3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ディンルーを巡る戦い、双子のポケモンハンターLをグラジオは単身圧倒する。
 歴然たる実力差のままに2人を蹴散らして、無事ディンルーの確保に成功するのだった…。


スカーレットアドベンチャー パオジアン救出戦① パルデアの地に異界の王は降臨す

「おいおい、なんだこりゃあ…!」

 

「酷いモンだね…。」

 

 時はディンルー確保組がオージャ第2物見塔に集まって作戦会議をしていた頃、わざわいポケモンの一角であるパオジアンを確保すべく凍裂の祠を目指し、西1番エリアへ降り立ったグズマとライムが見たのは凄惨な現場であった。

 風力発電所として立ち並ぶ水平式風車のいくつかが倒壊し、その周辺には飛行船であった残骸があちこちに散乱していた。

 

「急げ急げー!」

 

「こっちにも担架回してちょーだい!」

 

 有志の市民が、とっくに通報にて派遣要請されている救急隊に先駆けて救助活動に奔走している。

 状況を見るに、飛行船が制御を失った末に風車地帯に不時着したのだろう。

 辺りには、すでに生き絶えた黒尽くめのコートの人員も倒れており、その飛行船がポケモンハンターズギルドの母船であることは明白であった。

 

「うっわ、えらいこっちゃ!」

 

 惨たらしい有様に絶句するグズマとライムに合流して来たのはチリだった。彼女も研究所に顔を出してフィールドワークに精を出すアルバイトである。

 

「お前だったのか。」

 

「まいど。チリちゃんです。よろしゅう頼んますわ。」

 

 1年先輩のグズマに同行の挨拶をするチリだが、流石に表情は固い。無理もなかった。飛んできて早々に、犠牲者が大勢の墜落事故現場にぶち当たったのだ。

 

「うぅ…。」

 

「ん?おい!」

 

 呻く声を聞けば、グズマはすぐその主を見つける。

 地面に突き刺さる風車のブレードに背を預けたポケモンハンターのしたっぱに駆け寄れば、すぐに容態をチェックする。

 

「まだ助かるぞ!」

 

 迷うことなくグズマは自身の袖を引き千切り簡易的な包帯代わりに止血を施した。いくら違法なポケモンハンターとは言え、そのまま死んでしまえばいいと見捨てることは出来ないのが人情だ。

 

「救助隊は!?」

 

「もうじき来るってさブラザー。」

 

 グズマに返すライムは、息を引き取った者たちのうち、見開かれたままの目を閉じて回っている。

 それが飛行船の乗員であったポケモンハンターであろうと、風力発電所の周囲にいた一般人であろうと、死後にどうなるか…どこへ行くのかは判らない。

 国や宗教によって行き先は違うにしても、せめて苦しまず安らかであって欲しい…平穏な状態でいて欲しいとの想いからの行動だった。

 

「ぐぅ…!」

 

「ジッとしてろ!」

 

「雷雲の中から…黒い、竜に乗る、バ、バケモノが…俺たちを睨んで…うぐぅッ!」

 

「黒い竜に乗る、バケモノ…?」

 

 傷付いたしたっぱの呻きをグズマは反芻しながら天を見上げる。

 彼方に、雷雲。これから向かう予定の凍裂の祠のある方角からは、ゴロゴロと雷鳴が散発的に聞こえていた。

 

「そんな、こんなやばい奴なんですか?わざわいポケモンっちゅうんは…。」

 

「さぁな…クラベルさんから話に聞くには、パオジアンはこおりタイプらしいんだが…。」

 

 グズマには、祠の方角の空を覆う雷雲と、わざわいポケモンパオジアンとを結び付ける糸というものがどうしても見つけられなかった。

 

「なにか、もっとやばいのがいるのか…?」

 

 それは、破壊の帝王と呼ばれる男の、第六感から来る予感であった。

 

 

 

 パオジアン確保の為に現地に集まった学生たちには、飛行船の墜落現場にて救助活動の手伝いを任せ、グズマ、ライム、チリの3人で凍裂の祠まで向かうことにした。

 下手に大所帯で向かうより、あえて少数精鋭で臨んだ方がポケモンハンターに追われているさいやくポケモンを刺激させずに済むのではないか、とそらとぶタクシー内でグズマとライムが事前にまとめていた方針であった。

 

「やっぱり雲は、祠のあるとこ周りを中心に覆ってますな。」

 

 西パルデア海を視界の左手に捉え、山道を渡りながらチリは空を指差す。

 ポケモンの中には、自らの力やその生態により、大小関わらず自然現象の発端となり、ついには災害すら巻き起こしかねない種も数多くいる。その中には天候に作用する能力を持つ者も多数いることは知っていた。

 

「ライム、天気予報は?」

 

「西1番エリアの1週間は雲ひとつない晴れ模様…30分前までのデータだけどね。」

 

 となれば歩を進めるたびに頭上に近づき、厚さと濃さを増してゆく雷雲とは何らかの力の介入による現象に他ならない、とグズマは結論付けた。

 それを言葉にはしないものの、ライムもチリも似たような結論に辿り着いているのは変わらなかった。

 

 

 

「ひでェもんだ…。」

 

 グズマからしたら、以前に同じように駆け上がった山道。そのあちこちに目の前を真っ暗にしたしたっぱたちが倒れている。

 この光景そのものは、グズマ自身も現出させたことがあるので特に驚くでもない。

 こちらに関しては命に別状もないので、適当に近くにいた奴の胸ぐらを掴み上げ、ペチペチと叩いて無理やり起こす。

 

「おい、ここで何があった?お前らのリーダーと、パオジアンはどこだ?」

 

「うう…黒いドラゴンが…いきなり襲いかかって雷を…。」

 

「そうかい。」

 

 墜落事故の現場とは打って変わってグズマの応対は雑であった。胸ぐらを掴んでいたしたっぱを、半ば放り投げるように解放する。チリがスマホロトムで連絡を付け、ジュンサーさんに連中の回収を依頼している耳に残るコガネ弁も耳に入ってはいない。ただ一点、祠のあるこれからの目的地のみを見つめていた。

 

「荒々しいねぇ。」

 

 グズマの応対に、ではない。並び立つライムがその鋭敏な感覚から掴んでいたのは、霊感を持たないグズマのなんとなくな直感ではなく、より具体的な感知であった。

 

「なにがいる?」

 

 グズマはライムに問う。

 

「雷を放つ、黒い龍…それを従えるこいつは…。」

 

 ライムが彼方に意識を集中する。

 

『ダレダ?』

 

『ダレダ!?』

 

『ワレラガ"オウ"ヲノゾクノハ!!』

 

「うッ!あああああッ!?」

 

 感知した存在を言語化するライムの脳に、強烈な怒声が走る。叩き付けられるプレッシャーを前に、たまらず倒れ込んだ。

 

「おいッ!?」

 

「ライムはん!?」

 

 慌ててグズマがライムの体を支えに入れば、彼女は白目を剥きながら弱々しく祠の方角を指差した。

 

「ブ、ブラザー…。」

 

「喋るな!無理すんな!」

 

 自分のように鋭敏な感覚の持ち主は、時に強い思念を叩き付けられて精神はおろか肉体にすらダメージを抱えることもあると、当のライムから聞かされたことのあるグズマはなおも伝達する相棒を制止する。

 それでも彼女が必死に言葉を紡ぐのは、ひとえにブラザーの助けとなる為に他ならなかった。

 

「"王様"、だ…。」

 

「王様?」

 

「あそこには…"王様"がいる…ひどく無垢で…純粋で…。」

 

 指差す右手は弱々しく震えている。

 

「"トモダチ"を傷付けられ、怒る、恐ろしき、王…。」

 

「友達?」

 

「あぐ!………。」

 

 それが限界であった。必死に伸ばしていた腕はダラリと弛緩し、完全に気を失ってしまっていた。

 

「おい、こいつを頼む。」

 

 グズマは糸が切れたように気絶したライムの身体をチリに半ば強引に押し付ける。

 その後ろ姿で、ここから先は1人で行く、と訴えているのを感じたチリは目を見開いた。

 

「アカン!流石に先輩1人じゃ危険すぎます!もうちょい、状況を整理して、準備してから行くべきや!」

 

「それじゃあ遅いんだよ。」

 

 重ねて言う。グズマに特殊な感性などはない。しかし、その嗅覚から、ここを退けばパオジアンは二度と自分達には手の届かない場所へと連れて行かれてしまう…。

 それは、ポケモンハンターに捕まる以上にどうにもならない措置であるという、胸騒ぎであった。

 

「それに俺様は1人じゃあねぇ。こいつらが、いるからな。」

 

 ポン、と腰のボールホルダーに軽く触れて見せる。

 自分自身を奮い立たせる為のグズマの虚勢…そこまで言い切られては、後輩の立場では引き下がるしかないのがチリである。

 

「とりあえず、麓まで降りてライムさんを保護してもろてから、改めてチリちゃんも様子見に来ますわ。」

 

 チリなりの出来うる限り最大の譲歩であった。この先に待ち受ける出来事に危険が大きく伴うであろう予感は、いやでも知覚していた。

 グズマもゆっくりと頷き、改めて歩を進める。

 どこかの達人が、護身について語っていたテレビ番組をボーッと眺めていたのをグズマは思い出す。

 本当の護身とは、危ういという場所には近づけなくなること。その完成には、その危うさを身近にして楽しめる感性が必要不可欠…そんなようなことを長々と語っていた。

 

「コレを…楽しめってか?」

 

 ひとりごちるグズマは歩を進め続ける。

 その度に、逃げ出したくなる本能と、わざわいポケモン確保の使命感がせめぎ合っていた。

 

 

 

 時を少し遡る。

 ポケモンハンターNは、起きながらに悪夢を見ていた。K、L、Mの他のコードネーム付きに先駆けて、パオジアンを捉えたまでは良かった。

 後は呼びつけた飛行船にターゲットを搬入するだけであったのだ。そんな矢先であった。

 

「N様!我々の飛行船が!!」

 

 来訪した飛行船に雷が突き刺さり、制御を失って風車を何台もへし折り墜落してゆく…それは、悪夢の始まりに過ぎなかった。

 

「ババリバリッシュ!!」

 

ピシャアアアン!!

 

「うわぁぁぁ〜ッ!」

 

 雷雲を頭上に従えて、突如飛来した漆黒の龍。尻尾の内部がモーターのように回転することで強力な発電を実現するのを見るに、こいつが飛行船を墜落させたと確信させて余りある。

 そんな理外の力が向けられては、たかが人の分際でどうこうできるはずもなかった…。

 

「く、くそぉ…!」

 

 引き連れた部下はもちろん、万全を期して用意してきた本気で育成した6体のポケモンも、あっという間に黒い龍の雷撃の前に沈められた。

 左腕のオブジェ化光線発射デバイスも、とうの昔に雷撃によるでんきエネルギーを受けてショートしている…。

 

「お、お前…!僕はギルド1のエージェント、ポケモンハンターN様なんだぞ!ぼ、僕にこんな恥をかかせたら、ギルド全体でお前なんか、つ、潰しちゃえるんだぞ…!」

 

 あからさまに震えた声、虚勢。指差す黒龍の背から、大きな影が降りて来る。

 

「きみも…Nと言うのかい?」

 

「ひッ!」

 

 幾度となく放たれた雷撃の前に尻餅をつかされ、腰が上がらない黒尽くめの少年ハンターが見上げるのは、透き通った瞳。

 帽子で陰るその無垢な瞳孔は、見るものにストレートに深淵を突き付け、狂気を呼び起こすにじゅうぶんであった。

 

「ボクもなんだ。」

 

 白黒の帽子、白のシャツ、黒のインナーにベージュの長ズボンを身に着けた青年は、ハンターを見下ろしている。

 首、両手首、腰には特徴的なアクセサリーをつけ、緑の長髪は風に揺れる。

 

「バリバリダー!!」

 

 理想を求めし黒き龍、こくいんポケモンゼクロムを従える王の名は、N。

 それは略称であり、本名を『ナチュラル・ハルモニア・グロピウス』としているが、今の彼には瑣末な事であった。

 

 

 




 『N』
 年齢不詳。3年前、イッシュ地方を旅していた頃のサトシと仲間たちが知り合った青年。
 ポケモンの言葉が分かる異能者であり、プラズマ団との因縁があったがサトシたちの活躍により解放されている。
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