3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
脱走したヤドンを追いかける最中でサトシは、リサーチフェロー時代の盟友ゴウと再会するのであった。
「「「「「いただきまーす!!」」」」」
夕暮れ時のマスター道場に、元気のいい挨拶が響き渡る。
ダイキノコを持ち逃げしたヤドンたちを連れ帰ったサトシたちは、そこで偶然顔を合わせたゴウとトキオの2人と連れ立って帰り着き、無事クララとセイボリーの作るディナータイムと相なった。
マスタード、ミツバの夫妻に2人の息子であるハイド、それに住み込みの門下生たちも交えての大宴会となっている。
「クララちんはどくタイプの、セイボリちんはエスパータイプのジムリーダーで、ウチの門下生だったのよねん。」
「へぇー。」
マスタードに紹介され、ピンク髪のボブヘアで、蝶または蛾の形をした白い大きなリボンをつけたケバケバしい…色々濃ゆい美女クララと、髪は金色の長髪で、高めの黒いシルクハットを被り、シルクハットの周りには自身の超能力によりふよふよとモンスターボールを浮かばせる青年セイボリーは照れ隠しに頭をかいている。
ガラル地方のポケモンリーグは全国入りが果たされるポケモン歴1982年以前より現在のジムチャレンジ方式がずっと採用されており、チャンピオンリーグ方式の他地方とはまるで勝手が違う。
4月から10月までのスケジュールでジムバッジ集めから8個のバッジを集めた選手同士の『セミファイナルトーナメント』…これに勝ち上がってからのチャンピオンへの挑戦権を賭けたジムリーダーも入り混じる『ファイナルトーナメント』を経て『チャンピオンマッチ』へと至る。
これらガラル地方のポケモンリーグにとって最も重視されている興行において注目を浴びるのはあくまで公認の権利を得たメジャーのジムリーダーであって、クララやセイボリーのようなマイナーのジムリーダーにとってはジムチャレンジ期間はまるまる肩身が狭く、鬱屈とする中で捲土重来を誓い、1月から3月までにかけて行われる公認ジムリーダーの座を争う『入れ替わり戦』の為の準備期間であった。
2人は、古巣であるマスター道場にて次のメジャー入りを賭けた猛特訓の合間に、明日のスターを目指す門下生たちへの激励として今宵の食事を受け持っていたのだ。
「ホダカ博士のところで上手くやってるみたいだね。」
「どこかの誰かさんみたいに腕が立つわけじゃあないから必死なだけさ。」
旧友の言葉に見え隠れする棘は、バディのトキオを恐々とさせた。
ゴウがシゲルを潜在的に苦手としているのは、3年前からのやり取りで知っていた。知識が先行し、ポケモンゲットに天性の嗅覚を備えているゴウは、ポケモン研究所からすれば理想的なフィールドワーカーの資質を備えている。
それが感覚の先行するサトシとバディを組んで高いシナジーを産んだことにより、サクラギ研究所に多大な恩恵をもたらし、結果的にはプロジェクト・ミュウでの一定の成果にも繋がったのはシゲルとて疑いようはない。
こうして食卓で向かい合い、交わすシゲルの言葉の中に棘はなかった。それが、ゴウのコンプレックスを逆に刺激してしまっているのも知った上でのことだろう。むしろ、楽しんでいるきらいすら感じる。
「シゲルさんは、本格的にトレーナーへ復帰を?」
「いや、違うね。研究界に悔いなく骨を埋められるようにする為さ。」
シゲルにとってPNTT参加による一時的なトレーナー活動とは、どこまで行っても燻った未練を断ち切る為の方策に過ぎない。
そんな機微を理解するには、ゴウもトキオも人生経験を重ねられてはいなかった。どちらも純粋培養な研究畑の人間であるからだ。
「2人はこの島のポケモンの調査かな。」
「はい。1週間ほどこの道場で下宿させてもらって、30日にツルギさんとアサヒさんが迎えに来てくれる予定で。」
「へぇ、あの2人が来るんだね。」
「この道場の門下生だったらしくてさ。マスタードさんに挨拶もしたいみたい。」
トキオが出した名前にクララ、セイボリーの眉がほんの僅か不快にピクリとしたのを見逃さなかったミツバだが、行動にまでは起こさなかったところを精神的成長として認めることにした。
「ととと…!」
クララが眉をヒクつかせながらにこやかにダーリンへお酌をする。
「ぴっかぁちゅ。」
「あら、どうしたのかしらピカチュウ?」
食事、宴の類は人間は人間、ポケモンはポケモンでそれぞれ好きにやるのがトレーナーたちの通例であった。
トレーナーとポケモンとの立場関係を認識させる意味が主であり、栄養補充と憩いの時間を両立させるためでもある。
そんな中でセイヨの膝の上に彼女のピカチュウがよじ登ってきたのは普段ではあまりないことなのだ。
「なぁセイヨさんってそのピカチュウ、どこでゲットしたんだ?」
「マッチャシティを出てからの森林地帯よ。あそこ、ピカチュウの群生地だったの。」
「あー、あそこかぁー…。」
再会してからずっと聞いてみたかったことを思い出し、投げかける。
返ってきた答えは、サトシからすれば忘れもしない、そこはピカチュウの森…。セイヨの語る通りピカチュウの群れが住んでいたその場所は、サトシとピカチュウが互いの絆を再確認した思い出深い地である。
『ピカチュウ、お前…ここに残れよ。』
『ぴ?』
『仲間のいるこの森だったら、きっと幸せに暮らせるはずさ。』
それは、当時のサトシなりにピカチュウのことを考えての決断であった。
同種によって群が形成されているエリアで、ロケット団を追い払った力があるならば、自分と旅をするよりずっといいだろう…そう、思い至っての離別の選択。
それでもなお、ピカチュウはサトシの元を離れることは選ばなかった。何故?あの日のことは…未だサトシは聞いていない。聞くのが、怖いのだ。
「(俺は、あいつに相応しいトレーナーになれてるのかなぁ?)」
側から聞けば馬鹿馬鹿しいと一蹴される疑念が浮かぶ。
人間や世の中に対しては無鉄砲ではあるが、ことポケモンに対しては無思慮とも言い切れないのがサトシである。身内や旅仲間からすれば、普段考えなしな分余計に考え過ぎて堂々巡りに陥るところがあった。
十八番の形態模写を炸裂させポケモンたちの爆笑を掻っ攫う相棒をボーッと眺めている。
「なぁに?もしかしてコレが欲しいの?」
「ぴかぴか。がじがじがじ。」
セイヨがスープからスプーンで掬い上げたダイキノコを手に取れば、ピカチュウは一心不乱に齧り付く。
全体が派手なマゼンタ色に染まり、傘は上部が平たく六角形で渦巻き模様が描かれたどこか不気味さすら漂うその1本を見事完食すれば、セイヨのピカチュウは全身をパンプアップして見せた。主人からして、今までにない気力の充実を感じている。
「おぉ、おぉ!セイヨちんのピカチュウはダイキノコに適応したみたいねん!」
「ダイキノコにはダイマックスの性質を変化させる作用があるのよ。」
要は思いがけないパワーアップを果たせたということである。
「あは!」
セイヨは、喜びながらピカチュウと抱き合った。
「ダイマックスと言えば。」
ナンテが何か思い出したように呟けば、チームメンバーに包装物を手渡していく。
中を見れば、そこには新品のダイマックスバンドが人数分あった。
「これ、今年出たばかりの最新モデルだよね!?」
「えぇ。大会本部から参加選手全員への支給品だそうです。本番も人工ガラテラ粒子を活用されるみたいですからね。」
これで全員ダイマックスを使用できる。手札を増やせるのはありがたい話と言えた。と、言っても条件は皆同じことではあるが…。
「実際のところ、ダイマックスとはどう使うものなんだ?」
ジェニーが問うのは無論、バンドそのもの機能的なことではない。実戦的な観点の話である。
「この中でダイマックスに自信アリなのは?」
はからずともチームミーティングの体が取れれば、ナンテのこの問いに手を挙げたのはサトシだけなのを見て、この場での言語的な理解は断念せざるを得なかった。
感覚優先なサトシからでは吐き出される情報の要領を得るのが難しいからだ。シゲルの翻訳にも限度はある。
「研究的な観点ならばある程度は話せるんだけどね。」
そのシゲルも自身の論説が実戦に活かせるかどうか、となると疑問符を自分に付けていた。
「ふむぅ、ならば明日以降の特訓は皆でダイマックスの習熟に勤しまぬか?」
ハプウとてほんの数日の鍛錬だけでダイマックスを使いこなすガラル代表相手に同じ土俵でぶつかり合って勝てる道理などないことは重々承知している。
で、あるからこそ自分たちで触れてみて知見を得るのが大事だという論説がチーム全体に浸透した。
「それなら道場裏のバトルフィールドを好きに使ってちょ。あそこ、パワースポットでもあるからダイマックスもさせれるよ〜ん。」
「ありがとうございます。」
愛妻ミツバにお酌され、すっかり赤ら顔で出来上がっているマスタードにナンテが一礼。それに皆も倣う。
「んっ…。」
一礼し、頭を上げたスイレンはまた視線を感じる。
気配の先を辿れば、隠れたいはずであろうのに柱を支えに逆に姿を晒してしまっている小さなポケモンと今度はハッキリと目が合った。
パッと見は、ヌイコグマに近いイメージながら、白い鉢巻を巻いたような白い体毛が特徴的な彼?彼女?は目が合った瞬間パパパと走って姿を消してしまった。
「なんだろう?」
そう呟きこそしたスイレンであったが、こちらから追いかけることはしなかった。あの手の類は、下手に追われるのを拒むものだ。
要は慣れ親しんだ釣りにも通ずる駆け引きである。
「実はサトシを見てた、とかだったら恥ずかしいからね。」
突発的なチームミーティングが済み、また宴モードに戻る仲間たちを見ながらスイレンはジュースを自分のコップに注ぐ。
スクール時代よりサトシは色んなトラブルを起こすし、その度に色んなポケモンとの関わりを作っていく…それを間近で見てきたスイレンとしては、件の小グマのお目当てが自分とは限らないとするのも当然の反応と言えた。
どうしても気になってきたらば、その時女将さんにでも聞けばいいのだからと軽く捉えることにした。
「ぶい〜。」
「もうおねむかな?」
大きなあくびとともに目をとろかせながら膝の上に乗ってくるナギサの頭から首筋を、スイレンは優しく撫でた。
『ゴウ』
13歳。サクラギ研究所所属リサーチフェロー。
3年前、サトシと組んだ名コンビとして全国各地を飛び回ってサクラギ研究所の研究活動に貢献した。
パートナーはヒバニーの頃から紆余曲折を経ながら一緒に育ったエースバーン。