3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 みだれづきの滝を見上げる近場で先発組と合流したサトシとオモダカ。
 腹が減っては捜索も出来ぬ、とばかりにサンドウィッチ作りに勤しめば、その捜索対象のイーユイがホイホイとやってくるのであった。


スカーレットアドベンチャー イーユイ救出戦② ドント・ストップ!!ひばりちゃん!

「それにしても、まさかこんな簡単に見つけられるなんてな。」

 

「お腹空いてたのかな?」

 

 保護目標であったイーユイがあっさりと姿を現し、特に暴れるでもなくそれぞれが持ち寄ったサンドウィッチを平らげてゆくのを見ながら、確保組の生徒たちはなんとも拍子抜けな面持ちであった。

 北2番エリア中を走り回っての夜通しの大捜査線を覚悟していたのもあったからだ。

 

「ぶいぶい。」

 

「あっ、ブイ。」

 

 ずっと封印されていたわざわいポケモン。一体どういった生態をしているのだろうか。少なくともサンドウィッチの食材を食べ物と認識するだけの知能はあるようだが…そんな思案を巡らせていたひばりの頭に、雄のブイが飛び乗っており、ペチペチと前足で叩いて意識を思案の世界から引き戻した。

 

「いずぅ〜。」

 

 左肩に前足を引っ掛けてぶら下がる雌のイズが気の抜けた声を発する。

 『あまり根を詰めすぎるなよ?』そう、やんわりと告げていた。それは、出会った時からずっと続く彼女たちのやり取りである。

 

 

 

 ひばり、13歳。生まれはカントー地方タマムシシティ。

 『この世界』では割と珍しく両親が側におり、父は自動車修理工で、母は街のレストランにシェフとして厨房に立っていた。

 通っていた学園は、ナナカマド博士やオーキド博士がOBとして名を連ねるタマムシ大学の附属校として有名であり、カントー有数の高度な教育機関に身を置けたのは、ひばりにとって幸運なことであった。

 

 

 

「お父さん、イーブイってこのポケモン?」

 

「あぁそうだよ。しんかポケモンイーブイ。たくさんの進化先があるんだ。」

 

「なんで?」

 

「さぁ、なんでだろうね?ひばりが大きくなったら調べてみるのも面白いんじゃあないかな?」

 

「フーン…。」

 

 何歳のことであったか定かではないが幼き日、確かに今のひばりの『源泉』たる記憶…。

 休日に父と行った図書館の蔵書で脳に焼きついたポケモン、それこそがイーブイであった。

 その帰りに、同窓会へ顔を出しにシンオウ地方から帰ってきた母親が引き合わせて来たのが、ブイとイズの2体であった。

 

 

 

「見たか?昨日のマスターズトーナメント。やっぱ無敵のダンデだよなぁ〜。」

 

「あたしはシロナさんが負けるとは思わなかったわ〜。」

 

 ポケモントレーナーとして免許が下りる10歳になってからも、ひばりは学校通いを選択した。

 家の安定した収入と、学歴を積み重ねることでの社会進出時の優位を認めたことにより両親にとってもそれは歓迎する話であった。

 トレーナー免許が降りてすぐに旅に出るようなのは、故郷に働き口のない田舎町特有の文化に過ぎず、都市部であるタマムシシティで暮らすひばりには無縁の話でもあったが。

 学業の傍ら、休日を使って独学でのフィールドワーク…研究テーマは、勿論イーブイ。

 自分でも驚くほどに、クラスメイトたちが盛り上がるポケモンバトル界隈の話題に対しては冷めていた。

 

「ぶいぶい。」

 

「いずず。」

 

 指定席にしていたグラウンドのベンチで日向ぼっこをしながらの資料漁り。そこで頭によじ登り、ペチペチと叩いて主人の意識を現実に揺り戻す役割をいつしかブイとイズは心得ていた。

 ひばりにとって、同年代の子たちの大半が興味の対象とするバトルへの意欲は、イーブイ研究に向くようになっていたからだ。

 そんな中で独学での活動に限界を感じていた折、一念発起した母親がパルデア地方での起業と移住の意を家族に打ち明けたのは渡りに船と言えた。

 オレンジアカデミーでより専門的な勉強に打ち込み、まだ見ぬイーブイの生態を詳らかにする…ぼんやりと浮かんでいたひばりの人生の命題はカントーを出発する頃には明確になっていた。

 アカデミーから与えられた自室は、今ではすっかりイーブイフレンズの飼育スペースなのである。

 

 

 

「きみ、ハンバーグ好きなのかい?」

 

「ミヨ〜。」

 

「ぴかぴか。」

 

 特にテンポよく食べ進めていたのがハンバーグ入りのサンドであったのをサトシが気付けば、イーユイは目を輝かせる。

 そこに間髪入れずピカチュウは、ケチャップのチューブ口をイーブイに向けた。

 

「ミヨ?」

 

 イーユイはなんだこれ?とばかりに体を傾け、訝しめばピカチュウはチューブの口部を指差し、吸ってみな、飛ぶぞ、と促す。

 

「ピカチュウがケチャップを他の奴に勧めるなんて珍しいな。」

 

 大好物を誰かに勧める…それは互いの距離を縮めるにはいい方法と言えた。

 

「ミヨ。」

 

 そんなに言うならと、イーユイはチューブを口に含み出す。

 

「ちゅるちゅるちゅるちゅるちゅる。」

 

「ケチャップを…。」

 

「吸ってますね。」

 

 イーユイがケチャップを吸うのを、皆で固唾を飲んで見守る奇妙な光景がそこにはあった。

 

「ミヨ〜!」

 

 ケチャップを吸い、味わったイーユイが飛び跳ねるように辺りを舞う。

 

「ケチャップも気に入ったみたいだな。」

 

「ぴかぴか。」

 

 嬉しそうに飛び回るイーユイの動きをサトシは逃さず目で追い、ピカチュウもうんうん、と頷いている。

 その時だった。『殺気が走った』のは。

 

「んッ!危ないッ!」

 

 サトシは跳躍し、イーユイを胸の中で抱き留め、身を屈めた。精一杯その身で庇おうというのだ。

 

「ミヨ!?」

 

「めぇぇぇばったぁ!!」

 

 続けてマメバッタも跳躍。刹那、彼方より飛来した水流弾を足で受け止め、茂みの中へと撃ち返した。

 

「ぎゃっ!!」

 

「マメバッタ!助かったぜ!」

 

「これは…ねらいうち!?」

 

 イーユイを抱えたサトシとマメバッタは無事着地する。

 水流弾の性質から、オモダカは狙撃の張本人をインテレオンと断定した。ねらいうちは、インテレオンの専用技だからだ。

 

「先輩方!」

 

「応よ!カイリキー!全方位にみやぶるだ!」

 

「マッスグマはかぎわける!」

 

「りっきぃ!」

 

「ぐままッ!」

 

 

 茂みから聞こえた声に気付かぬオモダカではない。すかさず上級生らに号令すれば、彼らのポケモンたちが辺り一帯を索敵していく。

 角刈りのかいりきポケモンカイリキーは両眼をサーチライトのように光らせ、パンチパーマのとっしんポケモンマッスグマはあちこちを直進で走り回って匂いを嗅いで回る。

 そうして出た索敵の結果は…。

 

「不味いぞ、オモ。この辺りはもうまるっと囲まれちまってる。」

 

「そらとぶタクシーの到着時間は?」

 

「ついさっき予約したばかりだ。どう早めに来たとしても小1時間はかかるぜ。」

 

「敵は少なく見積もって…20人以上はいる。」

 

「他のエリアを回ってる方々は?」

 

「ポケラインにSOSは飛ばしたがいつ来るかは分からん。」

 

 最悪と言えた。確保組はサトシとオモダカに、ひばりたちの先発隊を加えて5人。

 彼我戦力差は絶望的だ…人間の頭数のみならば。

 

「総員、密集態勢!互いにフォローし合って、孤立しないように!!そらとぶタクシーが到着次第、元気な者がイーユイを引き連れて退避すること!!」

 

「俺に任せとけ!フシギダネ!!」

 

「だねゃあ〜!!」

 

「「「ウオオオオオオオ!!」」」

 

 包囲から遅い来るポケモンハンターたちを前に、迎撃の構えを取るオモダカたち。

 そんな中、先手を取りにいったのは、守りに入る側のサトシだった。

 フシギダネが飛び出して跳躍すれば、背中の種子袋が発光して…。

 

「ソーラービーム!!」

 

「だねふっしぁぁぁ!!」

 

ドバオオオオオッ!!

 

 膨大なくさエネルギーが凝縮された白色の光線が発射された。

 

チュドオオオオオオオン!!

 

「あら〜!?」

 

「ぎょえ〜ッ!?」

 

 ソーラービームが足元に着弾したハンターたちが、連れていたポケモンごと吹っ飛ばされて空の彼方までキラリン、と飛んでゆく。

 

「くっ、やっぱり夜じゃこんなものか。」

 

「だにゃあ〜…。」

 

「あの威力でまるで本調子じゃあないみたいですが…。」

 

「サトシのポケモンですからね。」

 

 放ったソーラービームの成果にイマイチだ、と指を鳴らすサトシ。フシギダネもまるで納得いってないとばかりに憮然としているのを見てひばりは絶句する。

 日光からエネルギーをチャージして放つのが技の真髄であるのに対し、先程のはフシギダネ自身が内包するタイプエネルギーで出力を賄っていた以上、本来の威力からは程遠くなるのも宜なるかなといった話ではあるが。

 

「ピカチュウとマメバッタはイーユイを守ってくれ!」

 

「ぴっかぁ!」

 

「めば!」

 

「オオスバメとルチャブルはみんなを助けるんだ!」

 

「しゅばおおお!」

 

「ちゃぁっぶ!」

 

「フシギダネは俺と戦うぞ!!」

 

「だね、ふしゃ!!」

 

 ポケモンたちがサトシの指示により持ち場を心得る。

 オーキド研究所の用心棒兼調停役として庭園の管理を委託されているフシギダネにとって、バトルフロンティア挑戦という大一番以来のパーティ入りと荒事は、根っこは好戦的な彼からすれば大歓迎と言えた。

 

「ぴかかぴか!」

 

「だーにあ!」

 

 両サイドからヘルガーが飛びかかるのをピカチュウが伝えては、フシギダネは分かってらぁ!、と不敵に返す。

 

「つるのムチ!!」

 

シュルルルル!

 

「ばうぁ!?」

 

「がう!?」

 

 背中の種子袋から放つ2本の蔓が、空中のヘルガーの口を結ぶように捕える。

 あく、ほのおタイプであり、フシギダネに効果抜群となるほのお技を放つであろう口部を封じたのは、細かく指示するまでもないサトシとの阿吽の呼吸の表れと言えた。

 

「オモダカ、そっちにやるぞ!」

 

「はい!」

 

「だぁぁぁねふっし!!」

 

 ブオン!と勢いよくフシギダネは2体のヘルガーを空中背後に放り投げる。

 

「ドドゲザン!」

 

「どげぇぇぇ!!」

 

 体の制御が効かないままのヘルガーの落下先へ、ドドゲザンが飛び込み、両腕を振り下ろす。

 かわらわり。たまらずヘルガーは2体ともダウンするしかなかった。

 

「ぶいぶいぶいぶいぶい!」

 

「いずいずいずいずいず!」

 

 個々にハンター側のポケモンたちを迎え撃つ中、気勢を上げながら疾走するのはブイとイズ。

 その先にはひばりが背を向ける。

 

「ブイ!イズ!ラブラブ・フォーメーション!!」

 

 ババッ!とひばりは両腕を水平に突き出せば、背後から走ってきたブイとイズがそれぞれ右腕、左腕へ飛び乗り、さらにそこから空高く跳躍。互いの尻尾を巻き付ける…。

 

「必殺!S・S・S(スリーエス)!!」

 

「ぶぃあ〜!!」

 

「いずぁ〜!!」

 

ボシシシシシシ…!!

 

 尻尾を巻き付けあったつがいが、空中で回転。さらにそこから星型のエネルギー弾を乱射し始める。

 

「なんだ!?ぐばぁ!!」

 

 それは、さながらハンター軍団の頭上より襲い来る『星の雨』…。

 ブイとイズが、尻尾で互いを結び付けた状態で回転しながらスピードスターを放つ…。

 

『SPIN STAR STORM』

 

 それぞれの頭文字を取って、『S・S・S』…。

 イーブイフレンズマスターを目指すひばりが、彼女なりに構築した自分たちだけのオリジナル技と言えた。

 




 『タマムシ大学』
 その名の通りカントー地方タマムシシティにある。
 卒業生としてはポケモン研究の権威であるナナカマド、オーキドの両博士や現代モデルのモンスターボール開発に関わったニシノモリ教授が有名。
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