3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
それでも命中箇所をずらしてやり過ごしたシゲルの作戦勝ちでチーム<マナーロ>は3勝目を挙げるのだった。
「どこへ行くの?待ってよダクマ。」
「べあま!べあま!」
「ぶい〜!」
時は少し遡る。親善試合が始まるのと同じ頃、スイレンとナギサは仲良くなったダクマがいきなり走り出したのを追いかけ道場を飛び出していた。
清涼湿原からチャレンジビーチへ抜け、ダクマは砂浜に建てられた古風な建物の前でたちどり、じっと見上げた。
「なんの建物だろう…?」
5階建てで、青い屋根が特徴的な塔をスイレンも見上げる。彼女の足元では砂の感覚を楽しむナギサ。
ふと視線を感じれば、ダクマは何かを訴えるようにスイレンを見つめていた。
「ダクマ?どうしたの?」
「べあま…。」
薄々気付きながらもスイレンはダクマに訊く。返す瞳を受けてから、来た道を一応振り返り、道場の方角を見た。
もう試合は始まっていることだろう。PNTTの公式ルールに則った方式ならば、オーダーは自分を抜きにして組まれているはず…ならば今更急いで戻ったところで外野で補欠の役割しかこなせまい。
それはそれで大切なのではあろうが、懇願するようなダクマの瞳に応えることに比べれば瑣末な話に思えた。
「いいよ。行こうか。」
スイレンはダクマをゲットした訳ではない。訳ありの理由は聞き、そこに人並みの同情こそすれど近くをうろちょろして回るのを咎めずに置いていただけだ。
特訓や釣りの邪魔をするでもないので邪険にするような道理もない。
「べぁま…!」
ダクマが目を輝かせ、道場を飛び出した時同様先導する形で塔に入ってゆく。
それをスイレンはまた追いかけて続いた。
「なんか…。」
普通に道場だな、という印象が塔の内装を見たスイレンの正直なところである。
屋根と同様、床に青く塗られた木板が使われている以外は部屋全体がバトルコートになっているのと、上の階へ続く階段のみの簡素なレイアウトに、拍子抜けすら感じていた。
「ぶいっ!!」
そんな静寂をかき消すのは、水を纏った青い影。ナギサが真っ先に勘付いた。
「ダクマ!」
「べぁぁま!」
死角よりアクアジェットで飛んできたあひるポケモンゴルダックの奇襲を、ダクマはスイレンの声に応え膝を上げたガードで受け流す。
「ごわっごわっごわっ!」
アクアジェットは撒き餌に過ぎないと感知したのはスイレンがみずタイプを好むが故の勘であった。奇襲である以上、向こうは戦う気満々なのであるからして、話し合いの余地もおそらくない。
となれば、戦うより他なかろう…そこでスイレンが自分のポケモンではなく、ダクマに指示を飛ばしたのは、いかにも道場然とした塔の雰囲気に呑まれていたからなのかもしれない。
「ダクマ、かわらわり!」
「べぁまぁ!」
額の赤い玉が怪しく光り出すところに、ダクマの右の手刀が振り下ろされる。
神通力の源に与えられる打撃、それでなくとも頭部への直撃に、ゴルダックは両手で頭を押さえる。ガードが、空いた。
「ばくれつパンチ!」
「べぁぁまぁ!」
ドボォ!!
「ご、わ、がッ…!」
ダクマの渾身の左ストレートがゴルダックの腹に突き刺さる。
ゴルダックは、今度はお腹を抑えながらうつ伏せに倒れそうなところを、最後の力で仰向けになり、そして目を回した。
「ふぅ…お疲れ様ダクマ。」
「べぁ!」
想像より遥かに動きがいい。それが実際バトルしたダクマへのスイレンの認識であった。よく鍛えられている。
倒れたゴルダックの側にきのみを置いてから階段を登り、2階へ足を踏み入れる…。
「ごきごきぃ〜!」
今度は正面から来た。
キングラーが左腕の大きなハサミを振りかぶりながらダクマへ迫る。これも話し合いの余地はなさそうだ。
「避けるは悪手…ならッ!」
腰を据えるダクマとも狙いが一致する。
「ばくれつパンチで迎え撃って!」
「べぁまぁッ!」
「ごおきぃ!」
バチィィィッ!
クラブハンマーとばくれつパンチがぶつかり合う。
互いにダメージが浸透してゆく。バッ、と飛び退き、構え直すダクマに対し、キングラーは前後不覚のような状態でアタフタと歩き回り、フラフラさせた左腕のハサミを頭にゴチン!とぶっつけては、仰向けに倒れ目を回した。
ばくれつパンチの効果による混乱状態で、訳も分からず自分を攻撃したのだ。キングラーの高いパワーが仇となった形だ。
「べぁふ〜!」
フーフー、と右拳に息を吹きかけるダクマ。クラブハンマーにばくれつパンチを合わせ、硬い甲殻を思い切り殴り付けたので手の甲が炎症を起こしていた。
「見せて。」
そこにスイレンはしゃがみ込み、カバンから取り出したキズぐすりをダクマの拳に吹きかけるとみるみるうちにダメージは治癒し、違和感が消えたのでダクマは右腕を喜びながら振り回した。ナギサも連勝のダクマの周りを走って一緒に喜んでいる。
「べぁ〜ま!べぁまま!」
調子よく連勝中のダクマにせっつかれる形でスイレンは階段を登る。キングラーの側にきのみを置くのも忘れない。
ここまで来ては、おそらくは残り3階層にもそれぞれ戦う相手が待ち受けていることが予想できた。何が目的なのかの見当はつかないが、ダクマが自分とこの塔を登りたがっているならば付き合ってあげようとスイレンは腹を括っていた。
いざとなれば、ナギサやアシレーヌだっているのだし…。
ぽん、ぽこ、ぽん
「ん?」
ぽん、ぽこ、ぽん
「べぁ?」
ぽん、ぽこぽこぽこ、ぽん、ぽこ、ぽん
「ぶいー…。」
やけに規則的なリズムで何かが叩かれている音がする。まるで太鼓のそれに、スイレンもナギサも悪い予感がした。
「ナギサ、ダクマ、おいで。」
呼び止められ、2体はスイレンの足元から肩の上へ飛び乗る。そこでダクマはごにょごにょと吹き込まれ、しっかりと頷いた。
ぽん、ぽこ、ぽん
たどり着いた3階。自らのお腹を叩いていたのは、マリルリだ。
「来るよ、ダクマ。」
「べぁーまッ!」
スイレンの肩の上からバトルコートまで一息にダクマが飛び込めば、マリルリのはらだいこが止まる。
「りるりるぁぁぁぁぁッッッ!!」
ボコッボコッ!モリリリリリィィィッ!!
全身の筋肉を肥大化させ、可愛らしい卵型のボディを肉の鎧と化してゆく。
ダクマはそれに動じることなく構え、かかってこいよ、と手招きした。
「りぃぃぃるぁぁぁぁぁッ!」
ギン!と両目を赤く発光させ、アクアジェットを加速に使ってマリルリが飛びかかる。
丸太のように太い左腕を振りかぶって殴りつけるばかぢから攻撃に、ダクマが右を合わせにいく。恐怖は、なかった。
「べぁぁぁまぁ!!」
ぐばん!!
踏み込む左脚に体重をのせた前傾姿勢で、全身ごと拳を叩き込む『ジョルト・カウンター』は、はらだいこで全開になったパワーをマリルリ自身へ突き返し、
ドンッ!!
コートに沈めた。
「やったぁ!!」
「ぶぶーい!」
スイレンの快哉。ダクマの眼下で、マリルリは仰向けに倒れ目を回している。
『多分だけど、次の相手は最初から仕掛けてくる。だからカウンターで切って落とそう。』
階段を登りながら耳打ちした作戦がピタリとハマったのだ。
「凄いよダクマ!」
それを完遂出来たダクマの勇気をスイレンは絶賛したが、ダクマからすればその勇気をくれたのは他でもない、スイレンである。
へへ、と鼻を擦って見せるダクマ。そこに駆け寄るナギサと軽くハイタッチの後に次の階段を登ることとした。無論、その前にスイレンは倒れたマリルリが気付くようにそっときのみを置いている。
「ぼんにょ〜ろ。」
「次はニョロボン…。」
4階に辿り着けば、スイレンたちの気配に気づき振り向くのはおたまポケモンニョロボン。
青い筋肉質なボディの腹回りの黒い渦巻き模様を見せながら、言葉は不要!とばかりに構えを取る。
「ここを抜ければ最上階、頑張ろうダクマ!」
「べあんま!」
スイレンにダクマは力強く頷き、バトルコートへ躍り出る。
「にょろ〜…ぼぼぼぼぼぼぼぼぼんんん!!」
先手を取るのはニョロボンだ。
「おうふくビンタの手数を応用したばくれつパンチ…おうばくパンチ…!」
スイレンの妙なネーミングをよそに、拳打のラッシュをダクマは必死で捌いている。
自身も同じ技を扱う身だ。直撃すればタダでは済まないこともよく知っている。
「ダクマ、我慢、我慢…!」
「べあまぁ…!」
バシバシバシ、とニョロボンのラッシュをダクマはひたすら捌き続ける音だけが部屋内に響く。
その音が、ほんの僅か緩やかになるタイミングを、スイレンとダクマは見逃さない。
「カウンター…今ッ!」
「べぁ、まぁらぁ!!」
ゴゴゴッ!!
「ぼ、ぼが…!!」
いかに世界レベルのアスリートであろうと人間の身体能力など物の数ともしない屈強なニョロボンといえどその体力は決して無限ではなく、自慢のラッシュ攻撃も永久に繰り出せるわけではない。当然ながら、このラッシュだけでニョロボンがスタミナを使い果たすはずはないが、4つ覚える技のうち2つを複合的に運用し、エネルギーを垂れ流す関係上、どうしてもある程度のリカバリーは求められてくる。
即ち、ひと呼吸置くべくラッシュを緩めたところに、ダクマのカウンターがラッシュで入ったのだ。
「ぼんにょろ〜…!」
しかして叩き込んだカウンターはあくまでラッシュの勢いが緩まったタイミングに捩じ込んだに過ぎず、ニョロボンは健在である。
そんなことは、スイレンもダクマも折り込み済みだ。
「逃がさない…かわらわりッ!」
「べぁ〜!!」
カウンターを入れられてグラつくニョロボンからダクマは、バックステップで少し距離を取る。そこからの前転宙返りで勢いを乗せた右足での踵落としを…
「まッッッ!」
ガツゥン!
ニョロボンの脳天めがけ振り下ろす。詰めの一発が、綺麗に入った。
「ぼんにょろろろろ…へぶッ!」
ニョロボンは、ダクマを見事…と称えながら仰向けの大の字に倒れ伏した。
「ダクマ、やったね!」
「べあ〜まぁ!」
ここまで来る頃には、ダクマはもうスイレンのなだらかな胸に飛び込むことに何の抵抗も恥じらいもなかった。
ピョンと抱きついてくる頭を撫で回し力闘を褒めてから、スイレンはちょうどよかった、と最後の1個であるオボンのみをカバンから取り出し、ニョロボンの側に置いた。
「間違いない…この塔のポケモンたちは、野生じゃあない。」
それは、スイレンには確信であった。
1階から4階まででダクマに襲いかかってきたポケモンたちは、あまりにも戦い方が洗練され過ぎていた。それはつまり、人の手によって育成されていなければ身につきようのない領域なのだ。
「ぶーい…。」
「最上階か…。」
塔の1番上で、一体何が待ち受けているのか…不安半分、面白さ半分といった感じだ。
「べぁま!べぁま!」
「ふふ、はいはい。」
その最上階へ続く階段へ、ひとしきり甘え終わり身も心も充電完了したダクマが走り寄り、早く行こうと急かす。
スイレンは、クスリと笑って4階を後にした。
「お疲れ様ね、スイレンちゃん。」
階段を登り切り、たどり着いた最上階。それまでの部屋とは違い、奥にある意味ありげな掛け軸を背にして待ち受けていたのは…
「お…女将さん!?」
「べぁぁ!?」
マスター道場の女将であるミツバであった。ミツバは、道場にいる時と変わらぬ笑みをスイレンとダクマに向け、その肩の上にはまた別のダクマがいた…。
『ミツバ』
48歳 マスター道場女将。
マスタードとは40歳以上歳の離れた夫婦ながら今も変わらずラブラブでアッツアツ。息子のハイドや道場の門下生たちに愛情たっぷりに接する頼れる女将さんだ。
実のところバトルの腕前もマスタードと遜色ないようで…!?