3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
プラターヌ博士がそのポケモンは近年パルデア地方より伝えられたオコリザルの進化系、コノヨザルであると話すが、当のサトシはコノヨザルの存在を把握していなかった。
「アンタこの子の名前知らなかったの!?」
「えー?だってコノヨザルって名前なのが伝わってきたのつい最近なんだろ?」
アイリスのツッコミに困り顔ながらサトシが返せば、サトシ同様、コノヨザルの存在自体把握してなかったアイリスはそれもそうか、と押し黙る。
周囲の視線の意図を察したのか、サトシはコノヨザルとの経緯を話し始めた。
時を遡って3年前。
マサラタウンから何度目かも忘れた旅立ちで飛び出したサトシとピカチュウは、トキワシティのポケモンセンターを宿にくつろいでいた。
宿泊用の部屋は満室だったのでロビーのソファで寝転がり、腹にピカチュウを乗せている。
どこに行こうか?具体的な目的地は未だ未定だ。
「マサラタウンのサトシさん、お電話がきてます。受付までお越し願えますか?」
「はーい!誰からだろう?」
「ぴか?」
施設内放送に呼び出されてサトシは体を起こす。
その際の微細な振動から、ピカチュウは軽やかにサトシの足元に移動する。
呼び出されたその名前に皆が一瞬ざわり、とする中、サトシは目と鼻の先の受付まで足を運べばジョーイさんにお礼を言ってから通話に出る。
相手は見知った間柄だった。
「おぉサトシ!よかったまだ起きておったか。」
「オーキド博士!」
サトシの冒険の道のはじめからその旅路を見守り続けてきたオーキド博士。
最初こそ同時期にデビューした孫をダシにサトシを煽っていたが、今では互いに全幅の信頼を寄せ合っている。
「なにかあったんですか?」
「うむ。お前さん、新ポケモンプロレスのアノキさんと言うのと関わりがあったのか?」
「アノキさん?はい!俺のオコリザルをその人のところで預かってもらってるんですよ。」
サトシからすれば大事な自分のポケモンを預けている相手だ、忘れようはずがない。
「おぉ、そういえば昔そう言っておったか。そのアノキさんが、サトシに事務所を訪ねて来てくれるようわしのところに連絡が来たのじゃよ。なんでもオコリザルのことで話があるとな。」
「分かりました。明日行ってみます。」
トキワシティからヤマブキシティへ。戻って来たピジョットを頼るにはちょうどいい距離だ。
サトシは翌日早速、ピジョットの背に乗り一路飛び立った。
ちなみに、通話の後ポケモンセンターに居合わせた人々から日付が変わる完全消灯時間ギリギリまでサイン攻めをくらったのは言うまでもない。
サトシはリーグチャンピオンであり、ワールドチャンピオンなのだから。
カントー地方ヤマブキシティ。
隣り合うタマムシシティと並ぶカントー随一の大都市である。
近頃はこの街のジムリーダーが挑戦者の拉致監禁騒ぎを起こし、その責任をとって辞任。
後釜である次の公認ジムリーダーの座を巡っての熾烈なバトルが起きているのだが、それはここのお話とはあまり関係ないので省略をする。
ひこうポケモン発着可能エリアを見つけサトシは、そこにピジョットを着陸させ、降り立つ。
「ありがとうなピジョット。また頼む。」
「ぴじょお!」
ボールにピジョットを戻して向く先には、エビワラーを連れた顎も体も大きなスーツ姿に赤いマフラータオルを首にかけた男が待っていた。
「サトシくん!元気ですかぁー!!」
「アノキさん!お久しぶりです!元気いっぱいです!!」
互いに駆け寄れば握手を交わし、再会を祝い合う。
「元気があればなんでもできる!遅くなったがアローラリーグ制覇とPWCS優勝、おめでとぉー!!」
「ありがとうございます!!…ところで、オコリザルに何かあったって聞いて来たんですけど。」
「うむ。着いてきてくれたまえ。事務所まで行こう。」
再会祝いもそこそこに、サトシがストレートに本題に切り込めばアノキもそうだった、とばかりに真面目な面持ちになりながら先導を始める。
そのまま自分が立ち上げた新ポケモンプロレスの事務所へ向かった。
人混みに呑まれてはぐれないようにピカチュウをエビワラーが両手で掴み持ち上げて2人に続く。
「ぴかぁ。」
「じゃーぇび。」
仕方ないとはいえ、なんともいえない表情でピカチュウは運ばれていた。
「きみがオコリザルを託してくれて旅立ってから、オコリザルのおかげで我々のジムそのものが大いに盛り上がってね。そのままポケモンプロレスの団体を立ち上げることができたん、ダァーッ!!その勢いのまま私もポケモンプロレスを通じてカントーを盛り上げたいと願い議員選挙にも当選した!」
「すっげー!あいつ、いっぱい頑張ってるんだな。」
オコリザルの活躍がアノキらに大きな益をもたらしたというのは、何よりサトシにとって嬉しい話だ。
で、あるが故に今呼び出された理由が気にかかる。
「もしかしてオコリザル、怪我とか病気とかしたんですか?」
「うむ…こう言う物言いは良くないのは分かってるの、ダーッ!!が、正直その方が幾分か分かりやすくてマシ、ダーッ!!と言うのはある。とにかく…会ってやって欲しい。」
そうこうしているうちに新ポケモンプロレスの団体事務所へたどり着く。そこに併設されているトレーニングジムだ。
未来のポケモンレスラーや、レスラーポケモンたちがスターダムを駆け上がる夢のために日夜汗を流している。
「元気ですかぁーッ!!」
「うおおーす!!」
アノキが勢いよく戸を開けながら号砲のような挨拶を飛ばせば練習生たちが威勢良く返す。
その傍のサトシを目ざとく見つけた一人が目を輝かせながら近づくところにアノキは…。
「バカヤローーーッ!!」
バチコーーーン!!
「ぶへ!!」
容赦のない平手打ちを喰らわせた。練習生は勢いよく吹っ飛ぶ。
「タツミィ!!お前コノヤローッ!!この方は俺のお客様、ダーッ!!用が終わってからにしろ!そんなんだから海外遠征の時に置いてけぼりをくらうん、ダーッ!!」
「うおおーす!練習戻りまーす!!」
平手打ちをくらった練習生は、すぐさまサンドバッグの影へと隠れ、打ち込みを始めていた。
「あいつは元々トレーナー志望でな?そこから芽が出なかったん、ダーッ!けどもフィジカルが中々丈夫な方でな?ウチにスカウトしたのさ。トレーナー志望なのもあってサトシくん!きみに憧れているようでね。」
「へー、そうなんですか。」
半ば自分が原因で彼が引っ叩かれたような気がして申し訳なさを感じるサトシは、用が済んでサインをねだられたら快く応じよう、そう思えば地下階段から駆け上がる足音がした。
「父さん!オコリザルやっとおとなしくなったわ、ってサトシくん!?」
「どうも、えっと確か…。」
「娘のマナミさ。」
アノキのことまでは覚えていて娘の存在を忘れていたことにサトシはバツが悪そうに頭を掻く。
そしてすぐ先の話に食いついた。
「オコリザル、ジムの人たちの言うこと聞かなくなっちゃったんですか?」
「話は実際見てもらった方が早いな。」
父娘に連れられ、サトシはジムの地下へと案内される。
そこに広がるのは近代的な設備が整った1階とは全く異なるも、サトシからしたら見た覚えのあるレイアウトの部屋だった。
あちこちにトレーニング器具が雑に置かれ、壁には"闘魂"の二文字が書かれた横長の掛け軸。
以前サトシが訪れたアノキの私設ジムの内装がそのまま移設されていたのだ。
その片隅に、ぐったり眠りこけている黒い影にサトシは駆け寄る。
「コレが…オコリザル…?」
かくとうポケモンの頂点を目指すP-1グランプリ制覇のためにアノキに預け、旅を再開した時の姿とはかけ離れたオコリザルの姿にサトシは驚愕を隠せない。
沈痛な面持ちでアノキは重い口を開いた。
「私とオコリザルのコンビがついにP-1グランプリの統一王者となったのは、きみがアローラリーグを制覇してすぐの頃の話であった。マナミが、スマホロトムの動画サイトできみの試合記録をこの子に見せるようになって、試合の生中継を見るようにもなって、はじめは目を輝かせながらきみを応援していた。しかし…。」
「いつの頃からか、オコリザルは街中をロードワークでもなく走り回ったり、トレーニング器具を投げて破壊したり、めちゃくちゃに暴れ始めたの。そうしてサトシくんがマスターズトーナメントに進出を決めた試合の翌日よ。その子がその、黒くなっちゃったのは…。それからは、起きているうちは見境なく暴れて、暴れ疲れては寝ての繰り返し。でも、それでも起きている時でも大人しくしてる時があったの!」
「それは…?」
「きみの試合中継を、見ている時さ。」
オコリザルが唯一大人しくしていられるサトシの試合中継は、PWCSを最後に行われていない。
故にやむにやまれずオーキド博士を経由して本人を直接呼び出した、これがアノキ、マナミ父娘から話される全てであった。
サトシはオコリザルの寝顔を覗き込む。涙の筋が顔に認められる…。
「ルカリオ。」
サトシは意を決してボールを開く。
はどうポケモンのルカリオが寝ているオコリザルの体にそっと手を振れれば、そんなルカリオの肩にサトシも手を置く。
生き物が持つ波導の力を読み取るルカリオの習性を活かしてオコリザルの心の内を探ろうというのだ。
サトシは、ゆっくりと目を閉じた。
「くぉるぅ…!」
ルカリオが波導の力を読み取り、オコリザルの深層心理をサトシに見せてゆく。
彼の心の中の旅へ飛び立った。
『オーキド博士』
58歳。フルネームは『オーキド・ユキナリ』。
ポケモン研究の世界的権威で、サトシとは家族ぐるみの付き合いをしている。
若い頃は凄腕トレーナーとして名を馳せていたらしい。決して「川柳の人」ではないぞ!