3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

112 / 302
 パオジアンの救出に向かったグズマは引き連れたライムや合流したチリと共に山道を進む。
 道中スピリチュアルアタックを受けてダウンしたライムをチリに任せてグズマは先を行く
 その行く先では、2人の『N』が対峙していた。


スカーレットアドベンチャー パオジアン救出戦② グズマ、異界の王と相見えるとのこと

「ああッ!あああッ!!あああああーーーッ!!!」

 

「この声は!」

 

 山道を1人進むグズマは、聞き覚えのある憎たらしい声色の絶叫に、一気に駆け上る。

 ポケモンハンターN…パオジアンの封印をまんまと解かれた借りを返さねばならない相手は、祠のある場所まで辿り着いた時には白目を剥いて倒れていた。

 Nを見下ろしていた『王』の瞳が、今度はグズマに向けられる…。

 

「な、なんだ…この野郎は…!!」

 

 アーボックに睨まれた獲物の気分とは、こんな感じなのだろうか…そんな発想をグズマはすぐに振り払う。

 むしろ、取って食われる相手、と認識されているだけまだ向こうがこちらと同じ世界に降りてきてくれているのでマシと言えた。

 直感でしかないが、目の前の帽子の青年は、存在そのものが遥か高次元的のものであると思えたのだ。

 PWT参加のためにイッシュへ向かう船旅の途中、オモダカが読み耽っていた本の中身が妙に記憶の片隅に刻み込まれていたのもあった。

 

『私たちが生きているこの世界、この星が存在する無限の宇宙…それらは全て、より高位な生物によって水槽の中で管理されたものに過ぎないのだそうです。』

 

 興味深げに語るオモダカの話を右から左へ受け流していたつもりだった。まさかそれを実感させられる立場になるとは、グズマにとって思いもよらなかったのは言うまでもない。

 眼前の『王』からすれば、自分はおろか、この世界そのものが取るに足らないとなれば即座に傍の黒き龍によってひと息のもとに焼き払われて然るべきと見えたのだ。

 

「きみは、この一味の仲間かい?」

 

「ハッ!誰が。」

 

 どこまでも透き通った声で問いかけられては、グズマはあえて吐き捨てる。

 挙動不審を見せれば、たちどころにこの『王』は傍に控える龍に命じて雷撃を落として来るであろうと予期したからだ。

 

「なら何をしにきたんだい?」

 

「そいつだよ。」

 

 ズカズカとグズマは歩き、倒れたハンターNを避けてから、その背後に佇むパオジアンの側に立つ。

 

「こいつを、ポケモンハンターどもから助けに来たのさ。」

 

 グズマは改めて『王』の瞳に視線を向ける。己の正気が、たちどころに削られてゆく気がした。

 Nは、彼との対話の果てに発狂し、その意識を手放したのだろう、と察する。正直言って、今すぐこの場から逃げ出したいのはずっとだ。

 だがそれではアローラで燻っていた頃に逆戻りである。そんなある種の強迫観念が、『王』の圧を前にグズマを奮い立たせていた。もう、勝てる相手にだけ威張り散らす空虚な『無敗』とはおさらばしたのだから…。

 

「きみは…その子とトモダチなのかい?」

 

 『トモダチ』…『王』の口から発する言語が、自分の意図しているものと同じである確証などはない。これも、返答によっては雷撃を落とされる類のものだろう…。

 

「ダチ、ね…。」

 

 思えばさいやくポケモンの封印に使われていたとされる聖なる杭のチェックなどは、奨学金返済のための足しとして精を出していたバイトの一環に過ぎなかった。それは今も変わってはいない。

 しかし、そこはグズマもポケモントレーナー。違法なポケモンハンターに対する義憤を人並みには持っていた。で、あるからこそこうして彼は、『王』に対峙し、言葉を紡ぐ選択肢を取り続けているのだ。

 

「今は違うが、そうなれたらいいなとは…思ってるさ。」

 

 『偽らないこと』…それが大前提であるとのグズマは、的確であった。だが、それは『前提』であって、『正解』ではない。

 『王』にとってグズマが、ひとまず処して済ませる相手というほどではない…というラインに置かれたに過ぎないのだ。

 依然として、生殺与奪の権利は握られたままである。

 このパワーバランスはおそらく変わるまい。最初から、立ち向かおうなんて発想などは浮かばなかった。

 そこに、悔しさすら生まれなかった。グズマは、目の前に、完全なる高位存在を正面に置いているのだから。

 

「(人でも…ポケモンでもねェ…。)」

 

 戦慄が止まることはない。全身から滝のように汗が流れ落ち続ける不快感にすら気を留めてはいられない。

 1つ選択肢を間違えれば、この『王』はたちどころに雷撃と共に万事を容易く運ぶであろう。それだけの力があるのだ。

 

「むしゃ!」

 

「はっ、さむ!」

 

「わないだーまっ!!」

 

 主人が危地に立たされている。

 で、あるにも関わらず一向に自分たちに声がかからない…。そこに何事かとボールから飛び出してきたのは相棒のグソクムシャ。彼にはさみポケモンハッサム、トラップポケモンのワナイダーが続いた。

 ワナイダーがあちこちに向けてポージングしているのは、ゲットする前からの彼の癖であり、グズマは特にそれを否定していなかった。

 

「お前ら…なんで出てきた!?」

 

「きみたちは…。」

 

 間違っても対峙する『王』と直接戦う意思などは依然グズマにはない。一瞬、そういう意図が籠る哀願の瞳を向けるも、『王』はそんなグズマを無視してグソクムシャたちを見ていた。

 

「むしゃ、むっしむし。」

 

「なるほど。彼の言い分に嘘はない訳だね。」

 

「はっ、さむ!」

 

 グソクムシャが3対の腕を使って身振り手振り言葉を発しているのを、『王』は何度も頷いて聞く。

 それはさながら、言葉を咀嚼しているようであった。『王』の理解に、ハッサムが伝わってよかった、とばかりに続けて頷いている。

 

「(こいつ…ポケモンの言葉が分かるのか?)」

 

 グズマからすれば、そうとしか見えない。そしてそれは、正しい見識であった。

 

シュボワァァァ…!

 

 

「あ…!?」

 

 この場の意識あるものは皆空を見上げる。祠の頭上、空高くの空間を断ち割くように、青い炎が煌めいた。

 

『ンバーニンガガッッッ!!』

 

 青い炎が空間を断ち割き、その向こう側から凄まじい覇気と共に『声』が轟いた。それは、『王』を呼ぶ声…。

 

「これは…"彼"の気配…。」

 

 見上げる『王』は、青く燃え盛る空を前に1人得心していた。

 

「そうか…ボクは、時を越えていたのか。」

 

 そうして、傍に控える黒き龍とアイコンタクトを交わし…。

 

「バリバリダーーーッ!!」

 

 黒龍はすぐさま雷撃を打ち上げる。

 炎と雷がぶつかり合えば、空間に空いた亀裂が大きな穴となる。それはさながらSF映画で見たような異次元へのゲートのようだ、とグズマは頭の片隅で思案する。

 彼の思考の大部分は、自身が持ち合わせる常識を遥かに超える事態の連続に、頭がどうにかなるのを防ぐので手一杯であった。

 

「きみ。」

 

 透き通った声音が向けられる。『王』は、黒き龍の背に乗り、下民を見下ろしていた。

 

「その子のことはきみに、いや…きみたちに託すことにする。ボクは、この世界にとって異物なようだからね。」

 

 思いもよらぬ展開、目を見開くグズマの喉は乾き切り、まともな発声もままならなかった。

 それは、グソクムシャたち必死の説得を受けたが故の譲歩なのか…?いち下民の立場で、『王』の思し召しなど分かろうはずがない。

 

「ただ、覚えていて欲しい。トモダチが無為に傷付けられ、それが罷り通る世界をボクは許さない。」

 

 グズマのそんな様を見た上で、『王』の言の葉は止まらない。帽子で陰る瞳は、ただただ無垢であり、それだけに残酷であった。

 

「"この時空"の座標は覚えた。けれど、2度と訪れることのないことを、お互い願うとしよう。」

 

「バリバリ、ダーーーーーッ!!!」

 

バチィィィィィィ!!

 

 尻尾の発電器官を使い、黒き龍ゼクロムはでんきエネルギーで持って跳躍。そのまま翼をはためかせて飛行しては、上空に開いた炎と雷が交差し合う巨大な亀裂の中へ身を躍らせてゆく。

 程なくして亀裂は閉じられ、炎も雷も消失していた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

 

バタリ。

 

 グズマは大の字で仰向けに倒れ込んでいた。あまりに大きすぎる理外の存在との邂逅は、彼の脳の思考を放棄させた。

 

「むしゃあ?」

 

 グソクムシャたちが倒れた主人の元に駆け寄り、顔を覗き込む。

 

「お前らのおかげで助かったぜ。ありがとうな。」

 

 雷雲が霧散し、青空が晴れてゆく中でグズマは上体を起こし、胡座をかいて座り直す。

 労われたグソクムシャとハッサムは、互いに顔を見合わせなんのことやら?と首を傾げた。

 

「わないだーまッ!わないだーまッ!!」

 

 ワナイダーが、パオジアンの前でポーズをいくつも決めて見せつける。

 ゲットした時の進化前であるいとだまポケモンタマンチュラの頃から目立ちたがり屋で陽気な性格からグズマ的にはいつものことである。

 しかし、当のパオジアンからのリアクションは皆無であった。

 

「おーい?」

 

 その右隣で胡座をかいていたグズマは立ち上がり、パオジアンの顔の前で手のひらを上下させてみる。

 

「大丈夫か?」

 

 続けて顔を傾け、表情を覗き込んだところで全てを察し、ワナイダーに向き直り首を横に振ってみせた。

 

「駄目だワナイダー。こやつ、気絶してやがる。」

 

「わないだーまーッ!!」

 

 雪のような真っ白い体に、口先には2つに割られた剣が牙のように固定され、柄と切っ先が鋭い氷柱に覆われた四つ足のポケモンの表情は、完全に気を失い、引き攣っていた。

 グズマやNだけではなかったのだ。『王』の放つ覇気を前に、精神をすり減らしていたのは。

 

「すげぇ気持ち分かるぜ。」

 

「グズマはーん!!」

 

 グズマがパオジアンの頭を撫でたところで、にわかに騒がしさが押し寄せてきた。

 チリがパオジアン確保組に回った生徒たちを引き連れてやって来たのだ。事故現場の救助支援がひと段落ついたのだろう。

 ライムも、生徒に肩を借りながら最後尾をついてきている。

 

「うひゃあ、これ全部グズマはんがやったんです?」

 

「違うんだが、まぁ…そうなっちまうんだろうな。」

 

 その一言で、チリはグズマが出会した、体感したことが想像を絶するレベルであろうことを察した。

 彼が頭に手を置くパオジアンがピクリとも動かず気を失ったままなのもそれを助長させた。

 

「ライムも災難だったな。」

 

「アタイが迂闊だっただけさ。あの思念波の束は、"王様"に付き従う家来のものだったろうね。」

 

 ライムもグズマが顔を合わせた相手のことを深くは聞かない。

 ゼクロムだけではない。あの『王』には他にも強力なポケモンが…いや、『トモダチ』が付いていたのだろう。ライムの精神に思念を流し込んできたのは姿を見ることのない彼らだと結論付けていた。

 

「ま、とにかくだ。やること済ませちまうか。」

 

 生徒たちが辺り一帯に倒れているポケモンハンターたちを、ハンターN含めてジュンサーさんにスムーズに引き渡せるよう縛り上げている。

 そんな中、グズマはボールを取り出し、コツンとパオジアンの頭に当てれば、その身を収納した。

 

モニュモニュ…ポーーーン…。

 

 気絶しているパオジアンが抵抗する道理もなく、ボールの揺れもすぐに収まった。ひとまずの、保護ゲット。

 戦いこそなかったものの、パオジアン確保組もその任務を無事全うしたのだった。

 




 さいやくポケモンパオジアン…救出完了。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。