3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 グズマは異界の王と対面し、精神をすり減らされながらもどうにかその内なる無慈悲な沙汰を受けずに済んだ。
 『王』の放つ威風を前に気絶しているパオジアンもきちんと救出することができたのであった…。


スカーレットアドベンチャー イーユイ救出戦① みだれづきの滝に焔影

 パルデア地方北東部にある北2番エリアは、都市部から距離があり、この地方全体で見てもかなり強力なポケモンたちが生息している。

 その竹林地帯に降り立ったサトシとオモダカは、わざわいポケモンイーユイを見つけ出して保護すべく、火難の祠を目指していた。

 

「きりぇぇぇぇぇ!」

 

「「「こまこま〜!!」」」

 

「うわ!キリキザンとコマタナの群れ同士が戦ってる!」

 

「この辺りに群れを作る子たちはああやって、昼夜問わず合戦をして縄張り争いに励んでいるのですよ。」

 

「ぴっぴか?」

 

「それで1番強い群れがたくさん餌のある場所を独り占めできるのです。」

 

「なるほどなぁ。」

 

 縄張り争いの中を邪魔しないようにサトシとオモダカは掻い潜ってゆく。

 合戦真っ最中のポケモンたちも縄張り争いに必死で、そこを通り抜けたいだけの人間にいちいち絡むほどの余裕はないようだ。

 全てのポケモンと友達になる…それが、サトシの見出したポケモンマスターという最大の夢。

 その為には、ポケモンの事情を把握し、慮ることも肝要と言えたのが、彼らの争いへの不介入を決めた要因である。

 ポケモンたちの生きるための掟を、人の都合で否定してはならないのだ。

 

「かくいう私も、ここでコマタナをゲットしたのですよ。」

 

「それをドドゲザンまで育て上げたんだな。」

 

 サトシの脳裏に先のチャンピオンテストの死闘が蘇る。

 倒れた仲間たちから力を受け取り、トップチャンピオンミシェリを相手に大立ち回りでオモダカに勝利をもたらしたドドゲザンの故郷がここだと言うのだ。

 

「あれかな?」

 

 サトシが指差す先には、滝がいくつも流れ落ちる巨大な岩がそびえ立っていた。

 その頂点部をオモダカはスマホロトムで確認する。

 

「そうですね。パルデア十景の1つ"みだれづきの滝"。そこにある洞窟内に作られたのが…。」

 

「わざわいポケモンイーユイの封印されていた火難の祠…。」

 

 辺りはすっかり暗くなり、あちこちではキリキザン率いる群れたちの縄張り争いにて刃物がぶつかり合う音。

 その彼方には、滝が流れ落ちる音…。

 いよいよだ、と言うところで2人は森林地帯に設置されているポケモンセンターへ到着し、先着していたイーユイ確保組の生徒たちと合流をした。

 

「お疲れ様です。ワールドチャンピオン、会長。」

 

 先に森林地帯の調査をしていたのは3人。

 角刈りの男と、パンチパーマの男…屈強な体格の2人に付き従う形で、真紅の髪をロブにまとめた少女が1人。

 

「お疲れ様です。先発で調査に入ってくれていたのはひばりさんたちでしたか。」

 

 少女は目を見開いた。

 北2番エリアに割り振られたメンバーは、アカデミーでも腕の立つ上級生がメインであり、先輩方のサポートとして編成された自分の名前が覚えられているとは想定の外であったのだ。

 

「私は生徒会長、生徒の顔と名前は全て記憶しています。まして同学年なら同志も同然です。」

 

 ひばりの中で浮かんだクエスチョンマークを瞬く間にオモダカが払拭する。

 一方のサトシは、いまいちピンとは来ていないようだが…。

 

「ぶい!」

 

「いーっず!」

 

 2体のイーブイがサトシの足元に駆け寄れば、ピカチュウは肩の上から降り立ち、おう、ご苦労さん、と挨拶を受ける。

 尻尾の模様から、雄と雌のコンビで、白っぽい石のペンダントをぶら下げている。

 

「かわらずのいしだね。」

 

 ポケモン周りのことには途端に目敏くなるサトシは、すぐさま2体のイーブイの持ち物に気付いた。

 かわらずのいし…石から放たれる特殊なエネルギーがポケモンの進化を止める働きを持っており、特定の形態を好むトレーナーや、進化を拒むポケモンには重宝されるアイテムだ。

 サトシの旅仲間の中にもこれを使ってパートナーの進化を抑制している者はいるが、彼女の話はまた別の機会とする。

 

「1年のひばりです。雄の方がブイで、雌の方がイズ。ワールドチャンピオンの武勇伝はかねがね伺っております。」

 

「よろしくな、ひばり。」

 

 一礼するひばりにサトシは鷹揚に返す。

 ポケモンもトレーナーも礼儀正しい様を見せる中、オモダカはひばりと同行していた上級生から近況を聞いていた。

 パンチパーマが報告をする。

 

「祠、ってか滝の周りに怪しい動きは見られなかったぜ。あれだけデカい岩場だ。登って内部を確かめるってだけでもなかなか大仕事のはず。」

 

「そうですか…それならイーユイ自身も、祠を捨てて別の場所に寝床を用意し、そこを新たな縄張りにしているかもしれませんね。」

 

 上級生のうち、角刈りがどうする?とオモダカの表情を覗き込む。

 学年で上といえど、彼らに彼女を軽んじる発想はない。元より単位制のオレンジアカデミーにおいて学年的な上下関係などは希薄だ。ましてチャンピオンテストをクリアしてリーグチャンピオンの仲間入りを果たしたオモダカに対し、くだらない妬みを持っていい道理もないのだ。

 そしてそれは、PWCSを優勝したサトシに対しても同様で、2人の指示ならば一も二もなく従う所存であった。

 

グウウウウ〜。

 

「あ、ごめん。鳴っちゃった。」

 

 サトシの腹の虫に、お約束がよく分かっていないオモダカとひばりを除き皆ずっこける。

 

「あ、あはは…。」

 

 腹が減っては戦はできぬ…。

 真理ではあるが、ひばりは苦笑する他なかった。

 

「なら仕方ありませんね。」

 

 ひとまずはオモダカの号令により、各々がピクニックシートを持ち寄り、1箇所にまとめて夜食のサンドウィッチ作りの流れとなった。

 ひばりたち、先発組にとっても、自身やポケモンたちの体力の問題から願ったりである。

 

「みんな出てこい!」

 

 サトシがボールを4つ大きく真上に放り投げれば、中からそれぞれ出て来たのはフシギダネ、オオスバメ、ルチャブル…そしてマメバッタ。

 

「前から気にはなっていたのですが、サトシはホルダーに1つスペースを開けておいてるのですね。」

 

「あぁ。こいつイイな、ってポケモンがいたら、ゲットしてすぐは一緒にいて、仲良くなりたいからな。」

 

「マメバッタみたいにですね。」

 

「あぁ!」

 

 オモダカのポケモンたちは、チャンピオンテストの時と変わっていない。

 あの激闘を経て、さらに体も心も大きくなっていたのが、変化と言えた。

 

「ひばりは本当にイーブイが大好きなんだな。」

 

「私なんか、チャンピオンや先輩方に比べたらまだまだ下手の横好きと言いますか…。」

 

「好きこそ物の上手なれ、という言葉もありますよ。」

 

 現存するひばりをオモダカがフォローする。

 シートでじゃれあっているのは雄のブイと雌のイズ。このイーブイコンビを見守るブースターのたぁくん、サンダースのサン、リーフィアのフィオ、ニンフィアのフィルクスの4体。

 イーブイとその進化系、いわゆる『イーブイフレンズ』で構成されているのがひばりの手持ちポケモンであった。

 

「私はともかく、この子たちが褒めてもらえるのは嬉しい、かな。」

 

「ひばりだってすげーよ。俺たちも助けられてる。」

 

 角刈りが白い歯を見せる。彼のカイリキーは、サンドウィッチのための食材をテーブルに運んでいた。

 サトシとオモダカは、一旦ハッコウシティへそらとぶタクシーを一旦降ろし、食材を購入してから北2番エリアへ足を踏み入れていた。

 先発組に対して、せめてもの心尽くしとして調理で使ってもらうためである。

 

「ありがとうございます。先輩。」

 

「とりあえず腹に入れるモン入れちまおう。今夜は長くなるかもだしな。」

 

 パンチパーマの言にオモダカとひばりは頷いて見せる。

 そうしてそれぞれにサンドウィッチ作りに勤しむことにした。

 

「ふう、完成と。」

 

 オモダカが作ったのはハイパーアボカドサンド。

 塩をベースに、アボカドにトマト、レタスと野菜中心として、スモークの切り身をワンポイントで加え挟んだ一品だ。

 シルバーピックで過不足なく中央点を射抜いている。

 

「今日はたぁくんの好きなサンドの日だからね。」

 

「ぶしゅう。」

 

 たぁくんが笑顔な中、ひばりが作ったのはスーパーピクルスサンド。

 オリーブオイルをベースに、ピクルススライスとクレソンをたっぷり乗せて酸味と苦味を前面に押し出している。

 ブースターのたぁくんにちなんであかいはたピックで上下を止めた。

 

「ポケモンって、同じ種族でも個体の性格ごとに味の好みは違ってくるんだろ?」

 

「大したもんだぜ、ひばりは。イーブイ系列を家族単位で面倒見て、その全員の好みをきっちり把握して均一にスケジュール立ててご飯作ってんだからさ。」

 

「そんな…自分でゲットした子たちなんですからこのくらいは。」

 

 角刈りとパンチパーマに褒められてひばりは謙遜する。イーブイ系列への好奇心とは裏腹に、イマイチ自己肯定感が低いところがあるのだ。

 

「す、すべぁ…!!」

 

「ちゃぶぁ…!」

 

 一方のサトシはというと、調理を見ていたオオスバメとルチャブルが開いた口が塞がらない、という有様であった。

 新参者であるマメバッタなどは、余りの光景に声すら出ない…。

 

「だねだね、だねふし。」

 

「ぴぃかぁ。」

 

「だにゃあ…。」

 

 おい、なんとかしろよと古株同士のピカチュウに詰め寄るフシギダネ。

 ピカチュウができるならとっくにやってる、と返せばフシギダネはたまらず天を仰いだ。

 サンドウィッチの下段のパンの上に積み重なり続けているのは…無数のハンバーグ。

 

「前は違う食材を無理やり重ねてたから崩れちゃったんだ。こうやって同じ奴でバランスを取っていけば…。」

 

 縦に積み重なったハンバーグ…よせばいいのにサトシはその上にパンを被せにかかる。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 

 その結果は、やはり悲惨なものであった。

 

ドッパァァァァァ…!

 

「ぴッ!?」

 

「だねふし!?」

 

「すびゃ!?」

 

「ちゃばぁ!?」

 

「ばったッ!?」

 

「あっちゃあああああ!?」

 

 積み重ねていたハンバーグが飛散し、サトシと、サトシのポケモンたちの額にそれぞれ着弾する。

 調理の際にポータブル電子レンジでしっかりと温め直していた肉の塊の熱量は、見ていた誰もが予期していた悲劇(喜劇)を大いに彩った。

 

「いや普通に乗せすぎでは…。」

 

「サトシ曰く、男は高く積み上げずにはいられないのだと。」

 

 熱々のハンバーグが額に直撃し、転げ回りながら悶絶するサトシとポケモンたちを尻目にオモダカはサンドウィッチを頬張っている。

 そんな中、ふとひばりは見た。

 シートに落ちたハンバーグへとふよふよと浮遊しながら近付く、この辺りでは見かけないポケモンを。

 

「トサキント…ではないよね…?」

 

 ひばりはすぐさまポケモン図鑑アプリをチェックする。そこできんぎょポケモントサキントのデータを引っ張り出せば、そもそもその系列はパルデア地方に生息しないことを突き止める。

 仮にいたとしてもこのような森林地帯にわざわざ住処を置くとも思えない、と断じれば答えはたった1つ…。

 

「わざわいポケモン…イーユイ…。」

 

「ミヨミヨ?」

 

 ハンバーグを齧るわざわいポケモンイーユイは、キョトンとしながらひばりを見上げていた。

 




 
 ハイパーアボカドサンド そうぐうパワー:あくLV2

 スーパーピクルスサンド そうぐうパワー:ほのおLV1
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