3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
ガラル代表であり大会の発起人でもあるダンデも姿を現し、組み合わせ抽選会の開始を宣言した。
「全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆様、本日はここエンジンスタジアムより、PNTT…ポケモンナショナルチームトーナメントに先駆けた組み合わせ抽選会の模様をこのジッキョーがお伝えいたします!ゲストには、ポケモンリーグ大会責任者を務めるタマランゼ会長をお迎えしております。会長、本日はよろしくお願いします。」
「綺羅星の如く集う猛者たちの姿、たまらんのぉ〜。」
派手なパフォーマンスはあくまでスタジアムに詰めかけた報道陣に向けてのアピールであり、組み合わせ抽選会そのものは至ってシンプルな内容であった。
ステージに用意されたテーブルには8つのモンスターボールが置かれており、その中には1番から8番までの番号が書かれたナンバープレートが入っている。
それが、参加する8チームの組み合わせを決めるのだ。
「よーし!それじゃあ早速俺が最初に引いちゃうぜ!!」
「ちょっと待ちなさいよ!ここはポケモンリーグの総本部があるカントーからが筋じゃあないかしら?」
「えー?俺1番がいい!」
「あたしが1番〜!!」
「あーっと、いきなりハプニングかーッ!?アローラ代表チーム<マナーロ>のリーダー、チャンピオンサトシとカントー代表チーム<セキエイ>のカスミ選手がすわ取っ組み合いの様相を呈しています!」
「青春してる青春してる、たまらんのぉ〜。」
額を合わせてサトシとカスミが睨み合う中、2人の頭上を飛び越えてゆく影が1つ。
「まったく、相変わらず子供ねぇ〜。」
「「あっ、アイリス!!」」
トレーナーの最上位にいる同士と考えればひどく馬鹿馬鹿しい順番争いを鼻で笑いながら、アイリスがしれっとステージに立っていた。
頭上を一息に飛び越えられたサトシとカスミからすれば完全にしてやられた形だ。
「それじゃあお先に〜。あたしたちのラッキーナンバーは、っと。」
慌ててステージに上がる2人を尻目にアイリスは手近のモンスターボールを手に取り、開いて中身を確認する。
「おーっと、最初に抽選に入ったのはイッシュ代表チーム<ヒガキ>のリーダー、チャンピオンアイリスだーッ!!」
「4番ね。」
「はい。イッシュ代表チーム<ヒガキ>、4番です。」
組み合わせ抽選会の進行をするクセの強い白髪頭の少年が、サトシたちの喧騒に若干の不愉快さを見せながらコールすれば、スタジアムの電光掲示板に映されたトーナメント表に記された番号に合致した場所へチーム名がインプットされてゆく。
「やれやれ。」
アデクは眉を八の字にしながらなんとも言えない表情だ。なんだかんだでアイリスも1番最初に抽選くじを引きたかったのだ。
まったくもって他人のことを言えないほどに子供じみているやりように、苦笑するより他なかった。
「チャンピオンアイリスに続き、チャンピオンサトシ、カスミ選手がステージに上がり、抽選に挑みます!」
「アイリスのやつ〜。」
引くものを引き終え、煽るようにこちらを見ながら手をヒラヒラさせ、ステージから降りてゆくアイリスにムッとしつつもサトシはボールを手に取る。
「おっ!」
「んっ。」
サトシとカスミがそれぞれ真逆の反応、サトシはぱぁぁと表情を明るくし、カスミはむう、と頬を膨らませる。
2人がナンバープレートを見せれば、進行役の少年は淡々とコールした。
「アローラ代表チーム<マナーロ>は1番。カントー代表チーム<セキエイ>は8番。」
「やったぜ!」
「あっちにしたらよかったー…。」
ただただシンプルに『1番』のくじを引きたかったサトシとカスミである。これは明暗がハッキリ分かれた形だ。
あくまで、くだらない番号争いでしかないのだが…。
「ごめんなさいね、ウチのところのカスミが。」
「いえいえ。こちらこそチームリーダーとはいえ流石に奔放が過ぎると言いますか…。」
「あの坊やはアレくらいでちょうどいいんだよ。なぁ?」
「ぴぃかぁ。」
用意されたパイプ椅子に座るカンナにナンテは平身低頭。
彼女の膝の上にちょこんと収まるサトシのピカチュウは、カンナの隣のキクコに頭を撫でられながら頷いていた。
オオオッ…!
「ん?」
どよめきにサトシは振り向き、ステージを見る。
そこでは、シロナとカルネがにこやかな笑みでボールから取り出したナンバープレートをカメラに見えるように掲げていた。
「シンオウ代表チーム<スズラン>が3番!カロス代表チーム<ミアレ>が7番に入ります!」
「と、言うことは!」
「やったぁ!!」
目を見開くサトシの隣で、カスミが飛び跳ねていた。
「あーっと、ここで対戦カードが2つ決定!シンオウ代表チーム<スズラン>vsイッシュ代表チーム<ヒガキ>!カロス代表チーム<ミアレ>とカントー代表チーム<セキエイ>のマッチングが成立です!!」
「おほっ!こりゃあたまらんのぉ〜!!」
「カルネさん率いるカロス代表が相手なんて、あたしやっぱツイてる〜!」
「いいなぁカスミ。」
ビリッケツの8番だった、と落ち込んでいたのはどこへやら。一転して喜び勇むカスミの姿にもカルネはにこやかな笑みを向けていた。
一方シロナは、席へ戻ったアイリスと視線をぶつけ合わせている。
「(あの目…3年前のリベンジをする気満々、って感じね。)」
「(まさかマスターズトーナメント前にチャンスが巡ってくるなんて。)」
3年前、史上最も豪華なメンバーとのちに語られるマスターズ8によって繰り広げられたと名高いPWCSマスターズトーナメント…その中で、シロナとアイリスは対戦していた。
結果は、僅差でシロナの勝ち。
大粒の涙と共に悔しさに沈んだアイリスは、あの日の雪辱を晴らす好機到来、と作った握り拳を震わせていた。
「ふむ。これを。」
「はい。ジョウト代表チーム<シロガネ>は6番でお願いします。」
シロナとカルネの抽選くじによる興奮冷め止まぬ中、しれっと自身の分の抽選を引いたワタルは、少年にナンバープレートを渡してサッと引き上げていた。スマートである。
「残る枠は2つ…。」
「vsアローラか、vsジョウトか…。」
抽選くじのボールは残り2つ。
威風堂々たる歩みでステージに上がるダンデと、歩行の仕草一つからして美を意識するミクリとが視線を軽くぶつけて先制し合う。
好戦的なダンデと比べ、ミクリのそれは酷く煽情的であった。
「お先にどうぞ、ダンデくん。」
「残り物には福がある、っていうもんな。」
どことなく舐め回すようなミクリの目に、若干の寒気を感じながらダンデは意を決し、向かって左側のボールを手に取った。
その間、ダンデの引き締まった雄の肉体を視界から堪能するのにスポンサーのロゴがたくさん貼られているマントが邪魔で仕方なかったミクリが、ほんのわずかな不満顔を浮かべつつ最後のボールを手にした。
「さぁ両者同時にボールを開き、ナンバープレートを確認します!あーっと、こっ、これはーッ!?」
ダンデが開いたボールの中にあったナンバープレートの数字は………2番。
「よしッ!!」
ダンデは今日1番となる渾身のリザードンポーズを決めた。
「お゛うッ。」
それに思わずナンテは変な声が出てしまう。
「やったぁ!!ガラル代表と対決だぁ!!」
今度はサトシが飛び跳ねて喜ぶ番であった。念願のダンデとの再戦チャンスがやってきたからだ。
「ほらね。残り物には福がある…。」
ステージ上からミクリはチーム<シロガネ>の面々を舐めるように見下ろす。
その視線にえも言われぬ性的な恐怖から、身震いをさせられたワタルはマントで体を隠し、シバは両手で胸をガードし、ヤナギは大柄なシバの影に身を隠していた。
「ミックリン、好き勝手やりすぎー…。」
ホウエン地方チーム<サイユウ>の監督として抜擢されていた四天王のフヨウは、そろそろ本格的にミクリのやりたい放題を止めるべきかと思案していた。
いわゆる、事案発生即対処という扱いではあるつもりだが、視線からのみのセクハラでは判断が付けづらいのだ。
「ここで参加8チームの組み合わせが決定!お次は開催場所を厳正なコイントスで決めます!」
対戦するチーム同士の監督がステージ上で正対し、それぞれの中央にマクロコスモスの社員が立てば、両者にコインへの細工などはないことを証明して親指と人差し指の上に乗せ、トスの体制に入る。
「レディーファーストで、お先にどうぞ、"お嬢様"。」
「あんた…いい対応だよ。なら遠慮なく、表。」
ナンテが選択権を譲れば、ガラル代表チーム<シュート>の監督を務めるポプラはまんざらでもない反応を示した。
白髪に骨張った長い鼻が、いかにもお伽話の魔女を思わせる風貌を醸し出し、特注のロング丈ユニフォームをワンピース風に着用し、紫のファーと帽子で合わせたキュートなコーディネートの老婆のあざとい仕草に、ずっと進行役をしていた少年ビートのげんなりする表情を、ポプラは見逃してはいない。
ピン…!ポトリ
マクロコスモス社員が真上に弾いたコインが、公正を期すためそのまま足元に落下する。
落着し、向けているのを確認する…。
「表だね。」
「よろしくお願いします。」
そうしてから改めて監督同士で握手を交わした。
「コイントスによる開催場所も決まりました!ここまでの決定を改めてまとめます!」
ジッキョーが新たに渡された資料を片手に、電光掲示板の表示に合わせてアナウンスする。
「ここガラル地方のシュートスタジアムにて、アローラ代表チーム<マナーロ>vsガラル代表チーム<シュート>!」
サトシとダンデから、次はシロナとアイリスに切り替わる。
「シンオウ地方スズラン島特設スタジアムにて、シンオウ代表チーム<スズラン>vsイッシュ代表チーム<ヒガキ>!」
「ホウエン地方サイユウスタジアムにて、ジョウト代表チーム<シロガネ>vsホウエン代表チーム<サイユウ>!」
最後にカルネとカンナ、カスミの師弟の3ショットだ。
「カロス地方ミアレスタジアムにて、カロス代表チーム<ミアレ>vsカントー代表チーム<セキエイ>の試合が執り行われます!!」
「大会の始まる日は来月8月1日!いやぁ〜たまらん!血湧き肉躍る戦いの空気!たまらんのぉ〜!!」
ジッキョーの隣で眼下のスタジアムを見下ろすタマランゼ会長は、3年前に出会った活きのいい少年がバトル世界一の称号とともに全国の舞台で名を轟かせ戦い続ける様に感慨もひとしおであった。
ポケモンリーグ、ひいてはポケモンバトルの文化発展のために、家庭を持つことによる普通の人としての幸福を放棄した老人にとって、いわばポケモンリーグに関わるトレーナーたち全てが子であり、孫であるのだ。
「熱い戦いを、見せておくれよ。」
タマランゼ会長は、しみじみと呟いた。
『タマランゼ会長』
69歳。ポケモンリーグ大会責任者。
人生の全てをあらゆる立場からポケモンリーグに捧げ、その社会的地位を押し上げるのに貢献してきた偉人。
当の本人はそういうところを一切感じさせない気さくなおじいさんだよ。