3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
勝利の喜びを分かち合いながら、アカデミーへの帰途につくのだった…。
パルデア地方の各地で繰り広げられたわざわいポケモンを巡る戦いは、形はどうあれその全てがオレンジアカデミー側の確保組の勝利に終わった。
グラジオたちがディンルーを、グズマたちがパオジアンを、そしてサトシたちがイーユイを保護して帰ってきたのを、チオンジェンを奪いにアカデミーに攻め込んできたポケモンハンターたちを返り討ちにしたクラベルたち待機組に加え、訳も分からないままアカデミー防衛の立役者となったシゲルも一緒に出迎えた。
「ホント、毎度のことながら面倒な話に関わってるもんだねキミも。」
「シゲルだって似たようなもんだろ?」
後から経緯を聞いたシゲルはサトシの首に腕を巻き付けながら軽口を叩き合う。物心つく頃からの幼馴染、腐れ縁故のフランクなやり取りだ。
確保組が全員帰還したのは日付が変わってすぐの頃であったので、わざわいポケモンたちはクラベルの研究所預かりとしてそのまま解散となり、皆それぞれの寝床に帰り着いて休眠し、翌朝を迎えた。
「こう見ると、なんというか…。」
「本当に、普通のポケモンとなんら変わりありませんな。」
翌朝を迎え、そのまま正午に一同は保護したさいやくポケモンたちの引き渡しを行うべく、ハッコウシティの港に集合した。
現代のポケモンフーズも特に抵抗なく食する4体を見ては、彼らが災厄として恐れられる要素などは微塵も見受けられない。
それは、彼らを知る者たちの間で幾度となくされてきたやりとりであった。
「お待たせ〜…。」
「相変わらずお寝坊さんは健在だねぇ?サートシくん?」
「なんだよ〜…まだいたのかシゲル?」
「あいにく今日は授業がなくってね。」
一行に最後に合流したのは例によってサトシと、その付き添いのオモダカであった。やってきたところでまたシゲルと軽口を叩き合う。
今回に関してはもとより事情が切迫していたとはいえ10時間睡眠が基本のサトシにとって、日付けの変わり頃に就寝となったのがあまりよろしくなかったのだが。
「あ〜ん!グラジオ〜!リーリエ〜!」
「母様!?」
「来たのかあの人…。」
それからおやつどきとなろう15時少し前にエーテル財団所有の船舶が到着しては、タラップが降りるのも待ちきれずに船から飛び降り、見事な空中回転で複雑な捻りを加えたウルトラCを決めてから綺麗な着地…そこから全力疾走でグラジオとリーリエに駆け寄って涙ながらに抱き締めるのは、兄妹の実母ルザミーネ。
若々しい容姿に反して実年齢は40代後半にも差し掛かろうと言う膝下まで伸ばした金髪の美魔女は、その顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡らしていた。
「しばらく見ないうちにこんなに大きくなってぇぇぇ…。」
「入学してまだ半年も経ってない。」
母は、兄妹を強く抱きしめ頭を何度も撫で回す。
遠く離れた学校の寮に我が子2人を送り出した母親の感情、と言われれば宜なるかなとも周りは思えた。
当のグラジオとリーリエからすればこっ恥ずかしくてたまったものではないが…。
「ルザミーネさん、お久しぶりです!」
「あらサトシくん。お久しぶりね。」
サトシが挨拶すれば、それまで号泣していたのが一瞬でケロリと普段の顔に戻ったのを見て、クラベルとひばりを除き一同ずっこけてしまった。
「会長?」
「ふふ、ようやくこのノリを掴むことが出来ましたよ。」
皆と一緒に盛大にずっこけるオモダカの、やりとげた感丸出しな様を見るひばりは苦笑するしかなかった。
多分したり顔ですることではないような、と…。
「それではこの子たちは責任を持ってエーテルパラダイスまで連れて行って、大事に保護しますね〜。」
「よろしくお願いします。」
縦セーターの上からポンチョ様の胸の部分が開けた白い制服姿にピンク色の縁の眼鏡が特徴的なビッケにクラベルが頭を下げれば、財団職員たちの誘導を受けてディンルーとパオジアンはタラップを登って乗船した。
「あら?そちらの子たちは…?」
「それが…。」
困ったのはサトシとリーリエだ。
サトシからイーユイが、リーリエからチオンジェンが一向に離れようとしないのだ。
「この子たちはそれぞれに、もうお2人にすっかり気を許してしまったようですな。」
「カキシルス。」
「ミヨ〜。」
顎に手で触れながらナンテが推察するのを、それぞれ首肯して見せる。
「でも…。」
リーリエは眉を八の字にしてしまう。
なにしろ相手は古い文献に僅かに記されているだけで、詳しい生態などはろくに分からない謎多きポケモンなのだ。
「ぴかぴ。」
「お前、俺たちと一緒に来たいのか?」
「ミヨ〜。」
イーユイが周りをふよふよ回っているのを見ているピカチュウが目を回し、尻餅を突く中サトシはしゃがみ込み目線を合わせる。自分と同じ所で語り掛けてくるサトシの姿は、さらに好印象を与えた。
どうやら、北2番エリアから連れ出す際のやり取りの受け取りに若干のズレがあったようだ。
サトシはあくまで一時的な保護のつもりであったが、イーユイの側はすでに諸々の覚悟は決めている…。
「ミヨッ!」
「そっか。」
再度首肯するイーユイに、サトシは破顔した。
それは、腹を括った笑みだった。判断が早い。
「よーし、行こうぜ!俺たちと冒険に!」
立ち上がったサトシが、空高くモンスターボールを放り投げれば、イーユイはそれを追い、自ら開閉スイッチに触れて中に収まる。
モニョモニョモニョ…ポーーーン…。
落ちてくるボールは、サトシの手の中で振動を止める。
「イーユイ、ゲットだぜ!!」
「ぴっぴかちゅう!」
思いがけず加わった新たな仲間、イーユイのボールをサトシはホルダーに収める。
これからは、サトシのポケモンとしての生活が始まるのだ。
「リーリエ。」
「サトシ…。」
そんなサトシは、リーリエを見る。
「俺や、ここにいるみんなは、リーリエなら大丈夫だと思ってるぜ。」
あとはリーリエの気持ちだけだ、と簡潔に告げた。
「チオンジェンさん…。」
「カキ…?」
サトシのように、リーリエもまたチオンジェンと視線を合わせる。
真正面から見つめ、真摯な気持ちを伝え合うのだ。
「わたくしは、まだまだ未熟者です。皆さんの協力がなかったら何にも出来ない…。」
チオンジェンはリーリエの言葉をただただ黙って聴いている。
「それでも、あなたが望むなら、私も、今よりもっとたくさん勉強して…もっともっと強くなります!側で、見ててくれますか?」
「カキ…。」
チオンジェンの視線が、少し下がる。
ボールホルダー…彼女のポケモンたちの入るボールを、ジッと見てるので、リーリエは1つの仮説が頭に浮かんだ。
「もしかして…この子たちみたいに、"名前"が欲しいのですか?」
「カキシルス。」
首肯、から顔を僅かに逸らすチオンジェンの仕草は、えもいわれぬいじらしさを見るものに感じさせた。
「それなら…"シンフー"。」
暫しの思案の後、リーリエはチオンジェンに命名する。
「遠い昔の言語で、"幸せ"を意味する言葉です。今日からあなたは…シンフー…!」
それは、主人と認めた相手からの初めての贈り物。
「きゃ!はは、あはは…!」
チオンジェンのシンフーがおもむろに擦り寄れば、リーリエはしっかりと抱き締めて応える。
長い眠りの果てに、シンフーはその名の通りに『幸せ』を手にしたのだ。
「あぁ、そうだ。サトシくん。ククイ博士から言伝を預かって来たの。」
「博士から?なんです?」
「近々開催されるポケモンナショナルチームトーナメント…通称"PNTT"。サトシくんにはアローラ代表チームのリーダーとして参加要請をしたいんですって。」
「PNTT?」
「私も伝言を受けただけだから、詳しいことはアローラで直接聞いた方がいいわね。よかったら一緒に乗ってく?」
ルザミーネが財団船を指差せば、サトシは一瞬応じそうになるところをハッとなって呑み込んだ。
「帰りにアカデミーへ休学届を出して、早いうち飛行機で行きますよ。」
この辺りのことに自分で気付いたのは、サトシという人間の数少ない社会的な進歩と言えよう。
彼を知るリーリエとグラジオは意外そうにサトシを見る中、ルザミーネは了解の意を込めて頷き、タラップを登った。
「グラジオ!リーリエ!長期休暇になったら帰ってくるのよ〜!!」
「忙しい人だな…色んな意味で。」
「父様が帰ってきてから随分と感情表現ぐっちゃぐちゃですものね、母様。」
船舶が出航し、別れ際になってまた顔面を涙と鼻水でぐっしゃぐしゃにしながらルザミーネは愛する子供たちに千切れんばかりに手を振っているのを、兄妹は恥ずかしいやら気まずいやらで見送る。
長期休暇に帰省するかどうかは、正直半々と言えた。
「サトシさん。よろしかったのですか?休学の件は、私から校長に話して済ませることも出来ましたが…。」
「ありがとうございますクラベルさん。でもいいんです。」
クラベルの配慮にサトシは一礼する。ただ、社会的な都合などと言うのはあの場を受け流すための方便に過ぎなかった。
シンプルにやり残したことがあるのだ。
「オモダカ。」
「はい。」
呼び掛けるサトシの目が熱く燃えているのがオモダカに見えた。
「聞いてた通りでさ。すぐアローラに行かなきゃならなくなっちゃった。」
「みたいですね。」
「ホントなら、パルデアの色んな場所をもっと冒険したかったけど。」
「暇が出来た時にいつでもまた、パルデアまで来て下さい。その時も、きっと私が案内しますから。」
「うん…。だからさ。」
サトシはボールを握る手を、オモダカに向けた。それは、これまで幾度か見てきた、バトルへの情熱を秘めた瞳…。
それが今、自分に向けられているのだ。
「バトルしようぜ、オモダカ!」
願ってもない話に、オモダカの瞳も一気に燃えた。
同じ頃、場所はパルデア地方ポケモンリーグ本部。
その執務室にて、トップチャンピオンミシェリの世話役として身の回りのことを受け持つハンベルは今、針のむしろに立たされていた。
もっとも、ミシェリの不興を買うことなどは彼でなくともポケモンリーグに勤務する中で彼女の逆鱗に触れた者は数知れない。
しかしそれは、あくまで叱責を受ける側が相応の不手際をしたからであって、ミシェリ自身はどこまでいっても清廉潔白にして公明正大の人であった。故にそのカリスマからの暴走もある程度は罷り通るのだ。
「先に行った講習会の折、新チャンピオンから報告があった。1週間近く前の時点で、我がパルデア内に潜伏していたポケモンハンターどもの手により封印されていたわざわいポケモンが解き放たれておったそうじゃな。」
「はッ…。どうやら、下の調査班からの報告の際に手違いがあったようで…管轄する私の不始末で。」
「ハンベル。」
恭しく右手を左胸に当て、頭を下げたままのハンベルにミシェリは腕組みしたまま刺すような瞳を向けている。
「儂が、こうして話しておる時点で何も調べをつけておらぬとでも思うか?」
「それは、一体どのような…。」
「とぼけるでない!」
瞬時に距離を詰め、ミシェリはハンベルの胸ぐらを掴み上げる。
「それなポケモンハンターにわざわいポケモンの捕獲を依頼し、パルデア潜伏の手引きをしていたのが貴様らエクスプローラーズであると言う調べはもう付けてある!!」
「そ、それは…!?」
「ハッサクを、パルデアの竜の里の諜報網を侮ったな。」
パッ、と胸ぐらから手を離し、ハンベルは尻から床に着地する。
「聞けば、わざわいポケモンたちを保護し、守り抜くため戦ったはまだまだ学びを得なければならぬ学生たちであったと言う…無法なポケモンハンターども相手に、アカデミー側からもしも犠牲者が出たらば、貴様どうするつもりであった!!」
「あ、アカデミー側の動きはあくまでリーグとは無関係。それに、全国にパルデアを売り込むためならば不穏なわざわいポケモンは、取り除いておくべきと…。」
「だまらっしゃい!!」
施設中に響く怒号。その中心にいたハンベルには、建物全体が飛び上がったかのような錯覚すらあった。
「その程度のことがポケモンハンターの広範囲に及ぶ潜伏、展開を容認する理由になどなるわけなかろう!!」
「く…!」
「まったく…いくらなんでも此度は看過できぬ!トップチャンピオンの命により、エクスプローラーズを公認のスポンサーから…。」
「待った。それ以上はよくないね、トップ。」
刹那、6つの気配がミシェリを取り囲んだ。
うち3つは、トレーナー。他3つは、彼らに従うポケモン…。
「パルデア四天王、第2の将カルセ。」
「同じく第3の将、ドニー。」
「そんで最後を守るが第4の将、ペリドット。」
ふんかポケモンバクーダを従える褐色黒髪の大男の右肩に白髪ながら前髪だけ黒と赤のツートンの美女がおとしものポケモンオトシドリを引き連れ、かぎたばポケモンクレッフィを指でくるくるかき回すようにしている金髪の優男風な美形がそれぞれ名乗りを挙げる。
「貴様ら…"そういうこと"であったか。」
「"そういうこと"であります。トップ。」
ミシェリの苛立たしさをストレートに孕んだ瞳を前に、第2の将の黄色の瞳は揺らぐことなく言葉を重ねる。
彼らはパルデア四天王にして、エクスプローラーズの一員なのだ。
「ハンベル、彼女は駄目だ。これだけきみが言って聞く耳を持たず、あまつさえギベオン様の意向をリーグから断ち切ろうとした。ここまでいったらこちらもやるしかない。」
「ペリドット様…。」
軽薄、いや酷薄な笑みを携えながら第4の将はクレッフィを指から離す。
「トップ。我々四天王こそ、あなたの解任を要求します。それを認めさせるには、バトルを持って致すのみ!」
第3の将が宣言すれば、四天王3人は、それぞれ懐からピンク色の結晶体を取り出す。
「ぶぁぁぁぁぁ!!」
「おぉぉぉッとッとッ!!」
「ふぃふぃふぃふぃ〜!!」
その輝きがポケモンたちに放たれては、一様に異様なオーラを放ち、ミシェリに敵意を丸出しにしながら前へ躍り出た。
「フン…よかろう。ならば今一度思い知るがよい!!頂点に立つ獅子の牙の鋭き様を!!」
場所など関係ない…そんな3将のやりようは、決して王者を怯ませることはない。
むしろこのようなルール無用こそ、彼女が本領を発揮できる舞台とすら言えたのだ。
サトシ…イーユイをゲット。
リーリエ…チオンジェン(NN シンフー)をゲット。