3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 クララとセイボリーを2人同時に堂々戦うハプウだが、セイボリーの捨て身の行動によりトリプルノックアウトとなってしまう。
 勝負の行方は残るハプウとクララの勝敗に直結していた…!


PNTT Fighting! 親善試合 ダブルバトル1 ハプウ&ジェニーvsクララ&セイボリー③

 マスター道場の医務室、清潔に管理されているベッドにてジェニーは目を覚まし、ゆっくりと上体を起こした。

 

「あっ、起きた。大丈夫ですか?」

 

 タケシが、出来る限り平静を装い声をかける。

 

「私…は…。」

 

「試合中に倒れたんです。」

 

 あぁ…、と申し訳なさげに項垂れる彼女の様子に、サトシとシゲルはどうやらまだジェニーのままではあるらしい、と安堵した。

 

「夢を、見ていた…。」

 

「夢?」

 

「ポケモンを捕え、バイヤーらしき連中に売り渡している夢だ。」

 

 ジェニーがポツリポツリと語り出すので、引っ込んだ冷や汗が結局流れ出す。

 

「そんな中で、お前たちが私を阻止しようと立ちはだかるところで、目が覚めた…。」

 

 サトシとシゲル、それにタケシをジェニーの瞳がスライドして移してゆく。

 

「お前たちは、"私"のことを知っている、のか…?」

 

 沈黙、それが答えと言えた。

 

 

 

「ペンドラー、アイアンンンン…ロォォォラァァァ!!」

 

「ぺんぺぇぇぇん!!」

 

ガガガガガ!!

 

 進化前のまゆムカデポケモンホイーガを彷彿とさせるかの如く体を丸めての突撃は、フィールドの地面を抉り取る凄まじい勢いだ。

 

「勢いを奪えヌオー!ねっとう攻撃!」

 

「ぶしゅううう!」

 

 そこにヌオーは熱水を口から吹きかけてゆく。

 

「(やけどにすれば物理攻撃力は低下する…そうしたらばあとはじっくり追い込めばよし!)」

 

「やけどにすりゃあいい…だなんて浅ェこと考えてねぇだろぉなぁ?」

 

 ハプウの見開かれた目に一瞬動揺が走る。

 それと同時に気付いた。ねっとうを浴びせかけているペンドラーの勢いが、一向に弱まらないことに…。

 

「確かにアンタは強ェよ、しまクイーンさんよぉ…でもこれはァ…!」

 

 そのカラクリに気付かぬハプウではない。

 

「ダブルバトル、なんだぜぇぇぇ!!」

 

 やけどを狙ったねっとう攻撃は、アイアンローラーによって破壊されたサイコフィールドのエスパーエネルギーがバリア代わりとなり防がれていたのだ。

 

「ぐぬううう、ヌオー!がんせきふうじ!!」

 

 ねっとうによるやけどが無理ならば、とヌオーは周囲のフィールドの地面をいわエネルギーでくり抜き、岩弾としてペンドラーにぶっつける。

 確かに勢いは多少弱まったが、クララからしたらどうと言うこともない。

 

「ッッらぁぁぁ!!やったれぇぇぇ!!」

 

「ぺんぬッ!!」

 

ズガンッ!!

 

「ぬおん!?」

 

 アイアンローラーの突撃でヌオーが上空へ跳ね飛ばされる。直撃だ、ダメージは大きい。

 

「(じこさいせい…いかん、間に合わぬッ!!)」

 

 しまクイーンの眼には、ペンドラーが四つ足に力を溜めているのが見えていた。

 

「逃がすかぁぁぁッ!!ペンドラー!翔べぇッ!!」

 

「ぺんぬッ!!」

 

 追撃のジャンピング・メガホーン。勝利を渇望する極限のテンションは、クララとペンドラーに咄嗟の阿吽の呼吸をもたらした。

 

「ヌオーよ!地脈のエネルギーを感じよ!!」

 

「ぬぅ〜ん…。」

 

 空中に投げ出されたままのヌオーは両手を広げ、瞑目。その身を茶褐色のじめんエネルギーが包んでゆく。

 

「いっけぇぇぇぇぇッ!!」

 

「迎え撃て!じしん攻撃ッ!!」

 

「ぺぇぇぇぇぇん!!」

 

「ぬぅんッ!!」

 

 追撃、跳躍したペンドラーは頭のツノにむしエネルギーを込めた渾身の一撃を、それに合わせてヌオーは全身に纏ったじめんエネルギーを爆発波として放つ。

 

カッ!ズドオオオオオ!!

 

 両者を中心に凄まじいエネルギーの爆発が起こり、見るものたちの視界をかき乱す。

 

「ぬぅ!け、決着は…!」

 

 これがこの勝負最後の衝突である、とセイボリーの直感は正しい。

 モヤが晴れ、フィールドには、倒れ伏した姿が…2つ。すぐに審判役はヌオーとペンドラーに駆け寄り、ジャッジを下した。

 

「ヌオー、ペンドラー、両者戦闘不能!!ダブルノックアウト!!参加メンバー全員のダウン可能数が同時に0体となったことにより、この試合、勝者なしの引き分けとします!」

 

「お疲れ様、ペンドラー。よく頑張ったね〜…。」

 

 ペンドラーを労い、ボールに戻すクララ。感情を抑え込むのはそこが限界であった。

 

「ちっくしょう!!」

 

 ボールをホルダーへ戻し、思い切り地面を蹴る。

 

「クララさん、お疲れ様でございました。」

 

「お疲れ、じゃねーよ!ウチら2人がかりで勝てなかったんだぞ!悔しくねェのかよ!?」

 

「悔しくないワケないでしょーがッ!!」

 

 セイボリーも同じテンションで返せば食ってかかった方のクララが逆に正気に揺り戻される。立場を変え、幾度か経験したやりとりであった。

 

「ッ…!」

 

「もうよいか?」

 

 フィールド中央には、ヌオーを労い戻して既にハプウがいた。試合が終わっなら、儀礼的なことは済ませねばならないのだ。

 

「正直驚かされたぞ。やはり、海の向こうは直に見ておくものとな。」

 

 クララ、セイボリーと流れるように握手を交わしながらハプウは豪快に笑った。その屈託のなさが、2人の持つ後ろ暗さを馬鹿馬鹿しいものと意識の外に追いやっていた。

 

「むう。次は私ィ〜、1人で絶対勝ち切ってみせるんだからぁ。」

 

「ワタクシだって!四天王だろうがしまクイーンだろうがノープロブレムなとてつもないエスパーパワーを身につけてご覧に入れましょう!」

 

 溜飲を下げ、普段の調子に戻るクララとセイボリーに、ハプウも破顔し何度も頷いた。

 

 

 

「(そうだ。勝ちこそ逃したが、負けなかった…。形はどうであれ、勝負と、その結果の積み重ねがまたそこから先の鍛錬に命題を与える。命題の確固とした鍛錬こそが、明日の勝利と栄光に繋がるのだ。)」

 

 この引き分けは、クララとセイボリーの道行きにとって勝ちに等しいものである。マスタードは満面の笑みで愛弟子を見つめていた。

 

 

 

「…どうやら、"私"はとんでもない悪党外道の類らしいな。」

 

 沈黙ののち、言葉を最初に紡いだのはジェニーだ。うっすらと力ない笑みを浮かべている。

 

「正直な話、あなたがどのくらいその夢をリアルに捉えていて、実際の記憶状態がどうなっているのかは僕たちには分からない。だから、こちらから知っていることを下手に話して刺激するようなことはしたくない。」

 

「賢明だな。」

 

 シゲルにジェニーは頷いてみせる。7月の半ばには既にPNTTの選手登録も確定している。余程のアクシデント、と認められなくては開催秒読み段階でのメンバーチェンジは大会本部に受け入れられないだろう。それは、この場にいる全員にとって共通の認識だ。

 

「そうか。そもそも、今こうして話す私が…記憶を失ったままのフリをしている、とも考えられるわけだな。」

 

「そこは疑ってないですよ。」

 

「ぴかぴか。」

 

 冷たく自嘲するジェニーにサトシは間髪入れず返した。彼女の波導は、Jのものとは違う穏やかなジェニーのそれのままであるからだ。

 

「…そうか。」

 

 ジェニーは一旦瞑目、すぐにゆっくりと瞠目する。

 

「私としては、過去の記憶などどうでもいいんだ。ただ、自分で言うのもなんだが、どうやら私は、人並み以上にはポケモントレーナーとして腕が立つらしい。お前たちと関わってみて、なんとなくそこが分かった。」

 

 サトシたちは、ただただジェニーの言葉を聞いている。

 

「ありのままの本音を言うなら、私は…。」

 

 ジェニーの脳裏に浮かぶのは、マオの眩しい笑顔。

 

「マオを喜ばせてやりたい。マオが悲しむようなことはしたくない。…それだけ、なんだ。」

 

 シゲルはサトシを見て、サトシは頷き返す。波導に揺らぎはない。これは、紛れもなくジェニーの本心であった。

 

「おうジェニー!大丈夫なのか?」

 

「ハプウ。」

 

 バトルに出したポケモンたちを回復させるべく道場に戻るハプウが道中、医務室に顔を出しに来た。

 念の為に、と点滴を打たれているジェニーが頭を下げるのを、動かずとも良いと制する。

 

「試合はどうなったんだ?」

 

「引き分け、じゃ。どうにかラス1まで持ち込んだが、最後の最後で捲られたわい。」

 

「凄いじゃあないか。マスタードさんの弟子でジムリーダー2人がかりを相手に負けなかったなんて。」

 

「勝負は勝つか負けるかじゃ。勝てねば負けと同じ。妾もまだまだ修行が足らぬようじゃのう。」

 

 サトシとタケシに鷹揚に返すハプウは、慈愛の籠る視線をジェニーに向けた。

 

「済まなかった、ハプウ。私がだらしないばかりに…。」

 

「なんのなんの!妾とて女じゃ。妾はまだ来とらんから実感はないがの。」

 

 話が見えてこない、とサトシとピカチュウは首を傾げる。

 女の事情に理解あるシゲルとタケシは、ハプウの『勘違い』をありがたく思った。

 

「なんじゃ?女の子の日ではないのか?」

 

「女の子の日?」

 

「ぴかぁ?」

 

「さぁて!ハプウの試合が終わったと言うことは次はいよいよシングルバトル!出番が控えてる僕たちは準備しに行こうかサートシくん!」

 

 道場の回復装置は常に最新式へアップデートされ続けているポケモンセンターのものとは違い、旧式の機材が使われている。

 ミツバ曰く近々買い替え予定ではあるとのことだが、ポケモンの回復にはそれなりの時間を要する代物だ。と、なればジェニーの側にいるのは出番が終わって回復待ちのハプウの方が適任であろう。

 そこを得心したハプウは、サトシとシゲルを送り出すので手を振り上げてみせる。

 

「俺も点滴が終わるまでいるからさ。」

 

 ジェニーさんのことは任せろ、とタケシも続く。

 ハプウもいるならばたとえJに戻り暴れ出したとしても2人がかりでサトシが急行するまでは持ち堪えられよう…そう信頼して、シゲルはサトシの背を押し医務室を後にした。

 幼馴染、あまつさえ筋金入りの朴念仁を相手に保健体育の授業を、それも女の子の体の仕組みなどをレクチャーすることほど骨が折れることはないからだ。

 

 

 

「これよりシングルバトル3、チーム<マナーロ>ハウ選手vsマスター道場&ホダカ研究所連合チームアサヒ選手の試合を始めます!」

 

 

 

「おっ、グッドタイミング!」

 

「ぴっか!」

 

 ちょうど屋外に出てきたところで審判役が声を張り上げてのアナウンスを聞いたサトシとシゲルは、チーム<マナーロ>側の陣地に合流した。

 

「ジェニーさんは大丈夫なのかい?」

 

「うん。軽い貧血だって。」

 

 タケシとハプウがついてるから、とサトシに続けられてデントは納得し、視線をバトルフィールドに戻す。

 中央部で、ハウとアサヒがやはり儀礼として握手を交わし、それぞれトレーナーサークルへ散る。

 

「アサヒさんか…どこまでハウの底を引き出せるのやら。」

 

 シゲルは選考会の折に痛感していた。ハウは、まるで実力を出し切っていないことに。

 知った仲のアサヒの強さに疑いはないが、シゲルにとって正直なところこの試合の焦点はこの一言に尽きるのだ。

 

 

 

「「いけーッ!」」

 

 ハウとアサヒが同時にボールを投げ込む。

 

「らぁ〜い!」

 

 ハウの先発はライチュウ、それもナンテのテディとは違う、一回り小さなボディに茶色に近い体色に手足の先の白が映えるアローラの姿が、長い尻尾の先に乗って浮遊する。

 

「ぶるるるぅ〜ん。」

 

 同じように空中浮遊するアサヒの先発は、青いボディのふゆうポケモンブルンゲル。

 その体色と口ひげを蓄えた王様のような威容から雄個体である。

 

 

 

「互いに弱点を突き合える形か…。」

 

 ツルギが一言呟けば、その視線は長らく付き合っているアサヒをジッと見る。女性として主張する膨らみから、いつしか一糸纏わぬ生まれたままの姿への夢想に意識が向いているのを、慌てて自戒した。

 悶々とする青年の色欲を察するには、ゴウもトキオもまだまだ精神が子供であったのが、ツルギには幸運であった。

 




 親善試合 ダブルバトル1
 ハプウ&ジェニーvsクララ&セイボリー
 ダブルバトル 3C2Dルール

 ハプウ   ジェニー   クララ   セイボリー
 ゴルーグ○ ドラピオン ペンドラー フーディン●
       (途中棄権) →ヤドラン ヤドキング
 →バンバドロ● ヤドラン● ヤドキング●
 ヌオー● ペンドラー●

 勝者なし、引き分け。
 
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