3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
クラベルが、サワロが、リーリエが、そしてチオンジェンが死力を尽くして繋いだバトンをシゲルはしっかり勝利へと繋ぐ。
みんなの力が、悪人たちの暴力に打ち勝ったのだ…!
パルデア地方北西部に位置するオコゲ林道は、穏やかな気候から紅葉が多く、秋晴れの目立つエリアである。
その過ごしやすい気候とは裏腹に、南をオージャの湖とそこから流れ出る滝に、北と西は海に、そして東はナッペ山と、自然の要害に囲まれた僻地であり、パルデアの人々もこの辺りに集落を開発するという発想には現在に至るまで及んでいない。
「ののぉ?」
「ふぉう…。」
この地に数多く生息するノノクラゲや、普段は自生する木にへばりついて過ごすフォレトスが小高い丘から眼下にあるオージャの湖、その中心部にぽつんとある小島をぼんやりと眺めている。
小島の喧騒は、まさに対岸の火事。
変わらぬ日々を過ごす彼らにとって貴重な刺激と言えるものでしかなかった。
時は少し遡る。
テーブルシティからそらとぶタクシーでオージャ第2物見塔まで辿り着いたグラジオとナンテは、現地で待機していた学生たちと合流。
物見塔から周辺を見渡し、湖の中央部にある小島に異変を見つけた。
「あれは!」
小島に見えるは黒尽くめのコートの集団。彼らが鬱金色のオブジェとなったポケモンたちを専用のケースに入れ、テントの中に運び込む現場であった。
その周辺には、同じくオブジェにされた学生たちの姿も見て取れる。
「他とは装備が違う奴…グラジオくん。」
「あぁ、間違いない。奴だ。ポケモンハンターL!」
ナンテにグラジオが力強く頷いた。
ゴーグルで目元を隠し、周囲のハンターが明らかに謙った態度を見せる黒髪の男は、2人が以前出会したLというコードネームのポケモンハンターであった。
「データ照合…なし。あの頭に何か乗っけたポケモンがおそらく塵土の祠に封印されていたさいやくポケモンでしょう。」
Lの側に佇むオブジェをナンテは見やる。
それは土石で作られたかのような無機質な四つ足のボディに、頭には角の代わりなのか、中央から真っ二つに割れた器を乗せている。
さいやくポケモンディンルー…実際の体色は、すでにオブジェとして固められている為判然としない…。
「奴ら、もうさいやくポケモンを…!」
「あなた方が来られる少し前にですね。あの見知らぬポケモンはあの連中に小島まで追い込まれて。」
2人に状況を説明するのは1年生のアオキ。彼も研究所でフィールドワークを受け持ち、賃金を稼ぐアルバイターであった。
その表情は普段と変わらぬポーカーフェイスながら、どこか強張りを見せる。それはシンプルに、ポケモンハンターに対する義憤からのものであった。
「周りの学生さんたちは、差し詰め深入りしすぎて尾行がバレた…というところでしょうか。」
ナンテはポケモンたちはもちろん、オブジェにされてしまった生徒たちも苦々しく見つめ、アオキはその言に首肯する。
さいやくポケモンと同じように、彼らも救出せねばならない。
「もう1つ、良くない流れを追加だ。」
3人が話すところに混ざるのは、白い髪に黄の虹彩、浅黒い肌をした白衣の青年だ。
研究所でフィールドワークをする学生バイトたちにとっては、主任のクラベルとの間に立って的確に指示をくれる良き現場監督である。
「ダムさん。」
「クラベルの旦那や研究所に待機してあるメンバーが、グループにも個チャにも既読すらつけてこねェ。」
「なんですと。」
自身の名前『フリーダム』をもじって『ダムさん』と呼ぶよう青年は周囲に通していた。
スマホロトムの液晶を見せ、幾度かの定期連絡に対し待機組からは全くの梨の礫となったことを伝える。
「ナンちゃんよ、お前さんの推察に近いことが起きてんじゃねェかい?」
チオンジェンを狙ったポケモンハンターの研究所襲撃…実際それは事実として起きたのだが、現状遠くオージャの湖からではそれを確かめる術はSNSより他にはない。
そのSNSが連絡網として機能しない、ということは、ディンルー確保組にとって風雲急を告げた形であった。
「奴らは、既にディンルーの確保自体はしてしまっている。と、なれば後は…拠点としている飛行船の到来を待つばかりな状態。」
ナンテはダムさんが統括するバイトたちと連携し、ポケモンハンターズギルドの行動形態を詳らかにしていた。
このまま手をこまねき、モタモタしているうちに飛行船が到着し、ディンルーを運び込んでしまうだろう。カモフラージュ機能の搭載されたハイテク機に搬入まで許してしまっては、追跡する手段は絶無である。
「さりとて正面対決に向こうが応じる理由もない…下手に仕掛ければ我々も獲物の周りを飾る銅像の仲間入りでしょう。」
「ならどうする?このままおめおめと奴らにディンルーを渡すのか?」
詰め寄るグラジオにナンテは首を横に振って見せる。
悪人どもにさいやくポケモンを持ち帰らせるなどもってのほかだ、そこは間違いなく彼と意見を合致させている。
しかし、人もポケモンも構わずオブジェに変えてしまうレーザー光線の存在が、ただただ脅威であった。
「要はお前らを奴らの只中に送り込み、隙を突いて危ないモンを無力化すりゃあいいわけだな。」
ここでダムさんは要点をまとめ、確保組は皆大きく頷く。
「よし、分かった。敵地潜入に手っ取り早い策を思い付いた。とりあえず聞いてみてくれ。」
スマホロトムの通話機能を使い、テレビ電話モードに切り替え、通話先の相手にも伝わるようにしてからダムさんが作戦立案に入る。
それにグラジオ、ナンテの両名はもちろん他のメンバーも同調し、ディンルー確保作戦が決行されるのだった。
ポケモンハンターハンターLは苛立っていた。
追い詰めたさいやくポケモンディンルーをオブジェ状態として固め、ケース内に保管したのはいい。しかし、自分たちを回収しに来る手筈の飛行船がいつになっても到着しないのだ。
腕組みし、右の人差し指がトントン、と二の腕を押すように動かし、辺りをぐるぐると歩き回りながら時間を潰している。
「ギルド号はまだ来ないのですか!?」
「はっ!N様の担当されている西1番エリアから出発したという報告は未だなく…。」
「なにをしているのやら、全く。」
忌々しい話であった。
チオンジェンの捕獲は邪魔をされ、捲土重来を賭けて挑んだディンルーの捕獲が成功したまではいい。
だがそれも、先にパオジアンの捕獲に当たっていたNに先んじられた形であったのだ。
「(せっかく再興まで漕ぎ着けたポケモンハンターズギルド。いつまでも4頭体制の一角に甘んじるつもりはないというのに。)」
Lはしきりに天を仰ぐ。そこに、したっぱの1人が駆け込んで来た。
「L様!我らに味方したいという輩が御目通りを願いに来たのですが…。」
「なに?」
Lは目を丸くする。
ポケモンハンターとは世間的に言えばポケモンに関わるあらゆる立場の者からして不倶戴天の敵扱いなのだ。悪びれる意識はないにしても、最低限その辺りの認識はLとて持ち合わせている。
そこに尻尾を振りに来る輩などは、大抵悪ぶった半端者が相場であるのだが…。
「まぁ…暇潰しにはちょうどいい、ですかね。」
「どうします?」
「会いましょう。ディンルーのケース周りはよく警戒するように。」
自分たちの周りをアカデミーの学生連中が何やら嗅ぎ回っているというのはLも知っている。
しかし、そこは所詮学生…そんな認識がLにあったのは否定しようのない事実であった。
「おう、わざわざすまねェな。時間作ってもらっちゃって。」
「我々に味方したい、だとか?」
「あぁ。俺はフリーダム。しがない学校附属の研究員、って奴だ。ダムさんでいいぜ。」
どこを見渡しても湖が広がる中、したっぱに案内されてきた軽薄な男にLはジト目を向ける。
そして、その両サイドに連れてきたであろう2人を見ては目を丸くした。
「こいつらは手土産さ。ウチの研究所のバイト連中を煽動して、アンタらのことを嗅ぎ回るように利用してたのさ。」
ダムさんに連れられてきたグラジオ、ナンテはそれぞれ後ろ手に縄で縛られている。
ボールホルダーに手が届くことはなく、抵抗出来るようには拘束されていない。
Lは、囚われのグラジオとナンテにより、考慮していた妨害される可能性が立ち消えたことに内心ほくそ笑む。
「俺もさ。カントーに置いてきたカミさんが近々ガキを産むってんで今よりもっと稼ぎが入り用でさ。そんな中じゃ真っ当に働くのは馬鹿馬鹿しくってさぁ?」
「アンタ…こんな奴らに与して得た金で育つ子供が可哀想だとは思わないのか!?」
「ヘッ。金に綺麗も汚いもあるかよ。」
憎々しげに睨み付けてくるグラジオに対してもダムさんは飄々と返す。
平気で仲間を売る悪辣な様に、Lは懐疑を解いた。
「よろしい!ならばダムさんとやら。あなたは私の専属研究員として雇い入れましょう。もちろん報酬も弾みますよ。」
「ヘヘッ!ありがてぇ。なんなら俺の知り合いにも声かけてやろうか。」
「それはそれは。我々ポケモンハンターズギルドも実を申しますと人手は不足してましてね。有能な人材はたくさん欲しいのです。」
話がまとまり、ダムさんとLは握手する。と、なれば後は手土産の処理である…。
「"エーテル・プリンス"に"3鳥越え"…連れているポケモンはたとえお手付きでもそれなりに高く売れるでしょうなぁ。」
「悪く思わねェでくれよ。俺にも生活があるんだ。」
「くッ…!」
「もはやこれまでか…。」
ジャキリ、とLは左腕のデバイスをグラジオとナンテに向ける。
悔しそうに2人が俯くその時、別のしたっぱが慌てて走り込んで来た。
「申し上げます!アカデミーの学生どもが乗り込んで来ましたぁ!」
「ダニィ!?」
「ま、まさか…俺が尾けられてたのか!?」
ダムさんは慌てて白衣を脱ぎパタパタと振って尾行用のセンサー類の取り付け有無を確認している。
「スマホロトムではないのですか?」
「裏切り脱走すんのにそんなもん持つかよ!GPSで居場所なんざ即バレるのに。」
Lの指摘にダムさんは間髪入れずに返す。手土産の2人も事前にしたっぱによるボディチェックを受けている。
それでここまで通されている以上、尾行されるものをわざわざ持ってきたとも思えない…。
「兄者。」
Lの傍に、彼と瓜二つの男が姿を現す。グラジオとナンテはそれを見て、先日の違和感の正体を掴んだ。
「(こいつら…!)」
「(ふたごちゃんだったのね。)」
グラジオはリーリエとチオンジェンを救出に向かった際、南1番エリアで戦ったのはどちらだろうかと2人のLを見比べた。
「仕方ありませんね。黙らせてきなさい。」
「御意。」
兄者、と呼ばれるそれまでダムさんと話していたLが、もう片方のLに指示を出す。
「(なるほど…兄貴が表の顔役で、弟が影となって裏回りを担当、ってか。)」
「むむ!兄者!!」
ダムさんが正鵠を射る推察をする中、裏のLが頭上高くの気配を察知し、空を見上げた。
そこには、ムクホークに乗るアオキ少年…。
「くほぉぉぉ!」
「見つかったか。しかし…。」
「尾けられていたのは空からか!」
2人のLが左腕のデバイスからレーザー光線を発射する。
当たればオブジェにされてしまうそれをムクホークは飄々と避けて高度を取り直した。
背に乗るアオキは、スマホロトムの操作を済ませ、身を屈めた。
「ご苦労様ですムクホーク。ここから我々もしたっぱ排除に加わりましょう。」
「ほぉぉぉぉぉ!」
一旦高度を高く取り、レーザー光線の射程から外れた後に地上へ降下準備に入る。
それでアオキは、2人のLの視界から消えることに成功した。
「逃すものか!」
「そうはさせぬぞ、悪党どもよ!」
裏のLがボールを取り出し、アオキの追撃に入ろうとする中に響く声…。
「この声は一体!?」
表のLが辺りを見回す。変わり映えしない湖が広がるだけの暗闇に変化はみられないが…。
「人の助けを呼ぶ声応え…ポケモンの救いを求む声にも応え…海からふらりとやってきて、助け救って海へ去る…。」
ザパァァァァァァァ!!
水中より飛び出し、空中で錐揉み回転する影は、3点着地にてその姿を悪党の前に見せる。
それはまさしく、ヒーロー登場のそれであった。
「兄者!!」
「湖の中から!?」
「我が名は!マイティG!!ただいま見参ッ!!」
『エーテル・プリンス』
第2回アローラリーグ予選大会を突破し、チャンピオンリーグまで駒を進めたグラジオに送られた称号。
生まれからくる直球極まりないネーミングだとしながらも、グラジオ的には満更でもないらしい。