3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 マオのお店で好き放題するよくないお客さんをあっという間に制圧する美女の姿にサトシとシゲルは戦慄を隠せない。
 かつてシンオウにて対峙したポケモンハンターJそのものであったからだ…。


PNTT Fighting! アイナ食堂のジェニー

「そい!!」

 

「どわぁ!?」

 

 ジェニーとマオが呼んだ美女の動きは速かった。

 瞬く間に親父の懐まで飛び込み、巴投げの要領で店の外に放り捨てたのだ。

 

「がぉがう!」

 

 主人を慌ててガオガエンが追いかけてゆく。

 

「くっ、くそ!!」

 

 ガオガエンを一瞬で無力化され、あまつさえ放り投げられる浮遊感で親父の酔いは完全に覚めたようだった。

 赤ら顔が一気に青ざめ、一目散に走り去ってゆく。

 ボールに戻してもらえないガオガエンは、両手を糸に巻かれたまま主人を追いかけて立ち去るしかなかった。

 

「ありがとうジェニーさん。助かったよ〜。」

 

「マオ、お前は優しすぎる。店を大きくするなら、客の選別もしなければなるまい。」

 

「は〜い…。」

 

 シュン、とうなだれるマオの頭をジェニーが優しく撫でる。

 ジェニーが視線をやってくれば、サトシとシゲルは不自然にそれを逸らして下手な口笛を吹く。

 

「来いお前たち。手当てしてやる。」

 

「あざっす姐さん〜…。」

 

「すまないマオ。店に出るのは少し遅れる。」

 

 ジェニーはそんな様子を捨て置き、痛めつけられたスカル団のしたっぱたちを引き連れて店の奥へと消えていった。

 

「マオ!マオ!ちょっと!」

 

「はーい!」

 

 サトシが手招きすれば、マオはまたいつもの快活な笑みを振り撒きながらテーブル席までやってくる。

 

「ごめんね変なの見せちゃって。ウチ、リーグが始まってからお客さん増えたのはいいんだけど、困ったお客さんも増えちゃってさ。」

 

「あの人は?ほら、アリアドスを連れた…。」

 

「あぁ、ウチのバイトのジェニーさん!」

 

「ジェニー…さん…。」

 

 再度サトシとシゲルは顔を見合わせる。

 

「その…ジェニー…さん?っていつからここに出入りするようになったのかな?」

 

「んーとね。今からちょうど1年くらい前かな。店の前で生き倒れてたのを助けたの。話を聞くに、自分の名前も思い出せなくて…行くところもないみたいだったから、何か思い出すまでウチで住み込みのバイトとして雇ったんだ。」

 

 シゲルが代わって聞けば、マオは特に隠すこともない、とジェニーについて話してくれた。

 

「1年前、かぁ…。ちょうどそこから昨日までは別件でアローラにはいなかったな。」

 

「俺もポニ島で合宿してたから、こっちには来てない。」

 

「ぴかぴ…。」

 

 サトシもシゲルも唸るより他なかった。

 1年近く滞在できているということは、アローラの警察機構もJの存在に関し、把握しているとしても泳がせているのだろうとは考え至るが、かつて大敵として猛威を振るった最強のポケモンハンターが、事情はどうあれ仲間であるマオのもとで平穏に暮らしているというのはショッキングな話であった。

 

「うーむ…あのアリアドスのいとをはく攻撃の鋭さに加え、トレーナー本人の研ぎ澄まされた身のこなし…。」

 

 後から合流したナンテが2人の事情を知らないとはいえ提案したことは、さらにとんでもない話であった。

 

「監督、あのジェニーさんって人も選考会に呼べませんかね?」

 

「確かに…アレはかなりレベルの高いトレーナーと見た。」

 

 サトシとシゲルが瞠目する中、ククイ博士も何度か頷いてからナンテに同調する。

 

「「えぇ!?」」

 

「なんだ、サトシとシゲルは反対か?」

 

「あ、いや…。」

 

 シゲルですら言葉に詰まった。

 ポケモンハンターJの悪行、それに関わった自分たちの因縁などはあくまで過去の話…サトシとシゲルの自己都合の範疇でしかないのだ。

 今度はククイ博士がマオを呼び、話を付ければ入れ替わりでしたっぱの手当てを済ませて裏から出てきたジェニーとの対面と相成った。

 依然としてサトシとシゲルは不自然なほど神妙な面持ちで彼女を見る。

 

「なにか?」

 

「い、いや…!」

 

 引き締まった印象を顔面に彩る切れ長の瞳がジッと2人を見る。

 別に怒気を込めて睨んでいる訳ではない、元からこういう貌なのだろう。その辺りは波導から読み取れるが、それが本音であるかまでは、基礎的な技術しか習得出来ていないサトシには分からない。

 

「マオから聞いた通りだ。性も根も尽き果てて、生き倒れて介抱されたのがこの食堂だった。何故生き倒れるハメになったのかは未だ皆目見当も付かんが…。」

 

「連れてるポケモンたちは?」

 

「ボールに収まり、繰り出せば指示に従う以上は私のポケモンという自覚のもとにあるのだとは思う。」

 

 ボールから飛び出したのは先程の大立ち回りの立役者であるアリアドスにドラピオン、ボーマンダの3体…サトシとシゲルからすればこの子たちもまた忘れもしない、という面子だ。

 

「こいつたちもゲットし、育てはしていたのだろうがその辺りの直接的な記憶はない。だが、よく指示を聞いてくれている。不思議と私のイメージとピタリ一致するよう動いてくれているから、余程記憶を失う前の私は熱心だったのだろうな。」

 

「まんぎゃ。」

 

 手近のボーマンダの頭を撫でるジェニーの表情がどこか柔らかいのが、余計サトシとシゲルの困惑をかき立てる。

 ポケモンハンターJという人物に対して、このような穏やかなインテリジェンスがあまりにも不和であったからだ。

 

「ならばこの子たちと一丁、腕試しなんてしてみませんか?」

 

「腕試し?」

 

 ナンテが選考会の話をする。

 それにジェニーは何やら真剣に考え込む。掴みは悪くないようだ。

 

「6月の末日ならウチちょうどお休みだし、出てみたら?」

 

「マオ…。」

 

 話を聞き付けたマオが追加の皿を運びながら口を出してくる。ナンテからすれば思わぬ援護射撃であった。

 

「ジェニーさんとっても強いもん!もしかしたら代表入りしちゃうかも。」

 

 無邪気な笑みを向けるマオは彼女へ全幅の信頼を寄せていた。

 それにジェニーもふふ、と笑みを返し…。

 

「マオがそう言うのなら。」

 

 彼女の頭を撫でた。

 

「姐さん!自分らも応援行くッスカら!」

 

「頑張って下さい!」

 

「いや…せっかくだ。お前たちも出ろ。腕の立つところを示してみんなを見返す良いチャンスだろう。」

 

 当日まで一緒にトレーニングしてやる、とジェニーが付け加えれば、スカル団のバイトくんたちはあっという間にその気になった。

 そのあまりに単純な様に、マオもジェニーも身内として笑みを溢す。

 

「それはいい!選考会の参加者は多ければ多いほど見込みあるメンバーが現れる確率も上がるというもの。」

 

「あぁ。是非参加して欲しい。なんなら仲間たちも呼んでくれよ。」

 

 ククイ博士の申し出にしたっぱたちは有頂天となっていた。

 それからのディナーはトラブルなく終わり、各自解散となればカキはライドポケモンとしても頼りにしているリザードンの背に乗って飛び去り、スイレンも自宅へ帰っていく。

 

「サトシ。」

 

「ん。博士たちは先帰ってていいよ。」

 

 呼び止められたサトシはシゲルを指差しながら伝えれば、ククイ博士も男同士の付き合いに覚えがあるとしてこれを了承した。

 

「シゲルが一緒なら大丈夫か。日付が変わるくらいには戻ってくるんだぞ。」

 

「そこまでかからないよ。」

 

「ぴかぁ。」

 

 3年前ならいざ知らず、今となってはサトシも夜の町での遊びの1つ2つ覚える方がむしろ大人として健全かもしれない…そんなような若干余計な親心をよそに、ククイ博士らを見送るサトシとシゲルの表情は重苦しかった。

 

「どうする?」

 

 特に目的地のない散歩の末、メレメレ海を一望できる砂浜まで足を運べばシゲルから話を切り出す。

 

「どうする、って言われてもな…。」

 

 主語のない会話…当人同士しか把握することのないテーマは、当然ポケモンハンターJ…ジェニーのことであった。

 シンオウで対峙した時のような凍てつく視線がこのアローラの気候の前にずいぶん溶かされたかのような穏やかな人となりは、Jを知る2人からすれば思考が延々混乱し続けるにじゅうぶんなものであった。

 

「アレが本心なのか、演技なのか…波導の力とやらで分からないのかい?」

 

「まだそこまで習得出来てない。」

 

 オルドラン城の城下町であるロータに伝わる波導の技術…その初歩的な部分をたった半年で習得せしめたのは、サトシがルカリオをゲットしていて、なおかつ『波導伝説』に伝わる波導使いのアーロンと全く同質の波導を有していたことが複合的に重なっての幸運と言えよう。

 鍛え抜けば他者の気配や心情を精密に読み取ることも出来るのだが、サトシの現状ではざっくりとどこに誰がいるかを把握できるという荒めのレーダー代わりな代物でしかなかった。それ以上のことをするには、ルカリオのサポートが必須となっている。

 

「「う〜む…。」」

 

「ぴぃか…。」

 

「らっき。」

 

 サトシもシゲルも腕を組みながら思案して、唸る。

 サトシの傍でピカチュウもそれに倣う中、シゲルのブラッキーは月夜の下で浜風に当たって気楽に涼んでいた。

 

「とりあえず…今は静観して、注意深く見張るしかない、かな。」

 

「だな…でもさ。」

 

 とりあえず話はまとまった。砂浜に座り込んでた2人は立ち上がる中、サトシがふと思い出す。

 

「マオのやつ、すごく懐いてるんだよな…あの人に。」

 

「そうみたいだね…。」

 

 元より料理修行の旅に出る兄を慕う妹としての側面を持つマオにとって、側にいるジェニーとは頼り甲斐のある姉のような存在になっているのだろう。

 もし彼女が全てを思い出し、あるいはすでに思い出しているとして…ポケモンハンターの道へ再び足を踏み入れんとするならば、サトシとシゲルはそれを全力で阻止する腹づもりだ。そうしなければまた多くのポケモンたちが酷い目に遭うだろう。

 しかしそれは、マオが傷付く結果にも繋がる…。

 

「マオのお姉さんみたいな人、ってのに落ち着いてくれたら…いいよな。」

 

「そうだね…。」

 

 ピカチュウが、ブラッキーが、それぞれの主人の肩に飛び乗る。

 ここでこれ以上駄弁り続けてみても、答えが出るものでもない。2人はそこで解散するより他なかった。

 

「ぴー…かー…。」

 

「ふわわ。ねっむ…。」

 

 肩の上に飛び乗ったピカチュウは睡魔に負け、眠け眼で夜道を歩くサトシの腕の中に吸い込まれてゆく。

 ジェニー…ポケモンハンターJという巨大な不発弾を抱えたまま、アローラ代表チーム<マナーロ>はメンバー選考会を迎えるのだった…。

 




 『ポケモンハンターJ』
 年齢不明。Jもおそらくはコードネームであり、本名でない可能性が高い。
 3年前にシンオウ地方にて消息を断ち、彼女の組織も壊滅したはずなのだが…?
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