3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 親善試合の最初の試合、現役バリバリのカキとセイヨに圧倒されながらもトキオはビリジオンを、ゴウはスイクンをそれぞれ繰り出す。
 トレーナーとしての地力の差をポケモンのスペックで、それも伝説のポケモンのスペックでカバーしようというのだ。


PNTT Fighting! 親善試合 ダブルバトル2 カキ&セイヨvsゴウ&トキオ②

 世界に根付く命である以上、どんなに高邁な存在であろうと絶対不可侵とは限らない。それは伝説のポケモンとて例外ではなかった。むしろ、そういう『箔』があるからこそ欲望の対象となり得るのだ。

 ゴウとスイクンの出会いも、まさにそれであった。

 

「モンスターボール、GO!!」

 

 時は遡る。

 3年前、サトシとバディを組んでのリサーチフェロー時代。いつもと変わらずサクラギ博士の依頼でジョウト地方へ赴いた先にて、ポケモンハンターに追い詰められていたスイクンを苦肉の策としてゲットに成功した。ただ、

 あくまで保護目的のそれであり、ゴウからすればほとぼりが冷めれば逃すことも視野の内だった。

 だが、スイクンはゴウの元に残る選択をした。それが助けてもらった恩義からか、ボール契約による義務なのか、他者の感情の機微に疎いところのあるゴウには判然とはしなかった。

 

「なぁゴウ。スイクンは連れて行かないのか?」

 

 バディを組んでいたサトシは、たまにこうやって両者の歩み寄りを促していたが、サクラギ研究所に2人が所属していた頃にはついにゴウとスイクンの共闘はなかった。

 そこに伝説のポケモンへの敬意があるのは間違いない。ただ、その建前の向こうに、スイクンを自分の手で扱いきれないことへの恐れが本音として隠れていた。同じ恐れから、一時期パートナーであったうさぎポケモンラビフットをも手放そうとしたことすらある。

 理論が先に来るゴウは、自身の制御下に置けない相手を側に置くのを躊躇う性質があった。

 スイクンもスイクンで、そんなゴウに自ら距離を詰めることは3年前の時点では終ぞなかった。

 

 

 

「この3年で仲良くなれたんだな。あいつら。」

 

「ぴかちう〜。」

 

 時を戻そう。

 サトシとゴウは、3年前に分かれ道で二手に歩み出して以降会っていない。互いに共通の知り合いから近況を耳にするくらいであった。故に、ゴウとスイクンの間に何があったのかサトシにはよく分からない。

 ただ、ゴウがスイクンと向き合い、ボールに入れて連れ歩くだけのなにかがあったのは間違いないことであり、それがとても嬉しいのだ。

 

 

 

「ビリジオン、てだすけ!」

 

「きゅああ!」

 

 並び立つスイクンにビリジオンがパワーを受け渡す。

 

「スイクン、いくぞッ!ハイドロポンプ!!」

 

「こぉぉぉ…!!」

 

ボシュウウウウウ!!

 

 スイクンはゴウの指示にしっかりと従った。口から放つ強力な水流弾は、元よりインテレオンのねらいうちの比ではない。

 それが、ビリジオンのてだすけによるパワーアップを果たしてガラガラに襲い掛かれば、カキはたまらず戦慄した。

 

「(やられる…!)」

 

 すかさずカキは『ダブルボール』による素早いポケモン交代に走った。ビリジオンのマジカルリーフは、効果今一つとはいえガラガラに無視できないダメージを与えていたからだ。

 

「受け止めてくれバクガメス!!」

 

「もぁぁぁ!!」

 

 ガラガラを下げるにしても一瞬遅い、そう思いながらセイヨは流し目で顛末をチラと見るよりなかった。トレーナーはどうあれ相手は伝説のポケモンだ。

 カキの思考力に乱れが出るのを責めても仕方ないのだ。

 

「ぶッ!?!?」

 

 ボールから飛び出したばかりのバクガメスは自慢の強固な甲羅を相手に向ける間もなくハイドロポンプを腹部に叩き込まれていた。

 てだすけによりパワー増量されている水流弾は、彼が大地に降り立つより早く体力を削り切り、地に伏せさせる。

 

「バクガメス!?」

 

「バクガメス、戦闘不能!スイクンの勝ち!」

 

 

 

カキ、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

セイヨ、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

ゴウ、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

トキオ、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

「くそッ…!」

 

 判断が遅れた、それはカキ自身も痛感していたことだ。

 セイヨの見立て通り、伝説のポケモン相手に気後れしてしまっている。

 

「切り替えなさいな。本番は、もっとキツイことになるわよ。」

 

 並び立つスイクンとビリジオンから視線を離さないまま、セイヨは簡潔な言葉でカキの尻を叩いた。

 

「セイヨさん…あぁ!」

 

 バクガメスをボールに戻し、次のボールを投入する。セイヨの言う通りだ。ここで沈んではいられない。

 

「頼むぞ、ファイアロー!!」

 

「ひよぉ!」

 

 繰り出されたのはバサバサと翼をはためかせるファイアロー。

 そこでセイヨとピカチュウは互いに頷き合い、ピカチュウがその背に飛び乗った。

 

 

 

「ピカチュウとファイアローのコンビもあるのか!」

 

 ガラガラ同士とはまた違った連携が見れるのか、とサトシは目を輝かせる。

 

「残った皆でダブルバトルの戦術も勉強してのう。」

 

 ハプウがからから笑って見せる。個性の集団が、それぞれの強みを結集して大会に臨む決意が故の泰然たる表情がそこにあった。

 

 

 

「飛べファイアロー!」

 

「ほぉぉッ!」

 

 ピカチュウを背に乗せたファイアローが飛翔する。

 小兵が頭上を飛び回る様にスイクンとビリジオンは特に動じることもない。

 

「ふぶき!!」

 

 ファイアローの速さを殺すために凍結技を使う。

 至極真っ当なゴウのチョイスにスイクンは異議を唱えることなく、北風の生まれ変わりと言われる所以たる強烈なブリザードを作り出し、放つ。

 

「ほぉッ!!」

 

 分かりきっていた攻め手であった。ファイアローは高度を上げて回避する。

 

「ビリジオン、マジカルリーフ!」

 

「きゅきゅきゅう!」

 

 続け様にビリジオンが葉っぱの形のエネルギー弾を放つ。

 マジカルリーフは追尾性が高く、ファイアローが高度を上下させ、スピードに緩急をつけてもどこまでも追いかけ続ける…。

 

「ピカチュウ、きあいパンチ!」

 

「ぴぃぃぃ!かちゅかちゅかちゅかちゅかちゅかちゅううう!!」

 

ババババババ…!

 

 ファイアローだけならばいずれは捕まっていたであろうマジカルリーフ。その迫るくさのエネルギー弾を背に乗るピカチュウは次々と撃ち落としていく。なまじ追尾弾であるが故に、迎撃はそこまで難しいことではなかった。

 

 

 

「棒立ちだな。」

 

 試合を見るツルギがポツリと呟く。その意味が分からないアサヒではない。

 

「そうね。」

 

 プロジェクト・ミュウよりもずっと前から連れ添う仲だ。主語の抜け落ちた会話が自然と成り立っていた。

 ゴウとトキオは、スイクンとビリジオンのパワーを引き出しきれていない。それでもカキとセイヨが踏み込んでこないのは、伝説のポケモンの圧倒的なパワーに尻込みしているからに過ぎないのだ。

 そんな膠着も、長くは続くまい…。

 

 

 

「やるぞ、セイヨさん!」

 

「よろしくてよカキくん!」

 

 ツルギとアサヒの推察通り、カキとセイヨは攻めに転じる。

 理外のスペックを持つ伝説のポケモン相手には、長期戦こそ悪手と踏んだのだ。

 

「ファイアロー、かげぶんしん!!」

 

「ひ、ひ、ひ、よ、よ、よ!」

 

 赤と黒の翼が次々と増えてゆく。

 分身を作り、相手を幻惑させるのはポケモンバトルの常套句だ。

 

「ゴウ、任せて!」

 

「ききゅうあ!」

 

 ここで飛び出すのはビリジオン。若草の香りと共にその瞳は、分身の中のうち1つを捉えていた。

 

「本体を…!」

 

「見抜いてる!」

 

 カキもセイヨも目を見開くよりない。

 

「せいなるつるぎ!ピカチュウを引き剥がすんだ!」

 

「きぃぃぃぃぃきゅあああッ!!」

 

 首の後ろの鋭いツノを発光させ、眩い太刀を振り下ろす。

 聖剣士の斬撃が、寸分狂いなくピカチュウを、『両断』していた。

 

「きゅあ…!?」

 

「ビリジオンが戸惑っている…手応えを感じていない!?」

 

ボワン

 

 ビリジオンが切り捨てたのは、ピカチュウの姿を模したエネルギー体に過ぎなかった。

 

「まさか、みがわり!?ゴウ!!」

 

「こっち狙いか!!」

 

 襲いかかるビリジオンの側を通り抜け、地面スレスレの超低空飛行でファイアローはスイクンへ迫る。

 

「ぴ、ピカチュウは…!?」

 

 ゴウが黄色い影をスイクンの真上に捉えることに時間を使ったのが、迎撃策のための猶予期間限界であった。

 酷な話だが、ゴウのピカチュウ発見は、遅かった。

 

「ピカチュウ、ボルテッカー!!」

 

「ファイアロー、ブレイブバード!!」

 

「ぴかぴかぴかぴか、ぴかぁぁぁ!!」

 

「ひょおおおおおッ!!」

 

「………ッ!」

 

 スイクンとしては、己がスペックを絞り出せばここからの切り返しはそう難しい話ではない。

 しかし、今の自分はゴウのポケモンだ。ボール契約を受け入れた以上は、彼の采配の下に動くのがゲットされたポケモンとしての道理だと弁えていた。ここで独自の判断により動けば、この主人はまたぞろ自身を責めて袋小路にはまり込みかねない。

 それは、スイクンにとって本意ではなかった。そこまで考えて、この挟み撃ちを受け止めることにした。

 

ドッゴオオオオオン…!!

 

「ぴっか。」

 

 渾身の一撃を加えたセイヨのピカチュウは、同じくのファイアローの背に再度収まりモヤが晴れるその向こうを凝視する。

 そこには、右側面を地面に付け、倒れ伏すスイクンの姿があった。

 

「スイクン、戦闘不能!ピカチュウ、ファイアローの勝ち!」

 

 

 

カキ、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

セイヨ、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

ゴウ、ダウン可能数残り0体につき脱落。

 

トキオ、残りポケモン1体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

「さぁ、どうする!?」

 

「ビリジオンだけで戦いますの?」

 

 にじり寄られる感覚にトキオは完全に気圧されてしまっていた。

 

「じょ、冗談!いくらビリジオンが強くても、僕自身の身の程は弁えてます。」

 

 元より伝説のポケモンによる圧倒的なスペック差と、カキとセイヨのダブルバトルに対する経験不足から来る攻め手の拙さからどうにかギリギリ保たれていた均衡だ。その片方が崩されたならばもはやリカバリーなどきくはずもない。

 トキオが審判役に降参の旨を告げれば、この時点で試合は決着となった。

 

「スイクン…。」

 

 戦闘不能、となったスイクンは審判がコールする頃にはすっく、と立ち上がって見せていた。この回復能力の高さも、普通のポケモンとは一線を画す要素と言えよう。

 

「ごめんな。俺がもっと上手く戦えてたら…。」

 

 ゴウとてスイクンの意図が分からないはずがない。

 自身の判断ではなく、バトルに不慣れな自分の指示に従い切り甘んじて敗北を受け入れた様に、申し訳なさでいたたまれなくなっていた。

 

「くぉ。」

 

 スイクンはゴウのしのしと歩み寄り、頭を腹に擦り付ける。

 

「あは、な、なんだよ…。」

 

 それがスイクンなりの愛情表現だと分かれば、ゴウは両手で包み込むように受け入れた。

 

「俺、もっと強くならなきゃいけないよな。お前に相応しいように。そうでなきゃ、ミュウにだって辿り着けやしない。」

 

「こぉぉっ。」

 

 未来はこの手の中にある。

 今は、この手にスイクンのひんやりとした体温を、ゴウは感じ取っていた。

 




 親善試合 ダブルバトル2
 カキ&セイヨvsゴウ&トキオ
 ダブルバトル 3C1Dルール

 カキ    セイヨ    ゴウ      トキオ
 ガラガラ◯ ガラガラ● インテレオン○ サーナイト●
  ピカチュウ◯ インテレオン●
 ガラガラ→バクガメス● スイクン○
 ファイアロー               ビリジオン
       ピカチュウ○ スイクン●

 トキオの降参宣言によりカキ&セイヨの勝ち。
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