3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ポニ島を舞台に各々トレーニングに励むチーム<マナーロ>のメンバーたち。
 そんな中、慣れない瞑想でサトシが見たのは巨大な蛇のようなポケモン…ジガルデのイメージであった。


PNTT Fighting! エンドケイブの呼び声

 瞑想で見えた景色、その網膜に浮かぶ記憶を頼りにサトシがポニの花園を駆け下り、入った洞窟は、島の住民たちが『エンドケイブ』と呼ぶ秘境であった。

 足を踏み入れてすぐにはゴツゴツとした岩場が広がり、とても人が通るには向かない難所にも、サトシの判断は速い。

 

「ドンファン、キミに決めた!」

 

「ぱおおおん!!」

 

 ボールから繰り出したよろいポケモンドンファン。その背に乗り、岩場を通過してゆく。

 本来ならば体を丸め、タイヤそっくりな形態となって爆走するのが得意なドンファンも、主人に背に乗られては上機嫌ながら細心の注意を払い道を進んでいった。

 

「ぴかぴ!ぴか!」

 

「あれは…!」

 

 ドンファンの力を借り、岩場を抜けた先にお座りの姿勢をしていた黒と緑の、サトシが瞑想で見た巨影に通じるツートンカラーな、一見ヘルガーにも思える犬型のポケモンがゆらりと立ち上がり、出迎えた。

 

『マサラタウンのサトシ、よくぞ来た。よくぞ、我らが気配を察知した。』

 

 犬型ポケモンは特に口を開いていない。だが頭に響く声は、間違いなく目の前の相手からのテレパシーであるとサトシは確信する。

 ビギナーながら波導使いとしての探知能力に自身の思念を引っ掛けてのコミュニケーションだ。

 

「プニちゃん、なのか?」

 

 『プニちゃん』…3年前、カロス時代に当時7歳だったユリーカがお世話をしていたちつじょポケモンジガルデ…その肉体を構成する2つのコア、その片割れを彼女はそう呼んでいた。

 目の前にいる犬型ポケモンは、ジガルデ・コアが統率するジガルデ・セルの全体の10%を結合させた文字通りの10%フォルム…これでも間違いなくジガルデと言える伝説のポケモンなのだ。

 

『話は奥でする。ついてくるがよい。』

 

 10%フォルムが走り出した先に、ドンファンをボールへ戻したサトシも続く。

 エンドケイブの最深部、その奥まで辿り着けば、10%フォルムの犬型ボディに大量の濃緑の影が群がれば、たちまち巨大な威容で持ってサトシとピカチュウを見下ろした。

 5mの大蛇を思わせるジガルデ…その50%のセルを有したフォルムだ。その威容から発する気配に、サトシは1つの解へ辿り着く。

 

「プニちゃん、じゃない方かな?」

 

『いかにも。そう呼ばれる記憶を持つ片割れは、今もそなたたちがカロスと呼ぶ地の奥深くにおる。』

 

 サトシの知るジガルデというポケモンは、大量のセルを2つのコアが統率してその肉体を形成する習性を持っている。

 無論、サトシ自身が解釈した訳ではなく、本人の理解が及ぶ範囲でオーキド博士やケンジが噛み砕いて説明したものではあるが。

 その2つあるコアのうち、今サトシとジガルデとして相対しているのは、プニちゃんと呼ばれた側と対を成す別のコアなのだ。

 

「ぴかぴかぁ、ぴかっちゅ?」

 

『息災である。』

 

 プニちゃん元気してる?という旨の話を切り出し、ジガルデの簡潔な返答にピカチュウは安堵する。

 彼にとってもプニちゃんは旅の仲間なのだ。

 

「それで…俺を、呼んだんだよね?」

 

『うむ。そなたの気配が澄んでゆくのを感知し、我が思念を送り込めば来てくれるであろうと考えた次第。』

 

 生態系の「秩序」を司り、カロス地方に伝わる伝説のポケモンせいめいポケモンゼルネアスや、はかいポケモンイベルタルと並ぶ存在たるジガルデがわざわざ呼び付ける、ということはそれなりの事態…すわ一大事かとサトシとピカチュウが神妙な面持ちになる。

 それを見下ろすジガルデの目が一瞬細まったように見えた。

 

『案ずるな。そなたたちの意図する、3年前のような危機がある訳ではない。』

 

「えっ、そうなの?」

 

 3年前、悪の組織フレア団による全国規模の大破壊が行われようとしていた折、サトシと仲間たち、チャンピオンカルネやアランに加えカロス中のジムリーダー…更にはホウエン地方より来援したチャンピオンダイゴの尽力によって絶大なエネルギーを持つ謎の巨石を利用したフレア団のボスフラダリの凶行は食い止められ、彼の暴走は2つのコアが揃ったパーフェクトジガルデの一撃により終幕を迎えた。

 その爪跡が1年足らずで綺麗さっぱり消え去っているのは、カロス地方の復興力の高さと言えよう。

 

『此度呼び出したは、片割れよりそなたからの預かり者を帰すよう頼まれたのよ。』

 

「あずかりもの?」

 

「ぴかぴ!」

 

 ピカチュウが、洞窟の天井を指差したかと思えば、蒼き影はジガルデの面前へと降り立つ。

 それを認めたサトシの目は見開かれ、一気に潤んだ。

 

 

 

 合宿全体の流れとしては、自主トレ以外でメンバーが顔を合わせるのは朝昼晩の食事時くらいのものである。

 これは自称監督代行のナンテがそれぞれの個人主義に配慮したのも一因であった。

 代表チームと言えど、トレーナー1人1人がゲットしたポケモンたちを統括する存在だ。

 それを彼自身、フロンティアブレーン内定者という観点からも無理に縛り付けることを嫌ったのである。

 

「おっ、やっと帰ってきたか。」

 

 普段着の上に三角巾とマスクを着け、純白のエプロン姿なタケシが大きな鍋をぐるぐるとそれに見合ったお玉でかき回している。

 香ばしさの中に、ほんのりとミルクの甘みが紛れ込み、嗅ぐ者の鼻腔をくすぐった。

 

「タケシのシチューだ!」

 

「ぴかぴかちゅう!」

 

「チャンピオンたってのリクエストとあらば、出さない訳にもいかないからな。」

 

 3年前によく見たものと変わらない光景ながら、味は進化しているのだろう。

 昼食もすっ飛ばしてエンドケイブまで走って行き、夕暮れ時に帰って来たサトシにとってはまさに最高のご馳走であった。

 

「っと、その前に…。」

 

 タケシのシチューに目を輝かせてから、サトシは視線を移す。

 チームメンバーは皆海の民の村に停泊しているエーテル財団より提供された船舶に既に揃っていた。

 本来ならばそこでフードアドバイザーとしてチームに帯同するデント監修の下でビュッフェ方式の食事が用意されているのだが、本日の夕食はそれに加えてタケシも腕を振るった形なのだ。

 昼食をすっ飛ばして姿を見せないサトシを呼び戻す意図も込めて、タケシはあえて野外でシチュー作りをしていたのもある…。

 

「誰か、ちょっとバトルしてくれないか?」

 

「ぴぃかぴか!」

 

「バトルだって?」

 

 噂のタケシのシチュー待ちなチームメンバーは、サトシからの申し出に目を丸くする。

 昼食抜きの彼が食事を前にポケモンバトルを所望するというのはそれだけ大事な工程なのだろう。ただ、皆一様に1日のトレーニング後であり、改めて体を動かすにしても食事を済ませてからにしたいというのが本音だった。

 

「なら僕がお相手するよ。」

 

 それぞれ渋る中、立候補したのはデントであった。船舶から身軽に飛び降り、サトシの側へ着地する。

 

「いいのデント?」

 

「もちろんさ。今のきみがどういうマリアージュを見せるのか、それを直にテイスティングしたいっていうのも、僕がチームに参加することにした理由だからね。」

 

 思わぬところから名乗り出てくれたデントとサトシはそれぞれ距離を取る。バトルに移るためだ。

 

「おーい2人とも、やるならもうちょっと離れてくれよ。せっかく作ったシチューが駄目になっちゃうかもしれないからな。」

 

「「はーい。」」

 

 タケシにサトシとデントは返事をすれば、シチューの安全の為に距離をとってゆく。

 

「なんだなんだ?喧嘩か?」

 

「ポケモンバトルすんのか。」

 

 それぞれ船舶で寝泊まりする村民たちも、バトルの前の雰囲気を察知して顔を出す。物珍しい空気に興味津々だ。

 

「よし!ならばこの試合、しまクイーンたる妾がしかと見届けようぞ!」

 

 両者の中央に立ち、審判役を買って出るのはハプウだ。

 

「頼むぜハプウ!」

 

「うむ!ルールは如何する?」

 

「腹減ってるし、軽く1vs1で!いいかデント?」

 

「もちろん!」

 

「ならばよし!双方ポケモンを出し次第開戦じゃあ〜!!」

 

 サトシとデントは、互いにボールを手に取る。

 

「いくよッ!マイヴィンテージ…ヤナップ!」

 

「やなっぷぅ〜!!」

 

 デントが繰り出したのはくさざるポケモンのヤナップ。彼の最も信頼するパートナーだ。

 

「嬉しいぜデント。お前のヤナップなら、存分にこいつとの感覚を確かめられる!」

 

 デントが最大戦力たる相棒のヤナップを繰り出して来てくれたことにサトシは喜び、ボールを握る手に力が入る。

 そうして思いっきり振りかぶり…

 

「キミに決めたーッ!!」

 

 ボールを投げ込めば、繰り出されたポケモンが姿を現す。

 

「「な、なにーッ!?」」

 

 カキとスイレンは驚愕し…

 

「あのポケモンは!?」

 

 まさかの姿にシゲルは目を見開き…

 

「サトシ!?」

 

 タケシも手に持つお玉を危うく鍋の中に沈めそうになる。

 元々サトシの仲間ではないハウやハプウにセイヨ、ジェニーは驚く面々のその理由がイマイチよく分かっておらず、首を傾げていた。

 

「おや。」

 

 ザワつく皆に何事かと視線をやれば、ナンテは眼鏡のズレをクイ、と直してタブレットロトムを膝の上に置いた。

 

「帰って、来てたんだね…。」

 

 対面するデントは額に流れた汗を拭い、口角を吊り上げる。

 思いがけない最高のテイスティング相手の登場と言えた。

 

「あぁ。ついさっきな。俺の…。」

 

「げこッ。」

 

「俺のゲッコウガ!!」

 

 

 

 時は少し遡る。

 ジガルデのあずかりものとは、まさしくかつてサトシと別れてカロス地方に残り、各地に巣食う『負のエネルギー』の駆除に邁進していたゲッコウガであった。

 

「ゲッコウガ…!お前…!」

 

「げこ…!」

 

『カロスの片割れより…"プニちゃん"より言伝がある。』

 

 サトシたちは、改めてジガルデの顔を見上げる。

 

『「"人とポケモンの共存"、その可能性を信じさせてくれたマサラタウンのサトシ、そなたより預かりし力をここに返却する。最早負のエネルギーの除去は我が独力にて容易い。ゲッコウガには、本来の主人のもとであるべき道を歩んでもらいたい。」』

 

「プニちゃん…。」

 

「ぴかぴかぁ。」

 

『「秩序の使命果たしたのち、余は彼の者を待つこととする。余に名を与えてくれた、無垢なるあの少女の来訪を。それが成ってから、再び相見えようぞ。」…以上だ。』

 

 使命を果たし、帰って来たゲッコウガとサトシは抱擁する、別れた日と同じように。

 全身で感じる温もりは、まさしくあの日感じたものと同じであった。

 

ゴゴゴゴゴ…!

 

 ジガルデの巨体が地中へ埋まってゆく。サトシへの用が済んだ以上、姿を晒し続ける理由もないのだ。

 

『我もまた、プニちゃんに倣うこととなるだろう。マサラタウンのサトシ…再び相見える時は…。』

 

「あぁ。思いっきりバトルしようぜ。」

 

「げこ。」

 

 サトシは力強くジガルデに頷き、ゲッコウガは深々と頭を下げた。

 カロスからアローラまで、迷いなく辿り着けたのはエンドケイブからジガルデがエネルギーを放ち続けていてくれたからに他ならないのだ。

 両者の再会を、取り持ってくれたことへの礼であった。

 

「ぴかぁ…。」

 

 やがてジガルデは、完全に地中深くへと姿を消した。その痕跡すら微塵も残すことはない。

 

「また、俺たちと一緒に来てくれるんだよな?」

 

 サトシの問いに、ゲッコウガは無言で頷いた。その精悍な瞳が、ただ一点主人をのみ捉えている。

 

「じゃあ…戻れ、ゲッコウガ!」

 

 ずっと空になっていたボールを取り出して、サトシはゲッコウガを回収する。

 カロス時代のエースポケモンが、今ここに帰還したのだ。

 

 

 




 『タケシのシチュー』
 彼と一緒に旅をした仲間たちからしたらおなじみの一品。
 本人曰く食材の栄養分を無駄なく摂取出来てなおかつ雑に作れるから楽、とのこと。
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