3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 シゲルの選考バトルで姿を見せたのは身も心も大きく成長して帰ってきたハウだった。
 文句なしの実力をひっさげて、ハウが代表メンバーに確定すれば残りメンバーはあと2人…。


PNTT Fighting! 選考会バトル!しまクイーンvsアルバイト

「さぁて、次は妾の番じゃな。」

 

 積もる話は後にして今は選考会を進めよう、とハウをメンバーとして迎えたサトシたちは彼を伴ってベンチへ引き下がる。

 シゲルの番が終わり、次は我ぞとハプウがトレーナーサークルへと入って選考担当に回った。そこに対峙するのは…。

 

「俺だ〜!」

 

 丸坊主でイシツブテがプリントされたTシャツを着る汗だくの少年がボールを投げ入れる。

 

「ばぅひひぃ〜ん!」

 

 

 

「おっ!バンバドロだ!ヒロキのドロバンコ、進化したんだ!」

 

「ぴかぁ。」

 

 サトシとこの丸坊主の少年は知己である。

 アローラスクール時代、クラスメイトでこそなかったが時折顔を合わせ、ポケモンバトルをした仲だ。故に彼のことは覚えていた。

 

「「バンバドロ、かぁ…。」」

 

 カキとスイレンが同時に呟く。

 その視線は、哀れなものとしてヒロキを見ていた。理由は、サトシもすぐ分かることとなる。

 

「ふふ、ならばゆけい!」

 

ハプウが投げ入れたボールからは…。

 

「ばううひひぃぃぃぃぃん!!」

 

 ヒロキの繰り出した個体とはサイズも風格もまるで桁違いなバンバドロが着地と同時に地響きを立ててその威容を現した。

 

「バンバドロよ、10まんばりきじゃ!!」

 

「ばぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 それは、ほんの一瞬のミラーマッチ。

 遠慮などまるでない巨馬の気合い1つであえなくヒロキのバンバドロが吹っ飛び、KOされる。

 それは、まさに蹂躙劇の幕開けとなった。

 

 

 

「あら〜やっぱしまクイーンだけあってとんでもないね〜…。」

 

「うぅ、すんませんボス。自分ら全然いいとこ見せられませんでした…。」

 

 ハプウが次々と参加者を薙ぎ倒してゆく。

 そのパワフルさを前に、順番になったバイトのスカル団もあっさりやられてしまっていた。

 

「そんなことなかったよ!一生懸命頑張ってたの、私には伝わったよ!」

 

 シュン、と小さくなって戻って来るしたっぱたちをマオはしっかりと労う。

 

「まぁこういうのは何より結果の世界だけどさ?"挑戦した"ってことでなにか残ったものをこれからどう活かすか…人生って、そういうものじゃないかな?なーんて。」

 

「「ボ、ボス〜〜〜…。」」

 

 感涙するしたっぱたちを宥めながらマオは、ハプウがあっさりと9人目を撃破したのでいよいよ出て来る真打ちにさらに表情を明るくしていった。

 

「さ、あとはみんなでジェニーさんを応援しよっ!」

 

「「姐さん頑張ってくだせぇ〜!!」」

 

 

 

「ハプウも無茶苦茶やるなぁ…。」

 

「だが、アレに対応出来ないようなのを無理にチームに入れたとて、PNTTを勝ち抜くのは難しいだろう。」

 

 繰り広げられるハプウの大暴れ…カキに諭されるまでもなくサトシとてその真意が分からないではなかった。

 溢れるしまクイーンの全開パワーを、受け止めるなり受け流すなりする器量がなくては全国の猛者たちを相手にしたところでお話にならないのだ。

 それ故に、あえてハプウは荒くれて見せている。彼女流の真剣な選定なのだ。

 

「いよいよ出て来るな。」

 

 スタジアムにある回復装置でマスカーニャの治療を済ませたシゲルがベンチに戻り、サトシの隣に座る。

 2人の注目…いや、懸念は、どこまでもジェニーにあった。

 店で見たのと同じ黒のTシャツにデニムのショートパンツからスラリと長い脚を晒して跳ねたショートヘアの銀髪美女が空いたトレーナーサークルへ躍り出る。

 その穏やかな中に、若干の緊張と困惑を孕んだ表情が、素なのか演技なのかは、分かりようがなかった。

 

 

 

「ジェニーさーん!気合いだよ気合い〜!」

 

「頼んます姐さ〜ん!」

 

 声を張る店の仲間たちに向けて軽く手を挙げて見せるジェニーだが、バトルを前にしての自身の感覚に困惑を隠せなかった。

 自分は…自分の体は、このような『荒事』にあまりにも慣れ切っている。それどころか、どこか容易いものとすら認識しているのに驚いていた。

 

「("私"は…一体何をして生きて来たのだ?)」

 

 生き倒れていたところをアイナ食堂にて介抱され、そのまま転がり込んで1年。周りが言うに記憶喪失であり、過去の記憶とやらが蘇る兆候らしきものは今のところ全くない。

 だが、ジェニーとしては現状に満足していた。暖かな日常にご飯と寝泊まりできる場所…慕ってくれるマオやしたっぱ連中、そして付き従う屈強なポケモンたち。ハッキリ言えば、昔の記憶を取り戻すことに関してさほど興味はないのだ。こうして選考会に足を運んだのも、それでマオたちが喜ぶならというだけに過ぎない。

 

「(まぁ、やるだけやってみるか。)」

 

 さりとてジェニーは、負けず嫌いな性分でもあった。むざむざとやられることはどうにも受け入れ難い。

 

「それでは両者、ポケモンを出してください。」

 

「妾はこのままバンバドロでゆく。」

 

 バンバドロの特性は攻撃を受ければ受けるほど防御力が高まる『じきゅうりょく』。この手の長丁場においてうってつけのものといえた。

 こういう細かな立ち回りの巧妙さも、ハプウがしまクイーンとして身につけた成長の1つである。

 

「頼む、ボーマンダ!」

 

「ぼぁまぁぁぁぁぁ!!」

 

ゴァァァァァッ!!

 

「ぶ、ぶるひひ…!」

 

 対するジェニーが繰り出したのは、ドラゴンポケモンボーマンダ。その咆哮に、バンバドロの僅かな萎縮をハプウは見逃さなかった。

 

「いかく、か。」

 

 ポケモンの攻撃力を低下させる特性、そんなことは分かっている。それ以上の覇気を放つボーマンダに、ハプウは口元を吊り上げた。

 

「よかろう!ゆくぞバンバドロよ、翔べぃ!!」

 

「ぶる、ッひひぃ〜ん!!」

 

ババッ!!

 

 

 

「バンバドロが…!」

 

「翔んだ!」

 

「ふみつけによる脚力を跳躍へ応用したんだね。」

 

「ぴかぁ〜…。」

 

 サトシとピカチュウがあんぐりと口を開ける中、シゲルは冷静にアクションの原理を見抜く。

 900kgを越す重量級ポケモンのバンバドロ…それもハプウが手塩にかけて育て上げた、通常種の倍を誇る超巨体が宙へ翔ける姿は、否応なく見るものを圧倒させた。

 

「山が、動いた…!」

 

 驚くと同時にサトシだけが気付いた。

 これまでのその場で相手を蹴散らすだけに終わった9人とは違い、初めてハプウ側がバンバドロに明確なアクションを指示したことを。

 

 

 

「(避けるは悪手だな。)」

 

 何故そう確信できるかはジェニーにも分からない。言うなれば『体が覚えている』という感覚だ。

 無論、その源泉には皆目見当もつかない。

 

「ボーマンダ、りゅうのはどうだ!収束して放て!!」

 

「ほう!!避けぬか!!」

 

「ぼぁまぁぁぁ…!!」

 

 バンバドロが上を取り、急降下。それを地上のボーマンダが迎え撃つ…。

 一見あべこべとも言える構図だが、そこには白熱した読み合いが確かにあった。

 ハプウほどの相手が逃げの選択を考慮していないはずがない、むしろ、逃げを選ばせる為の圧力をかける目的で意表を突いて機先を取りに来た。それをジェニーは読み取ったのだ。

 これも、何故読み取れたかと言えば『体が覚えていた』からとしか言いようがないが。

 

「エネルギー充填120%!対ショック、対閃光防御!」

 

 ボーマンダは4足をしっかりと大地につけ、腰を下ろしてバンバドロに狙いを定めて大きく口を開ける。

 

「最終セーフティ…解除!」

 

 

 

「シゲル…!」

 

「あぁ。ボーマンダの口部に体内のドラゴンエネルギーを収束させている。進化で手にした大きな翼を、姿勢制御の為に展開させながら。」

 

「あんな戦い方、俺たちは見てないぜ。」

 

「Jとしては、当時の僕たち相手にわざわざ使うまでもなかった…というよりは、単に使いどころの問題な方が大きいのかな。」

 

 ともあれ、ポケモンのタイプエネルギー理論に精通した大技の応用的な運用は、トレーナーとしてのスキルの高さとして認めざるを得ないのが2人にしても共通である。

 

 

 

「いっけー!ジェニーさーん!」

 

「「姐さん、やっちまってくだせ〜!」」

 

 

 

「"はどう砲"、発射!!」

 

「ぼまぁぁぁぁぁ!!」

 

シュバァァァァァァァ!!

 

 群青と赤黒が混ざり合ったドラゴンエネルギーの奔流がボーマンダの口から放たれた。

 通常の技の範疇を大きく超えた1発が、バンバドロに突き刺さる。

 

「ぶるるるる…!!」

 

「むむむむむ…!!」

 

 迎え撃たれた1発、もとより空中、まして素早さに難アリなバンバドロに避ける術はない。ある程度の迎撃は想定していたが…。

 

「ばふぅ!!」

 

ズッシィン!!

 

 流石に想定外の威力であった。

 ボーマンダのより高められたりゅうのはどうを前に、バンバドロが弾き飛ばされ、横っ腹から落下したのだ。

 

 

 

「やったぁ!!」

 

「「姐さんの勝ちだ〜!」」

 

 アイナ食堂組がジェニーの勝利を確信してはしゃいでいる。

 落着して舞い上がった土煙の向こうには…。

 

 

 

「実に良き攻め手であった。」

 

 問題なく起き上がっているバンバドロの姿。ダメージは受けた。しかし、戦闘不能とまではいかなかった。

 

「届かなかったか。」

 

 ただ単にレベルの差からくる豊富な体力によるスペックの違いで受け切られた。それは、全くダメージがないという以上に絶望的な現実を突き付ける。

 一方のボーマンダは、全身から湯気を噴き出して静止している。動くに動けなかった。

 

 

 

「あの技、反動があるみたい。」

 

「見るからに大技だしな。」

 

 スイレンとカキが口々に話す。この時点で決着は見えた。

 しかし、ハプウ側の動きがない。

 

「考えてるな、ハプウ。」

 

 無論、トドメを刺す手筈を…ではない。

 

 

 

「ふうむ…"合宿"で叩けば伸びる、か?」

 

 サトシとシゲルの推察通りにハプウは思案し、その腹は決まる。そしてベンチを向く。これには、Jを疑う2人も頷くより他になかった。

 実際に実力を肌で感じた当人が出す裁定こそが、最も優先されるべきファクターであるからだ。

 

「そなた、これより先チームに帯同できるであろうのう?」

 

「えっ。」

 

 その問いの意図するところが分からないジェニーではない。ただ、そうなると自分は店を空けねばならなくなる…ジェニーも観客席をチラッと見れば、マオもまたその視線の意図するところを察し、満面の笑みを浮かべながら大きく両手で丸を作った。

 

「うむ!決まりじゃな。」

 

 そのやり取りを見るハプウはにぱぁと笑い、高らかに宣言した。

 

「我らがアローラ代表チーム<マナーロ>…7人目のメンバーとしてこのジェニー女史を加えることとする!!よろしいか各々方!!」

 

 事前に視線でやり取りしていたのだ、良いも何もないことである。

 

 

 

パチパチパチパチパチパチ…!

 

 事情を知らないサトシとシゲル以外が拍手しながらベンチを出てジェニーを迎えに行く。

 

「まぁ、何かあればすぐに対処。今は静観…を続行しかないよね。」

 

「だな。」

 

「ぴぃー…。」

 

 警戒は大事だがそればかりでも仕方がない。彼女が選ばれた以上は同じチームメイトとして迎えるのみ。

 互いに頷き合い、皆に少し遅れてサトシとシゲルもベンチを出た。こうして、また1人新しい仲間が加わった。

 

 

 

 アイナ食堂のジェニーが仲間に加わった!

 

 アローラ代表チーム<マナーロ>…残りメンバー枠、あと1人。

 




 『ヒロキ』
 13歳。ポケモントレーナー。
 サトシたちと同年代のポケモンスクール生で第1回アローラリーグにも参加経験アリ。最近はどうやらコメディの世界に興味津々な様子。
 相棒はドロバンコ時代から手塩にかけて育てているバンバドロだ。
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