3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
いきなりダンデとの再戦チャンスが巡ってきた、とサトシは大喜びであった。
組み合わせ抽選会が終われば、一同はそのままレセプションパーティーの会場へ赴いた。シュートシティにあるマクロコスモスの本拠ローズタワーの屋上をまるまる1つ貸し切っての舞台である。
それはそのまま、PNTT発起人であるダンデの熱量の高さを窺えた。
「胸元がなんかキュウキュウするなぁ。」
「ぴかぴ?」
「そのうち嫌でも着慣れしてきますよ。」
PNTTの運営に関わるガラルリーグ委員会とマクロコスモスから招かれた側として、公式の畏まった場所へ行く以上最低限のドレスコードは遵守せねばならない。
事前に用意していたタキシードに身を包んだサトシは、首元の蝶ネクタイをナンテに結んでもらっていた。
普段着慣れないフォーマルな衣装は、ポケモンバトルほど勝手を掴めていないのは仕方のない話であった。
「馬子にも衣装、ってやつだわね〜。」
「うるさいなぁ〜。」
フォーマルなタキシードに不慣れなサトシの感覚は、先に会場入りしていたカスミにはひと目で見抜かれた。
真っ赤なチャイナドレスを着こなし、見事なボディラインを披露しながらカスミは遠慮なくサトシのタキシード姿をこき下ろす。
しばらく顔を合わせぬ間に自分の身長を抜き去っていた生意気な小僧に対しての、ほんの細やかな仕返しとしてはじゅうぶんな成果といえよう。
「カスミは、結構着慣れてるっぽいな。」
「まぁね。四天王の直弟子ともなれば、こういう場所にも出向く場面はあるもの。」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ。」
レセプション会場となっているローズタワーの屋上は、ガラル地方有数の一等地を貸し切っているだけあって、余程場違いなサイズでなければ何人ものトレーナーがポケモンをボールから出しても問題ないスペースが確保されていた。主催側のダンデの、彼なりに集めた面子のことを把握しての配慮である。
胸元をパックリと開けたタイトドレス姿で、顔馴染みのワタルやシバとグラスを傾けているカンナの姿をサトシとカスミが見る中に駆け寄ってきたのは、試合用のドレスコスチューム姿に着替えたアイリスだ。
「似合ってないわね〜サトシ。」
「ハッキリ言うなぁ…。」
カスミに続いて、サトシのタキシード姿の評価はボロクソであった。アイリスからすれば着ている、ではなく着られている有様と言えた。
「アイリスは、試合でも着てるよなそれ?」
「コレ?仕立ててもらう段階で試合でも、こういう場所でも着れるよう設計してもらったのよ。」
「やっぱチャンピオンともなるとその辺りも考えてるもんなのね〜。」
その場でくるりと回って見せるアイリスに、サトシもカスミも素直に感心する。舞台を選ばず着用出来る通称『アルティメット・ドレス』の面目躍如と言えた。
そのドレスが包み込むアイリスの褐色ボディは、3年前となんら変わらないプロポーションのままだというのは禁句である。貧乳はステータス、希少価値なのだから。まぁ、当のアイリス本人的には順当にダイナマイトボディへ実っていく自分を夢想しているのだが…。
「サトシもメーカーさんに公私兼用で着れるやつ頼んだらいいじゃない。」
「うーん、ママこういう服も作れるのかなぁ?」
「ママさん?」
「サトシの服はママさんが公式メーカーみたいなものだから。」
カスミにアイリスはあぁ、と得心する。
下着類や靴下のような小物を除き、サトシの衣装は今でこそ契約しているスポンサーからの支給品だが、その大元は母のハナコ手製の品であり、契約しているスポンサーも頭を下げてそのレプリカ品を再現させてもらい『サトシ・モデル』というブランドとして全国展開をしていた。
要はサトシの新しい衣装の開発是非は、全てハナコ次第なのである。
「今度帰ったら頼んでみようかな。」
「頼み事とかないにしてももうちょっと頻繁に帰るなり連絡するなりしたげなさいよ?」
「分かってるって。」
絶対分かってない…そう長年の付き合いからカスミは確信するも、それ以上の言及はしなかった。
それは、サトシの母とは個人的な友人付き合いもしていて、実感こそはまだないが旅立った子を持つ親の寂しさというのを、多少なりとも感じ取っていたカスミであるが故の…他のサトシの旅仲間より踏み込んだトークと言えた。
「あーははは!ほらほらぁ!あたしの酒が飲めないっての〜〜〜?」
「もごぁ!?もごごごあ〜!!」
カメラの回っていない場所では完全に『出来上がっている』状態のシロナが赤ら顔で襲来し、ワタルの口に一升瓶を無理やり突っ込みお酒を流し込んでいた。
傍には既にシロナのアルハラにやられてダウンしているシバが横たわっている。
「ウホッ!いい筋肉…。」
「ミックリン?」
その筋肉美を艶かしく視姦するミクリの動向を、監督兼ストッパー役としてフヨウ監督が目を離すことはない。
「うふふ。」
シロナの友人という認識はあるがストッパーである義務も義理もないカルネは、その惨状を止めるでもなく微笑ましく見ながらバーエリアでグラスを傾けていた。
「よう、みんな食べてるか?」
「ダンデさん!」
「「いただいてまーす!」」
ビュッフェ方式の会食で旅仲間同士固まるサトシたちのテーブル席へ、暗赤色のスーツ姿なダンデがトレーに山盛りの食事と共に着く。その量は食べ盛りな若者たちとも大差ない。
山盛りにしてきた中身も肉や揚げ物が大半で野菜類などはほとんどなく、食の趣向はサトシと同レベルの子供じみたものが窺える…。
「やっと落ち着いて食えるってもんだぜ。」
「ダンデさんずーっと生中継に出てたもんね。」
つい先ほどまでメディア対応に追われていたダンデにとって、ようやく訪れた暫しの休息と言えよう。山盛りのピラフをひたすらかき込み始めている。
サトシたちはというと、ひとしきり食べ終えた後であった。
「ぴかぴか。」
「くわぁ?」
「ぐるぅ〜。」
主人たちのテーブルの側では、ポケモンたちも集まって食事からの宴会状態だ。
ダンデのリザードンものしのし歩いてその輪に加わっている。
「おんのののの…!」
もはや定番となっているピカチュウの磨きかかった形態模写芸が披露されれば、オノノクスのツボにブッ刺さって、
「くんわっす!?」
笑い転げるオノノクスに危うく押し潰されそうになり慌てて飛び退くクワッスは、チャンピオン級のトレーナーたちが連れるポケモンたちの宴会の凄まじさを肌で体感するのだった。
「このローズタワーって言ったら、ダンデさんの前の社長さんの名前が使われてるんだったわよね。」
「うん。ローズ委員長。俺も会ったことある。」
カスミが話を切り出せば、サトシも当該の人物を思い出す。
マクロコスモスの前社長ローズ…ガラルリーグの運営委員会を指揮する長でもあり、今のダンデは彼が担っていた業務のほぼほぼ全てを引き継いだ形になっている。サトシとも親交があり、トレーナーとしての才覚を高く評価してもらっていた。
「でもその人って、ムゲンダイナを利用してガラル地方をめちゃくちゃにした悪い人なんでしょ?」
「悪い人じゃあないぜ。」
アイリスの言に、ダンデが素早く反応した。喋るとなれば手持ち無沙汰となるスプーンを指先で軽く弄ぶ。
「結果的には大惨事になりかけたが、あの人はあの人なりに正しくガラル地方のためを思ってブラックナイトを起こしにかかった。それだけは、間違いないし譲れない。」
ブラックナイト…3000年前に発生したと伝えられる大災厄。
黒い渦が発生し、巨大化したポケモンが暴れたことでガラル地方を滅ぼしかけたとされている。その元凶であると見られたキョダイポケモンムゲンダイナの持つ膨大なエネルギーを得ることにより、ガラル地方を1000年先まで繁栄させ続ける…これが、ローズ委員長の目論見であった。
結果的にそれはリサーチフェロー時代のサトシとバディを組むゴウ、それに伝説に語られた英雄たる2体のポケモンの力もあって彼の凶行は食い止められた。
現在に至っても、姿を消したローズ元委員長の行方は明らかになってはいない…。
「ご、ごめんなさい。あたし、よく分かってないのに決め付けたこと言っちゃって…。」
「いや、それはいいんだ。結局のところ、あの人がやろうとしたことで多くの人やポケモンが傷付いたのは確かだからな。」
頭を下げるアイリスをダンデは制する。同時に脳裏では結局のところあの人、やっぱり悪い人なのでは?という思考が浮かんでも来る。
事実、ローズがいなくなった後釜に自分が座るまで、ガラルリーグもマクロコスモスも騒ぎが収まらなかったのだし…。
「まぁ、その…アレだ。ローズ委員長はガラルの末長い発展を目指していた。それは間違いないしそこには俺も賛同してた。だけど俺としては、ガラルだけじゃあない。ポケモンバトルを通して、全国全てを盛り上げていきたいって思ったから、こういう催しもやってみたくなったのさ。」
「ダンデさん…。」
浮かんだ思考を振り払うようにダンデは力説する。その熱意が周囲に確かに伝わっているからこそ、こうしてPNTTは進行している。
サトシたちもポケモンバトルの世界で生き、トレーナーという名のアスリートとしてそれぞれ自らの名声を高めて今に至っている。その土壌たるバトル業界の昂進に自分たちの働きで何かしら寄与すべきであるという意思は無論持ち合わせていた。
「そういえばダンデさん。ムゲンダイナは元気?」
「あぁ。元気すぎて困っちまうくらいさ。」
ブラックナイトの元凶ムゲンダイナはサトシとゴウの判断によりダンデの下に託され、マスターズトーナメント決勝戦の舞台に乱入する珍事がありながら、今もトラブルなく暮らせていると聞ければサトシは安堵した。
「あの時は一大事だったからそうも言ってられなかったけど、実はムゲンダイナとも真っ向勝負してみたいんだよね。」
「あれほどのパワーの持ち主だからなぁ。シュートスタジアムでも保つかどうか…。」
サトシに負けず劣らず超が付くほど好戦的なダンデが渋るのだ。ムゲンダイナのバトル起用にはそれだけのリスクがあるのだろう。と、なれば無理にせがむほどサトシも我儘ではない。
「ふわわ…。」
ひとしきり話し終えたところで大きな欠伸をするサトシ。
カスミがスマホロトムで時刻を確認すれば納得であった。既に21時を回っている。
「あたし、アローラの監督さん呼んでくるね。」
「お願いアイリス。」
アイリスが席を立ち、ナンテを探しに出発する。
帰り支度として眠気眼なサトシがポケモンたちを回収する頃に折良くナンテがアイリスに連れられてやって来た。
「それでは。チーム<マナーロ>はこの辺りで失礼します。」
「みんなおやすみ〜。」
一礼すれば2人は更衣室へ戻り普段着に着替えたところでサトシが完全にダウン。
「あらら…。」
「らい〜。」
仕方ない、とナンテはサトシをおぶってローズタワーを後にするのだった。
『ローズ』
40歳。前マクロコスモス代表兼ガラルリーグ委員長。
ガラル地方を1000年先まで繁栄させることを目的として邁進し、その結果ブラックナイトを引き起こした張本人。
幼き日に鉱山勤めで働いていた父を事故で亡くしている。兄弟に先代ガラルチャンピオンがいるのは意外と知られていないみたい。