3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 アローラ代表のチームメンバーを募らねばならなくなったサトシと仲間たち。
 サトシがまずいの一番に訪ねたのは、スクールにいるシゲルであった。


PNTT Fighting! シゲルスカウト くすぶるheartに火をつけろ!!

 ポケモンスクールの授業が終わり、生徒たちの学び舎は遊び場へと変貌する。それは、3年前と何も変わらないことであった。

 グラウンドの片隅で木陰にて、直射日光を避けて涼みながらサトシとシゲルは肩を並べている。

 カキは腕を組みながら憮然とした顔で、スイレンはピカチュウを抱き抱えながら2人の様子を見ていた。

 

「なるほどね。僕をサトシのチームの一員に…。」

 

「あぁ。ダンデさんだけじゃあない。シロナさんにカルネさん、ワタルさんとまたバトルできるかもしれないんだぜ!」

 

「それは楽しみだね。」

 

「なら…!」

 

「申し訳ないけど、丁重にお断りするよ。」

 

 サトシの体が固まる。断られるなどとはまるで想定していなかったのだ。

 

「きみも知っての通り、僕はもうトレーナーを引退した身だ。チャンピオンを相手に大立ち回りをする夢なんてのはとうの昔に諦めてる。今更バトルの世界で夢よ、もう一度…って気分にはならないさ。」

 

「でも、シゲルあんなに強いじゃん。」

 

 他の相手ならばこれですんなりと引き下がったろう。しかし、サトシにとって相手がシゲルならば話は違う。どうしても言い負かしてみたくなる衝動に支配されるのだ。

 

 

 

「サトシ。バトルフロンティアを制覇したからって喜んでる場合じゃあないぞ。シンオウ地方には、まだお前が知らない強いポケモンがたくさんいる。世の中は広いんだ。」

 

 時は遡る。

 3年前、ホウエンリーグ挑戦の後にバトルフロンティアに挑んだサトシは、死闘の連続の果てに制覇に成功。7人の強大なフロンティアブレーンを相手に立ち向かい、その全てを見事打ち倒した。

 その功績を錦の旗代わりに帰郷したマサラタウンにて、サトシはシゲルにバトルを挑み、敗れた。決着の後、シゲルから投げ掛けられた言葉がコレである。

 夢追い人に、立ち止まる時間などはない。サトシも、シゲルも…。

 

 

 

「僕には講師としての仕事だってあるんだ。可愛い生徒たちを放ってはおけないさ。」

 

「そりゃあ、そうだけどさ。」

 

 こと舌戦においてサトシはシゲルには基本敵わない。幼い頃より理論武装を固めるポケモン博士の孫の圧倒的な知識量とボキャブラリーを前にだいたい言い負かされてきている。しかし、それは基本、だいたいという割合であって必ず…ではない。

 細かいことは後回しの単細胞であるからこそ、理解してしまえば事の本質を最短ルートで指摘出来るのがサトシなのである。

 そのまっすぐさが、時としてシゲルのように理論で本心を覆い隠す手合いの図星を突くのだ。が、今回はやはり分が悪い。

 

「研究者として箔を付けるにしたってトレーナーの実力が全く不要なんてことはないさ。きみだってゴウの手助けでトライアルに参加してたんだしある程度は分かるだろう?」

 

「まぁ、うん。」

 

 ポケットモンスター…縮めて、ポケモン。

 人類史においていつの間にか当たり前のように寄り添うこの『隣人』に対して、人類は驚くほどに知らないことばかりである。

 彼らが持つ謎の根源…その鍵を握るとされる幻のポケモン、ミュウ。それに迫る『プロジェクト・ミュウ』の参加メンバー選定は、苛烈を極める難易度であった。

 なにしろ当たり前のように伝説のポケモンとのコンタクトを求められ、最終トライアルに関してはそのゲットがメインクエストという話だった。とてもではないがデスクワーク専門の研究畑な人間には務まらず、荒事に慣れているポケモントレーナーであっても選定ラインは厳しかった。

 そんな中でもシゲルは、参加を表明した段階でトライアルの運営を担当していたツルギとアサヒからすれば、ほとんど内定が決まっていたような扱いであった。この事実が、彼もまた規格外な存在だという証左なのだ。

 

「サトシ、もういいだろう。」

 

「カキ。」

 

「本人にやる気がないんだ。そんなのを無理矢理チームに入れたところで数合わせにしかならん。」

 

 ここでこの褐色半裸の少年に同調して卑屈に振る舞って見せれば、いかにサトシとはいえ諦めをつけて引き下がったことだろう。

 しかし、元来シゲルという男はプライドが高い。オーキド博士の孫である、という生まれ持ったブランド以上にこれまでの自身の努力や、そこから産まれた結果というものに強いこだわりを持っていた。

 トレーナーとしてデビューした当初はそれを全面に押し出す高飛車な振る舞いを隠そうともしなかったが、トキワジムにて謎のポケモンにボコボコにやられ、セキエイリーグでの敗戦からの挫折を経て徐々に謙虚さを身に付け、サトシを含めた周囲に対しての嘲るような態度は消えていった。

 だが、ここで自身を卑下する論調に流されて見せられるほどには、シゲルもまだまだ精神的な円熟は進んでいなかった。要は、少しイラッと来たのだ。

 

「そういうきみはどうなんだい?」

 

「なに?」

 

「きみこそサトシのチームメンバーに相応しいのかな?ってさ。」

 

 ズイ、とシゲルが前に出てはカキと真正面から睨み合う。

 

「どういう意味だ?」

 

「言葉通りの意味さ。」

 

 一触即発。まさにその一言が当てはまるピリピリとした空気の中、それを破るのはしゃがれた呑気者であった。

 

「やあやあ生徒諸君!シゲル先生と、我が校OBのカキくんとのエキシビジョンマッチが始まるぞ!これは見なけりゃ、きっと後悔してしまい、マスキッパ!!」

 

 顔の輪郭から丸ごとはえとりポケモンマスキッパの、捕食葉のような大きな頭部を再現しながらのポケモンギャグを披露しながらやってきたのは、褐色に若干白髪を後ろへ伸ばしたオーキド博士と瓜二つの老人。

 彼の呼びかけに、スクールのあちこちから生徒が集まって来る。

 

「校長先生。」

 

「いやいや、久しぶりだのうサトシ!随分と活躍しておるようでなによリザードン!!」

 

 気さくな老人、ナリヤ・オーキド校長のポケモンギャグ攻勢に、サトシの肩からピカチュウはなんとも言えないという顔を見せる。

 相変わらずだなぁ、この人は…。そんなような一言を如実に表現していた。

 

「校長先生…。」

 

「ん?なんじゃ、そういう空気ではなかったのかな?」

 

 キョトンとするナリヤ校長の仕草と集まって来る生徒たちを見ながら、シゲルは引くに引けない状況に放り込まれたことを感じ取る。

 この従伯祖父、おそらく遠目から一部始終を見ていたのだろう…。

 

「俺は構いませんよ。」

 

 横目でチラ、とシゲルに挑発的な視線をやってからカキは校長に頷いて見せる。この流れは、カキからしたらまさに渡りに船であった。

 目に入れても痛くないほどに可愛がっている妹がゾッコンとさせられているこの色男を公然と叩きのめせるチャンスなのだ…!

 

「はぁ…。」

 

 こうなってしまえばやらないわけにもいかない。ため息ながらのシゲルはバトルのために弛緩していた意識を引き締めてゆく。

 

「ルールはどうする?」

 

「長くグラウンドを使うのは忍びない。シングルのタイマンでどうだ?」

 

「了解。」

 

 チームへの参加を断り、闘志を感じられなかったシゲルから、バトルの申し出を受けるのを飛び越えてルールの提示を求められたのはカキには意外であった。

 それは、視線で寄越した挑発に対する明確な返答と言えよう。シゲルは決して厭戦家ではない。本質的にはむしろその逆なのだ。

 

「なんか、大ごとになっちゃったね。」

 

「だなぁ。」

 

「ぴかぴか。」

 

「ぶぅい。」

 

 シゲルとカキがそれぞれ距離を取り、グラウンドをバトルコート代わりに対峙するのを隅っこで見るより他なくなったサトシとスイレンは探測する。

 2人の足元にいるピカチュウと、スイレンのポケモンであるイーブイのナギサもそれに倣った。

 

「ようし!それではこのバトル、私が審判を務めさせていただきマッスグマ!!」

 

「キャハハ!」

 

 スクールの生徒の大半ともなれば、校長のポケモンギャグがツボに入る子もいくらかはいるようだ。

 

「ルールはシングルバトル、使用ポケモンはお互い1体!!」

 

「カキのバトルは3年ぶりだな。俺が見るのは。」

 

 シゲルとはつい最近バトルをし、リーリエが言うにはポケモンハンターズギルドを相手に大立ち回りを演じたらしいので、その実力は疑いようがない。だからこそスカウトしに来たのである。

 対してカキのバトルに対するサトシの印象は、3年前のリサーチフェロー時代にアローラへ凱旋した際のバトルロイヤル以来ろくに触れていなかった。

 

「カキも強くなってるよ。」

 

「どのくらい?」

 

 問いかけるサトシに、スイレンは顎をしゃくって見せながらグラウンドを指す。

 

「見てみたら分かるよ。」

 

 簡潔に述べる。これからバトルするのだから互いの実力は自ずと分かる。それは自然といえよう。

 

「いけッ!バクガメス!!」

 

「もぇす!!」

 

 カキがボールから繰り出したのはばくはつがめポケモンのバクガメス。

 その特徴的な背中のトゲトゲしい甲羅を対戦相手であるシゲルへ見せ、振り向く形で睨みを効かせる。

 

チュッ

 

「「「「「キャアアアアア!」」」」」

 

「シゲル先生〜!」

 

 カキと同時にシゲルもポケモンを繰り出す。その際、ボールに口付けを落とす仕草に女子生徒はおろか女性教諭も目をハートにしていた。

 無論、ホシも例外ではない…。

 

「ゆけ!カメックス!!」

 

「がめぇ!!」

 

「カキはバクガメス、シゲルはカメックス…。」

 

「亀対決、だね。」

 

 スイレンも目を輝かせていた。シゲルに、と言うよりは繰り出されたカメックスの力強い着地にである。

 

「あのカメックス、違うね。そこら辺のトレーナーのとは。」

 

「だろうな。なんたって、シゲルのカメックスだからな。」

 

「ぴぃか。」

 

 力強さだけではない。鍛え抜かれた高いレベルを持つことをひと目で見抜くスイレンに、サトシは彼女もまた3年前からの大きな成長を垣間見た。

 サトシには興味のない話ではあるが、スイレンのプロポーションに関しては、大きな変化はないけども…。

 

「それでは、はじめ〜!!」

 

 ナリヤ校長のコールにより試合開始。

 シゲルは脳みそをフル回転させてバクガメスのデータを引っ張り出す。

 

「(確かバクガメスはあの甲羅の爆発機構を活かして相手の接近戦にカウンターを加える。ならば僕のカメックスには…。)」

 

「"ハイドロポンプで遠目から撃ち続ければどうにかなる"…か?」

 

 分析に横槍の形でシゲルの一手が看破される。

 

「バクガメス、からをやぶるだ!!」

 

 からをやぶる…殻を破る、と言うのは何も甲羅をはじめとした身体的な外殻をのみ指す意味ではない。己の心にある不安や閉塞感といったものを打ち払い、新たな地平へと精神を押し上げる意味にも繋がる。

 

「もぇぇぇあ!!」

 

 バクガメスは気合を入れ、守りと引き換えに攻めの力を高める。

 

「跳べッ!!」

 

 その高まったスピードでバックジャンプすれば、勢いよく甲羅を押し付けにいく形でカメックスへ迫る。

 シゲルの虚を突く接近、そして…。

 

ボゴォォォン!!

 

「ぐがぁ…!!」

 

「カメックス!!」

 

 爆発攻撃を浴びせかけたのだ。

 




 『カキ』
 13歳。ポケモントレーナー。
 ポケモンスクール時代のサトシのクラスメイトで、牧場一家の長男。
 サトシに負けず劣らずバトルに熱い情熱を燃やす。パートナーは数多の試練を共に潜り抜けてきたバクガメスだ。
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