3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 キョダイマックス対決から年季の違いを見せてくるメロンを相手にサトシはマスターズトーナメントを戦ったホットラインで対抗。
 ゲンガーとネギガナイトのコンビネーションがメロンのラプラスを打ち破るのであった。


PNTT Fighting! 最終合宿!マスター道場

 メロンとのスパーリングを終えてから間の26日を完全オフとし、そこから明くる日の27日のお昼時。

 シュートシティの空港にてサトシとナンテはチーム<マナーロ>の仲間たちを出迎えていた。

 

「みんな、お疲れ様!」

 

「ぴかちう!」

 

「着いたのう…ここがガラル地方。」

 

「カントーとはやはり違うな。」

 

「そうだね。」

 

 ポケモンスクールの課外授業でカントー地方に行ったことのあるカキとスイレンはともかくとして、ハプウは完全にアローラの外に出たのはこれが初めてであった。あちこちを物珍しく見回している。

 

「ナンテさん、この後は予定通りに?」

 

「はい。初めてのフライトでお疲れでしょうが、このままもう少し移動期間が続きます。参りましょうか。」

 

 チーム<マナーロ>のメンバーは、頑なに監督代行の呼び方を譲らないナンテに対し、いつしか普通に名前で呼ぶことを覚えていた。

 そこから一同はガラル交通のそらとぶタクシーにてスパイクタウンのある半島を眼下に、本土から離れていく。

 

「昔はブラッシータウンから列車を経由しないといけなかったんですけど、近年は交通会社に所属するライドポケモンたちの能力向上によって輸送距離が伸び、運搬にかかる時間も短縮されたそうでして。」

 

「妾、"エキベン"とか言うの食べてみたかったのう。」

 

 ナンテが語る中ハプウが一言漏らすのでクスリと笑い合う中、一同がアーマーガアタクシーから降り立ったのは、ヨロイ島。

 入り組んだ自然を多く残し、野生ポケモンたちの営みを見ながらナンテの先導によって辿り着くのは、ガラル地方のイメージからは遠い東洋的な建物であった。

 

 

 

「ここが?」

 

「そう。マスター道場。ガラル地方の先先代のチャンピオンが看板を持つ修行場よ。」

 

 施設を見上げるハウにセイヨが続ける。セイヨ自身、ネットで調べたくらいの知識でしか知らないのだが。

 

「あらナンテちゃん!」

 

「ご無沙汰してます女将さん。師範はおられますか?」

 

「おるよ〜ん。とうッ!」

 

 茶髪のボブカットで、前髪が三つ葉のように3方向に跳ねている美女が黄緑色の耳飾りを揺らし、口紅とアイシャドウのメイクで仕上げた美貌を向ければ、道場の扉がいきなり開かれ黒い影がババッ!と飛び出した。

 

「皆さん、自分から離れてください。」

 

 軽く姿勢を低めるナンテの言に従うメンバーたち。

 

「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ!」

 

 黒い影となって空を取った翁は、鋭い拳打を雨霰と降らせる。

 それをナンテは、的確に捌いていく。

 

「ほぉ〜ッ!」

 

 拳打の雨を凌がれた翁は着地し、続け様に拳を打ち放つ。

 

「け、喧嘩か?いや…違うな。」

 

「あぁ。見た目こそ派手だが、全て当てる気のない拳…演武だ。」

 

 翁とナンテの拳の応酬、その意味が分からないアローラ代表ではない。

 一瞬何事かと身構えこそしたが、すぐに有事でないことを察していた。

 

「ほいさ!鈍らせてはいないみたいね、ナンテちん。」

 

「アローラ代表チーム<マナーロ>の強化合宿…その詰めとしてのご協力、感謝します。師範。」

 

 やがて互いに拳を顔面に寸止めさせ合い、翁とナンテは不敵に笑い合う。緑と黒のツートンで合わせた帽子とジャージを羽織る翁はすぐに柔和な笑みとなり、サトシたちに向いた。

 

「よく来たねんチーム<マナーロ>のみんな!ワシちゃんはマスタード!ポケモンめっちゃ強いよん!」

 

 酷くおちゃらけた雰囲気に毒気こそ抜かれるものの、そこでこの翁を侮るようではトレーナーとして一流とは言えない。そしてそんな輩などは、1人たりともこの場にいない。

 彼こそが齢90を迎えようとしてなお壮健たるガラル地方の先先代チャンピオン、マスタードその人であるからだ。

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

「うんうん!元気で結構!賑やかで楽しくなりそうねん!」

 

 サトシたちが頭を下げるので、マスタードも何度か頷いて見せる。そこであることに気付いたのはハウだった。

 

「あれ?でもここもガラル地方の一部なんだよね?てことはチーム<シュート>の人たちと会ったりとか…。」

 

「あー、それはないと思うよ。」

 

 ハウの懸念に解を示すのはマスタードの妻で、道場の女将さんでもあるミツバだ。

 熟れた肢体を黄緑色のトップスと白いボトムスでコーディネートしている年の差婚で連れ添う女房の語りにマスタードも乗っかる。

 

「ダンデちんたちはカンムリ雪原での高地トレーニングをするからー、ってこっちに来てくれないのよねん…ワシちゃん寂しい。」

 

 シュン、となるマスタードに少し沈痛な空気が場を包む。ハウもしまった、と困惑するよりない。

 

「でもナンテちんたちや、ホダカちんとこの子たちが遊びに来てくれてワシちゃんハッピーだもんね〜!」

 

「ホダカちん?」

 

「もしかして…。」

 

「「「やどーーーーーん!!!」」」

 

 シゲルがマスタードに話を聞くべく口を開いたところであった。

 

「ぴかぁ!?」

 

「あれは…ガラル地方のヤドン?」

 

 道場の入り口から猛スピードで飛び出した3つの影が、話をしていた一堂の脇をすり抜けて走り去っていく。

 その正体を最初に特定したのは、研究畑のシゲルであった。

 

「ちょっと〜〜〜!どこ行くのよ〜〜〜!」

 

「ワタクシたちのお晩飯〜〜〜!」

 

「クララちゃんにセイボリーちゃん、どうしたの一体?」

 

 続けて出てきた男女をミツバが呼び止める。

 ともに三角巾と割烹着という、いかにも調理場の人の出で立ちながら異彩を放つ2人は申し訳なさそうに俯いた。

 

「ごめんなさい女将さん…料理中にあの子達に台所に入り込まれちゃってぇ〜…。」

 

「せっかく卒業生たる我々が後輩たちのためにと作っていたスッペシャルなディナーの為のダイキノコをまんまと掠め取られ…。」

 

「あらあらまぁまぁ。」

 

 肩を落とし、シュンと項垂れる2人の頭をミツバが優しく撫でて慰める。

 

「ヤドンって…あのヤドンだろ?」

 

 カキが首を傾げるのも無理はない。

 アローラ地方では、家庭料理の具材としてその尻尾がよく用いられているまぬけポケモンのヤドン。その分類に違わず、尻尾を切られている感覚を感じる前に新しく再生する、という鈍感さを、先程見た爆走する姿を重ねるのは難しかったのだ。

 

「あー…あの子たちは道場の修行の為にワシちゃんが直々に育ててるからね〜ん。いわば特別性の

足回りをしてるのよん。」

 

「ちなみに修行とは?」

 

「あのヤドンたちをとっ捕まえてくるのよん。」

 

 これにはマスタードもナンテも苦笑いするより他ない。そこまで慌ててるわけでもないのは、彼らが好き放題爆走してお腹を空かせればそのうち帰ってくることを知っているからだ。

 

「修行、かぁ。」

 

 サトシが目を輝かせる。

 仲間内からすれば大抵ろくなことを考えていないそれに、目が合ってしまったのはシゲルとハウだ。

 

「シゲル!ハウ!"アレ"やってヤドンたちを捕まえてこようぜ!」

 

「"アレ"かぁー…疲れるけど、修行ってそういうものだし、仕方ないか。」

 

「オッケー。」

 

 サトシ、シゲル、ハウはそれぞれ3体のヤドンが走り去って行った方角を向き、走り出す為の構えを取る。

 まっすぐ立ち、自然に出た足を前にして体をゆっくり前へ倒すスタンディングスタートの姿勢だ。

 

「ナンテさん、俺たちヤドンを連れ戻して来ます!」

 

「分かりました。お気を付けて。」

 

「よーし、行くぞー。よーい…。」

 

 3人横並びで、カキが右手を挙げる。

 

「ドンッ!!」

 

「「「こうそくいどうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」」

 

 カキが挙げた右手を勢いよく振り下ろせば、サトシたちは残像が残るほどの大疾走。ヤドンを追いかけに行くのであった。

 

「とりあえず夕食まで各自自由行動ということで、それでは解散。」

 

 ナンテの号令により残されたメンバーは道場の中へ入っていく。自主トレにしろ羽を伸ばすにしろ、持って来た荷物を下ろさねば話にならないのだ。ヤドンを追いかけに行ったハウなどは、リュックを置いて行ってるし…。

 

「べあーま…。」

 

「んー?」

 

 道場の屋根裏を支える柱の影からの視線。それに気付いたのはスイレンだった。

 

「如何したスイレン?」

 

「ううん。なんでもない。」

 

 ハプウに呼ばれ、視線を感じて立ち止まる足を再び歩ませる。

 ヨロイ島の海には、どんなみずポケモンが住んでいるのか。釣りが大好きなスイレンとしては是非とも挑んでみたいのだ。

 感じた視線のことは、すぐに記憶から抜け落ちていた。

 

 

 

「うおおおおお!!待て待て〜〜〜!!」

 

「やどぉーーーーーん!」

 

 マスター道場から北西へ抜けた先に広がる清涼湿原は、盛大な追いかけっこの舞台となっていた。

 土煙を上げるほどに爆走するヤドンたちと、それを追いかけるサトシたち。

 

「のこ?」

 

 熾烈なデッドヒートに、野生のさそりポケモンスコルピやウパーはビックリし、つちへびポケモンノコッチなどは何事かと土の中から顔を出す。

 

「つっかまえたー、っと。」

 

 最初にヤドンを捕まえたのは、ハウだった。

 アローラでよく見る個体とは違い、頭頂部や尻尾の先端部が黄色く変色しているリージョンフォーム…いわゆるガラルの姿は、とても新鮮に映る。

 

「よいしょ!っとっとっと…。」

 

 湿原よりさらに西の、チャレンジビーチへ続く出入り口付近でシゲルはヤドンを掴み、小脇に抱え込む。

 

「よーし、鬼ごっこは終わりだよ〜。たくさん走ったね。」

 

「シゲルさん?」

 

 カレーを頭から被ったみたいだ、と形容されるヤドンの頭を撫で回して落ち着かせているシゲルの耳に、聞き覚えのある声がした。

 その白髪の少年とは、3年前に命を預けた仲であった。

 

「やぁ。久しぶりだね、トキオ。」

 

 白髪の少年と、そのパートナーであるハーブポケモンメガニウムは、ペコリと頭を下げた。

 

 

 

「やどぉぉぉーーーん!!」

 

 主人のマスタードにより鍛えられたヤドンたちにとって、その健脚はなによりの誇りであった。門下生たちを相手に幾度となく逃げ去って見せるその脚力は、ロトムが入り込んで電力サポートする最新式の自転車でもそうそう追いつけるものでもない。

 そんなヤドンにジリジリと距離を詰めてゆくサトシの存在は、まさに自信を打ち崩すに足りるショックであった。

 

「ぴぃかちゅう〜…!」

 

 ピカチュウは、サトシの左肩から振り落とされまいとしがみ付いている。

 

「つっかまーえ、たッ!!」

 

 ほどなくしてサトシは両手でヤドンを抱え上げる。後は、減速し立ち止まるだけだ。

 

「ぴかぴッ!!」

 

「い゛ッ!?」

 

 その刹那であった。

 清涼湿原から繋がっている集中の森の入り口より出てくる人影に、サトシは慌てて強引に減速中の体をカーブさせる。

 

「うわわわわわッ!?」

 

ドボチャア

 

 あまりに咄嗟のことで、そのままサトシは池へ飛び込む形となってしまった。

 

「ばすばぁす!」

 

「うわわ、大変だ!」

 

 そんな池へダイブしてしまうサトシを目の当たりにした浅黒い少年は、慌ててボールを左手に取り、放り投げる。

 

「インテレオン、GO!!」

 

「れぉあッ!」

 

 みずタイプのインテレオンに救助をしてもらう腹積りであったが、それはすぐに無用と分かった。

 ずぶ濡れながらサトシは、ヤドンを抱えたまま尻餅をつく形で見えていたからだ。池が浅かったのだ。

 

「大丈夫ですか?…って、サトシ!?」

 

「大丈夫大丈夫…ん?ゴウじゃん!久しぶり!!」

 

 池より出てくるサトシと同じ目線で並び立つ立襟のシャツにスウェットパンツの少年の名前は、ゴウ。

 3年前のリサーチフェロー時代、サトシとともに全国を股にかけて様々な調査に従事したバディである。

 




 『マスタード』
 90歳。マスター道場の師範。
 ガラルリーグ先々代チャンピオンであり今はヨロイ島を買い取ってそこに道場を建て後進教育に励んでいる。
 エースポケモンである秘伝のヨロイ、ウーラオスの拳は今も健在だ。
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