3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 選考会終わりにアイナ食堂に集まったサトシたちは、全国各地の代表チームの近況を頭に入れながらも英気を養う。
 その翌朝、凶報はなんの前触れもなく飛び込んできた…。


PNTT Fighting! 渡されたバトン、そして合宿へ…

 時は遡る。

 早朝、家に帰り着いて夢の中であろうサトシの寝起きを襲いピカチュウゲットを果たすべく、ククイ博士の家の扉の鍵をピッキングで開錠したロケット団。

 そこまではよかった。が…。

 

「ククイくんッ!?」

 

「やば…!」

 

「退散するんだニャ!」

 

 ピッキング成功と同時に家の電気がつく。家の中からバーネット博士の血相を変えた声がしては、慌ててロケット団は玄関先から飛び退き、スタコラサッサと脱兎の如く走って逃げた。

 バレた!?そう思い、様子を伺っていた物陰から改めて事態を把握しにかかれば、ほどなくして警光灯を赤々とさせながらサイレンを鳴らした救急車が到着。

 ククイ博士が担架に乗せられ、そのまま運ばれていった。おそらくはメレメレ島の病院まで向かうのだろう。

 

「あたしたちのことは、バレてないみたいだわね。」

 

「大丈夫かなぁ?あの博士…。」

 

「まぁ流石に死ぬことはないはずニャ。」

 

 島の有名人であるククイ博士が救急車で搬送されたとなれば人だかりが出来てしまっており、とてもではないが悪事を働ける状態ではない。

 

「くぅ〜。」

 

 今回は諦めて日を改めよう…そう意見を揃えるロケット団は、次の瞬間には背後にぬらりと現れたピンクの頭に黒い体のごうわんポケモンキテルグマの両脇に抱えられ、猛スピードでその場を離れさせられていた。

 

「わわわ!お、お前!」

 

「くぅ〜!」

 

ダダダダダ…!

 

 このキテルグマ、何故かロケット団に対して執着しており、幾度となく自分の巣へと連れ帰っている。

 連れて行かれる彼らは、こう言葉を紡ぐより他なかった。

 

「「「なにこの感じ〜…?」」」

 

 

 

「博士!!」

 

 サトシたちがなだれ込むように慌てて病室へ入れば患者衣姿のククイ博士がベッドで上体を起こした形で出迎えた。

 傍らには妻のバーネット博士と2人の息子のレイもいる。

 

「大丈夫なんですか?虫垂炎からの腹膜炎だって聞きましたが…。」

 

「この通り命に別状なし、さ。ただ3、4週間は入院…と来たもんだ。」

 

「リーグの仕事にバトルロイヤルの興行…加えてポケモン博士としての研究まで、無理に無理を重ねてきたツケね。」

 

 バーネット博士の言葉がククイ博士の胸にチクチクと刺さる。

 夫が好きでやってることに口出しする野暮な妻であるつもりはないが、それはあくまで無理のない範囲で、の話だ。こうやって倒れてしまったならば、これまでの働きは結局のところ夫の体の健康面において、その許容量をオーバーしていたのだ。

 で、あるならば妻としてはこれを嗜めなければならない。嗜めながらも支えていく覚悟と慈愛でもって、あえて苦言していた。

 

「3、4週間って、じゃあ…監督業は…?」

 

「少なくとも俺は…無理だな。」

 

 ククイ博士の搾り出してようやくの声に沈痛な空気が広がる。PNTTへ向け、やっと揃ったアローラ代表の8人。それをまとめ上げる監督が、事実上のリタイアを余儀なくされたのだ。

 

「ならば代わりを立てるしかない訳だが、他のしまキング、しまクイーンは無理なのか?」

 

「じーちゃんは多分無理だと思うよ。今はアローラ相撲の巡業で1番忙しい時期だからさ。」

 

 沈黙を破るジェニーの真っ当な話にハウが返す。彼の祖父でありメレメレ島のしまキングのハラはいの1番に候補から外れた。

 

「ライチさんは婚活100連敗目でメンタル絶不調。家から出られないくらい塞ぎ込んでるんだって。」

 

「なんと!おいたわしやライチさん…。」

 

 バーネット博士の口からはアーカラ島のしまクイーンライチの悲惨な現状が語られ、知己であるタケシも口惜しさに涙する。

 

「クチナシさんは駄目なんですか?」

 

「相も変わらずナッシーのツブテさ。やっぱりあの人は、カプが絡まない限りしまキングとしては動いちゃくれない。」

 

 カキにククイ博士は首を横に振る。

 ウラウラ島のしまキングクチナシは、その掴みどころのない人となりながら、アローラ地方の守り神として扱われる『カプ』に対しての信仰は相応に持ち合わせているのか、基本的に人の指示に従う意思が欠落していると言って良かった。

 もっとも、面倒を見ている少女アセロラには頭が上がらないところもあるのだが…。

 そのアセロラも、図書館から離れることは出来ないと来た。

 

「じゃあどうするんですの?」

 

 セイヨが問うのは当然の反応だ。大会の規定上、試合のオーダーを提出する名義として監督の存在も不可欠なのだから。

 

「大丈夫だ。代わりはもう考えてある。」

 

 ククイ博士の真剣な眼差しの先にいるのは…ナンテ。

 ナンテは、肩をピクリと震わせた。

 

「ナンテくん。」

 

「は、はい。」

 

 ナンテの目が泳いでいる。明らかに動揺を隠せていない。ここからの展開を半ば読んでのことだ。

 

「聞いての通りだ。我らがアローラ代表チーム<マナーロ>には、俺が穴を空けちまったらそこを埋められる監督足り得る人材が他にはいない。幸い、監督やバックアップに関しては選手と違って地元での活動歴は条件には入ってないが…。」

 

「まさか、自分に監督をやってくれ…だなんて言いませんよね?」

 

「チームマネージャーとしてこの1週間で、タケシとデントを招聘してくれた手腕からじゅうぶんその資格はあると俺は踏んでるんだぜ?」

 

 後方スタッフを固める采配をした張本人がナンテであることがチーム全員にサラリと公表される。それは無論、ククイ博士が後任としてナンテを推すための一手に他ならない。

 

「それはあくまで監督…博士の名前があったから出来たことであって、アローラに土着してるでもない自分が代表監督というのは…。」

 

「それを言ってしまうなら、チームメンバーの半分以上は参加条件をクリアしてるというだけで、別にアローラ地方に根ざしてるわけではないですよ?」

 

 必死に語るところにシゲルが指摘すれば、ナンテはん゛ッ、と言葉を詰まらせる。

 チャンピオンであるサトシを始め、シゲルやセイヨら3人はカントー出身。ハウはアローラ外での生活が長く、ジェニーに至っては正確な出身地方すら不明で、事情を知る者たちからすればいつ爆発するかも分からない不発弾でもある。

 純粋なアローラ生まれアローラ育ちなどは、しまクイーンのハプウとカキ、スイレンくらいのものである。そんな中ではこの際、生まれの問題などは瑣末な話でしかないのだ。

 

「俺、パルデアにいた時にナンテさんと会ったけど、凄くテキパキいろんな話をまとめてて、グラジオもすげぇ助かったーって言ってましたよ。」

 

 サトシの言という追い討ち、それがほぼ決まり手であった。チャンピオン直々に推されたものになお固辞を貫けば、それはチャンピオン側の面目を潰すことになる。

 

「ナンテさんなら絶対いい監督になれますよ!」

 

 それは、いちポケモントレーナーとしてリーグの頂点たるチャンピオンに敬意を抱くナンテには、殺し文句と言えた。

 

「ふぅー…。」

 

 大きく息を吐きながらナンテは天井を見上げる。

 それを、観念した仕草として皆受け取った。

 

「1つだけ、条件があります。」

 

 右手の人差し指を立てながら、ナンテは天井から皆の顔を見回す。

 

「自分はあくまで"監督代行"…代行者という立場としてで宜しければ。」

 

 それは、些細な話ながらもナンテ側にとっては譲れない一線であった。

 アローラ代表は、ククイ博士が0から作り上げたもの。自分などは、途中から呼ばれて人事を尽くしたに過ぎない。そこでいくらアクシデントとはいえ、立場をそのまま継承するというのはどうしても受け入れ難い話であった。

 

「俺は大丈夫です!みんなは?」

 

 チームリーダーであるサトシが快諾するならば、チーム全員から否など出ようはずがない。

 しっかりと頷く面々を認めれば、サトシはナンテに右手を差し出した。

 

「これからよろしくお願いします!ナンテ監督!」

 

「"監督代行"…でお願いします。」

 

 ナンテがゆっくりと握手に応える。

 がっちり結ばれた、新たなる絆…アローラ代表チーム<マナーロ>は、ここから本当の船出を迎えたのだ。

 

 

 

「よく来たのそなたら!ククイ博士の話は聞いておる。博士の分も励まねばならんのう。」

 

「ハプウちゃん。」

 

 ククイ博士の見舞いを終えたチーム<マナーロ>メンバーたちは、そのままライドポケモンの力を借りてポニ島中央部の峡谷地帯へ移動していた。

 出迎えのハプウとスイレンが鷹揚に手を挙げ合う。

 

「着いたぜ、久々のポニの大峡谷!!」

 

「ぴっかぁ!」

 

 アローラ地方南西部に位置し、ハプウのお膝元でもあるポニ島は他の島より緑が少なく、人口密度も低い。住民の殆どが村の一ヶ所に集中し、ポケモンを象った船を住居として生活している。

 全国的に文明の発展度があまり高くないアローラ地方の中でもとびきり辺境の地であるが、地方の根幹たる風習として扱われる『島巡り』発祥の聖地でもあり、その渓谷や平原には強力な野生ポケモンが数多く生息しており、多くのトレーナーが修行の場として選ぶに最適であった。

 

「あそこの洞穴は使えそうだな。」

 

「野生のポケモンが巣にしてるんじゃあないかな?」

 

「問題ないぞ。昨日のうちに妾が根回しは済ませてある。」

 

 ライド用のガブリアスから降りたサトシとピカチュウが体を伸ばしてる後ろでは、タケシとデントが野営地の候補を見繕っているのにハプウが追認を出す。選考会の後、決起集会をパスして帰宅し、チーム合宿のため周辺の環境整備に奔走していたのだ。

 

「はい皆さん!今日から3週間、我々チーム<マナーロ>はアローラ代表としての結束と、個々の技術を高めるための合宿となります!」

 

 監督業をククイ博士から正式に引き継いだナンテが号令をかければ、チームメンバーはすぐに集合する。

 

「トレーニングメニューは個人で組むも良し、相談しに来てくださるならば我々バックアップメンバーも喜んで協力します。今回の大会参加で、チームとして目指すのはもちろん優勝ですが、それ以上に皆さん方それぞれの夢や目標にとっても大きな財産としていけるようにしたい、と考えてます。皆さん方のそれぞれのトレーナー適性にこちらも最大限配慮し、良いところをより良く、悪いところは目立たなくしていけたら…というのが理想ですな。」

 

「らぁいちゅ!」

 

 監督としての訓示、言葉を紡ぐ中で段々と気恥ずかしさを覚え始めるナンテのホルダーにあるボールから勝手に出てきたライチュウが、笑顔でコッペパンみたいな右手を振り上げて見せる。

 『みんな頑張ろう!』そんなようなエールを飛ばすお調子の良さが、主人の羞恥心を宥めた。

 

「チャンピオン、最後に一言。」

 

 ナンテに促され、サトシが皆の前に出る。その肩にはやはり、相棒のピカチュウ。

 

「んーと。俺は、難しいことはよく分かんないけど…とにかく、ダンデさんたち全国のすっげぇ人たちとたくさんバトルして、絶対勝ちたい!だからみんなで力を合わせて、優勝…ゲットだぜ!!」

 

「ぴっぴかちゅう!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 不器用ながらチームリーダーとして所信表明して見せたサトシに、ハプウやカキ、スイレンにハウが声を上げて頷く。シゲルやセイヨ、ジェニーらは声こそ出さなかったが爽やかな笑みを向けつつ頷くのには倣っていた。

 こうして、PNTT優勝を目指すアローラ代表チーム<マナーロ>の3週間の合宿が始まるのであった。

 




 『バーネット博士』
 32歳。ポケモン研究者。
 3年前にククイ博士と結婚し、現在は夫婦の間に生まれた息子のレイを育てながら家を守る良妻賢母。
 エーテルパラダイスにも出入りしており、代表のルザミーネとは親友の間柄だ。
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