3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
次なる戦いが待つアローラ地方に待つのは、如何なる運命か…。
温暖で、自然豊かな島々の連立により構成されているアローラ地方は、ポケモンリーグの創設に関しては3年前と全国的には断トツで新興のエリアである。
そのため、大会参加者のレベルを鑑みて『穴場』扱いしてやってくるチャンピオン志望のトレーナーも多い。
無論、それ以外にも全国入りによって上がった知名度から純粋に観光や移住目的でやってくる人々もたくさんだ。
連立する島々の1つであるメレメレ島の都市部、ハウオリシティの空港から出たサトシを出迎えたのは、浅黒い肌に筋骨隆々な半裸に白衣を羽織る独特なファッションの青年であった。
「ようサトシ!お帰り!」
「博士!ただいま!」
アローラ地方を代表するポケモン研究者として知られるククイ博士は、サトシにとって第2の父親と言うべき存在である。
サトシたち一家がアローラ地方へ旅行に来ていた際、ククイ博士が教師を務めているポケモンスクールへの入学を決めたサトシに、下宿先として自宅を提供したことから関係は始まり、今ではその時に結婚したバーネット博士同様、2人もサトシのことを自分たちの子供同然に扱っている。
「おっと!またぞろせいちょうしたみたいだな。」
「へへへ、そのうち博士の身長も抜いちゃうもんね。」
飛び付くサトシを受け止めながらククイ博士は、その肉体がより逞しくなっているのを感じた。
「それじゃあ僕はこれでお役御免だね。ではククイ博士、またスクールで。」
「またスクールで?」
「シゲルは3年前からよくスクールの講師としてきてくれてるんだ。生徒たちからの人気も高いんだぜ?」
「へぇ〜そうなんだ。」
「僕も僕でいろんなところにパイプを持っておきたいからね。」
シゲルは歩き出す。到着次第、そのままポケモンスクールへ向かって従伯祖父に当たるナリヤ校長へ顔を見せに行く旨をサトシは本人から聞いていた。
「シゲル!また会おうぜ。」
「あぁ。お互い、何かあったら助け合おう。」
「ぴっか!」
「らき。」
道は違えどライバルであり、親友。固く握手を交わす2人の足元では、ピカチュウがじゃあな!というように右手を上げ、ブラッキーはピカチュウに軽く会釈を返す。
そうしてシゲルは改めて背を向け、雑踏の中にその姿を消した。
「よし、行くか!」
「家じゃないの?」
「オフィシャルな立場もあるからな。」
サトシはチャンピオンとして、ククイ博士はリーグ委員長として、それぞれアローラリーグに関わっている以上公式の場でのやり取りというものがある、と言われては頷かざるを得ない。
「がぁぶ。」
「ガブリアスじゃん!久しぶり!」
「ぴかちゅうちゅ!」
そうこう話しながら2人は空港の駐車場にあるポケモン発着エリアへ向かえば、サトシとピカチュウはそこに待機していたガブリアスとの再会を果たした。
人や物を運搬するため特殊な訓練を受けているライドポケモン。3年前のアローラ時代、サトシは一時期この子のお世話になっていた。
「がぶぁ。」
乗れ、とガブリアスは身を屈ませる。その背には、人が座るためのチェアが2人分装備されていた。
帰りにサトシを拾って来る前提であるからだ。
「しっかり捕まってろよ!」
「ウルトラジャー!」
「ぴかぴかちゃ〜!」
「よし!ガブリアス、頼む!」
「がぁぶぁ!」
ガブリアスの手綱を直接握る前席にククイ博士が座り、後ろ席にサトシが座る。
合図とともに、ガブリアスは勢いよく跳躍。マッハポケモンという分類に恥じない高速飛行を開始するのだった。
人工島マナーロ・アイランド。
アローラ地方でのポケモンリーグ開設の発起人であるククイ博士に全面協力の形でエーテル財団が開発したアローラリーグの開催地である。
3年前に島の運用が開始されて以降も周辺の開発は続行。選手村の施設拡張や露店街の展開スペースも整備され、サトシが訪れた時より活気に溢れていた。
「おいどうした?元気なくなってないか?」
「ぴかぴ?」
「大丈夫、大丈夫。」
開発が進み、以前より都市化しているマナーロ・アイランドの街並みは、サトシの気分をどこか減退させていた。
元より3年前も、自然あふれるアローラの風土を気に入っての滞在だったこともあり、人工的な空気に僅かながらの嫌悪が表情に出てしまっていた。
「用を済ませたらウチに帰ろう。バーネットも、レイも待ってる。」
「うん。」
ククイ博士も、ポニ島での大合宿以降にあったサトシに芽生え始めている都市部へのアレルギーじみたものには気付いていた。
彼の危惧は、この辺りの感情がそのまま人嫌いに転がりやしないか、というものである。
繰り返すがククイ博士にとってサトシは自分の子供同然の存在だ。その道行きが正しいならばどんな形であろうと支援を惜しまない。
しかし、それはそれとして、夢を追いかけ続けるサトシにも『人としての幸せ』を得てもらいたい、というのもまた、親心なのだ。
「アローラ!」
そんな2人はマナーロスタジアムに併設されたアローラ地方ポケモンリーグ本部へと到着する。
自分たちの働くリーグのチャンピオン来訪によるサイン攻めもそこそこに挨拶を交わしながら中を進み、辿り着いたのはチャンピオンの執務室。
本来ならばアローラチャンピオンであるサトシは、この部屋を生活の中心として動き回らねばならないのだが、周囲が知る通りサトシとは停滞や束縛からは無縁であり、それらを最も嫌う性質の人物である。
優勝し、戴冠を果たして以降、彼の動きを全国股にかけた『巡業活動』として扱い、アローラ内でのチャンピオン業務はずっとククイ博士が周囲との協力でもって回していた。
そんな経緯から、この部屋が本来の主人を迎えたのは、サトシがチャンピオンとなって3年の月日が経った今日が初めてなのである。
「ルザミーネさんから話は聞いたか?」
「うん。」
そうでなければそもそも帰って来てない、とサトシは首肯する。
ククイ博士はそれを認めてから自身のタブレットロトムを執務室のモニターにケーブルで接続し、動画を再生する。
口で説明するより先にサトシにはこの方法でなんとなく頭に入れてやった方がいいというのを担任教師という面から知っていたからだ。
『オー!オー!オー!オ、オ、オ、オ、オオー!オ、オ、オー!!』
動画が始まれば場所はガラル地方のシュートスタジアムであることはすぐに分かった。
歓声が響くスタジアム中央部には、特徴的なリザードンポーズの影がある。
「おっ、ダンデさんだ。」
「ぴかぴかぁ。」
『全国のポケモントレーナー諸君!ガラルリーグチャンピオンのダンデだ!今日はきみたちに嬉しい報告がある!』
ダンデはリザードンポーズから、マントを翻してカメラに正対する。
『きみたちはそれぞれ最強を目指し、日々努力を重ねていることだろう。俺もそうさ!ガラル地方のチャンピオンとしてだけじゃあなく、今年はワールドチャンピオンの座を奪い返すつもりで頑張ってる。』
ワールドチャンピオン奪回…サトシが対等な決着を望むように、ダンデもまた、サトシとの再戦を望んでいることを全く隠さない。
『そこで、だ。今回、全国の垣根を越えたバトルの舞台として新たに"ポケモンナショナルチームトーナメント"の開催を宣言する事にした!』
「ルザミーネさんが言ってたやつだ。」
「ぴかぁ。」
『全国各地で代表チームを作り、どの地方が1番強いのかを決める熱いバトルをしようじゃあないか!!』
『ぐるぉう!』
ダンデの相棒のリザードンも気合いじゅうぶんとばかりに空へ向けて火炎を吐く。
『この大会を通じて新たな力を、新たな縁を、そしてそれぞれの地方への愛を深め、みんなでポケモントレーナーとしてより高みを目指そう!!』
「より高みを…!」
『大会の詳しいルールは、動画の概要欄に公式サイトのURLを貼ってあるから、そこで確認してくれ!それじゃみんな、大会で会おうぜ!!』
『オ オ オ オ オ オ オ ! !』
ダンデのスピーチが終わり、動画もストップする。
ククイ博士は、そのまま概要欄にあるURLにアクセスした。
「今聞いた通りだ。全国各地で、それぞれに寄り集めた精鋭たちを集めてチームを作って、団体戦で白黒付ける…。」
「団体戦ってことは、仲間を集めるってこと?」
「あぁ。各地方1チームずつ。1チームはサブメンバー…補欠を含めて8人編成。」
「なら、俺と博士と…あとはハラさん、ライチさん、クチナシさんにハプウのしまキング、しまクイーンで、あと2人?」
「いや、そうじゃない。」
アローラの実力者たちを順当に挙げていくサトシに、ククイ博士はタブレットに映る公式サイトのページを操作し、大会ルールのページを見せる。
「1つのチームにはそれぞれ条件と、明確な参加枠の決まりがあってな。まず参加条件としては1つ、その地方出身の証明が取れること。もう1つは累計1年以上の明確な活動記録が認められること。このどちらかはクリアしてなきゃならん。」
「大会のためだけに強い奴を他所から急に呼び集めるのは駄目ってことだね。」
「あぁ。まぁ1年って縛りに関してはどうかと思わんでもないが…そこら辺の調整は主催であるガラルリーグ委員会がすることだしな。続けて参加枠の決まりなんだが…。」
「博士、入るぞ。」
2人の会話を遮るように執務室に入って来たのは、紫色の農作業帽子を被り、黄土色の作業着に身を包んだ二つ結びをした黒髪の褐色少女であった。
彼女の後ろには、赤と黒の短髪で褐色半裸の少年と、青いショートヘアにノースリーブのセーラー服、裾の広いパンツを合わせた少女が続くのを見て、サトシの目が輝く。
「ハプウ!それにカキ!!スイレン!!」
「久しぶりだなサトシ!」
「サトシ、久しぶり!」
「いいのか?島の方は。」
「ウチで採れた野菜をこの島の食堂にも卸し始めたのでな。少し顔を出しただけじゃ。こやつらが中に入ってくのを見てのう。」
古風な口調の少女ハプウは、ククイ博士に会釈し、級友との再会を果たすサトシにも鷹揚に再会の挨拶をする。
互いに右手を挙げ、応!とばかりに短くやり取りをした。
「で、博士。参加枠って?」
「あぁ。まず現役のチャンピオン及び経験者で1つ。同じく現役の四天王及び経験者でも1つ。これも同様現役の公認ジムリーダー及び経験者で2つの枠がある。残り4人分は自由枠として、これらの肩書きにない奴を選出する必要があるんだ。」
「俺とスイレンは出るぞ。全国にアローラありと知らしめるチャンスだからな!」
「妾もしまクイーンとして…他所では四天王じゃったか?その枠で出ることにしておる。」
「ここまで話しといてなんだが、どうする?」
改めての問いかけに、サトシの答えは言うまでもなく決まり切っていた。
「出るに決まってるじゃん!みんなで優勝、ゲットだぜ!!」
「ぴっぴかちゅう!」
ククイ博士からすれば、杞憂であった。
このようなお祭り騒ぎが、サトシの好奇心や闘争心を刺激しないはずないのだから。
「それで博士、他のメンバーは決まったの?」
「あ、あぁ…それなんだが…。」
スイレンの問いから、暫しの沈黙。
「決まっとらんのじゃな。」
沈黙を破るハプウの一言が、何よりの正鵠を得ていた。
「そうだ!イリマさんは?あの人のイーブイ、すっげぇ強いじゃん!!」
ポケモンスクールOBのイリマは、サトシたちから見れば先輩に当たり、相棒のイーブイを進化させずに強く育てるという信念は、進化を拒むピカチュウと共にあるサトシには大きなシンパシーであった。
「あー…。」
サトシ以外の全員が明後日の方向を向き、暗い表情をする。
「ぴかぁ?」
「イリマは…確かに代表にいるぞ。」
「なんだ!じゃああと3に…。」
「カロス地方の、な。」
「えっ…?」
ポカン、とサトシは呆けた顔をする。
「ええええええええええッ!?」
サトシの絶叫が、リーグ本部内に響くのであった。
『ククイ博士』
30歳。ポケモン博士でアローラリーグ委員長、さらにはバトルロイヤルにてスター選手ロイヤルマスクの正体でもある。
ポケモントレーナーとしても強力で、3年前はアローラの守り神カプ・コケコとコンビを組んでサトシを追い詰めるほどの実力者だぞ。