3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ポケモンハンターLは、グラジオとナンテが現場入りした頃には既にディンルーをその手に収めていた。
 速やかなる奪還作戦の為、ダムさん渾身の策が今火を吹く。反撃は、ここからだ。


スカーレットアドベンチャー ディンルー救出戦② グラジオvsポケモンハンターL

 時はほんの少し遡る。

 第2物見塔にて提案されたフリーダムことダムさんの作戦は、至極シンプルなものであった。

 自らが裏切り者としてグラジオとナンテを捕らえた上で引き連れ、ポケモンハンターズギルドの野営地に入り込んでLの居場所まで潜り込み、それを上空のアオキが座標をマイティGに伝える…。

 物見塔へ向かう最中であったマイティGは、相棒のサメハダーをかっ飛ばしながらスマホロトムの通話でその立案を聞いていた。

 

「随分と無茶をしよるものよ。」

 

 マイティGは独りごちる。ただ、その無茶に走る精神に好感を持ったのも事実であった。

 

「それはいくらなんでも危険すぎます。ダムさんにもしものことがあったら奥さんは…。」

 

「なーに、心配要らんよ。カミさんは俺なんかよりずっと人間出来てる。生まれてくるガキも立派に育ててくれるさ。俺が死にゃあ、ガキがトレーナーになるくらいまでの養育費は保険で下りるようになってるしな。」

 

 このポケモン社会において片親など珍しくもない、とダムさんはカラカラ笑って見せる。

 

「それに、名前も決めさせてある。女の子ならカミさんの好きしていいってさ。」

 

「男の子の場合は?」

 

 ナンテの問いにダムさんは天を仰ぐ。覚悟を決めた漢の眼差しに映るのは、愛する妻と、彼女が抱くまだ見ぬ我が子…。

 そう遠くない未来に父として立つ漢の佇まいには、見るものに深い覚悟と、清々しさを印象付けた。

 

「"フリード"。」

 

 

 

 時をほんの少し戻そう。

 アロハシャツと短パンに身を包んだ筋骨隆々の大男がぬらり、2人のLの前にて立ち上がる。

 その鍛え抜かれた肉体からは、筋肉の圧力以上のプレッシャーが放たれていた。

 無法を働くポケモンハンターのやりように、マイティGもまた義憤から燃えていた。

 

「己が欲求の為に他者を傷付けるポケモンハンターども…許せんッ!!」

 

「なにをう、飛んで火に入る夏の虫めが!」

 

 レーザー光線の発射口が2つ、マイティGへと向けられる。それしきで怯む海のヒーローであるはずもない。

 

「サメハダーよ!」

 

ザパァァァァァ!!

 

「兄者、また湖の中から!」

 

「新手か!?」

 

「スケイルショット!!」

 

「しゃぁぁぁぁぁッく!!」

 

ババッ!ババッ!

 

 湖から飛び上がったサメハダーが、ドラゴンエネルギーを纏った鱗を弾丸として発射する。

 

「くッ!」

 

「うお!」

 

 放たれた鱗の弾丸は、2人のLが左腕に装着していたデバイスに寸分狂いなく突き刺さる。

 深刻なダメージを与えたのはあくまでデバイスのみであり、人体に危害は至っていない。

 それは、マイティGのヒーローとしての矜持からの絶妙な匙加減であった。

 

「しまった…!」

 

 これには表のLも狼狽を隠せない。オブジェ化光線発射デバイスによる対象の無力化は、ポケモンハンターズギルドにおける生命線なのだ。

 デバイスの製造コストも馬鹿にならず、コードネームを持ち、部隊範囲の指揮権を持つ自分達上位メンバー分しか配備も間に合っていない。

 当然、装備の予備などあろうはずもない…。

 

「ナイスだ、おやっさん!」

 

 マイティGにサムズアップを送りながらダムさんは2人のLから勢いよく飛び退き、ボールを投げる。

 

「らい…!」

 

 飛び出して来たのは軍帽を被り、葉巻を咥え、肩にコートを羽織った軍装スタイルに身を包むライチュウ…。

 

「らいらいらぁぁぁい!!」

 

 『コマンダーライチュウ』…ダムさんを知る人々はこの子をそう呼んでいた。

 

「コマやん!石化解除された生徒たちの避難誘導に回るぞ!」

 

「らぁいちゅ!」

 

 瞬く間に裏切り者の立場を翻したダムさんに反射的に周囲のしたっぱが同じねずみポケモンのアローララッタを左右から差し向けるのを、コマンダーライチュウこと『コマやん』はそれぞれ片手で押さえ込み、捻じ伏せて見せる。

 

「こいつら…!」

 

 ダムさんによる裏切りの流れ自体が、味方を引き入れ、なだれ込ませる為の策であったのだと気付くLは歯噛みするしかない。

 

「よし、ぬううん!!」

 

 と、なればでLが脇目に捉えるグラジオとナンテも、それぞれ縄抜けし、自力で拘束を解除した。ディンルー確保組からすればまんまと作戦は大成功。ここから反撃開始であった。

 

 

 

 ここで時をノノクラゲやフォレトスが彼方より喧騒を見つめるところまで戻そう。

 周囲を湖に囲まれている陸地だ。オブジェ化の餌食に遭っていたポケモンたちの大半は水棲能力があり、体が動くようになったとあればだいたいは湖に飛び込み逃げ出してゆく。

 その中でこの騒ぎの中心であるわざわいポケモンディンルーのみ、ケースの中から微動だにしていなかった。

 

「ふふふ、我らの脅威を前に逃げることも出来ないと見た。」

 

 裏のLが未だ静止したままのディンルーを見てほくそ笑む。そこに対峙するのはグラジオだ。ナンテが並び立つことはない。

 

「グラジオくん。自分は、湖周辺の伏兵を探ります。この2人は任せましたよ。」

 

 ダムさんが調達した裏切り逃亡用の船をそのまま解放した生徒たちの避難脱出用に使う都合上、そこを襲われない為のケアだ。

 加えて、グラジオのプライドを慮る意図もある。彼ほどの実力者にとって、余計な助太刀は無用なのだ。

 

「了解した。」

 

 そんなナンテの配慮が分からないグラジオではない。

 簡潔に一言、謝意を示した。

 

「グルーヴ、お前に決めたッ!」

 

「ぎゃおおおおおッ!」

 

 ナンテは湖にボールを投げ入れ、ギャラドスのグルーヴを着水させ、その背に飛び乗る。そのまま水路で脱出船の随伴、護衛に回る為だ。

 

「よくもやってくれましたね…おかげで我々の計画も丸潰れだ。」

 

「悪の栄えた試しはない、というやつだろう。」

 

 何故か動きを見せないディンルー除き、オブジェに固めた人もポケモンも皆逃げられてしまっては忌々しげにLは恨み節を吐く。

 それにグラジオはにべもなく返した。

 

「兄者、こうなればディンルーだけでも死守を。」

 

「致し方ないですね。」

 

 裏のLの耳打ちに、表のLは頷かざるを得ない。

 せめて当初の目的であるディンルーだけでも連れ帰らなければ、ギルドでの自分達の立場も危うくなるのだ。

 

「「ゆけ!シンボラー!!」」

 

「「ぼららららぁ〜ん…。」」

 

 双子が同時にシンボラーをボールから繰り出す。

 それを見たグラジオはハイパーボールを手に取り、応戦のポケモンを繰り出した。

 

「出でよ、紅き眼差し…ルガルガン!」

 

「がるおおおッ!!」

 

 赤白の逆立つ体毛が闇に映える人狼の如きルガルガンまよなかの姿が大きく吠える。

 夜間の戦いは、まさに彼の絶好の舞台と言えた。

 

「貴方、1体しかポケモン持っていないのですか?」

 

 シンボラー2体に頭上を旋回され、ルガルガンはあからさまに不快な表情を見せるなか、Lはグラジオが1体しかポケモンを繰り出さないことを訝しむ。

 それに返すグラジオの口角は不敵に吊り上がっていた。

 

「フン。お前たち悪党相手に、わざわざ同じ舞台へ立つこともないと思っただけさ。」

 

「貴様…!」

 

 安い挑発に乗ってあからさまに激昂する裏のLを見るグラジオは、彼が兄の影として扱われる理由もなんとなく想像がついた。

 人を動かす立場としては、その激しい性情が不安要素なのだとでも兄に諭されるなりしたのだろう。

 そして、その見立ては当たっていたりする。

 

「ルガルガン!」

 

 悪党とおしゃべりを続ける趣味はグラジオにはない。

 ひと声呼びかけられたのに呼応したルガルガンは、瞬く間に跳躍し、視界正面に捉えたシンボラーに襲いかかった。

 

「前と同じ目に遭うがいい!シンボラー、トリックルーム!」

 

「ぼやらららぁ〜ん…。」

 

 飛びかかって来たルガルガンを前に、裏のLが指示を出す。

 どうやら狙いを定めたのは弟の方の個体らしい、とグラジオは頭に素早くインプットする。

 

ポワァァァ…!

 

 シンボラーを中心に、半透明の箱のような空間が展開されてゆく。

 

「るがぅあ!?」

 

「その思い上がりを砕いてやりましょう!」

 

 表のLのシンボラーがすかさずルガルガンの背後を取る。

 トリックルームによるスピード反転空間に適応させた育成をしているのか、その挙動は素早い。

 

「サイケこうせん!」

 

「ぼるぁるぁるぁるぁるぁ…!」

 

ピピピピピピ…!

 

 表のLのシンボラーは、目からエスパーエネルギーの光線を発射する。

 完全に背後を取られた形であったが、グラジオもルガルガンもまるで動じない。

 

「かみくだく!!」

 

「るがぁぶ!!」

 

ガブゥ!!

 

「なッ!?」

 

 被弾を覚悟で前面のシンボラーへ攻撃する選択を取るのはL兄弟にとって想定内であった。

 しかし、そのスピードが問題であった。スピードが反転しているトリックルーム下において、ルガルガンがシンボラーの翼に噛み付く動作が異様に素早かったのだ。

 

「振り投げろッ!!」

 

「ぶ、がぁ!!」

 

「ぼらぁぁぁ!?しぼぼぼぼッ!?」

 

 それだけにとどまらない。ルガルガンは首だけでスナップを効かせ、噛み付いた翼からシンボラーをサイケこうせんの射線上へ放り投げたのだ。

 当然、サイケこうせんはかみくだくを受けたシンボラーに命中し、同士討ちの形となる。

 

「なにをやってるのです!?」

 

「奴のせいだ兄者!」

 

「ルガルガン、ストーンエッジ!!」

 

 同士討ちとなり顔を見合わせる兄弟Lに対し、グラジオは手を緩めない。

 

「がぅぅぅ!!」

 

ガンッ!!

 

 ルガルガンが地面に着地し、拳で殴り付ければ、シンボラーらの真下から鋭い岩の柱が飛び出してはそのまま2体を勢いよく突き上げ、主人のすぐ前まで吹き飛ばし、墜落させた。

 効果抜群の一撃を前に、完全に目を回している…。

 

「なんと…!」

 

「何故だ…確かにトリックルーム下なはずなのに!」

 

 ネタばらしをわざわざしてやる道理はない。語りはしないものの、グラジオのトリックルーム対策とは、酷くシンプルかつ初歩的な話であった。

 ただ単に『遅い動きをさせた』だけなのだ。

 

「(以前出会した際に、奴のシンボラーを見ていたのが幸いしたな。)」

 

 1度見た手は2度目は対策されるもの…。ポケモンハンターである彼らには、一流のポケモントレーナーの思考は理解に苦しむものだった。

 グラジオもまた、3年の時を重ねて確かに強くなっていた。

 




 『トリックルーム破り』
 空間内のポケモンのスピードを逆転させる摩訶不思議空間は、サイコパワー…即ちエスパータイプのエネルギーで構築されている。
 理論上はエスパータイプの弱点であるむし、ゴースト、あくの3タイプのエネルギーをぶつければ破壊可能なのだ。
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