3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 最終合宿の拠点としてマスター道場に身を寄せるチーム<マナーロ>の面々や、ホダカ博士から派遣されてきたリサーチフェロー組、そして道場の人たちも交えての夕食が楽しく進む。
 各々に目的は違えど同じ屋根の下、同じ釜の飯を頂く中で、間違いなくポケモンを愛する同志として親睦を深め合うのだった。


PNTT Fighting! マスタード師匠突然の思いつき

「いけーッ!ガラガラッ!!」

 

「迎え撃て!ドラピオン!!」

 

「がら゛がら゛がら゛がら゛!」

 

「どぅ゛ら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛い゛!」

 

 翌日、マスター道場の修練場から奥手に出た先のバトルコートにて、早速チーム<マナーロ>のメンバーはダイマックス特訓を開始した。

 カキのアローラガラガラと、ジェニーのドラピオンがダイマックス状態でがっぷり四つに組み合っている。

 

「どうですお二方。ダイマックスの手触りは?」

 

「イメージ以上にタフになってますね。その分動きの小回りは駄目になるけど。」

 

「テレビで見たような、技の浴びせ合いになりがちなのも分かる気がする。」

 

 ナンテの声かけに感触を言語化するカキ。ジェニーもそれに頷く。

 実際に触れてみて感覚を言い表してみるのは、黙々と取り組むより深く頭や体に浸透するのだ。

 

「今だッ!ダイ雪山おろし!」

 

「どぅ゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛!」

 

「なにッ!?」

 

 ドラピオンが長い両腕を巻き付けるようにしてガラガラを持ち上げれば、そこから真上へスクリュー回転を与えて投げ飛ばす。

 

「がら゛!?」

 

「くッ、やるな…!」

 

「ふむ…。」

 

 背中から地面に落着するガラガラが土煙を巻き上げるので目をガードするカキ。

 ジェニーの方は幾度か頷き続ける。朧げながらダイマックスのコツを掴み始めているようだった。

 

「そろそろ交代してもらうとして、チャンピオンとスイレンさんは?」

 

「順番が回ってくるまで暇だから釣りしてる、ですって。」

 

 セイヨからの返答にナンテはふむ、とバトルコートへ視線を戻す。

 既にダイマックスをマスターしているサトシ同様、スイレンも感覚派のトレーナーと見ているナンテからすれば、見る事よりも自分で体感させた方が早いから、と2人の独断を特に咎めはしない。

 元よりポケモントレーナーとは個人事業主。チームとして寄り合おうと本質的にそこは変わらないのだから…。

 

 

 

「あちゃー、こりゃ駄目だ。」

 

「ぴかぴかぁ。」

 

 持ち主など分かりようもない長靴を釣果にするカスミ印のルアーは、すっかり素裸に剥けていた。外部の塗装は海水で削げ落ち、ほとんど原型をとどめていない。

 いくらサトシがスポンサー契約しているメーカーから支給されている最新式のすごいつりざおを使おうとも、ルアーがガタガタではどうにもならなかった。

 

「ぶぶぶーい!」

 

「よいしょ、っと!」

 

 サトシの隣でスイレンは今日も今日とて絶好調の釣果であった。というより、釣り人としての腕が違うのだ。

 マスター道場より南下した先の一礼野原、そこからワークアウトの海めがけての砂浜釣りは、バトルコートが空くまでの暇潰しには最適であった。

 暇潰し、と言っても釣り竿にいい感じのポケモンが引っ掛かったならゲットだってするのだが。

 

「べあま!べあんま!」

 

 スイレンが釣り上げたポケモンたちを持ち上げ、海の遠くまで放り投げリリースの役目を一生懸命しているベージュ色の小グマポケモンは、けんぽうポケモンダクマ。

 彼とは、ほんの少し時を遡り、宴から一晩明けて全体練習前のウォーミングアップ前にミツバから紹介してもらっていた。

 

「この子、実は昔ウチに来てたダンデちゃんと仲良くしてて、一緒に修業にも参加してたんだけどね?あの子、方向音痴が酷くって上手くいかなくて…そうこうしてるうちにジムチャレンジのお話が来て本島に帰っちゃったのよ。」

 

 ガラルチャンピオンダンデ唯一にして最大の欠陥は、どうやら戴冠する以前より顕在化していたようだった。

 最早ミラクルとすら言えるレベルの方向音痴で10年前、時のイッシュチャンピオンアデクとの対外戦の為にイッシュ地方へ渡り、盛大に遭難して結局試合もキャンセルとなった事でガラル、イッシュ間の関係が冷え込む騒ぎを起こし、以後事実上ガラル地方から出国禁止状態を喰らっている無敵の男の若き日のエピソードには、流石にサトシもスイレンも苦笑いするよりなかった。

 

「べぁーま!」

 

「ぶいぶい!」

 

 調子良く釣り上げられたポケモンたちを水平線めがけて投げ込んでいくダクマにナギサが快哉を叫ぶ。

 その横顔は、置いて行かれたものの無念をどこか孕んでいるようにスイレンには見えた。

 

「おーいお主ら!そろそろ順番回ってくるぞ〜!」

 

 道場のある方角で二つ結びが飛び跳ねている。ハプウが2人を呼びに来たのだ。

 

「行くか。」

 

「うん。」

 

 長靴しか釣果のないサトシにはこれ幸いとばかりのお呼び出しであった。

 スイレンも頷き、つりざおを折り畳む。

 

「行こっか。」

 

 スイレンは、眼下のダクマと視線を合わせる。

 ナギサは、もう3年来の付き合いだ。呼ぶまでもなく肩の上までよじ登り、垂れ気味な前髪越しのつぶらな瞳を主人に向けていた。

 またそろそろ散髪してあげなきゃいけないな、と思いながらのスイレンの左手を、ダクマの小さい手が触れてきたのでしっかりと握り返し、歩き出した。

 

 

 

 どくタイプ担当のジムリーダークララと、エスパータイプ担当のジムリーダーセイボリーは、チーム<マナーロ>のダイマックス訓練に協力的であった。彼らの訓練が、どちらかといえばダイマックスを習得するよりは、対ダイマックスを想定した対処法を探る意図の込められたものだとすぐに気付く辺りは、ジムチャレンジが開催されている間ずっと暇しているマイナーの位階とは言えジムリーダーとして抜擢されただけはある。

 そこに、チーム<シュート>の構成メンバーとして起用されているメジャー側の公認ジムリーダーたちへの当てつけというか、妬みというかがないと言えばそれは嘘である。

 元よりこの2人の人生を占める幾らかは、その手の後ろ向きなものが詰まっているというのをそれぞれ否定もしていない。

 ともあれ、ガラル出身のジムリーダー直々のダイマックス理論は、アローラからやってきた面々には金言として受け入れられ、ありがたがられたのは間違いない。

 

 

 

 27日のおやつ時の辺りにヨロイ島に到着し、28、29日をダイマックス対策の全体練習に使ったチーム<マナーロ>。彼らがいるマスター道場に来訪者が2人、当初の予定通りやってきた。

 青年は、程よくカットされた赤茶色の髪に良く言えばストイック、悪く言えば神経質な印象を与える鋭い視線で、ホダカ博士の研究チームに支給される特注のサバイバルウェアが浮ついたあれこれを寄せ付けない徹底さを助長している。

 美女は水色の髪を結び、青年の鋭い目つきを中和するかのように柔らかな印象を抱かせ、特注のサバイバルウェアから覗く二の腕や臍周り、太ももの褐色が刺さる人には刺さるフェティシズムを刺激するには十分すぎる破壊力といえた。紫色のインナーが包む二つの膨らみも、21歳の平均よりは実っていて、大きい…。

 

「ツルギさん!アサヒさん!お疲れ様です!」

 

 トキオが人懐っこい笑みを来訪者に向けて駆け寄る。

 それに少し遅れてゴウはタブレットロトムをツルギに差し出した。

 

「これ、この辺りの野生ポケモンのデータっす。」

 

「あぁ。ご苦労様。」

 

 ゴウは、このツルギもシゲル同様苦手としていた。

 ホダカ博士の研究所に正式に雇われたトキオと違い、ゴウの所属はクチバシティのサクラギ研究所だ。トキオとバディを組んでのフィールドリサーチは、あくまで出向先でのことに過ぎない。

 それが理由に向けられる鋭い目つきへの耐性がトキオほどできていないのだ。

 

「ツルギさん!アサヒさん!」

 

「お久しぶりです。」

 

 奥の出入り口、バトルコートから修練場まで戻ってきたサトシとシゲルも知った顔の2人に近付き挨拶する。

 

「お久しぶり。サトシくんは相変わらず大暴れしてるみたいじゃないの。」

 

「いやぁそれほどでも。」

 

 サトシの左肩のピカチュウの顎下をアサヒの手が撫で上げる。ポケモンの撫で方を知る動きにピカチュウは蕩けた顔を見せた。

 

「うほぉぉぉ〜!見目麗しいお姉さん、どうでしょう?僕と愛を育む修行をば…。」

 

 ズビシ!とアサヒにナンパを仕掛けに行くタケシの腰へ彼のグレッグルがどくづきを叩き込む。

 

「し、しびれびれ〜…。」

 

「けッ。」

 

 頬袋を膨縮させながらグレッグルは主人をアサヒから引き剥がす。

 

「ア、アハハ…。」

 

 突然かつ怒涛のやり取りにアサヒは苦笑するよりなかった。

 隣のツルギはと言えば、それはそれは不快な表情をしていたのたが、真顔と区別がつくのはこの場ではアサヒしかいなかった。

 

「おほ〜!ツルギちんアサヒちん、お久しぶりねん!」

 

「ご無沙汰してます、師匠。」

 

「お師匠様も相変わらず元気そうで。」

 

「ホント!元気いっぱいで困っちゃうくらいよ。」

 

 道場の居住スペースから顔を出してきたのはマスタードとミツバの夫妻だ。

 修練場の端でウェイトトレーニングをしていたクララとセイボリーは、その集まりから背を向け黙々とトレーニングを続けていた。

 

「あら、そのダクマ、まだいたんだ。」

 

 アサヒの目についたのは、スイレンの側に引っ付くダクマだ。

 

「べあま…。」

 

「懐かしいなー。私たちがここにいた頃からみんなのこと見てたもの。」

 

「キミがゲットしたのか?」

 

「仲良くなっただけ、です。」

 

 ツルギの単刀直入な問いかけに、スイレンが若干どもる。

 他意はないが語感が酷くストレートなところが責め立てられてるような感覚を生む。そこが苦手なんだよ、とゴウは1人頷いていた。

 

「おほほ、おほ、おほ?」

 

 マスタードがふと辺りを見まわし、何やら数を数える。それに気付き首を傾げるナンテの側に瞬時に寄れば、コショコショと耳打ちした。

 

「いいのですか?こちらとしては願ってもない話ですが…。」

 

「うんうん!なら決まりねん!」

 

 突然の思い付きに、ナンテは瞠目する。

 その中身は、すぐにマスタード本人の口から告げられた。

 

「みんな〜!今からチーム<マナーロ>vsマスター道場&ホダカ研究所連合チームで団体戦をするよ〜ん!!」

 

「「「「「「は?」」」」」

 

「マジ!?やったぁ!!」

 

「試合だ試合〜!」

 

 一同、あまりにも急な話にポカンとする中、サトシとハウは呑気に飛び上がっていた。

 

 

 

 場所を移し、道場のバトルコート。左右の端に両陣営分かれて円陣を組んでいた。

 

「急な話ではありますが、本番前に大会と同じ流れを経験出来るのは貴重なことだと思い、師範からの申し出を受けることにしました。皆さん、ポケモンのコンディションの方は?」

 

 ナンテが監督として場を進行させる。

 無邪気に喜んでいたサトシとハウ以外も、ビックリしただけで試合そのものには前向きであった。無論、ポケモンたちもいつでも臨戦態勢にある。

 

 

 

 一方の連合チーム側の試合への反応は悲喜交々と言えた。

 バトルにあまり自信のないゴウは憂鬱だし、ツルギ、アサヒと顔を突き合わせるハメとなったクララとセイボリーはあからさまにブスッとしている。

 

「せっかく遠くアローラから来てくれたツワモノたちとやり合えるのよ?そこから何かを学び取っていけたらハッピーじゃないのん?」

 

 にこやかに語るのは大将として控えるマスタードだ。

 師事し、宿を借りていたりしていた側からすれば、この笑顔には逆らえようがない。

 

「そういえば、女将さんは?」

 

 試合をすることはもう受け入れているアサヒが聞けば、マスタードは軽くウインクをする。

 その向く方角にいるチーム<マナーロ>の円陣にスイレンの姿がないのを見ては、アサヒは事情を察するのだった。

 

 




 『カスミスペシャル』
 その名の通りカスミが自作したお手製のルアーで、みずポケモンの食いつきがすこぶる良い名品。
 釣りメーカーからも市販のオファーが来ているが今のところカスミにその気はないらしい。
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