3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
イーユイを守るため、決死の防衛戦を開始するのだった。
「K様!こいつら学生のくせになかなかやりおります!このままじゃ持ち堪えられて…!」
「今そちらに到着する。囲いは崩すな。」
ポケモンハンターのしたっぱが乱戦を遠巻きに見ながら無線で通話する。程なくしてみだれづきの滝より飛来するのは、したっぱどもとは明らかに違う雰囲気を放つ銀髪の男を背に乗せたボーマンダ。
男は、快速で空中を駆けるボーマンダの背から、左腕のデバイスを構え…
バシュウ!
「なにっ。」
レーザー光線を照射した。命中する角刈りが、パートナーのカイリキーもろともオブジェにされてしまう。
「な…なんだぁっ。」
パンチパーマは事態の把握が遅れ、高速で飛び回るボーマンダへも視界が追い付いていない。
「先輩!」
「遅い!」
ひばりが気付き、伝えるも動作はボーマンダの方が早かった。
背後の男が、方向転換しながらレーザー光線を再度照射し、パンチパーマとマッスグマをオブジェに変えてしまった。
「ぶぉあああああ!!」
「サトシ!」
「あぁ!!」
改めて飛来するボーマンダの背から降り立つ男の出で立ちに、サトシは否応なく過去の記憶を呼び起こされる。
3年前、シンオウ地方で幾度となく対峙したポケモンハンターJ…彼女もまた、ボーマンダを足代わりに従えて悪事を働いていた。
「お前がポケモンハンターのリーダーだな!?」
「いかにも…私はポケモンハンターK!J様の遺志を継ぐものなり!!」
「Jの…遺志だって?」
「ふししししあ!」
フシギダネが緑色のエネルギー刃…はっぱカッターを発射するもボーマンダは意に介していない。ドラゴン、ひこうとどちらもくさタイプの技に対しては強い耐性を持つ複合タイプである故だ。
「J様は…ある時突然台頭し、ポケモンハンターズギルドの名声をその実力で全国規模に轟かせた。それだけではない!次代の組織形成を見据え、行き場をなくしていた幼き日の我らに生きる術を授けてくれた命の恩人だった!」
ポケモンハンターKは、サングラス越しにサトシを睨む。その瞳には、憎しみの炎が燃え盛っていた。
「あのお方が行方をくらまして、ギルドの本部に国際警察が乗り込んできて私は必死に逃げた。その直前に見たJ様の活動記録にはマサラタウンのサトシ!貴様の姿が幾度となく邪魔立てしていたことが刻まれていた!!」
「Jの話は自業自得だ!ユクシー、アグノム、エムリットのことだけじゃない。ポケモンハンターとして、あいつがたくさんのポケモンたちを傷付けてきた分の罰が当たっただけだ!!」
「ほざくなぁぁぁ!!」
吼えるKの左腕に装着されているデバイスが一部展開し、内部から露出するのは…キーストーン。
「ぼぁぁぁぁぁ!!」
キーストーンから放たれた光がボーマンダを包み込んでゆく。
「メガシンカ!?」
「そうだ!わざわいポケモンを捕らえ、邪魔者どもを排除し、私がポケモンハンターズギルドを在りし日以上の姿に押し上げる!ボーマンダよ!!闇夜を羽ばたけ!!」
「ぼぉわあああああ!!」
メガボーマンダ…メガシンカのエネルギーが翼に集中し、2枚の翼が巨大な三日月状の1枚の翼となり、より凄まじい高速飛行を実現した姿である。
血に濡れた三日月が闇夜に映えては、一直線にフシギダネに迫った。
「フシギダネ!やるぞ!」
「だにぁ!!」
「(つるのムチで捕まって肉薄し、至近距離からソーラービームを喰らわせてやる!)」
そんな意図を瞬時に受け取り、了解できるのは、フシギダネがピカチュウに次ぐサトシのポケモンたちの中での重鎮であったからに他ならない。
メガボーマンダが突っ込んでくるタイミングに合わせて跳躍し、蔓を飛ばして背に乗り掛かる…ポケモンとトレーナーの呼吸がバッチリの長い付き合いでなければ成立し得ないカウンターアタックである。
「サトシ!!」
オモダカが呼びかけてきたのを、サトシは誤解した。
俺とフシギダネでメガボーマンダはなんとかする…そんな意識が、綻びとなった。
バシュウ!!
「なッ!?」
「だにゃ!?」
それは、彼方からの水流弾。
オモダカも、したっぱ連中への対処に追われ、狙撃要員の存在を伝え損ねていた。それが、不味かった。
「これがポケモンハンターのやり方だ!やれ!ボーマンダ!!」
「ぶぉあああああ!!」
「しまッ…!!」
ズガオン!!
「だねぁぁぁ!?」
足元に着弾した水流弾が土煙を巻き上げ、視界を奪う。それが晴れる間際にメガボーマンダの巨体が、高速でぶつかってフシギダネの小さな体を空中にはね飛ばした。
「ぴかかぴかッ!?」
マメバッタと背中合わせでイーユイを守り、したっぱのポケモンたちを蹴散らしていたピカチュウが思わず声を上げる。
「フシギダネーッ!!」
すてみタックルが直撃し、着地もままならないフシギダネをサトシが飛び出して受け止める。
メガボーマンダは、既にサトシの真上を押さえていた。
「ボーマンダはメガシンカすることにより、特性がスカイスキンに変わる。スカイスキンは、ノーマルタイプの技をひこうタイプの技に変化させ、より大きな威力を叩き出す…。」
メガボーマンダは空中から地上へ向け、口を大きく広げる。その口内には、膨大なエネルギーをチャージしていた。
「そのフシギダネはもう終わりだ。そして、マサラタウンのサトシ!貴様もジ・エンドだ!!」
「くうッ!!」
完全に動きを捉えられているとなれば、下手に逃げ回ってオモダカたちを巻き添えにしてはならないとサトシはフシギダネを抱きかかえたまま身構える。
我が身でもってでも、と自分のポケモンを守ろうというのだ。
「ボーマンダ、はかいこうせん!!」
「まぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!」
ズバビビビビビビィィィィィィ!!
Kの殺意と憎しみが込められた一撃が放たれる。
「サトシ!」
「チャンピオン!」
メガボーマンダのはかいこうせんがサトシめがけ撃ち下ろされるのを、オモダカもひばりもどうすることもできない。
その時だった。
「そぉぉぉぉぉなんッすぅぅぅぅぅ!!!」
ガギャアアアアアア…!!
飛び出した影が、はかいこうせんを受け止め…倍にして返す。
「ぼぁ!?まぎゃあああああ…!!」
「ソーナンスの、ミラーコート…!」
メガボーマンダが倍返しされたはかいこうせんに呑み込まれてゆくのを見ながらサトシは直感した。
『あいつら』が来たのだ、と。
「ボーマンダ!!」
メガボーマンダはKの側に落着し、メガシンカも解除される。戦闘不能にされたのだ。
トストストスッ!
「ぐッ…な、何奴!?」
夜空より放たれたのは、赤い薔薇。
その枝がデバイスに突き刺さり、Kが見上げた先には、月をバックにしたニャースの顔の気球が浮かんでいた。
「なんだかんだの声を聞き…。」
「光の速さでやってきた。」
「風よ!」
「大地よ!」
「大空よ!」
「世界に届けよデンジャラス!」
「宇宙に伝えよクライシス!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば…。」
「誰もが震える魅惑の響き…。」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「ニャースでニャース!」
「時代の主役はあたしたち!」
「我ら無敵の!」
「「「ロケット団!!」」」
「あの連中、また…!」
オモダカは苦々しくロケット団の気球を見上げながら背後より放たれた攻撃を回避する。
未だポケモンハンターどもを押し返し切れていない中で、奴らに動かれては厄介極まりないというのはあまりにも真っ当な話であった。
しかし…。
「だらしないわね、ジャリボーイ。こんな三下相手に手こずっちゃって。」
「お前には強くいてもらわなきゃあ、ピカチュウゲットを狙う俺たちの株も下がってしまうってモンだ。」
「ロケット団…お前たち…。」
「今日のところは一時休戦。ピカチュウゲットはまたの機会とするニャ。」
「そーーーなん、ッすッ!!」
気球より降り立つロケット団は、サトシに加勢する形でKに対峙した。
サトシとロケット団、幾度目かの共闘劇のきっかけは、2週間ほど前まで遡る。
マメバッタと出会ったばかりのサトシから、まんまとピカチュウを奪って逃げおおせたように見えた。しかし、謎の狙撃を受けては気球を撃ち抜かれ、檻に捕らえていたピカチュウもみすみす失い飛ばされてしまって大失敗。
不時着してから南3番エリアの洞穴を勝手にアジトに定め、反省会もそこそこに腹拵えをすることにしていた。
ピロロロ…ピロロロ…。
「ん、ちょっと。アンタたちじゃないの?」
カップラーメンにお湯を入れ、3分待っている中でスマホロトムの着信音が鳴る。
ムサシが自分のではないと確認すれば、コジロウとニャースに呼び掛けた。
「あっ、俺だ…え?」
「誰からだニャー?…ホゲェ!?」
コジロウのスマホロトムが伝える着信相手をニャースが覗き込めば、どちらも瞬く間に顔を青くする。
「誰からよ?って、うぇ!?」
固まって動かないコジロウとニャースに首を傾げながらムサシも液晶を覗けば、全員顔面蒼白となった。
着信相手として書かれているのは…ボスのサカキだったからだ。
『すまんな、急にかけてしまって。どうだ?世界最強のポケモンの用意は、まだかかりそうか?』
「いやー…その、なんと言いますか…。」
ロケット団がサカキに対して言上した『世界最強のポケモン献上計画』…コレの対象は、言うまでもなくサトシのピカチュウである。
3年前、マスターズトーナメント終了後にサカキにピカチュウゲットへの専念を打診し、許可を取り付けたまではよかった。しかし、その結果といえば、何の成果も挙げられていないと言うのが事実であった。
ムサシたちには、テレビ通話の外で自分たちをせせら笑っているサカキお付きの秘書であるマトリの姿がありありと浮かんでいた。
「クク…意地悪をしたな。相手は世界最強のポケモンだ。たかだか3年ほどでこちらに靡くほど簡単な話でもなかろう。」
「は、ははは…。」
あまりの緊張から、正座による足の痺れの感覚もない。
流れ出る冷や汗をそのままに、ムサシたちはぎこちなく笑みを浮かべるより他なかった。
「お前たちの活動のお陰で、我らロケット団は着実にその活動域を拡大出来ている。その功績に加えて世界最強のポケモンを捕らえることが出来たならば、間違いなく私自らの推薦で幹部としての昇進も出来よう。期待しているぞ。」
「「「ははーッ!!」」」
どうやらお叱りの為の連絡ではないらしい。そう察すればムサシたちは平伏し、地面に額を擦り付ける。
3年前より全国を股にかけてサトシを追いかけ回してピカチュウゲットに暗躍していた傍らで、各地の悪の組織と鉢合わせしては、そのことごとくを壊滅に追い込んだ…という彼らからのでっちあげの報告を、そっくりそのまま鵜呑みにするほどサカキもお人好しではない。
しかし、彼らが滞在していた時期に現地の面倒な組織が壊滅、ないしは規模が縮小しているというのは紛れもない事実であることから、サカキとしてはこの報告をある程度は真実であると受け取り、ムサシたちのチームに対し、相応の特別扱いをしていた。
「本題に入ろう。現在お前たちがいるパルデア地方には、ポケモンハンターズギルドの残党が潜伏している。Jとかいう小癪な女が率いていた…。」
「あー、いましたニャア。そんニャ奴も。」
『喋るニャースは貴重だから』という理由から、危うく自分自身Jにハントされかけた経験もあるニャースとしては、忌々しいことこの上ない相手だ。それは、ムサシとコジロウにとっても同様である。
「国際警察に本部まで踏み込まれた連中がどうやって息を吹き返したのかは知らんし興味もないが、事実として奴らは既に我らの"狩り場"にていくらかのシマ荒らしを行なっている。これを許すことは到底出来ん。あとは…分かるな?」
「お任せ下さいサカキ様!」
「我ら栄光あるロケット団の一員として!」
「往生際の悪いポケモンハンターどもを一網打尽にして見せますニャー!!」
「そーーーーーなん、ッすッ!!」
全員立ち上がり、指令に対して意気込みを示す。
「うむ。戦果を期待している。」
満足げに頷いてからサカキが通話を切れば、その瞬間に足の痺れを自覚して全員倒れ込み悶絶する。
「「「あだだだだだだ…!あ、足がぁ〜…!」」」
「そーなんす…。」
途中、勝手にムサシのボールから出てきたソーナンスは、心配そうにそれを見ているしか出来なかった。
『サトシとロケット団の腐れ縁』
サトシのピカチュウが放つ強烈な電撃に着目したムサシ、コジロウ、ニャースが邂逅して以降つけ回すようになってから生まれた因縁。
まだデビューして間もない頃のサトシが彼らを迎え撃つべく立ち向かい、トキワシティのポケモンセンターを吹き飛ばした一件は尾ひれのついた武勇伝として扱われている。