3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
トレーナーとして一時的にとはいえ復帰を果たしたシゲルの話を聞きつけ、応援ギャルたちも復活し、駆け付けていたのだった。
「カメックス、ハイドロポンプ!!」
「がめぇ!!」
「ブリムオン、ムーンフォース!!」
「むぉぉぉ、ぶぉ!!」
「エレキブル、ワイルドボルト!!」
「えれっきぁ!!」
「なんじゃ、チャラチャラしとる割にバトルはオーソドックスというか、基本に忠実じゃのう。」
「1週間前とは指示のキレがまるで違う。鍛え直して来たとはいえこんな短時間でああも見違えるのか。」
シゲルもまたスイレンやカキ同様受け持つ参加者を相手に連勝を重ねていた。ただ勝つだけではない。
1戦1戦を己が体に刻み込み、往年の勘を取り戻さんと必死であった。
直接手合わせしたカキなどは、直近の姿とはまるで別人であると評する。
「やはり…天才か。」
選考会中のバトル全てにおいて審判を務めるナンテもカムバックしたシゲルの手腕に舌を巻く。
「「「「「「いいぞ!いいぞ!シゲル〜!」」」」」」
応援団のガールフレンドたちもシゲルの連勝劇に気をよくしている。
「サトシ、どうしたの?」
「いや…シゲルが最後に戦うあの人なんだけどさ…。」
スイレンが珍しく静かなサトシに声をかければ、その視線は順番待ちを続ける巨躯を捉えていた。
温暖な気候のアローラにおいて、真っ黒なフード付きマントを羽織り、顔も隠すその威容は、見るものにプレッシャーを与えている。
「エントリーシート、ないの?」
「飛び入り枠みたいだな。」
カキがまとめられたシートをパラパラとめくりながら確認するも事前情報は見つからない。
「ぴかぴ?」
「あの波導、どこかで…。」
サトシが巨躯に感じ取っていた波導は、微かな既視感を与えていた。それが人物の特定まで至っていないので、首を傾げるより他なかった。
「オーロット、戦闘不能!バウッツェルの勝ち!よって勝者、チーム<マナーロ>シゲル!」
「ばうばうばうばうばう!」
「よーしよしよし。よくやったぞバウッツェル。」
9人目を鮮やかに倒し、駆け寄るバウッツェルを抱き留めて撫で回すシゲルも、最後の相手からは異様な気配を感じていた。
先の9人も決して簡単な相手ではなかった。ただ、その巨躯に関しては、スイレンやカキが相手をした猛者たちと比べても次元の違いを肌で受ける。
鳥肌が、立っていた。
「(なんとなくだけど感じる…彼は、ここまでの相手とはまるで違うぞ。)」
相手の力量を肌で感じ取れるくらいには自身のトレーナーセンスに鋭敏さが戻って来ている。それはそれで今のシゲルにはありがたい話ではある。
「大丈夫ですか?シゲルくん。」
トレーナーサークルに入る巨躯を視線で追うのに動きが停止しているシゲルをナンテが気にかける。
「大丈夫です。いけますよ。」
すぐに色男たる笑みを向けながら、バウッツェルをボールに戻すシゲル。
「よろしくお願いします!」
そんな彼と対峙する巨躯はというと、入ったトレーナーサークルにて大きくお辞儀をした。
「怪しげな風体の割には礼儀正しい奴じゃのう。」
「悪い人ではなさそうだけ、ど…あぁッ!?」
巨躯がお辞儀から頭をあげ、フードが外れてはその素顔にスイレンがまず仰天する。
「おいサトシ!」
「そうか、あいつだったのか!この波導は…!!」
カキがサトシを見る。巨躯の正体を知るのは、サトシも皆と同じタイミングであった。
在りし日を知る者には、その変貌は予想だにしなかったのだ。
「まさか、あいつ…ハウなのか!?」
ククイ博士も仰天を隠せない。
3年前、アローラリーグ決勝大会をサトシと戦った、メレメレ島のしまキングであるハラの孫…ハウ。
当時サトシとさほど変わらない体格であった純朴な少年は、その純朴たる顔立ちはそのままに縛っていた後ろ髪は伸ばし放題。
身長は、160cm台に伸びたサトシを楽に見下ろせる180cmはくだらない巨体となっていたのだ。
「「いけッ!!」」
両者同時にボールを投げ込む。中から出て来たのは…。
「シゲルは空港で見せて来たやつだ。」
『マスカーニャ、マジシャンポケモン。浮いているように見える花は、マント裏の毛の反射で、茎をカモフラージュしているのだ。』
「ハウの方はジュナイパーだな。」
「ひと目で分かる…凄くたくさん、修羅場を潜り抜けて来てる。」
「「「「「「いけ!いけ!シゲル!頑張れ頑張れマスカーニャ!!」」」」」」
「シゲル先生ファイト〜!」
シゲルガールズとホシの応援が響く中、対峙するシゲルのマスカーニャと、ハウのやばねポケモンジュナイパー。
「なぁご…。」
マスカーニャが手先で弄ぶ花束を誤って足元に落としてしまう…
「トリックフラワー!」
「にゃあご!!」
のが開戦の合図となった。
地面に落ちる前の花束を、マスカーニャはジュナイパーへ狙って、勢いよく蹴り抜く。
「ほわ!?」
飛んできた花束をジュナイパーは振り払って迎撃にかかれば、花束は途中で制止。
ジュナイパーの翼が空を切れば再度動き出し…。
ボゴン!
顎下に着弾した花束が爆発し、ジュナイパーをのけ反らせた。
周囲に羽がバッと舞い散る中、マスカーニャは重心を低くして走り込み、懐に飛び込む。
「つじぎり攻撃だ!」
マスカーニャお得意の花弁爆弾を用いたトリックフラワーはあくまで接近のための搦め手…本命は、あくタイプの持ち味を生かした接近戦にあった。
くさ、ゴーストの2タイプを持つジュナイパーには間違いなく有効的な手段だ。
「にゃにゃにゃ!」
シャキン!とマスカーニャは両手の指先から爪を伸ばす。
伸ばした爪からさらにあくタイプのエネルギーを発してリーチを延長していた。
「斬りかかれ!!」
爆発で体勢を崩したジュナイパーへの追撃。
これは決まる!誰しもがそう思う中、ハウの口元が吊り上がる。してやったり、というような腹黒さではない。
彼が持つ天性の純朴たる笑みだった。
「させないよ!」
「ほぉわ!」
ジュナイパーの両眼がギン!と光れば、舞い散る羽が一斉にマスカーニャ目掛け飛びかかり、瞬く間に両手の爪を夥しい量の羽が包み込んでしまった。
「にゃ!?」
「マスカーニャの手が…!!」
「アレじゃあつじぎりはできない、たとえ無理やりやったところで、とてもじゃあないが威力は出せんぞ!」
「サトシ、あの技って…。」
「あぁ、間違いない…フェザーダンスだ。」
3年前のアローラリーグでぶつかった時に決着の契機となったのは、サトシとモクローの特訓の成果であるフェザーダンスであった。
ハウが決めにきた必殺の一撃を、モクローの羽毛を使った身代わり兼目眩しに利用して虚を作り出し、致命の1発を叩き込むことに成功したのだ。
その敗戦から、ハウもまた、同じく戦略に取り入れたのだろう。サトシとモクローのように、自分だけのスタイルとして開発したフェザーダンスを。
「(まずは両手の羽をなんとかしなければ…。)マスカーニャ!跳べ!バックステップで距離を取れ!!」
「にゃにゃッ!!」
接近戦を封じ込まれ、たまらずシゲルは後退を指示する。
「そこだぁ!ジュナイパー、かげぬい!」
飛び退くマスカーニャ。それは、ハウにとって予測通り。
「じゅっぱ!」
ゴーストエネルギーの塊が矢の形を作り、翼を弓に見立てて狙いを絞る。
ビシュウ!
ジュナイパーの放った霊矢が、飛び退いたマスカーニャの影に突き刺さる。
「しまッ…!」
しまった、そう言い切ることすら出来ないほどシゲルは狼狽した。
マスカーニャが激しく飛び跳ねて、両手の羽を振り払わんとするも、影から体が離れず、身動きできない、とまではいかないにしろマスカーニャ本来の俊敏性を完全に殺していた。
「かげぬいでマスカーニャのスピードを奪った!」
ここまでの流れにおけるハウの仕草は、あまりにも自然。それ即ち、最初からこの展開にもっていくことを対面の時点から構築していたからに他ならない。
純朴…天然とすら言えるような印象のハウに、ここまで緻密なバトル捌きは、3年前の時点では見られなかったからこそ、ベンチのサトシたちは舌を巻くよりない。
「今だジュナイパー!ゴッドバード!!」
「ほぁぁぁぁぁ!!」
両手足を封じられたマスカーニャを前にジュナイパーは跳躍し体に白銀のエネルギーを纏ってゆく。
『詰めの一撃』…無論、ただ受けてやるつもりなどは、シゲル側には毛頭ない。
「トリックフラワーで押し留めるんだ!!」
「なごぉ〜!」
マジシャンポケモンとして、多少の手先の異常などものともせずにタネも仕掛けもなく先の花弁爆弾をマスカーニャはいくつも展開、宙に浮かせて見せた。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
「ほぉあ!!」
ジュナイパーもエネルギーチャージ完了。自らを白銀の矢として、猛スピードでマスカーニャへ飛びかかる。
ボボボボボ…!!
マスカーニャは展開した花弁爆弾を次々と放ち、ゴッドバードの勢いを弱めにかかるも、それは最早焼け石に水と言えた。
「段々戻って来たな…あの頃のシゲルが。」
一見すれば無駄な抵抗…それでも決して勝負を諦めない熱き闘志。3年前のジョウトリーグ、ベスト8をかけた試合の最終局面。
サトシのリザードンに肉薄されながらもその左肩に文字通り噛みつき、ちきゅうなげへのセットアップを阻止しに来たカメックス…サトシにとって、今見ているマスカーニャとシゲルには、3年前に見たあの時の姿がダブッて映った。
「ほおおおおお!!」
ドッゴオオオオオン!!
「ぎにゃあああああッ!!」
「マスカーニャ!!」
トリックフラワーによる威力の減退をものともせず、ジュナイパーのゴッドバードはマスカーニャの土手っ腹を射抜き、その細身を吹っ飛ばす。
たまらずトレーナーサークルから飛び出したシゲルは、彼女を腕の中へ抱き留め、無防備な落下から救った。
「にゃおおん…。」
ごめんなさい、そんな意思を瞳で伝えてくるマスカーニャにシゲルは優しく微笑む。
「きみは最高だよ。僕の戦い方が不味かったんだ。」
顔を上げ、シゲルとナンテは頷き合い、ナンテは審判としてコールした。
「マスカーニャ、戦闘不能!ジュナイパーの勝ち!よって勝者、参加者のハウくん!」
勝ち名乗りもそこそこにハウはジュナイパーと共にベンチを向き、握り込んだ右手を左手で包み込む『拱手礼』にてその場に跪いた。
「ポケモントレーナーハウ!あらゆるものを見聞し、頭の中に天下をおさめ…それらをすっかり忘れて戻ってまいりました!!」
「ほぅ!」
ジュナイパーもハウに習って拱手している。
「この上はアローラ代表チーム<マナーロ>の一員として、是非とも一緒に戦いたいでありまぁす!!」
「ぴかぴ。」
「うん。」
選考で勝ち切ってからの、見事なる口上。これが心を打たぬはずがない。
ピカチュウと、メンバーの仲間たちと頷き合ってからサトシはベンチを飛び出し、ハウの両手を取った。
「もちろんだぜハウ!お前の熱い気持ち、すっげぇ伝わって来た!!博士、いいでしょ?」
「あぁ。」
後からカキたちメンバーもベンチを出てサトシに改めて頷く。
「天下をおさめ、それらを忘れる…か。」
ククイ博士はハウの言を反芻し、彼の両肩を掴んだ。
「よくぞ最高の状態で戻って来たな、ハウ!」
ハウは、皆が知る満面の笑みで、褐色肌によく映える真っ白い歯を見せる。それは、彼なりの照れ隠しであった。
こうしてまた1人、心強い仲間がチーム<マナーロ>に加わった。
ポケモントレーナーのハウが仲間に加わった!
アローラ代表チーム<マナーロ>…残りメンバー枠、あと2人。
『ハウ』
13歳。ポケモントレーナー。全国各地を行脚してアローラに帰ってきた風来坊。
エースポケモンはモクローから大事に育て上げたジュナイパーで、精密な矢羽根攻撃が持ち味だぞ。