開く嚆矢とならん!」
「うぇーい!」
主人のクラベルにサムズアップして見せてから、ウェーニバルは走り出す。
決意のステップ…今度はバンギラスのダイマックスした巨体を、走ってよじ登り始めたのだ。
「おのれ、ちょこまかと!バンギラス、振り払え!」
「ばぁん!ぎやぁ!」
バンギラスは巨体を震わせながら駆け上がるウェーニバルを引き剥がそうとするも、ウェーニバルは決して離れない。
「うぇうぇうぇ〜い!」
瞬く間に頭上まで登り切ったウェーニバルはそこから跳躍。そして限界まで高さを稼いでからの急降下。
そのエネルギーを加味した上での肉弾突撃を敢行した。
「ぬおお、ウェーニバル!インファイト!!」
「うぇぇぇぇぇい!!」
両脚を再度パンプアップ、今度はそれだけではない。全身を錐揉み回転させながらの急降下キック。
先に放ったものより、さらに前のめりなインファイトであった。
ガキィィィィ!!
「無駄なことだと言ったろう!たとえ効果抜群であろうともバリアの前では!!」
「無駄なことなど一つたりともありません!」
「うぇうぇうぇうぇ、うぇーーーい!!」
ギュルルルル…!
ウェーニバルの錐揉み回転は止まらない。むしろその回転はさらに増してゆく。
「そうか!インファイトのエネルギーを自身の回転力にプラスして…!」
「見てください!ウェーニバルさんが!」
グググ…!
回転し突き出された脚が、徐々にバリアに深く食い込んでゆく。
「光の射す方へ…光の射す方へー!!」
「うぇーーーーーい!!」
さながら全身を激しい勢いのドリルに見立てた穿孔の蹴りはバリアに亀裂を生み、そして…。
バリィィィィィン…!
「バンギラスのバリアが…!」
「砕けた…!」
「ばぁぁぁぁぁッ!!」
不思議なバリアを破壊し、力を使い果たしたウェーニバルにバンギラスは拳を叩きつける。
「うぇぶッ!!」
「ウェーニバル!!」
巨大な拳で勢い良く殴りつけられたウェーニバルが吹っ飛べば、クラベルはその進路に立ち塞がり受け止める。
「ぐッ…おおお…!!」
それでも勢いは殺しきれず、クラベルごとウェーニバルは後方へすっ飛んでいってしまった。
全身で受けた直撃の破壊力からして、戦闘不能は免れないだろう…。
「(いけるかい?カメックス。)」
「(がめ。)」
クラベルが、リーリエが、サワロが、決死の防衛戦を展開する中、シゲルとメガカメックスはずっと暝目し、精神を同調させていた。
互いの心をリンクさせ、より大きな力を生み出す。
それは、絆の波導…。ぶっつけ本番ながら、シゲルには成功させ得る確信はきちんとあった。
『ルカリオ!巨大はどうだん!!』
『くぉぉぉぉぉ!!』
3年前のPWCSランクマッチ最終戦、そして、マスターズトーナメント準決勝。
サトシがその2つの要所で炸裂させたルカリオの巨大はどうだん。それは、のちに試合をチェックしたシゲルにインスピレーションを与えた。
僕とカメックスなら、同じことが出来るのではないか?
そんな思いから、仕事の傍らのトレーニングで日々習得へ向け励んだ。
「サトシが出来たことならば、僕にだって出来るはず。」
それは、幾度となく自分に言い聞かせてきたことであった。
道は違えど同じ夢を持つライバルとして、今でもシゲルの闘志は折れてはいない…。
「いくぞッ!!」
「がめぇ!!」
シゲルとメガカメックスの両眼が大きく開かれ、メガカメックスの天に掲げていた両手、その先に蓄積され続けていた波導が一気に結実する。
巨大はどうだん…。メガカメックスの何倍も大きなエネルギーの塊が、眩い輝きを放った。
「ぬううッ!?」
3人を相手にする中で、完全にシゲルから視界を外していたMは驚愕を隠せない。しかし、すぐにその口角を吊り上げて見せた。
「いくらパワーを集めようが、放つ前に潰してしまえばなんてことはないッ!!」
「ばあああああ!!」
危機感を抱くのはバンギラスも同様であった。
過負荷となっているダイマックスエネルギーにより、トレーナーであるMの制御から離れかけていながらも、メガカメックスの巨大はどうだんの脅威はしっかりと感知していた。
すかさず口内にエネルギーをチャージにかかる…。
「(流石に向こうの方が動きは速いかッ…!)」
一撃で仕留めるには、この巨大はどうだんを直撃させねばならない。放つ前に潰されるのはもちろん、技と技のぶつかり合いで威力を殺されても駄目なのだ。
さりとて巨大はどうだんを再度作るだけの時間も、時間を稼いでくれる仲間も期待できない…。
「このままでは…!」
リーリエが悔しさに顔を歪ませる。
その時だ。彼女のボールホルダーから光が飛び出したのは。
「カシ…!」
「なんと!?」
「チオンジェンさん!」
ボールに戻していたチオンジェンが自らの意思で外に出た。バンギラスを見上げるその目は…。
「カシカシ…!」
明らかに怒っていた。
「ほう、ターゲット自ら出てくるとは手間が省ける。」
「チオンジェンさん!彼らはあなたのことを狙って…。」
「カキシルーーース!!」
リーリエの制止を遮るチオンジェンの雄叫びが、テーブルシティ中に響き渡った。
同時に体から舞い散る枯葉が、次々と変化しながらバンギラスへと放たれてゆく。
「ばぅあ!?」
ボガンッ!!
構わずチオンジェンごとメガカメックスの巨大はどうだんを阻止すべく口から熱線攻撃を放ちにかかるバンギラスであったが、チオンジェンが放った物体により瞬く間に口元を塞がれ、口内で暴発してしまう。
「あれは、枯葉?いや…木の札?」
「チオンジェンは、木札を生成して土地のエネルギーを吸い尽くす力があると古い文献には書いてありました。おそらくは、その力を使ったのでしょう。」
「クラベルさん!」
吹き飛ばされたクラベルが、ウェーニバルに肩を貸しながら戻って来た。
着ていた白衣はズタズタで、眼鏡も片方が割れてしまっている。
「チオンジェンは、許せないのでしょう…。自分に良くしてくれるリーリエさんを傷付けるポケモンハンターの蛮行の数々に。」
「堪忍袋の緒が切れた、という感じでありますか。」
「チオンジェンさん…。」
「カキシルス!カキシルス!」
木札が嵐のように風に乗って吹き荒れ、やがてはバンギラスの全身に付着してゆく。
夥しい量の木札はバンギラスからパワーを吸い上げ、それぞれがドス黒いオーラとして溜め込んでゆく。
「くッ…人に災いをもたらすポケモンが、人の為に戦うだと!?」
「それこそ人が勝手に押し付けた話だろう。」
「なんだと!?」
シゲルは依然チオンジェンのことは何も知らない。
ただ、バンギラスを足止めする枯葉を被ったこのポケモンが、リーリエの為に怒っていることだけはなんとなく分かった。
「ポケモンは愛情を注いで育てれば必ずトレーナーに応えてくれる。きみのポケモンたちだってそうであるはずさ。」
「それは…!!」
「いや、答えてくれなくて結構。」
Mをシゲルは制止する。
ポケモンハンターでこそあれど、彼も有力な実力を備えているのは事実。
伝えるべきことはすでに伝えた。その上で彼が突き進んだ道ならば、自分も自分の道のためになすべきことを果たすのみだ。
「カメックス!!」
「がぁぁぁ…!!」
巨大はどうだんが一際大きな輝きを放ちながら、さらに大きさを増す。
「巨大はどうだんッ!!」
シゲルはビシ、とバンギラスを指差す。メガカメックスはシゲルの狙いにめがけて…。
「めぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
両腕を振り下ろした。
瞬間、巨大はどうだんが放たれ、バンギラスが木札の間から迫る波導エネルギーの球体を前になすすべなく全身包まれ、そして…。
チュドオオオオオオオン!!
「ばんぎやあああああ…!!」
炸裂に巻き込まれ、致命傷を受けた。
「お、俺のバンギラスが…!!」
「おぉ、バンギラスの体が…!」
巨大はどうだんの直撃は、バンギラスの体力を根こそぎ刈り取った。体内のエネルギーが霧散していき、ダイマックスも解除されてゆく。
切り札のバンギラスが倒され、呆然とするM。
それが、逃走の為の最後の猶予を潰してしまった。
「は…はうあ!!」
我に帰った時にはもう遅かった。
ダイマックスが解除されながらのバンギラスの巨体が、自らの頭上へ落下して来る…。
「やめろ、来るな…来るなぁぁぁ!!」
慌てて走って逃げるも、既に安全圏まで逃げ延びる為の猶予はなくなっている。
その鍛え抜かれた脚力でも、迫り来る巨体の影から逃れることは叶わない…。
ドスゥゥゥゥゥン…!!
やがてバンギラスは、主人のMを押しつぶす形で完全に倒れ伏した。ダイマックスが解除されては、目を回してダウンしている200kgオーバーの重量ポケモンの下敷きとなり、白目を剥いて気絶するMの姿があった。
戦いは、終わったのだ。
「さてと、まずはお疲れ様、諸君。それと…。」
メガシンカが解除されたカメックスを従え、シゲルはクラベルたちに歩み寄る。
「何が起きているのか、説明願えますか?クラベルさん。」
その奮闘による当然の権利からの問いかけに、クラベルはさいやくポケモンに関わる全てを共有する。
それを聞かされたシゲルは、我が生涯のライバルが、またぞろ厄介な話に巻き込まれたものだ…と苦笑いと共に嘆息を漏らすしかなかった。
チオンジェン防衛戦 vsポケモンハンターM
勝者 シゲルとアカデミーのみんな