3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 突然現れたロケット団と対峙するも、皆のポケモンたちは試合を終えたばかり。
 そんな中、唯一試合をしていないサトシのコノヨザルが立ち上がった。
 戦えコノヨザル、仲間のために。


PWCS開幕戦 打ち上げ おいしんボブ⑤

 体毛をたなびなせて、コノヨザルは駆ける。

 勇ましい駆け足とともに、その拳を握り込んだ。

 

「シャドーパンチだ!」

 

「むきゃあ!!」

 

 

 

『迎え撃て、れいとうビーム。』

 

 

ズバビビビ!

 

 機先を制するためのナックル・アロー。

 アノキ仕込みのその左の速さに、ニドクインは動じていない。

 コノヨザルが真っ直ぐ飛び込んでくる軌道に合わせて口を開けば、凄まじい冷気のエネルギーを撃ち放つ。

 

「れいとうビームか!!」

 

「あのニドクイン、場慣れしている…!」

 

 ダンデの予測通り、ニドクインの口から放たれる凍結光線が、コノヨザルの左拳を捉え迎え撃つのをアランは苦々しく見つめる。

 が、コノヨザルも、動じてはいない。

 

「そのままいっけー!!」

 

「むきゃあッ!!」

 

「くぃやッ!?」

 

 ボコォ!!

 

 サトシの檄に、コノヨザルは、凍結させられた左拳をそのままニドクインの右頬にぶち込む。

 想定外に殴りつけられては目を見開き、よろけて右足をたまらず浮かせるも、踏みとどまるニドクインの右手は、コノヨザルの左腕を掴んで逃げを遮った。

 返しの左を見舞うのだ。

 

 

 

『かみなりパンチ。』

 

 

 

「くぃああ!!」

 

バチギィ!

 

「むきぃ!!」

 

「かみなりパンチ…!ニドキングやニドクインは覚えられる技の範囲が広いとは聞いているが…!」

 

「P-1チャンピオン相手に一歩も譲らないとは恐れ入るね。」

 

 リザードンに、同様の技を習得させているアランが今度はいち早く気付く。プラターヌ博士も嘆息だ。

 

「うおー!流石は最高レア確定のチケットガチャ!出て来るポケモンも凄いぞ!やれやれー!!」

 

「うーむ、なんだかニャー。」

 

 コジロウがはしゃぐ中で首を傾げているニャース。

 

「どったのニャース?」

 

「あのニドクイン、どこかで見覚えがあるんだけどどこだったかニャー。」

 

 ニャースの疑問への解を、ムサシは持ち合わせていなかった。

 

「コノヨザル、メガトンキックだ!!」

 

「むっっ、きゃあ!!」

 

 かみなりパンチで迎え撃たれたコノヨザルは、その場で踏み止まって着地、床を踏み抜く力を利用しての左脚を振り抜く…。

 これまたアノキ直伝の延髄斬りが、ニドクインの太い右首に直撃、大きく後ずらせる。

 

「くぃぃッ!!」

 

「決めるぞコノヨザル!ふんどのこぶし!!」

 

 蹴り抜いてからコノヨザルは再度着地、そのまま必殺の右拳が握り込まれては、憤怒のエネルギーが瞬く間に宿った。

 黒色のオーラを纏わせた右を携え、コノヨザルは再び真っ直ぐ跳躍し、ニドクインへ飛びかかる。

 

「むきゃあああああ!!」

 

「くぃあああああ!!」

 

 延髄斬りを受けながらもこのニドクイン、抜け目がない。

 距離を詰めて来るであろうコノヨザルの挙動を読み切り、その上で反撃する腹づもりだ。

 その証拠に全身を屈ませ拳を握り力を溜めている。それをアイリスが察知した。

 

「サトシ突っ込ませすぎよ!また迎え撃たれる!!」

 

「いっけえええええ!!」

 

 アイリスの忠告は、サトシに届いていない。

 コノヨザルと一緒に戦う一体感を前に、完全にエキサイトしていた。

 

 

 

『ニドクイン、直接だいちのちからを撃ち放て。』

 

 

 

「くぅぅぅ!いいいいいん!!」

 

 ニドクインの全身が、溜め込んだ茶褐色のじめんエネルギーに包まれる。

 

ドバオオッ!

 

 ニドクインがコノヨザルに向けて両手を伸ばし向ければ、それは勢いよく撃ち出された。

 

「だいちのちからか!それも地面を経由していない、じめんタイプのエネルギーを全身から直接発射するより強力なやつだ!!」

 

 撃ち出された地面エネルギーの奔流に、ダンデが舌を巻く。

 ポケモンの技とは、つまるところタイプエネルギーの運用である。

 取り扱うエネルギーを直接放つか、別の場所を経由するかでその威力はまるで変わってくるのだ。

 だいちのちからが命中し、コノヨザルの突進の勢いが弱まる。流石に押し出され始めるのを見て、ニドクインは勝ちを確信した。

 

「負けるなコノヨザル!俺はもう逃げない!どんなことからも!!俺の知らないお前の擦り傷も、切り傷も!俺の自慢なんだ!!」

 

「むきゃ…!!」

 

「俺たちは!どこまでも、ずっと一緒だ!!」

 

 それは、コノヨザルが求め焦がれた、言葉。

 もとより後退のネジなどない。全幅の信頼を置くトレーナーの下、アクセル全開しかなかった。

 

「むっ!きゃあああああ!!」

 

「くぃあァッ!?」

 

 じめんエネルギーが咆哮とともにかき消される。

 ニドクインが全開で放っただいちのちからは、確かにコノヨザルに大きなダメージを与えた。だが、それだけであった。

 それはむしろ、右拳に溜め込まれる憤怒のエネルギーがより増すことに繋がった。

 

ドボォ!!

 

 懐に飛び込むコノヨザルは、その右拳でニドクインの腹部を撃ち抜く。

 拳が深く、深く突き刺さった。

 

 

 

『ニドクイン…!』

 

 

 

「くぁぁぁ…!!あ…!がッ…!!」

 

 口が開かれ、舌が突き出る。

 致命の一撃に苦悶し、意識を手放したニドクインの巨躯を、コノヨザルはそのまま右拳を振り抜いて吹き飛ばす。

 

「嘘だろ!?確定ガチャなんだぞ!?」

 

「こっち吹っ飛んでくるんだけどー!?」

 

「ぴぃか!!」

 

「あー!ピカチュウが逃げたニャ!!」

 

 コノヨザルのファイトを見届けてから、ロープの拘束を自身の筋力のみであっさり引き引きちぎったピカチュウは、慌てふためいているロケット団の元からそそくさ離れ、サトシの腕の中へ戻ってゆく。

 そこに殴り飛ばされるニドクインが背中から突っ込んでいけば、みんなまとめて天井から屋根まで空いた穴から空高く吹っ飛んでいく。

 

「あーんなによもう!まーた何回もガチャ回さなきゃいけないわけー?」

 

「大丈夫!創設記念や年末年始キャンペーンでも配布されてるやつがあるから、確定チケットはまだまだ使えるぞー!」

 

「やっぱりこのニドクインどこかで見たことあるんだよニャー。でもまーとりあえず皆さんご一緒に〜?」

 

「せーの!」

 

「「「やな感じーーー!!!」」」

 

「そーーーなんっすっ!!」

 

 キラリ。

 遥か彼方へロケット団は消えていく。一緒に吹っ飛ぶニドクインの耳から、なにか小さな物体がこぼれ落ちていった。

 

「ぴぃか。」

 

「むきゃ。」

 

「大丈夫かピカチュウ?コノヨザル、サンキューな。助かったぜ。」

 

 その気になればいつでも逃げ出せたピカチュウは、あえて捕まったままでいて、コノヨザルに花を持たせることにしていた。

 サムズアップし合いながら、お互い声を掛け合うピカチュウとコノヨザル。

 そのやり取りに、そんな意図を見たサトシは嬉しかった。

 自分だけではない。ピカチュウも離れていた仲間を受け入れてくれているのだ、と。

 

 

 

 カントー地方タマムシシティに本社ビルを構える巨大企業ロケット・コンツェルンが、世界征服を企む秘密組織ロケット団の表向きの姿であることを知っているのは国際警察か、一部の事情通のみである。

 その本社ビル社長室に併設されているトレーニングルームにて、強面な男が1人、ゴローニャを背に乗せ、両親指のみで腕立て伏せをしている。

 半裸で全身から滝のような汗と熱気を放ちながら、300kgを超えるメガトンポケモンを重りとして鍛錬をするその肉体はまさに鋼の如しである。

 

「失礼します。」

 

 入室するおかっぱ頭でメガネをかけた美女はロケット・コンツェルンもとい、ロケット団の秘書であるマトリだ。

 

「サカキ様、ムサシ、コジロウ、ニャースのチームが確定チケットを使用した上でワールドチャンピオンのピカチュウ捕獲に失敗した模様。全く、情けない話です。」

 

「ならば私もあいつらと同罪だな。もっと根本から徹底的に鍛え直すとするよ。」

 

 報告をしてからふふん、と嘲るように鼻を鳴らしたマトリが怪訝な表情をする。

 そしてすぐにその強面な男…サカキの言葉の意味を理解し、青ざめた。

 

「今しがた送り込んであった私のニドクインにつけてある小型通信機の反応が途絶した。おそらくは壊れて外れてしまったのだろう。」

 

 ロケット・ガチャットから排出されるポケモンは、そもそもからしてサカキが厳選した組織のポケモンだ。

 その最上位として置いてある最高レアのポケモンは、サカキ自身のポケモンであり、しかも小型通信機によりサカキ自ら指示を飛ばしている。

 その上で失敗を笑うというのは、サカキを笑うも同然なのだ。

 

「つ、通信機のラグにより指示の伝達が遅れたのが原因であってサカキ様に落ち度など…!」

 

「ニドクインを速やかに回収し回復してやってくれ。かなり手傷を負っているはずだ。」

 

 サカキはゴローニャに背から降りてもらってタオルを受け取り、汗を拭いながら指示を出す。

 

「らっしゃい、ドーゾゥ。」

 

「すまんな、ゴローニャ。」

 

 シャワー室へ向かうサカキは、マトリの自己擁護と自分へのフォローがないまぜになった、しどろもどろな姿に、特にリアクションはしない。

 サカキに彼女を責める意図は全くないのだが、やらかしてしまった、というマトリの心境がそう受け取れるはずもなかった。

 

「なぁ〜ご。」

 

 青ざめて立ち尽くしているマトリに、ずっとサカキのトレーニングを眺めながらゴロゴロしていたペルシアンが寝転がったまま鳴きかける。

 早く仕事に戻れ、そんな圧を込めた眼光に彼女の足元にいたアローラニャースはビビり散らかすしかなかった。

 

「ワールドチャンピオン…マサラタウンのサトシ、か。いずれ奴も我がロケット団の前に跪かせてみせよう。」

 

 鍛錬で熱った鋼の肉体シャワーを浴びながら、サカキは不敵な笑みを浮かべる。

 その打倒の情熱はロケット団のボスとしてなのか、1人のポケモントレーナーとしてなのか…。

 本人にも曖昧であったが、それを引っくるめて、自分は自分であるとサカキは強く自己認識していた。

 

 

 




 『サカキ』
 48歳。世界征服を企む悪の組織『ロケット団』のボス。
 表向きには世界的大企業『ロケット・コンツェルン』の総帥として知られる。
 激しい戦いに耐えられるよう、鋼の肉体を磨き上げるストイックな精神の持ち主。

今回のお話でこのパートは区切り。次のお話で新しいパートに入ります。
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