3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
2人のポケモンハンターLのコンビネーションを前に、赤き狼と共に鉄槌を下す時が来た!
「くそぉ…。」
「落ち着きなさい、弟よ。」
倒れたシンボラーをL兄弟はボールへ戻す。悔しさを露わにする弟を、兄は嗜めた。
「降参したらどうだ。」
グラジオはあえて投降を呼び掛ける。周囲の喧騒が徐々に小さくなってゆく…各所の取っ組み合いに決着がつき始めたのだろう。
無論、攻め入った学生たちがポケモンハンターたちを縛り上げている形で。そうでないならLたちへの加勢としてしたっぱたちがやってくるはずだろう。
「ダムさん、こっち終わりました!」
「お疲れさん!船が来るまで休憩してていいぞ。」
「この野郎、大人しくしろぃ!」
グラジオの見立て通り、周辺の戦いはダムさん率いるディンルー確保組の勝利に終わっていた。
ポケモンハンターのしたっぱたちは縄で縛られ、通報を済ませてやってくるジュンサーさんに引き渡すのみな形にしている。
自分たちは、ナンテが守る船に乗って帰るのみだ。
「らいちゅ。」
「そうだなコマやん。グラジオの様子を見に行くか。」
「なら僕らも行きます!」
元よりこの話に関わるような生徒たちは皆正義感の塊だ。ポケモンハンターの悪事を許せないと皆張り切って臨んでいる。
それを知るダムさんは彼らの同行を断りはしなかった。
縛り上げたしたっぱたちの見張りを最低限残し、グラジオの応援に向かうのだった。
「まずは"エーテル・プリンス"…貴方を型にハメさせていただきます!」
「そのあとに"3鳥越え"をやれば巻き返せる!」
「フッ、愚かしい算段だな…。」
取らぬジグザグマの皮算用とはこのことだ、とグラジオは嘆息する。
戦況の挽回を図る2人のLが同時に投げ入れたのは、マゼンタとシアンブルーのツートンがビビットな印象を見るものに植え付けるバーチャルポケモンポリゴンZだ。
「「ぴぽぽぽぽぽぽぽ…!!」」
ポリゴンZは、不可思議な電子音で互いに共鳴している。それに合わせてトリックルームの不可思議な空間も消失していた。
「厄介だな…。」
グラジオには、その電子音以上にポリゴン系列のポケモンそのもののデータが圧倒的に不足していた。彼だけではない。このポケモン社会に生きるトレーナーのほとんどが、ポリゴン系列のことをよく知らないのだ。
3年前、ポケモン転送システムの製作者であるアキハバラ博士の下で起きた重大なトラブルにより、全国各地のポリゴンが回収され、それ以降一般社会に姿を見せることがなくなっていた。
元より研究業界にてそのサポートをするために重宝していたところを、転送システムから逆流したバグの影響から何体かエーテルパラダイスにケアの依頼が来た個体を幼き日に遠目から見たことある程度…というのがグラジオのポリゴンに対する記憶である。
「「ゆけ!ポリゴンZ!」」
キュピーーーン!
双子らしくLの指示がシンクロしてポリゴンZに届く。
ポリゴンZは、トレーナーの声に呼応して両目を発光させてはルガルガンに狙いを定めた。
「ロックオンか!」
「「でんじほう!!」」
「「ぴっ!ぴっ!ぴっ!ぴっ!!」」
2体のポリゴンZが両手の間ででんきエネルギーを凝縮した砲弾を生成し、それをルガルガンめがけ発射する。
「がうあッ!」
当然、むざむざと喰らってやる道理はルガルガンにはない。
鍛え抜かれた強靭な足腰を活かし、右に左にステップを踏んで回避を試みる。
この程度の動作にグラジオがいちいち指示を通すまでもないところが両者の信頼関係の現れであろう。
「無駄無駄!」
「ロックオンされたでんじほうはどこまでもターゲットを追いかけていきますよ!」
疾駆するルガルガンを追い詰めるように、2つのでんきの砲弾は追尾し続ける。
「あっ!ダムさんあれ!」
「あいつら汚ねえ真似しやがって!」
「いや待て、アレはグラジオが自分から持ち込んだバトルだ。」
2対1の構図に憤り、援軍としてボールを投げようとする生徒をダムさんは制止する。
「でもダムさん、あのままじゃ…。」
「俺たちは周りを警戒するんだ。だろ?コマやん。」
「らいちゅう。」
グラジオが2人のLを相手取り戦って見せている。
その意識を、流石にLたち以外に向けることは難しいだろう…ダムさんの考える援軍とは、グラジオの横槍を突こうとする隠れたしたっぱへの警戒であった。
遅ればせながらでも生徒たちがそれを理解できたのは、彼らが正義感のみならず、判断力も彼らなりに磨いてきたひとかどの人物であるからだ。
「チッ…。」
グラジオは舌打ちした。
ルガルガンは、するどいめを活かして幾度となく迫るでんじほうを紙一重で回避してゆく。
しかし、ロックオンされている以上その追尾弾が止まることもないのだ。
「がぁう!」
「「ふふふふふ…。」」
双子のほくそ笑む顔と声がルガルガンには癇に障った。仮に自分をどうにかできたとして、グラジオにはまだまだ強力な仲間が控えているのだ。
何をもう勝った気でいるのか、と苛立つ。もっとも、ルガルガンをこんな奴らに負けさせる気など全くないのではあるが。
「ルガルガン。」
そんな彼の意図を察したグラジオは、埒を開ける為にも意を決した。そろそろ遊びは終わりだ!
「るぅが!」
我が意を得たり、とルガルガンはニュートラルポジションまで舞い戻り、その足を止める。
「観念しましたか!」
「ここから捲り上げてやるぞ!」
「「ぴぽぽぽぽぽぽぽ…!!」」
ターゲットが動きを停止すれば、2体のポリゴンZはすかさずでんじほうを操作し、両サイドからルガルガンに襲い掛からせた。
「"竜気砲"!!」
「るあッ!!」
ドンッ
ルガルガンは両腕を一瞬胸の前でクロスさせ、すぐに水平に突き伸ばす。
すると両腕から放たれたドラゴンタイプのエネルギーが、まさしく竜の頭を象り、でんじほうを喰らうように消し飛ばしたのだ。
「「な、なにィッ!?」」
「ルガルガンは一体何をしたんだ!?」
「ううむ、考えたな。」
Lだけではない。生徒たちも何が起きたのか分からなかった。
唸ったのはダムさんだ。
「あのルガルガンはおそらくげきりんを覚えてる。げきりん発動の際に発生するドラゴンエネルギーを両腕のみに集中させ、発射する…。」
「そんなことできるもんなの?」
「そういうテクニックを身に付けているからこそ、あいつはチャンピオンリーグに駒を進める強豪ってことさ。」
ダムさんの言葉に生徒たちは頷かされる。
手にした知識を如何に活用して絶えず力を渇望し続け、邁進する…それが、ポケモントレーナーとしての栄達の近道であるとまざまざと見せつけられた気分であった。
「このまま決めてやるッ!!」
グラジオが左手首に巻かれた紅のZパワーリングを構え、その発光を身に纏う。
「蒼き月のZを浴びし岩塊が今…!」
モリモリモリモリィッ!!
「おおっ!ゼンリョクポーズ!!グラジオくんの全身からパワーが漲る!!」
「Zワザだ!!」
「滅びゆく世界を…封印するッ!!」
「がうおおおおおッ!!」
Zワザの発動に際し、発生するエネルギーに負けじとグラジオ自身もパンプアップしてみせながらのゼンリョクポーズ。
放たれたエネルギーはルガルガンへと受け渡され、凄まじいオーラを身に纏ったルガルガンは空高く跳躍。
受け取ったエネルギーを巨大な岩塊へと変換してゆく。
「そ、そうはいくものですか!」
「止めてやる!」
「「ポリゴンZ、はかいこうせん!!」」
「「ぴぽぽぽぽぽぽ…!!」」
ズゥバビビビビビビビビビィィィ!!
でんじほうをあっさり止め、返す刀にZワザを放ちにかかるルガルガンを前に双子のLは血相を変えながら阻止にかかる。
橙色の強力な光線を全身から照射してはルガルガンに浴びせかけてゆく。
「そんなものが効くか!!」
はかいこうせんが、ルガルガンの纏うZワザのエネルギーオーラを前に威力を減殺される。
ダメージがないではないが、これしきで倒れるグラジオのルガルガンであろうはずがない。
「くらえええええッ!!ワールズエンドフォール!!」
「るぅぅがぁぁぁぁぁ!!」
ゴオオオオオッ!!
「うおっ、やべえぞ皆!伏せろ!」
ルガルガンが自分の何倍も巨大な岩塊を勢いよく投げ付ける。岩塊は、はかいこうせんの反動で動けない2体のポリゴンZを巻き込む形で落下し、地面に落着する。
ダムさんはコマやんを小脇に抱えながら身を屈めるよう周りに促した。ワールズエンドフォールのエネルギーの余波があちこちに飛ぶことが予期できたからだ。
ズドオオオオオン…!!
巨大な岩塊が、いわエネルギーの塊が、地面に落着すれば、ダムさんの見立て通りエネルギーが凄まじい衝撃波となり飛散してゆく。
「くっ、うわぁぁぁ!?」
「兄者ー!!」
その衝撃波に吹き飛ばされる兄のLの手を弟のLが必死に掴むも、諸共に宙へ浮く。
2人が彼方まで吹き飛ばされずに済んだのは、土石のような巨体が運良く遮った形になったからに他ならない。
「た、助かった…。」
「兄者、奴はZワザを使ってパワーダウンしているはず。ここから…!」
「いや、ここは退こう。あえて奴らにこの場は花を持たせ、体制を立て直したのちに改めてさいやくポケモンを…。」
「あ、兄者!」
戦略的撤退、その意を語る兄の目論見は弟の絶叫で遮られた。
右側面より双子を受け止めたディンルーが、その巨体をケースごと傾けてきたのだ。
「な、な、なにをぱら!」
「うわあ、く、くるなぁ〜!」
焦りの色に満ちた声が届くことはなく…。
「「ぐわぁ〜ッ!!」」
ドッシィィィン…!
ディンルーの巨体は、双子のLに覆い被さる形で倒れ込み、逃走の芽を摘んでしまった。
「なんだ?」
「うが?」
双子のLと対峙していたグラジオは、当然一部始終を見ていた。
キョトンとしながら、着地したルガルガンと顔を見合わせ、横になったディンルーに近付いてゆく。
「お、重い〜…。」
「た、助けてー…。」
「どうした?」
土石色の巨体にのしかかられ、完全に身動き取れなくなった双子のLを無視してダムさんがグラジオに駆け寄る。
グラジオはというと、横たわるディンルーの顔のすぐ近くまで近付けば、そっと片膝をついて聞き耳を立てた。
ダムさんに対しては、口元で人差し指を立てている。
「ソー…ゲー…ソー…ゲー…。」
「こいつは………。」
グラジオとダムさんは互いに顔を見合わせて大きく頷けば、ダムさんから合流してくる生徒たちにも静かにするよう呼びかけていった。
「ディンルーは、寝ている。」
ポケモンハンターに追い詰められてオブジェにされ、身動きを封じられて観念したのか、単に動き回り疲れて眠くなったのか…。
どちらにしても解放されてなお逃げない理由としては、なんとも気の抜けた真相、決着と言えた。
「おーい!」
それと同時に水路からグルーヴに乗るナンテと、サメハダーに乗るマイティGが警察用船舶を誘導して合流し、湖東に続々と上陸するジュンサーさんたちが、すでに拘束済みのポケモンハンターたちを連行に入る。
「ご協力感謝します!」
「お勤めご苦労様です。」
ディンルーの下敷きになった双子のLも担架に運ばれ、船舶に乗せられてゆく。
何やら恨み節を呻くように垂れ流していたが、もはや誰の耳にも届きはしない。
「さて、グラジオくん。あの子を。」
「了解。」
これだけの騒ぎを前にして一向に目覚めることなく寝入ったままなディンルーに、皆苦笑を隠せない。
グラジオはボールを取り出し、解放されてなお眠りこける土石の体にコツン、と触れさせてはその巨体はすんなりと入っていく。
モニョモニョモニョ…ポーン…。
特に抵抗なくボールの揺れも収まり、ひとまずは保護目的のゲット完了ということで、ディンルー確保組の戦いは勝利に終わるのであった。
ディンルー救出戦 vsポケモンハンターL(双子)
勝者 グラジオと仲間たち、そして海のヒーローマイティG