3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 アサヒが降参し、次に戦うのはシゲルとツルギ。ここでツルギはタイマンでの決着を申し入れ、これをシゲルは呑む。
 そうしてからのレジドラゴを初手ダイマックスで奇襲をかけたのだった。


PNTT Fighting! 親善試合 シングルバトル2 シゲルvsツルギ②

「タイマンに持ち込んだなら即効ダイマックスかぁ…。」

 

 流石はシゲル、戦いを知っているとアサヒは唸る。ツルギ共々、3年前より彼の才覚を高く買っていただけに親善試合とはいえ、敵に回った時の機転と圧力はやはり本物であった。

 プロジェクト・ミュウが企画として起ち上がり、少ししてからトライアル参加希望者のリストの中から名前を見つけ、経歴を洗った瞬間チェイサーの枠は実質的に1つ埋まったと2人で直感させられたものだ。

 ミッション中の参加者を見ている中には、シゲルを指して出来レースを疑う者も1人や2人ではなかったのも知っている。

 何がきっかけで焼けぼっくいに火が付いたのかはアサヒの視点で定かではないが、当時よりおそらくはその気になってやり合えば勝てはしないという認識はあったのだ。

 

 

 

「レジドラゴ、変形するんだ!」

 

「ざざざ…ぐぐぐ…ががが…!」

 

 ダイマックスにより天衝く巨体となったレジドラゴ、その右腕として機能する竜の上顎と、左腕の下顎を、胴体を包み込むようにして動かす。

 

ギィン!

 

 上顎の瞳と見られる窪みが薄いピンク色に発色すれば、さながら頭だけの巨大な竜が宙に浮かぶ威容を見せた。

 

 

 

「カッコイイ〜!!」

 

「ぴかぴか〜!!」

 

 その実にわかりやすいデザインが、少年の心のサトシには強く突き刺さる。ピカチュウと一緒に目を輝かせた。

 

 

 

「なるほど、本体の急所をそうやって隠して来たか…だが!」

 

 巨大な竜頭を見上げるツルギの瞳にブレはない。トライアルミッションを監修する中で既にレジドラゴのデータは頭に入っているのだ。

 

「両腕に急所がないではないぞッ!ウーラオス、いけッ!!」

 

「べぁくまッ!!」

 

 ダンッ!勢いよく跳躍するウーラオスは、瞬く間にレジドラゴの遥か上空を取る。

 

 

 

「なんという足腰!」

 

「先程の連撃の型とは対照的に、動に転じる一撃に力を多く割り振ったストロングなテイストだ。」

 

 見上げるカキとデントがそれぞれにツルギのウーラオスの身体能力に驚愕する。アサヒの個体とは真逆の性質ながら、根本的なスペックはやはりずば抜けて高い。

 

「でもシゲルくんからしたら想定内みたいね。」

 

 セイヨは腕を組みながら仁王立ちを崩さないシゲルの様子を見る。見る人次第では憎たらしさすら与える端正な顔立ちに、焦りは微塵も見受けられない。

 

 

 

「来るぞレジドラゴ!踏ん張って一撃ずつ加えていこう!」

 

「あんこくきょうだッ!!」

 

「べあああああッ!!」

 

 自由落下とともにウーラオスは鍛え抜かれた太い右腕を振るい、その拳をレジドラゴの上顎へ存分に叩き付ける。

 

ガツウウウン!

 

「ダイアーク!」

 

 それに合わせてカウンターの形で竜頭の両目から漆黒のあくエネルギー光線が放たれ、ウーラオスを襲った。

 ダメージは…微々たるものだ。

 

 

 

「なるほど…そのためのダイマックス。」

 

 かくとう、あくの2タイプを持つウーラオスに対し、いかにダイマックスによってパワー増量しているからといって二重に効果が今一つな技をぶつけにいく…そこに策略的な意図を見出さないような愚鈍な感性の持ち主はチーム<マナーロ>にはいない。それをメガネのレンズ越しに流し見たメンバーたちの慌てることもない様子で確かめたナンテはこの親善試合中、幾度目かの強い手応えを感じていた。

 同時に、これほどの陣容をククイ博士から手渡されたプレッシャーも背中に重くのしかかっていた。

 

『これで勝てねば貴様は無能だ。』

 

 ナンテは、自分で自分にそう言い聞かせた。

 

 

 

 ダイマックスの本場たるガラル地方にてチャンピオンにまで昇り詰めたマスタードもまた、シゲルの意図を瞬時に察した。

 同時にツルギの勝ち筋も導き出せたのは、ウーラオスの扱いに誰よりも精通しているからに他ならない。

 

「気張れよツルギッ!急所点を打ち続けよ!!」

 

 思わず往年のテンションになるほどには、ここまでの試合の数々でヒートアップしている。

 

 

 

「ウーラオスを振り落とせレジドラゴ!ドラゴン大回転(スピン)からのダイアーク2発目!!」

 

「ざぐるぐるぐるぐるぐる!!」

 

 宙に浮かぶ巨大な竜頭が、しがみつくウーラオスを引き剥がすように回転し始める。

 

「べぁぁぁ…!」

 

 たまらず上空へ投げ出されたウーラオスへ、すかさず竜頭の目から悪光線が放たれた。

 ズドウ!漆黒のエネルギーが爆発を起こし、モヤの中でウーラオスは構えを取り…。

 

「もう一度あんこくきょうだ!」

 

「べぁぐまぁッ!」

 

 上半身の捻りで空中による地面を踏み抜く分のエネルギーをカバーし、振り抜いた『拳圧』を先の急所へ命中させる。

 

「ぐど…!」

 

「レジドラゴ、ダイアーク3発目ェ!!」

 

 よろめきが目立つ竜頭から、三たび二条の悪光線が放たれる。

 着地際を狙った1発が、ウーラオスに直撃した。が、これにもダメージはあまりない。

 

「急所へダメージを浸透させろ…!」

 

 ダイマックスの限界時間ギリギリ、シゲルが我を押し通したならば、こちらも引くという選択肢は、ない。

 

「あんこくきょうだだぁ!!」

 

 ウーラオスは再び跳躍。技後の硬直を狙ったタイミングだ。

 

「ドラゴン大回転!」

 

「なにッ…!?」

 

 強力なダイマックス技を限界時間いっぱいまで放ち続けたレジドラゴが残された巨体の制御により体を捩らせれば、ウーラオスの拳は竜頭の下顎へと吸い込まれ、突き刺さった。

 

 

 

「ダイマックスの限界時間だ!」

 

 一堂見上げた中でゴウの甲高い声が響く。レジドラゴの巨体が収縮する中、その顎門が開かれ、眩いドラゴンエネルギーがチャージされてゆく。

 

「流石はツルギさんだ。正直言って、ここまで体力を減らされるとは思わなかった…だが!」

 

 シゲルは右手で握り拳を作り、その甲をツルギに見せる形で胸の位置に運ぶ。

 

「レジドラゴは、健在だッ!!」

 

「ざっ、くっ、どっ、どっ、どっ…!」

 

 竜のアギトの奥にレジドラゴ本体の7つの点が発光し、シゲルに応える。

 

「いけぇ!ドラゴンエナジー!!」

 

ドバビビビビビ!!

 

 チャージされたドラゴンエネルギーが紫色の球体となり、本体の宝玉部の輝きに呼応してビームが放たれた。

 

「ウーラオス!ばくれつパンチ!!」

 

「ぐぁべあまらぁぁぁぁぁ!!」

 

 空中での自由落下にて、回避行動など望むべくもないウーラオスに取らせたツルギの対応策は、積極的防御であった。

 一撃の型の持つ剛力を活かし、拳によってドラゴンエネルギーの奔流を切り抜けるのだ。

 

バチチチチチッ…!

 

 ドラゴンエナジーにばくれつパンチの右を合わせる。その均衡は、一瞬で崩れた。

 

「べあああああッ!!」

 

「ウーラオスッ!!」

 

 レジドラゴのドラゴンパワーが、ウーラオスの拳のパワーを呑み込んだのだ。

 

チュドオオオオオ…!!

 

 紫色の奔流がフィールドに突き刺さる。爆発ののち、モヤが晴れた中では、仰向けに倒れ伏すウーラオスの姿があった。

 

「ウーラオス、戦闘不能!レジドラゴの勝ち!よって勝者、チーム<マナーロ>のシゲル!」

 

 ツルギより提案されたルール変更に則り受ける勝ち名乗りを聞き、シゲルはふぅ、とひと息吐いた。

 

「よく頑張ったぞレジドラゴ。」

 

「ざくぅ。」

 

 ウーラオスに殴られた両腕の竜顎の様子をチェックしながらレジドラゴを促す。

 表面的以上のダメージは見受けられないので安心してから、ボールに戻してフィールド中央へ向かう。

 

「よく頑張ってくれた。ゆっくり休んでくれ。」

 

 ツルギもウーラオスをボールへ戻し、フィールド中央へ歩みを進める。両者向かい合えば、がっちりと握手を交わした。

 

 

 

「レジドラゴが本来持つドラゴンエネルギーをより効率的に叩き付けるべく、初手ダイマックスにてウーラオスの一撃を耐え切りながらダイアークの連射に終始した、か。」

 

 ダイアークにはポケモンの特殊技に対する防御力を下げる効果がある。それをダイマックス中最大限までくらい続けた後に、レジドラゴの特殊ドラゴン技を受ければいかにウーラオスとて耐え切れはしない…ポケモン交代によるサイクル戦で対応しようにも、そのルールから撤廃したのはツルギの方であるのだ。

 

「あんこくきょうだを3発、"同じ急所"へ重ねることが出来たらば、あるいは…。」

 

 シゲルはそこもしっかり対応してきた。マスタードからすれば、3発目のあんこくきょうだを竜頭の下顎で受けられた時点でツルギの敗戦は8割方見えていたのが現実だった。

 

「流石はお主の血筋よのう…ユキナリ。」

 

 シゲルからマスタードはサトシへ視線を移す。

 

「そしてあの少年が、お主の見出した"最後の光"…か。」

 

 マスタードの口角が、不敵に吊り上がっていた。

 

 

 

「完敗だ。流石は"天才"オーキド・シゲル。」

 

「いやぁ、それほどでも。」

 

 それほどでも…『ある』と、追従して許されるのはシゲルの、腹が立つほど端正な顔立ち故なのだろうとツルギは思う。

 プロジェクト・ミュウ絡みで自分の下についていた時の殊勝な態度より、こちらの方がよっぽど素に近いのだ、この色男は。

 

「ところで…アサヒさんとはどうなんです?"あっちの方"は?」

 

 勝って調子に乗ったのか、もとよりこういうことを明け透けに聞いてくるタイプなのかは定かではなかった。ただ、この手のことに関しては、年相応に欲求こそあれど奥手なツルギにとって不意に聞かれるにはあまりにも刺激的にすぎた。

 要はウブなのである。

 

「余計なお世話、だッ!」

 

 髪と同じように顔を真っ赤にしながらツルギが拳骨を落とす。

 

「いだッ…はははッ!」

 

 避けることは、容易かった。ただ、下世話なことを聞いた生意気な年下の末路としてシゲルは甘んじて受け入れることとした。

 3年前にはとても見ることのできなかったツルギの赤面には、それだけの価値があると思えたからだ。

 

「何言ったんだ、お前?」

 

「ほんのちょっとからかっただけさ。」

 

 フィールドから引き上げ、出迎え兼入れ替わりで一部始終を見ていたサトシと言葉を交わす。

 

「勝てよ最終戦。ビシッと決めてくれ。」

 

 シゲルが右手を顔の横に挙げて握り拳を作る。

 サトシは、キリリと心得た顔でそこに同じく握り拳を横から重ねてすれ違った。

 親善試合も残すはあと1試合。シングルバトル1の大将戦のみである。

 

 




 親善試合 シングルバトル2
 シゲルvsツルギ
 シングルバトル 6C3Dルール→男のタイマンルール

 シゲル     ツルギ
 レジドラゴ○ ウーラオス(一撃)●
 (ダイマックス使用)

 勝者 シゲル
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